アニメ「名探偵ホームズ」の制作・放送40周年を記念して、1984年に『風の谷のナウシカ』と同時上映されたTV版の第5話と6話に相当する『青い紅玉(ルビー)/海底の財宝』、そして86年に『天空の城ラピュタ』と同時上映されたTV版の第4話と10話『ミセス・ハドソン人質事件/ドーバー海峡の大空中戦』の計4エピソードがまとめて2週間限定上映されていて観てきました。
宮崎駿監督は今回の上映作品はすべて手掛けられているけど、御厨恭輔さんが“監督”としてクレジットされているものもある。
そして、この4エピソードの脚本はすべて片渕須直さん。大学在学中にデビューされたんですね。1本1本がシリーズ中でも名作という、スゴいことを成し遂げてますよね。今では新作長篇がなかなか完成しない監督になられてますが^_^; エンタメの腕もさすがだなぁ。
各エピソードについて細かくレヴューはしませんが、子どもの頃に観ていた懐かしいアニメを映画館のスクリーンで観られて嬉しかったので、記録として残しておきます。
僕が「名探偵ホームズ」を初めて観たのはTV版の放映時(1984~85年)で、だから86年の『ラピュタ』と併映された時にはすでに視聴済みだったんですが、*1『ナウシカ』は映画館では未鑑賞だったので84年の「劇場版ホームズ」(84年に上映されたものはTV版と声のキャストや台詞が一部異なる)の方は今回初めて観ました。このヴァージョン自体が初鑑賞。
ポストカードもらいました。
週末だし、ちょうど春休みの時期でもあるので(でも、お客さんのほとんどはそれなりにおとなのかたたちが圧倒的に多かったですが)上映会場はほぼ埋まっていて、最前列での首と腰にとても悪い状態での鑑賞。
TV版ではホームズの声は広川太一郎さんが担当されてましたが、84年劇場版のホームズの声は柴田侊彦さん。
このヴァージョンの制作時にはまだ著作権の問題が解決していなかったらしく、ホームズの宿敵モリアーティ教授は「モロアッチ教授」、下宿の大家のハドソン夫人は「エリソン夫人」、レストレード警部は「レストラント警部」と名前が変えられている(ホームズもファーストネームはシャーロックではなくてシャーベック)。
この84年劇場公開版は「名探偵ホームズ」の初お目見えだったので、「青い紅玉」はTV版では5話目のエピソードにもかかわらずここではホームズとモロアッチが初めて会ったように演出されていて、互いに名乗り合う。
また、編集や劇中で使用されている音楽もTV版とは異なっていて、なんていうんですかね、ものすごく80年代のアニメ、って感じだった。
84年劇場公開版のエンディングテーマ
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84年当時に映画館でご覧になってこちらのヴァージョンに愛着があるかたもいらっしゃるでしょうし、けっしてこの84年劇場公開版を悪く言うつもりはないんですが、でも僕個人は同じエピソードをTV版の方で観ているのでそちらになじみがあるから、観る前から予感していたようにかなり違和感があった。
やっぱり、「ホームズ」と言えば広川太一郎のホームズ、そして羽田健太郎の音楽、ダ・カーポの歌がないとねぇ。
TV版でも劇中で使われてる曲はだいたいいつも同じメロディが多いんですが、でも毎度おなじみながら羽田節が流れ出すと燃えるんですよ。
ユーモラスな曲や美しい曲など、「名探偵ホームズ」という作品は羽田さんの曲とともにあると言っていい。
柴田侊彦さんの声のホームズはイケメン紳士キャラを前面に出していて面白いことはほとんど言わないんだけど、広川さんのホームズはちょっとした一言にもギャグっぽいというか、おかしな言い回しを使ってて、たとえば、TV版の「海底の財宝」では潜水艇から向かってくる魚雷を見ながら広川ホームズの「当たるんでないかなー」「また当たるんでないかなー」の繰り返しの台詞がたまらなくおかしいんですが、84年劇場公開版では普通に「当たりそう」みたいに言ってて、そのあたりはどこまで台本に書かれていてどこからが広川さんのアドリブなのかわかりませんが、ロジャー・ムーア版ジェームズ・ボンドのダンディさと「モンティ・パイソン」の吹き替えや「~しちゃったりなんかして」みたいなとぼけた口調など、シリアスとコミカルの両方の技を駆使していて、その声の演技はほんとに絶品なんですね。
モリアーティのことを「あんにゃろめですね」とか(^o^) すました顔でオモロいことを言う。
ワトソン役は84年劇場版もTV版も富田耕生さんで、広川さんとのコンビネーションがほんとに素晴らしいし、やはりモロアッチとモリアーティの両方を演じられている大塚周夫さんの抜けた悪党ぶりもさすが。
誘拐したハドソンさんに優しくされて「ワシはこんなの初めて…」と涙ぐむところとか、ほんとに憎めないキャラクターを好演されていました。
なんか結局はTV版をアゲて84年の劇場版をサゲるようなことを言っちゃってますが、でも84年劇場公開版は最初から映画館での上映を考慮して作られてるから画質はよかった。86年公開の2本はTV放送版のブローアップ版なのかな、だから画質はそれほどよくない。もともと劇場公開を前提に作られてないんだからしょうがないんだけど。
今回、84年の劇場公開版とTV版を観比べて、「音」と「声」のつけ方の違いで同じ作品でもこんなに仕上がりが変わるんだ、ということがよくわかった。何度も言いますけど、どちらが優れているとか、そういうことではなくて、単純に僕はTV放映版を観慣れているからそちらに愛着がある、というだけです。
ホームズ以外でも、エリソン(ハドソン)夫人は信沢三恵子さんから麻上洋子さんに、レストラント(レストレード)警部は玄田哲章さんから飯塚昭三さん(玄田さんは今回「ミセス・ハドソン人質事件」ではレストレード警部の部下を演じてらっしゃいましたね)、トッドは肝付兼太さんから増岡弘さんへ、スマイリーは二又一成さんから千田光男さんに交代している。結構変わってますね。
「青い紅玉」のヒロイン、ポリィ役は劇場版もTV版も田中真弓さんが務められていました。
「俺は女だ!」から「あたいは女だい!」へ(笑)
『魔女宅』のキキ役の高山みなみさんもそうですが、男の子役のイメージがついている女性の声優さんが女の子を演じると可愛さが増すような気が(^o^) でも、田中真弓さんは僕は「ダッシュ勝平」や「うる星やつら」「イタダキマン」など、男の子や男の子っぽい女の子の声の印象が強かったし、だからポリィはパズーが女の子のふりしてるようにしか聴こえなくてw
それでも、ポリィは「名探偵ホームズ」の中でもかなりの美少女キャラだと思う。
「海底の財宝」ではライサンダー司令官(と双子の兄のライサンダー大佐)役を、かつては宮崎アニメではおなじみだった永井一郎さんが目がイッちゃってるキャラクターをあの永井節で怪演されてました。いやぁ、やっぱり往年の名優たちはいいなぁ。
普段はおしとやかなハドソン夫人が車で爆走したりピストルをぶっ放したりする「ドーバー海峡の大空中戦」は、「ミセス・ハドソン人質事件」と併せて観ることでハドソン夫人により萌えられますねw
麻上洋子さんの「ハァーイ」って受け答えの声とか、80年代アニメのヒロインみをすごく感じるんだけど、ポリィにしてもハドソンさんにしても、当時の宮崎アニメのヒロインの描き方の典型といった感じで、お転婆っぽかったり戦うと強かったりするんだけど、でも中身は淑女、っていう、そういうヒロイン像がちょっと懐かしくもある。
宮崎アニメのヒロイン像の変遷も面白いんだけど、単純に僕はあの当時の「漫画映画」してた頃の宮崎監督の作品が好きなんですよね。面白いから。笑わせてくれてワクワクさせてくれて、最後はちょっと胸が熱くなる、というね。
残念ながら、僕は最近の宮崎監督の作品にはノれなくて、それは偉大なるアニメ映画監督がどんどん進化していってるのに対して観客である自分はそれについていけなくて昔を振り返ってるだけという、情けない状態でもあるんですが、だけど、今から40年前に作られた「ホームズ」にこんなにお客さんが入ってるってことは、やっぱりあの頃の宮崎アニメが大好きな人たちが僕以外にも大勢いるってことでしょう。
またこういう娯楽映画の新作を観たいなぁ、って思っている人は多いんじゃないだろうか。
僕の隣りの隣りの席に座ってたおばあさんが最初のエピソードからイビキをかいてて、なんのために来たんだよ、と思ったけど(その後も時々目を覚ますんだけど、最後までず~っとイビキかいてた)、途中でモリアーティ教授のギャグシーンで客席の子どもさんが笑ってて、なんかいいもんだな、って思いましたね。映画館の客席で子どもが笑ってると、ほんとに心がなごむ。
まぁ、宮崎監督としては、こういう子どもも楽しめる作品はもっと若い世代のクリエイターに任せた、ってことかもしれませんね。自分はこれからは作りたいものだけを作る、と。次も作る気満々のようだし。
ホームズ役の広川太一郎さん、ワトソン役の富田耕生さん、モリアーティ教授役の大塚周夫さん、トッド役の増岡弘さん(劇場版の肝付兼太さんも)、スマイリー役の千田光男さん、レストレード警部役の飯塚昭三さん、飛行機乗りのトミー役の納谷六朗さん…主人公をはじめ声の出演者の多くがすでに亡くなられていますが、それでも作品は残ってこうやって再び映画館で上映されてたくさんの人々に観られている。
スゴいことだよなぁ。
ただ昔を懐古して今を否定してるだけじゃダメだと思うけど、でも、たまにはこうやって昔好きだった作品を懐かしみながら楽しむのも悪くはないんじゃないかな。