映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『バンド・ワゴン』


ヴィンセント・ミネリ監督、フレッド・アステアシド・チャリシージャック・ブキャナンナネット・ファブレイオスカー・レヴァント出演のMGMのミュージカル映画バンド・ワゴン』。1953年作品。

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1950年代。ミュージカル映画スターのトニー(フレッド・アステア)は、いまや時代遅れの存在となっていた。お忍びでおとずれたニューヨークで友人の脚本家とソングライターのマートン夫妻(オスカー・レヴァント、ナネット・ファブレイ)に出迎えられて、演出家で俳優のジェフリー・コルドバ(ジャック・ブキャナン)を紹介される。トニー主演、ジェフリーの演出で夫妻の脚本を舞台化することになり、バレエダンサーのガブリエル(シド・チャリシー)と恋人の振付師ポール(ジェームズ・ミッチェル)も加わって舞台稽古がはじまるが、トニーとダンス・パートナーのガブリエルはどこかピリピリしていて、バレエの振り付けやジェフリーの前衛的な演出にも不満なトニーは、本番3日前に怒りを爆発させてしまう。

ネタバレというほどのものはありません。


ザッツ・エンタテインメント』(感想はこちら)でダンスシーンが紹介されていて「観たいなぁ」と思っていたんですが、先日の『オーケストラの少女』(感想はこちら)といっしょにDVDをみつけて購入。

とにかくもう、ヒロインのシド・チャリシーの美貌、その芸術的なまでのプロポーション(足長っ!)と魅惑的なダンス(もちろんパートナーに華をもたせるアステアのダンスもおみごとですが)に見入ってしまった。


もともとバレエをやっていたシド・チャリシーは、劇中でアステア演じるトニーが「背が高すぎないか」と心配するように一見すると長身のクール・ビューティだが、なるほど歩き方がいかにもバレリーナ、背中から足まで全身の筋肉のつき方もダンサーのそれで、彼女の優雅でパワフルな肉体の躍動には圧倒される。

Dancing In The Dark
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1994年の『ザッツ・エンタテインメント Part 3』ではプレゼンターとして登場して、若かりし頃のミュージカル映画時代の想い出を語っていたが、そのときも背筋がすっと伸びていて顔つきも往年の美人ダンサーの面影を保っていた。


この映画の制作当時、主演のアステアは50代。

ミュージカル俳優としての全盛期は過ぎていて、まさに映画のトニーそのものだった。

だからこの映画の彼のダンスを観て、なかには「アステアも衰えたな」とつぶやくファンもいらっしゃるようで。

でも、僕は彼の主演映画を観るのはじつはこれがはじめてなので、そのあたりはよくわかんなくて、ふつうに楽しめましたが。

フレッド・アステアは、自身が演じたトニーのようにダンスの相手の身長を気にする人だったようで、またシド・チャリシーもこの映画のヒロイン・ガブリエルと同様、大ヴェテランのアステアと共演することにかなりのプレッシャーを感じていて、撮影当初はふたりともギクシャクしていた、というから可笑しい。

劇中でトニーが「僕はニジンスキーでもないし、マーロン・ブランドでもない!」といってキレる場面があるけど、時代を感じさせますね。

当時、マーロン・ブランドはあたらしい時代のスターだったんだな。

ニジンスキーはロシアの有名なバレエダンサーだけど、シド・チャリシーニジンスキーの妹のもとでバレエを習ってたんだとか。

そのあたりも、まるでアステアとチャリシーでアテ書きしたような脚本。


とにかく、大勢のおとなたちがあつまってミュージカルを作るために「あーでもない、こーでもない」とやりあってる様子をながめているのは愉快でした。


ドリフの赤ちゃんコントの元ネタ?(^o^)


どうやらミュージカル(あるいはミュージカル映画)というのは自己言及性の強いジャンルらしくて、いわゆるバックステージ(舞台裏)物、つまり俳優や裏方である主人公たちが映画とか舞台劇を作る過程を描くお話というのがけっこう多いらしい。

この『バンド・ワゴン』でも、冒頭でエヴァ・ガードナーが本人の役でカメオ出演している。

じっさいにミュージカル映画のスターであるフレッド・アステアが、彼をおもわせるトニーというミュージカル映画スターを演じて、実在の有名女優であるエヴァ・ガードナー本人とからむ。

ここには複数のリアリティ・ラインが混在している。

僕がこれまでに観てきた数すくないMGMのミュージカル映画のひとつでジーン・ケリー主演の『雨に唄えば』も、サイレントからトーキーへの移行期を舞台にしたミュージカル映画のバックステージ物だった(『バンド・ワゴン』と『雨に唄えば』の脚本はどちらもベティ・コムデンアドルフ・グリーン)。

ようするに、僕は“ミュージカル”そのものが好きというよりは、映画や演劇の1ジャンルとしてのミュージカルという題材をあつかった映画に興味があるのだ。

それが「映画」であることをより意識させてくれるから。

よく「ミュージカルって、登場人物がいきなり歌いだしたり踊りだしたりするから入りこめない」という人がいて、その気持ちはやはりけっして昔からミュージカルになじみがあるわけではない僕にもよくわかるんですが、でもそれって「歌舞伎は男が女を演じてるから」「タカラヅカは女が男を演じてるから」「バレエはバレリーナがガニ股だから、男のダンサーがもっこりタイツだから」「クンフー映画はいつも拳銃を使わずに延々素手でたたかってるから」──入りこめない、というのとおなじで、それらはそもそもジャンルとしてのお約束なんだから、そこに抵抗があったら観るのは無理なんじゃねーの、とも思うのだ。

僕ですら、もうすでにミュージカルのお約束にはだいぶ慣れましたよ。

てゆーか、「バレエのもっこりタイツ」はともかく、ミュージカルのファンはいきなりはじまるその「歌」や「ダンス」こそが目当てで観にきてるんだし。

つまり、フィクショナルなものに「入りこめない」という人は、そのジャンルごとに存在する「約束事」にいちいち自分を合わせるのが苦手なんでしょう。

ふだん目に見えてる現実に近い世界観でないとイヤで、作り物っぽさに耐えられないのだ。

だから「リアルじゃない」という言い方を多用する傾向がある。

えらそうにいってるけど、僕もそうやってジャンルごとに器用に頭を切り替えることはどちらかといえば苦手で、だからたとえば「お約束」が多い日本製のマンガやアニメには最初からうけつけないものもけっこうある。

でも三次元であるミュージカル映画には、僕はそこまで抵抗感はありませんでした。

ちょうどフレッド・アステアジーン・ケリーのダンスがブルース・リージャッキー・チェンのアクションに通じるように、生身の人間がみせる体技には、理屈や意味を超えた感動がある。

音楽やダンスがただひたすら観るものに陶酔をあたえるように、ミュージカル映画にはプロのダンサーや歌手たちの芸を堪能する、それだけで満足感を得られる瞬間がある。


アステアとチャリシーが踊る“Girl Hunt”はマイケル・ジャクソンのプロモ映画『ムーンウォーカー』の“Smooth Criminal”を*1、またコートを着た謎の男の正体などは、ウォーレン・ベイティとマドンナが共演した『ディック・トレイシー』をおもわせる。

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現在でもさまざまな作品に引用されているんですね。

この『バンド・ワゴン』では、人々から忘れかけられていた往年のミュージカル・スターが仲間たちとともに作品を作り上げていく、その過程で仲たがいもするが、それを越えて一致団結、初演は大失敗で万事休すも心が通じあった仲間たちが協力しあって、ついにショウを成功にみちびくまでが描かれる。

ミュージカルへの愛を描いたミュージカル映画、なのだ。

そこに込められた舞台人たち、映画人たちの矜持、“ショウ”への愛に心打たれる。

また、これはフィクションとはいえ、プロフェッショナルである舞台人たちが作るショウの舞台裏がまるで高級レストランの厨房みたいに怒号飛び交う戦場で、なんとかお客様たちの前で上演できた、という体なのも意外と「リアル」なんではないかと。

先日、舞台の本番間近に病いで入院した天海祐希の代役として、宮沢りえが急遽登板して無事大任を果たしたというニュースを思いだしました。

きっと舞台裏ではかずかずのドラマがあったんでしょうね。


この『バンド・ワゴン』もまた、さまざまなトラブルに見舞われながらもなんとか“ショウ”を形にしていく「ものを創る人々」「表現する人々」の姿と“エンターテインメント”の世界のすばらしさを謳い上げた映画でした。


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*1:アステアは晩年にマイケルと交流があり、ムーンウォークを習ったりしていたんだそうな。すごい人!