映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ゲゲゲの女房』


※以下は、2010年に書いた感想です。


監督:鈴木卓爾、主演:吹石一恵宮藤官九郎の『ゲゲゲの女房』。2010年作品。

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ムーンライダーズ feat. 小島麻由美ゲゲゲの女房のうた」
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漫画家水木しげるの妻、武良布枝さんが結婚して上京し、収入が少ない夫を支えながら夫婦でひたむきに生きていく姿を描く。

ネタバレなし。


NHKの連続ドラマの方はほとんど観ていないので*1、それと比べてどうこう書けないんですが、たまたまおとずれた調布の駅の壁にこの映画のポスターが貼ってあるのを見て、初めて映画でもやることを知ったのでした。

別にTVドラマの人気に便乗したのではなくて、最初はまったく別のところでそれぞれ企画されてたという話。

吹石一恵という女優さんは僕はかなりの正統派美人だと思うんですが、そのわりに彼女の主演映画というのを観たことがなくて、広末涼子に「マユゲ太っ」と言われるバブル時代のおねえさんや、綾瀬はるかにツッコみまくるちょっとイイカゲンそうな先輩FAだったりと、脇でイイ味出しながらもその美貌を十分に発揮する役があまりなかったような気がする(園子温監督の『紀子の食卓』は未見)。

そんなわけで、今回は正真正銘の主役ということでちょっと期待していたのです。

でも観る前に他の人のレヴューなんかを覗いてみたところ、どうもあまりよい感想が書かれていない。

なんか物足りない、とか肩すかし、みたいなのが大半で。

たしかにTVドラマがあれだけ大人気だったのに、映画の方はなんだかいまひとつ話題になってないよーな。

ウ~ム、大丈夫なのかしらん。

監督の鈴木卓爾は俳優として市川準監督の『トキワ荘の青春』で藤子不二雄(の、ご存命の方)を演じたり『容疑者Xの献身』では非常に気の毒な男性を演じたり、矢口史靖監督の作品で共同脚本を務めたりして自分でも何本か撮ってるけど、監督作品観るのはこれが初めて。


で、結論から。

うん、たしかに「あの題材をなぜこんな退屈な作品にしたのか」という怒りの声にも、昭和30年代が舞台なのに現代のビルが何度もこれ見よがしにおもいっきり画面に映りこむショットや、それどころか調布のパルコ前で登場人物が芝居してる場面に呆れる気持ちにもいちいちうなずけてしまう。

TV版はきっと(あぁ、よくわからんから歯がゆい)原作からエピソードをうまく拾って膨らませて、ハートウォーミングなホームドラマに仕上げていたんでしょうね。僕のオカンもずっと観てたらしいから。

だからそういう映画を期待したら「残念な作品」という烙印を押されても仕方ないかもしれない。

誰にでもオススメできるかといったら、できない。

何しろおそろしく地味なんである。

布枝さんが乏しい食材を工夫してなんとか作った食事を、漫画家の夫は黙々と食ってそのまま仕事部屋へ行く。その描写の繰り返し。

正直、途中でちょっと眠くなりました。

上映中、自分のお腹が盛大に鳴って(ほんとに。しかも長く)すっごく恥ずかしかった。

でも、人にケナされてると擁護したくなるので。

ようするにそういう地味な毎日の積み重ねがのちの成功につながったのだ、と。

水木しげるさんご本人のことはTVとか映画『妖怪大戦争』で見たことがあるぐらいだからもちろん実際にどんなかたなのかは知らないけれど、でもなんとなくTVドラマの長身でイケメンな向井理よりも、屁ェぶっこきながら漫画描いてるクドカンの方が「ほんとはこういう人なんだろうな」と思わせる。

ちょっとつげ義春原作、竹中直人監督・主演の映画『無能の人』を思い出しました。

雰囲気というか、行間を楽しむ映画、みたいな。

「怒ると腹が減りますから」といいながら、いつも飄々としていてにこやかな感じのしげるが劇中で一度だけキレる場面があって、それは収入があまりにも低すぎるので税務署の職員に疑われた時。

「お前らに俺たちの生活がわかってたまるか!」

…まぁ、そういう道をえらんだのは自分自身なんだから他人にキレるのは筋違いな気もするが、でもなんとなく理解できなくもない。

そして、これまた貧乏生活に耐えながら夫の面倒をみてきた布枝が唯一夫に見せた怒りが、「いざとなったら漫画家を辞めて他の仕事につけばいい」という夫の言葉に対して「だったら今すぐ辞めてごしない!」

夫の漫画家としての才能を信じているからこそ我慢した貧乏生活。

この漫画家の陰にこの妻あり。

でも今はその妻が主役である。

2010年の流行語大賞に輝いた『ゲゲゲの〜』の表彰の壇上で「こんな賞をいただくなんて…」と恐縮している布枝さんの姿が印象的でした。

ちなみに布枝さんはあの世代の女性としては長身で(165cm)そのことをずっと気に病んでいたそうだけど、映画の中ではその辺の言及はなし。

TVドラマで布枝さん(役名:布美枝)を演じた松下奈緒は身長174cm、映画版の吹石一恵も169cm。

今後も布枝さんを演じる女優さんは長身、という条件付きになるのだろうか。

長身美人大好きなんで、そんなとこが気になったりして。


のちに「妖怪ブーム」を生み出すきっかけとなった水木しげるの描く漫画はてっきり最初から人気があったんだと思いこんでたんで、かなり長い間芽が出ずに苦しんだということを知って意外でした(漫画家デビューはのちに彼のアシスタントもつとめたつげ義春の方が先)。

映画の中では、見合いの話が持ち上がったと思ったら次の場面ではもう結婚してるんでそのあたりのドタバタは描かれないんだけど、水木さんってかなり変人だよな。

以前、ビートたけしが「芸人っていうのは、芸人という職業だから変わったことやってるんじゃなくて、変わってる奴だから芸人になったんだ」みたいなこと言ってたけど、その体でいえば、水木しげるという人もなるべくして漫画家になったのだといえる(漫画家には変人が多い、というのはよく聞く)。

映画の中ではとてもイイ人みたいに描かれてるけど、よくよく考えるとけっこうとんでもない人だったりする。

実は貧乏で生活もままならないことを隠して結婚なんて、今だったら詐欺行為で即結婚解消になったっておかしくないんだけど、時代が時代なのか布枝さんはじっと我慢の子を貫く。

「苦手なことを無理してやってもうまくいかない」と流行りの「宇宙モノ」の依頼を断る。

妻が「赤ちゃんができた」と告げると「子どもを育てるのは大変だ」と躊躇する。やることやっといてなかなか無責任ではある。

ブームが去った80年代初頭にも低迷していた水木さんは、妖怪の文化が今もさまざまな地域に根ざしていることを娘さんを通じて知って救われたそうで(この辺は映画では描かれませんが)、つまり妻や子ども、そして鬼太郎をはじめ自分が生み出したキャラクターたちによって生かされてきたのだといえる。

わが子のスケッチから鬼太郎の顔に変化していく場面は静かに感動的だった。

自伝を書くきっかけになったという布枝さんの言葉「終わりよければすべてよし」。

まさにそれを実感させる映画でした。

ほんとは綺麗事じゃない、もっといろんなことがあったに違いない。

布枝さんがブチギレそうになったことだって何度もあるはず。

でも数十年もの間手をたずさえ合いながらともに生きてきて「終わりよければ」と言えるというのはほんとにステキなことだなぁ。そんな何気ない一言を言えるためにいかに努力を要するのかは、自分の両親や祖父母を見てきてよくわかる。


最初に書いたとおり、不満はたくさんある映画です。

バックに映るビルも、アニメ『火垂るの墓』のようにワンポイントで見せたらもっと効果的だったんじゃないかとも思うし。

それでもまるで寺山修司の映画を観てるような異化効果があって、憎めない作品です。

何年か経ったら、不思議なテイストの映画として好きだという人も出てくるかもしれない。

吹石さんの出演作のチョイス(事務所の、かもしんないけど)は素晴らしいし、クドカンの演技やあの無邪気そうな笑顔を初めて「いいな」と思いました。

布枝さんの著書を読んでみたくなりました。*2


水木しげるさんのご冥福をお祈りいたします。15.11.30


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*1:同じエピソードの映画版との描き方の違いなど、なかなか興味深かったですが。

*2:いまだに読んでません。スミマセン。