映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『チャップリンの独裁者』

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チャールズ・チャップリン監督・脚本・主演、ポーレット・ゴダード、レジナルド・ガーディナー、ヘンリー・ダニエル、ビリー・ギルバート、ジャック・オーキー、モーリス・モスコヴィッチほか出演の『独裁者』(別タイトル:チャップリンの独裁者)。1940年作品(日本公開1960年)。

明日20日(水)にNHKBSプレミアムで13:00から放送されます。

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ヨーロッパにある“トメニア国”で顔がうりふたつの独裁者とユダヤ人の床屋がいた。第一次大戦に従軍中に記憶喪失になった床屋は、戦争が終わりその後の世の中の変化を知らないまま退院して我が家へ帰ってくる。しかし、独裁者ヒンケルの命令で彼らユダヤ人たちは迫害される。


先月あたりから毎週水曜日に(先週まで三週間は「ゴッドファーザー」三部作→感想はこちら をやってましたが)チャップリンの映画を何本か放映していて、『街の灯』も観ました。来週『ライムライト』もやりますね。

僕が小学生の頃、よくNHKチャップリンの映画をやっていて、その後、劇場でリヴァイヴァル上映された時にも観にいった。以前のリヴァイヴァル上映時(“ビバ!チャップリン”)に作られたのだろうポスターをもらいました。

日本での上映の権利が切れたとかであれから長らく劇場で上映はされていないけれど、レンタルショップにもヴィデオやDVDが置いてあって作品を観る機会はいくらでもあったし、ここ最近こうやって綺麗にレストアされた映像でTVでも放送されるようになったので、再び多くの人たちの目に触れる機会が増えたのが嬉しいですね。

かつては『キッド』『偽牧師』『ゴルフ狂時代(別タイトル:のらくら)』『担へ銃(つつ)』とか『給料日』『犬の生活』などの中・短篇も普通に放送されていたので、それらもぜひやっていただきたいです。

さて、この『独裁者』はいまだアメリカ国内にもナチスヒトラーの支持者がいた1940年という時代に作られて高く評価されたようですが、当時ドイツと軍事同盟を結んでいた(翌年に太平洋戦争も勃発する)日本では公開されず、戦後15年経った1960年にようやく劇場公開されたのだそうで。

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それまでサイレント映画を作り続けてきたチャップリンが初めて全篇に渡って台詞のある映画を作ったのがこの『独裁者』で(それ以前にも『モダン・タイムス』で部分的に台詞や歌などは用いているが)、また彼がチョビ髭に山高帽、モーニング姿でステッキを持ったおなじみ「放浪紳士チャーリー」を演じた最後の作品でもある。

アドルフ・ヒトラーが存命中に彼とナチス・ドイツを痛烈に批判して茶化しまくった作品として有名ですが、全然古びないどころかむしろ2020年現在の日本でこの映画を観ることの重要さを噛みしめています。

ちょっと前にアイドル歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんがTwitterで「#検察庁法改正に抗議します」というハッシュタグに賛同するツイートをしたところ、多数の批判的なリプライがあったり「よくわかってないくせに」と揶揄する者がいたりして、また同様に政府に批判的な主張をしている著名人たちが「政治的な発言をすべきではない」と叩かれたりして話題になりましたが(検察庁法改正案の問題についてはまだ終息していないので引き続き注視が必要ですが)、そういうこと言ってる人々はこの映画のチャップリンに向かっても同じことを言うんでしょうかね。

著名人が「政治的な発言をすべきではない」などと、一体誰が決めたのか。著名であるかどうか以前に彼らも国民であって、国民が政治について語るのは当たり前のことだ。もちろん、その発言には責任が伴うが、発言自体を「控えろ」と言うのはおかしい。 

この『独裁者』は、まだ第二次世界大戦に参戦もしておらず、また欧州でのナチスによるユダヤ人迫害に対しても関心が薄かった当時のアメリカの国民にその非人道性を糾弾して反差別・反侵略行為を強く訴えかけました。その姿勢が「容共的」だとして叩かれもしたそうだけど、チャップリンが正しかったことを今では僕たちは知っている。 

まぁ、確かに政治的な映画であることは間違いないんですが、スラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)としてもアイディアいっぱいで実に面白いんですよね。

巨大な大砲の弾丸が地面に落ちて、避けようとしてもその先がグルグルと追いかけてくる場面や、飛行機に乗ってて水筒から水を飲もうとしたら、なぜか水がどんどん空に向かって“昇っていって”しまうギャグとか、ドリフでも真似していた。

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ドリフはチャップリンの影響を大いに受けているし、先日惜しくも亡くなられた志村けんさんのコントを見ていても彼の演技や身体の動きがチャップリンのそれと重なるように感じることがしばしばある。『ライフ・イズ・ビューティフル』の監督・主演のロベルト・ベニーニも明らかにこの映画のチャップリンを意識してますし。ヒンケルがまくしたてる“なんちゃってドイツ語”はタモさんの「ハナモゲラ語」の元祖でもあるw 「ミスター・ビーン」もそうだけど、これまでチャップリンの影響を受けているコメディアンや芸人は数多くいるし、まさしく喜劇王の名に相応しい、「笑い」を芸術にまで高めた偉人ですよね。

ここで言う「芸術」というのは小難しいことを言ったりやったりすることではなくて、どこまでも職人芸を突き詰めていった末に行き着く境地のことですが。

パントマイム芸やスラップスティック・コメディというのは言葉がわからなくても伝わるものだから、ほんとに幅広い層が楽しめるスタイルなんですね。

一方で、チャップリンはもともと舞台出身だけど彼の映画は舞台でやってた芸をただキャメラで写しただけのものではなくて、ちょうどジャッキー・チェンがそうであるように撮影ではワンシーンに何度も何度もテイクを重ねることでも有名で、本番1回きりの舞台芸では不可能な「映画」でしかできないクオリティを求めているんですね。短篇の中にはキャメラの逆回転を利用したギャグもあるし(『独裁者』でもバルーン・ダンスのシーンで2ショットほど逆廻ししている)。

ロダンの彫刻「考える人」がナチス式の敬礼をしていたり、二人の独裁者、ヒンケルとナパロニ(ジャック・オーキー)が互いに床屋の椅子の高さを競い合う場面など、なんとも皮肉が効いている。 

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地球儀のような大きなバルーンを使ったダンスはストリップ・ショーの出し物が元ネタだそうですが、独裁者とストリップ・ショーという組み合わせもあからさまに対象をコケにしているのがわかるし、あの場面ではいずれヒトラーの世界征服の野望が潰えることを予言してもいる。命を懸けて独裁者を茶化す。これが本物の「道化」だ。聴いてるか、権力者に尻尾振ってるどこぞの国の自称・お笑い芸人の皆さん。

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映画のラストを主人公の演説で締めるのは、いかにもメッセージ性が前面に出ている感じで映画としてはどうなんだろう、という疑問もなくはないけれど、チャップリンはもともとは別のエンディングを考えていたものの、どうしても観客に直接訴えかけるあの最後の演説が必要だという結論に至ったということだし、それぐらい危機感を持っていたんですよね。ヒトラーナチスが行なっていることは民主主義を否定する行為だったんだから。ナチスを野放しにしておけば、いずれは彼らの恐ろしい思想が私たちの間にも浸透して差別と迫害が蔓延るようになるだろう、と。

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僕たちが住むこの国でも弱者を切り捨てようとしたり差別を煽る者たちが幅を利かせてきている。そのような者たちを支持する人間たちもいるし、それどころかナチスを堂々と擁護したり賛美するような(ナチスは僕たちアジア人のことだって差別していたんだが)バカが湧いていたり、何しろ、今、政府の副総理を務めているはずの男がちょっと前には「ナチスに学んだらどうか」などと口走ったりしていたほどだから。

『独裁者』の中で、ならず者たちが“突撃隊”としてユダヤ人街で暴れまわって破壊を繰り返すのは歴史通りだけど、その姿は軍人や警官が威張り散らしていて国民を監視し「思想犯」が拷問されたり殺されていたかつての日本のそれでもあり、また明日のこの国の姿かもしれない。このまま私たちが「政治」に無関心な“ふり”をし続ければ、やがてはそうなる。独裁者には「正義」などこれっぽっちもない。ヤクザだろうが右翼だろうがネトウヨだろうが、使える者は総動員して「邪魔者」を排除しようとする。

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映画『独裁者』を観ていると、独裁者がいかに自分のことしか考えておらず国民のことなど歯牙にもかけていないかよくわかるし、その取り巻きの無能ぶりは現政権の関係者の愚劣さと大いに重なるところがある(かつての日本軍の蒙昧さとも)。

劇中でヒンケルは一時ユダヤ人たちに寛容なふりをしてみせるが、それはユダヤ人の有力者たちから金を引き出すためのポーズでしかなかった。目的を達するためならば嘘もつくし卑屈な態度だってしてみせる。人間としてもっとも信用してはならないタイプの男だ。

暴力で人々を抑えつけようとする者は間違っている、という大前提を忘れてはならない。そのような者に従うことも、あるいはそのような者の“しもべ”同然となって他の人々を弾圧することに協力するのも大きな罪だ。その事実を強く意識しておきたい。

この映画では最後に床屋と間違えられた独裁者は捕まり、逆に独裁者になりすました床屋が世界に発したメッセージによって平和が訪れるが、現実の世の中ではナチスはヨーロッパ中を蹂躙してヒトラーはその最期まで捕らえられることも罰せられることもなく、廃墟と化したベルリンの地下壕で自害した。もっと早くみんなが過ちに気づいていればあれほどまでの多くの犠牲者を出さずに済んだかもしれないと思うとやりきれないが、せめてその教訓を活かさなくては。

手遅れになる前に。

 

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