しつこく『シュガー・ラッシュ:オンライン』についての記事です。
ここしばらくレンタル店で全部貸し出し中だった『シュガー・ラッシュ』(2013)をやっと借りられました。
久しぶりに1作目を観て、いろいろ気づいたり感じたことがあったので書きとめておきます。
「シュガー・ラッシュ」二部作と「モンスターズ・インク」二部作のネタバレがありますので、ご注意ください。
このように1本のアニメーション映画について複数の記事を書くのは、2016年の『この世界の片隅に』(感想はこちら)以来かも。
『この世界~』は今年その全長版が公開される予定だから、またこちらに再度記事を書くかもしれませんが。→(すずさんの罪 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』)
さて、“シュガラ2”についてですが、前の記事でも書いたように一部に批判的な意見があって、いくつかの映画のレヴューサイトでも星の平均点が前作ほど高くない。
同じような現象が以前あったなぁ、と思って。
それがピクサーが2001年の『モンスターズ・インク』の12年後に作った『モンスターズ・ユニバーシティ』で、僕は非常に優れた続篇だと思っていますが、こちらも中には「前作ほど面白くない」「あまり好きではない」という人たちがわりといた。
まぁ、否定的な意見の存在は続篇の宿命でもありますが、この続篇が気に入らなかった人たちの言い分は今回の『シュガー・ラッシュ:オンライン』への反発ととてもよく似ていて、つまり前作がわかりやすい勧善懲悪で最後は大団円で終わった物語だったのに対して続篇ではより現実的でシビアな世界が描かれたのが不満、ということのようで。
『モンスターズ・インク』で気のいい“ニャンニャン”だったサリーは『ユニバーシティ』では鼻持ちならないイヤな奴として登場したし(その理由は劇中でちゃんと説明されているが)、『インク』の時のように最後に悪い奴を退治して一件落着、というカタルシスが感じられなかったからかもしれませんね。
実は僕も『シュガー・ラッシュ:オンライン』を最初に観た時にはクライマックスの“敵”との闘いに物足りなさを感じて、感想には「1作目の方が好き」と書きました。
『シュガー・ラッシュ』の方も1作目では終盤に悪玉がその正体を現わして、最後にはビーコンの熱で大量の“サイ・バグ”たちとともに消滅する。
レースゲーム「シュガー・ラッシュ」は救われて、長らく孤独だった主人公のラルフはヴァネロペという親友を得る。すべてが丸く収まって気持ちよくエンディングを迎える。
さて、同じピクサーの「トイ・ストーリー」シリーズが時系列順に続篇が作られているのに対して『モンスターズ・ユニバーシティ』がユニークだったのは、続篇でありながら『インク』よりも以前のお話=前日譚だったこと。
そこでは“モンスターズ・インク”に入る前の学生時代のマイクとサリーが登場する。
彼らはいかにして出会い、そして最強の「怖がらせコンビ」になっていったのか。
マイクは「怖がらせ屋」を目指して勉強に励むが、彼には子どもたちを怖がらせる才能がなかった。
ここでは、望んで努力しても叶えられない「夢」がある残酷な現実と、主人公の「挫折」が描かれていた。
ただし、映画はそれで終わってしまうのではなくて、子どもをいかにして怖がらせるのか研究し続けてきたマイクにはそのノウハウがあり、一方で怖がらせ屋の才能はあるが地道な努力が苦手なサリーは、マイクとふたりでコンビを組んで互いを補い合うことにする。
そして、その成果が前作『モンスターズ・インク』のスター・コンビの活躍に繋がっていくわけで、単に前作の世界を続篇で壊してしまったわけではなくて、むしろ時系列を逆にしたことで前作もまたより深みのあるものに変化していく、というマジックが起こっていた。
一方、『シュガー・ラッシュ:オンライン』は前作の6年後の物語で、それは実際に2012年に作られた前作からリアルタイムで時が流れていることになる(だから、前作でリトワクさんの経営するゲームセンターで遊んでいた眼鏡の女の子は続篇には出てこない)。
物語は時系列順で描かれているがゆえに、その内容は『モンスターズ・ユニバーシティ』よりも容赦のないものになっている。『オンライン』ではラルフとヴァネロペは離れて暮らすことになって映画は終わる。
それは前作のラストのハッピーエンディングが好きな人にとってはツラい結末ではある。
『オンライン』のラストの別れを理由に「あまり好きじゃない」という人もいるんでしょう。気持ちはわからなくもないが。
でも、この『オンライン』は自分の手で「自分の夢」を掴み取っていくヒロインを描いた物語で(ラルフの視点で観れば、親友との物理的な別れを受け入れていくビターな物語)、それは「男の人に守ってもらうこと」が条件だと思われてきたプリンセス=女の子が、そのような従来の「お約束事」を自ら変えていく、変化や成長の物語ともいえる。
そして「友情も変わっていく」のだということを描いたこの続篇によって、前作が否定されるというよりも、過ぎ去った時へのノスタルジーやそのかけがえのなさがよりいっそう沁みるようになる。
変わらないものはないのだ、ということ。
それでもラルフとヴァネロペは連絡を取り合って互いの近況を報告しあい、たまの休みの日にまた会えることを楽しみにしている。別に喧嘩別れしたわけでも今生の別れになったわけでもない。
以前のようにしょっちゅう会っていつも一緒にツルんでるということがなくなっただけだ。
それって現実の僕たちの姿そのものでしょう。仲がいいからって親友と一生ずっと一緒にいられるわけじゃない。また親友だからって同じ夢を持っているとは限らない。それは“恋人”でも同じ。
日本でも何十年間も同じキャラクターの声を演じている声優さんがいるし、アニメのキャラクターというのは基本年を取らないので(あえて年を取らせる場合も、もちろんあるが)、「変わらない」ことが魅力のようなところもあるけれど、でも現実には時の流れとともに人は老いるし、やがてこの世から去っていく。アニメだって永久に同じ絵柄ではない。
僕はむしろ、その変わらない、年を取らないはずのアニメのキャラクターたちが世の中の変化に反応したり成長したり、限りある命を演じてみせてくれる時に、 場合によっては生身の俳優が演じている以上に胸に込み上げるものがあります。
「シュガー・ラッシュ」でこの話をやる必要があるか?と疑問を呈している人もいるけれど、僕は「シュガー・ラッシュ」でこの話をやったことにこそ賛辞を贈りたい。
人生は、王子様と結婚してめでたしめでたし、では終わらない。それは始まりや途上に過ぎない。
『シュガー・ラッシュ』の1作目でヴァネロペはプリンセスとなり、ラルフは彼女という“親友”を得た。
それは「始まり」だった。『オンライン』はその続きの物語である。
『モンスターズ・ユニバーシティ』はマイクとサリーが怖がらせ屋になるまでを描き、『モンスターズ・インク』のラストでモンスターズ・インクは解体される。収まるべきところに物語は収まった。
『シュガー・ラッシュ』で自分の居場所をようやく得られたヴァネロペとラルフは、『シュガー・ラッシュ:オンライン』で離ればなれとなって、互いに新しい生活を始めることになる。
ヴァネロペは新しい仲間たちとの新しい仕事を、ラルフはそばにヴァネロペのいないゲームセンターの世界での生活を。先の未来は確定していない。
残された者には寂しさが伴うが、「ヴァネロペがいてくれさえすれば」と彼女という存在に依存しきっていたラルフが喪失感や再び孤独を感じることは、残酷かもしれないが彼にとっては必要なことだったのだろう。ヴァネロペはもうここにはいない。彼女の目は、はるか彼方を向いているから。
「モンスターズ・インク」は男同士の純粋な友情の物語だったけど、「シュガー・ラッシュ」はキャラクターはおっさんと小さな少女でありながらも「男女」の物語なのがディズニーっぽかったな、と。
だからより切ないというか、ラルフのヴァネロペへの執着ぶりは明らかに友情を越えていて恋愛感情に近いものだった。しかし、彼のその独りよがりで一方的な「恋愛感情」は拒絶される。
相手のことが好きだからその相手にずっと自分のそばにいてほしいと願う。でもそれは果たして相手も望んでいることだろうか?
ラルフとヴァネロペのふたりの間の感情の微妙な温度差がとてもリアルに感じられるんですよね。
甘いお菓子の国で毎日ずっと同じ夢を見ていたい…という人には『シュガー・ラッシュ』の1作目は心地よく、逆に続篇の『オンライン』は夢を壊す許しがたい作品なのだろう。
安住を望む者にその逆の価値観を突きつけたからこそ、この続篇は反発を食らってるのかも。
だけど、僕はどこか苦く心が痛くもなるこの『オンライン』は本当に味わいのある、続篇の傑作の1本だと思います。
ところで、前に書いた『オンライン』についての記事にコメントをくださったかたがいて、その文章の中に「禁忌」という言葉があったんだけど、その時、僕にはそれがなんのことなのかわからなかったんですよね。
こむぎ
だからそれについて適切な返答ができなかったんですが、1作目を観直して、あぁ、なるほど、「ターボする」のことだな、と遅まきながら理解しました。
1作目の悪役“ターボ”が自分のゲームを出て新しい他のゲームに侵入してバグを起こしたために、もといたゲームとその新しいゲームの両方が使い物にならなくなって筐体が撤去されてしまったことから、ゲームキャラが自分のゲームを捨ててしまうことを「ターボする」と呼んでタブー(禁忌)とした、ということ。
なのに、2作目ではヴァネロペは平然と自分のゲーム「シュガー・ラッシュ」から出ていく、というのはおかしいのではないか、という疑問ですね。
確かに2作目には「ターボする」という言い回しは出てこないし(字幕版ではどうなのかわかりませんが、吹替版にはなかった)、前作ではやってはならないことだったのが続篇では不問にされている。
そこに抵抗を覚えた人がいたのでは?というのが先ほどのコメント投稿者さんのご意見でした。
で、これはその時の僕の返信ともカブるんですが、「それはそんなに重要なことか?」と思います。
ターボはゲームの主人公キャラにもかかわらず自分のゲームを捨てて他の新しい人気ゲームを乗っ取ろうとしたことが問題だったんだけど、今回のヴァネロペはそうではないですよね?
ラルフから「“シュガー・ラッシュ”を捨てるのか?」と問われて「あたしは16人いるレーサーの中の一人に過ぎないんだから、いなくなっても構わない」と答えている。筐体が撤去される怖れはない、と。
あるいは、前作で「悪」とされたことをこの続篇では「それだってありなんじゃない?」と言ってるのかもしれない。あえて前作の逆をやってみた、と。
劇中ではヴァネロペが去ったあとのタフィタたち「シュガー・ラッシュ」のゲームキャラやゲームセンターでヴァネロペを選んでいたプレイヤーの女の子たちの反応は描かれていないから、実際にヴァネロペがいなくなってどのような影響があったのかはわからない。
だけど、そもそも6年前に「シュガー・ラッシュ」のプリンセスとしてゲームに復帰する以前はヴァネロペは仲間はずれにされていてレースには出られなかったんだし、それでもゲーム自体は成り立っていたんだから、彼女が再びいなくなったって大丈夫なんじゃないですか?
「ターボする」というのは禁忌とされていただけでその行為自体が不可能ではないのだし、すでに1作目の最後でヴァネロペはラルフに「ずっとここ(“シュガー・ラッシュ”)にいてもいいんだよ」と言って別のゲームの住人である彼を引き止めようとしている。
だから、もうその件に関しては前作で解決済みなんじゃないでしょうか。
…ただのこじつけ、辻褄合わせだと思われるかもしれませんが、これも以前の記事とコメントにもちょっと書いたように、この『シュガー・ラッシュ:オンライン』ではヴァネロペは既成のルールをいくつも破っていくんですよね。ルールそのものを変更していく。
彼女がプリンセスに課せられた「お約束事」やゲーセンのゲームキャラに課せられたルールから自由に羽ばたいていく姿を描いている。
その“ルールを変えていく”行為そのものが重要なテーマの一つとすらいえる。
だから、ゲーセンのゲームキャラが他の世界に行ったっていい。
現実には人生の中でいろんな事情やしがらみがあって自分の家や街、属しているコミュニティなどから抜け出せない人たちもいるでしょう。そしてそれが必ずしも悪いことだとも限らない。ラルフがゲームセンターの自分のゲームにとどまり続けるように。
でも、だからってこの映画のヒロインに対しても同じように「故郷にとどまるべき」などと強制する必要などない。誰にもそんな権利はないはずだ。ラルフが自分の分身たちに言い聞かせたように。
ここで描かれているのは、「変化」を求めている女の子が新しい世界に飛び込んでいくことの素晴らしさだ。その姿は映画を観ている子どもたちの憧れや目標になり得る。
ちょうど走り屋の“ロード・クイーン”シャンクがヴァネロペの憧れの存在になったように。
なので、僕はやはりヴァネロペが外に出ていくのはなんら問題ないと思いますね。
納得していただけたでしょうか。
だいたい、せっかくインターネットという魅力的な舞台があるのにいつまでもヴァネロペが狭い「シュガー・ラッシュ」の中でくすぶり続けてたんじゃ、その方が僕は映画として退屈だと思いますけどね。「シュガー・ラッシュ」のゲーム内のお話は前作でもう充分堪能したわけだし。
何度も繰り返しますが、作品を批判したり「好きではない」ことを表明するのは人の自由です。僕もしょっちゅうやってる。
ただ、この作品に関しては「~だからこの作品はダメ」みたいに断言される理由に僕は全然説得力を感じないし、ハッキリ言ってこの『シュガー・ラッシュ:オンライン』は不当に過小評価されている(それは『モンスターズ・ユニバーシティ』も同様)と思う。このクオリティの映画の評価が「★1つ」とかありえないから。だからこうやって延々と擁護しているのです。
個人的にまったく納得いかない作品(具体名はあえて挙げませんが)が世間で妙に持て囃される一方で、素晴らしい作品が無視されたり酷評されることへの苛立ちを感じることがままある。
なので、それはその都度異議を唱えていこうと思います。
僕はこれからも自分が「面白かったなぁ」と満足できる映画が作られてほしいので、好きな作品は猛烈に推していきたい。この『シュガー・ラッシュ:オンライン』 はそういう1本です。
↓続きを書きましたので、こちらもどうぞ。
ei-gataro.hatenablog.jp
※コメントがしんどい。
ゲーマーの人たちがみんなこんなんじゃないと思いたいけど、だいぶ印象悪いですよ。
— ei-gataro (@chubow_deppoo) 2022年7月15日
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島国根性ってのはわかるけど前作で重要だった禁忌を堂々と犯してるのが賛否の理由でもあると思いますね