『シュガー・ラッシュ:オンライン』を昨年末に劇場で鑑賞して、さらに年が明けてすでに複数回観ています。
映画の感想は↑の別のブログに書きましたのでそちらを参照していただきたいのですが、他のかたのブログや映画サイトのレヴューをいくつか読んで、その中にちょっと気になる記述があったのでそのことについて書きます。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』と前作『シュガー・ラッシュ』(感想はこちら)の内容に触れますから、まだご覧になっていないかたはくれぐれもご注意ください。
それと、これからしたためることは僕の個人的な意見であって、誰もが同じ意見であるべきだ、などと主張するつもりはないし、異論のあるかたも当然いらっしゃるでしょう。
ただ、コメント欄で「いや、俺はそうは思わない」「あなたの言ってることはおかしい」みたいな際限のないやりとりを延々続けるのはしんどいので、こちらの記事はいくらでもご自由に引用してくださって結構ですから、反論はどうぞご自身のブログだったりTwitterの呟きなりでなさってください。
この作品が描いていたものを要約すると、つまりは、予定調和的な日常から抜け出して新しい世界で生きていこうとするヒロイン(ヴァネロペ)と、それを知ってなんとか引き止めようとする彼女の親友(ラルフ)の話。
で、僕は観れば観るほどこの映画が好きになっていってるんですが、一方では批判的な意見も散見する。シリーズ物にありがちではあるんだけれど、特に前作が好きな人がそれとの比較で「ガッカリした」というパターンが多いようで。
映画を観てどんな感想を述べようと、たとえ批判しようとそれは人の自由なのでいちいち僕が文句垂れる資格はないですが、でもその批判が納得いかないものであれば、それに対する反論だってありうる。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』批判の中で僕が気になったのは、最後にヴァネロペがする決断に対して「無責任」「自分勝手」という表現で彼女を咎めてるものが少なくないこと。
ヴァネロペは自分の故郷であるレースゲーム「シュガー・ラッシュ」を出てインターネットの世界に入り、そこの「スローターレース」というゲームに魅せられる。
そここそが自分がやりたいことができる場所であり、「あたしの居場所」なのだ、と確信する。
しかし、そんなヴァネロペにラルフは「“シュガー・ラッシュ”のみんなや俺を捨てるのか?」と反対する。
ヴァネロペは「私は16人いるレーサーの一人でしかない」と答える。
ラルフは「ヴァネロペのことが心配」と言うが、本当は彼自身がヴァネロペと離れるのが寂しいのだ。それはほんのわずかな間、ヴァネロペが自分と離れて動画の宣伝をしにいくだけで不安げにうろたえていたことからもわかる。
そして、ヴァネロペが自分よりも女性レーサーのシャンクの方を尊敬していて彼女に夢中であることに嫉妬する。ラルフが唐突にシャンクに対して懐疑的な態度を取り出すのは、ヴァネロペを彼女に取られるのではないか、と怖れたからだ。
映画の前半では「自分の夢」がなんなのかを追い求めるヴァネロペ、そして後半では「夢」を見つけた彼女を失うことを怖れてそれを阻止しようとするラルフの視点で物語が描かれる。
だから、映画の最後でヴァネロペが自分の夢を果たそうとラルフと別れ、ラルフもそれを受け入れるのは至極当然の結末であって、彼女が再び「シュガー・ラッシュ」に戻ることは物語的にいってもありえないでしょう。映画が語ってるテーマを裏切ることになっちゃうから。
そう考えれば、自らの意思で巣立っていくヴァネロペを「無責任」呼ばわりしたり、あの結末を理由にこの映画をこき下ろすのがどれほど的外れなことかわかるはず。
ラルフがヴァネロペへの“依存”を捨てて彼女を笑顔で送り出せるようになってこそ、このお話は本当の結末を迎えられるのだから。
「自立」するのはヴァネロペだけじゃない。むしろラルフの自立をこそ描いている。
「最後にヴァネロペは“シュガー・ラッシュ”に戻って、たまにインターネットの方にも行けばいい」という意見を述べていた人もいたけれど、それは劇中で同じことをシャンクが彼女に言っている。「うちに帰って普通の生活に戻っても、時々ここに来ていいから」と。
でもヴァネロペは「あたしはこういう毎日を“普通”にしたいんだよ」と答える。
これって、たとえば地方から東京に出ていく、あるいは日本を出て海外で活動しようとしている若者の話みたいなものですよね。憧れの人に「地元に就職して、たまに遊びにおいで」って言われて「ここに住んでここで仕事がしたい」と答えるようなもので。
そういう願いを持つこと自体はけっして「無責任」でも「自分勝手」でもない。
ちなみに、ヴァネロペやラルフたちはゲームキャラだから年を取らず見た目がずっと変わらないので、ちょうど『インクレディブル・ファミリー』(感想はこちら)がそうだったように前作の直後からの話だと勘違いしそうにもなるけれど、この『シュガー・ラッシュ:オンライン』では前作(2012年)から6年経っていて、それは台詞で何度も強調されている。映画の世界と現実の時間経過が一致しているんですね。
「シュガー・ラッシュ」のお姫様としての居場所を見つけてから、そこでヴァネロペは6年間ずっと頑張って仕事を続けてきたのだ。やがて、これ以上ここにいても変わらない毎日が続くだけで、でも自分は変化のある、先の展開が読めない生き方がしたいんだ、ということに気づく。
そして、ラルフとともに訪れたインターネットの世界にそれを見つける。「帰れないよ、お菓子の国。私は生きる、この“スローターレース”で」と。
「無責任」っていうけど、ヴァネロペは前作『シュガー・ラッシュ』では長いこと仲間はずれにされてたわけで、「シュガー・ラッシュ」のゲームはけっして彼女を救ってはくれなかった。ラルフの協力はあったが、彼女は自力で自分の居場所を見つけたのだ。それを何年か経ってそこから出ようとしたら今度は「無責任」だの「自分勝手」だのと、「はぁ?何ホザいてんの」って感じだ。
僕はこういう「集団の中での義務だとか責任」 みたいなことを言い募って前に進もうとしている人の足を引っ張ろうとする「島国根性」って、つくづくこの国に染みついてるなぁ、と思います。
「この国」とかまたデカいこと言い出しやがった、と思われるかもしれませんが、だってそうでしょ。ヴァネロペのことを「無責任」呼ばわりするような人たちって、僕らのまわりやインターネットの中に大勢いるじゃないですか。
「ヴァネロペは生意気だからあまり好きじゃない」とかいう人もいるほどだから、ディズニーアニメのヒロインに求める女性像が保守的過ぎるんだよな。そんなに自己主張する女の子が嫌か。『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、まさにそういう古臭くて抑圧的な女性観を批判しているんだが。
映画をちゃんと観ていたらわかるけど、ヴァネロペはしっかりと自己主張はするけどただ生意気でワガママなキャラクターなどではなくて、自分が「シュガー・ラッシュ」を離れたらラルフが「もう友だちじゃない」と言い出すのではないか、と怖れたり、迷い葛藤するヒロインとして描かれている。
そして彼女は、それでもやっぱり自分には今何が一番必要なのかをよく考えて最終的に決断する。ヴァネロペを時々不安定にさせる「不具合」というのは、彼女の「可能性」を意味してもいる。
これはゲームの世界のお話だけど、たとえば普通の会社やあるいはアイドルグループの話でも通用する。芸能界でも事務所を代わったら不当な圧力をかけられてTVや映画に出られなくなってしまった人、いますよね?一方的にアイドルたちに自分の欲望を押しつける自称・アイドルファンもいるし。それと同じことですよ。
自分の夢を追って、またはキャリアアップのために転職したり他の事務所に移籍することを「無責任」などと責め立てる輩は、映画のクライマックスでヴァネロペを追いかけてくるラルフの“分身”たちのように心底「気持ち悪い」し迷惑千万な存在なのだ。
変わらない毎日を愛し、そういう生活を送ることは人の自由だ。しかしそれを他の人にも強要するな、ということ。一歩踏み出そうとしている人、飛び立とうとしている人の邪魔をするんじゃない、と。
映画の中ではタフィタ*1たちレーサーや「シュガー・ラッシュ」の住人たちがヴァネロペを「無責任」などと責めるような場面はない。責めてるのはさっきから挙げてる一部の観客たちだ。
多分、ディズニーの映画の作り手たちは日本の観客のこんな異様な反応は想定してなかっただろうと思う。これから夢に向かっていこうとしているヒロインを祝福するんじゃなくて、「自分勝手」と罵る人間たちがいるなんて。
ヴァネロペ同様にやがて自分の夢を探して、それに向かっていく子どもたちが観るアニメーション映画に「ヒロインが自分勝手」などと文句をつける人間の存在。なんか言いようのない闇と絶望感。
確かにこの作品は幼児にはその面白さはわからないだろうし(上映中に客席で小さな子がムズがってるのを何度も見た)、「一体どの年齢層をターゲットにしてるんだ」という疑問を呈している人もいて、そこはなかなか難しいとは思います。対象年齢は意外と高めだから、小さな子ども向けだと思って来た家族連れの親御さんが不満を感じることはあるかもしれない。
ディズニーとかスター・ウォーズなどの小ネタがわからないと退屈してしまう可能性もあるし。
ただね、だからってこの映画の出来が悪いなんてことはないし、届くべき人たちに届けば面白さはちゃんと伝わるはずです。大人にこそ観てほしい。いや、子どもたちにだってぜひ挑戦してほしいですが。何年後かに観返したら、「あぁ、そういうことを描いてたのか」ってわかるはずだから。
ヴァネロペはラルフと離れてシャンクたちのいるレースゲーム「スローターレース」で彼女たちとともにレーサーとして生きていく道を選んだんだけど、シャンクたちはゲームのプレイヤーを妨害する“悪役”なわけで、彼女たちの仲間になったヴァネロペもまた同じく悪役になったんですよね。
それって、ラルフと同じってことでしょう。離れていても、彼らふたりは同じように“悪役”というところで結びついているのだ。よく考えられてますよね。
この映画、繰り返し観るたびに新しい発見があるから、ぜひ皆さん劇場に何度も足を運んでみてください(^o^)
↓続きを書きました。コメントでいただいた「禁忌」についてもこちらで触れています。
ei-gataro.hatenablog.jp
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