映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

岩井俊二式

最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』(感想はこちら)の劇場鑑賞に合わせて、過去の作品などを例に挙げつつ岩井俊二監督作品についてほんのちょっと振り返ってみようと思います。

と言っても、そのために過去作は一切観返してないので、あくまでもおぼろげな記憶に基づく“印象論”であって、正確性についてはまったくあてになりません。ご了承くださいませ。


岩井俊二監督の映画は1995年の初長篇映画『Love Letter』を皮切りに、2004年の『花とアリス』まで、その間にも未見の作品はあるだろうけど、それでもなんとなく観続けてきました。

『Love Letter』 出演:柏原崇 加賀まりこ 范文雀 篠原勝之
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花とアリス』 出演:郭智博 相田翔子 広末涼子 木村多江
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もうあれから10年以上経つわけだけど。

岩井俊二って、僕にはウォン・カーウァイクエンティン・タランティーノなどと並んで90年代に人気を博した映画監督の一人という印象が強い。

もちろん、彼らは2000年代以降にも映画を撮っているけれど、世に出始めて脚光を浴びたあの時代を一応リアルタイムで知っている人間としては、やはり当時のあの持て囃されぶりはインパクトがあった。

岩井俊二の映画(特に『Love Letter』)はいまだに根強いファンがいるし僕も好きですが、中国や韓国でも人気が高いんだそうな。


公開当時、映画の中で流れる音楽が好きでサントラも買いました。

メロドラマの中で愛しあう恋人たちを引き離す障害には「病気」「事故」「不倫の恋」「身分の差」…中には「時間」なんてのもあるけれど、『Love Letter』では中山美穂演じるヒロインと彼女の亡き恋人、そして豊川悦司演じる彼女を想う男性の三角関係という、「めぞん一刻」パターン。

あなた夢のように死んでしまったの~♪と歌う沢田知可子の「会いたい」と同じ。

ダンナや彼氏からすると「勝手に殺すな」って感じだが、これはなかなか侮れない手だ。

死んだ人間は多少謎めいていて、あまり自己主張しない方がいい。

そんな永遠に不在の恋人からの卒業。

この実にベタな物語で観客をどう泣かすかが最大のポイントとなる。

雪の中での「お元気ですかぁ~」の連呼に泣けるか、シラケるか。

それに加えて、赤の他人同士でまったく別の場所に住んでいるのにまるで双子のように瓜二つのふたりの女性たち(どちらも中山美穂が演じている)がヒロインで、しかも片方はもう片方の元カレと同姓同名の同級生という、まぁ現実にはほぼありえない偶然だらけのシチュエーション。*1

岩井俊二の映画は少女漫画だと思う。僕は少女漫画を実際にほとんど読んだことがないから、勝手な想像ですが。

懐かしさと可笑しさと狂おしいまでの切なさをブレンドした“いつかどこかで見たような光景”と観客に思わせるテクニック。

時々リアルに見えて生々しさはない。

おそらく岩井作品の中でそれが一番うまくいっているのがこの作品じゃないだろうか。

ミポリンのヒロインぶりもステキだけど、彼女の少女時代を演じる酒井美紀の生真面目そうな硬質な演技がいい。


まったく中学生に見えない鈴木蘭々の不思議ちゃんぶりも、いかにもといった感じで。

そして、ここぞというところで流れるREMEDIOSの音楽。

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この映画はさまざまな「テクニック」を駆使して観る者を気持ちよくさせる。

ベタで甘アマな映画ではある。でもそれこそが魅力なのだ。

僕は最近の邦画のラヴストーリーを観ることはめったにないのでちゃんと検証できませんが、岩井俊二の手法は後進の監督たちに大いに影響を与えているはず。


ところで、今ではどこでも使われている手法に「手持ち風に微妙に揺れてるキャメラワーク」というのがあるけど、これを初めて観たのがこの『Love Letter』だった。

お墓参りのシーンで、特定の誰かの視線でもないし客観的な視点にしては妙に不安定な「変わった撮り方だな」と思った記憶がある。

もちろん「手持ち撮影」自体はそれよりずっと以前から様々な映画で使われてるんだけど、別にキャメラを手持ちにする必要もない、本来フィックスもしくはドリーで撮られるようなショットでの、まるで被写体を覗き見でもしてるようなキャメラの奇妙な揺れ具合に当時は違和感を持った。

死んだ彼氏の視点か?w

今じゃ洋の東西を問わずそこら中の映画やTVドラマ、CMで画面がユラめいてるから不思議でもなんでもないんだけど。

一見気持ちで撮って気の向くままに繋げたもののように見えるが、岩井監督は絵コンテをかなり入念に描くそうだから、あの“微妙に揺れるキャメラ”も最初から狙いではあったんだろう。

『Love Letter』の公開当時、評論家などから撮影や編集が「ナチュラル」であることを評価されて、逆に撮影方法で『スワロウテイル』にダメ出しされた時には、どちらも同じくすべて計算して撮影・編集していたことを語っている。

評論家なんて技術的なこと何もわかってないんだな、みたいに鼻で笑ってたっけ。

そういえば『Love Letter』を映画雑誌「映画芸術」がぶっ叩いていたのを覚えています。

海が映る空撮に対して「あれは手紙の視点か?」と揶揄気味に嘲笑していた。

だけど、空撮は必ず誰かの視点でなければならないルールなんてないし、別にいいじゃん。いけ好かない奴らだな、と思った(“手紙の視点”だったとしても構わないだろうし)。

確かに神戸と小樽の距離感がまったく出てなくて、どっちがどっちなのかよくわかんなかったりもしたけど。

だからいろいろ批判しようと思えばいくらでもできるだろうし、今初めてあの映画を観たら、はたして「好き」だと思えるかどうかはわかりません。

思春期に観たからこそ、それが甘酸っぱい想い出として思い入れの対象になっている可能性は高い。

岩井俊二監督はその後も松たか子主演の『四月物語』や蒼井優が出演した『リリイ・シュシュのすべて』なども撮っているけど、僕はそのフィルモグラフィの中でも特に『Love Letter』と『花とアリス』がお気に入りなので、仮に作り物めいてても自分は一つの「物語」として完成しているものが好きなんだろうなぁ、と思っています。

花とアリス』もまた、蒼井優が花に囲まれたデカい家に元Winkの母親と二人で暮らしているという*2、ファンタスティックな、というか見事に現実味のない設定の映画だったけど、おかげでダブル・ヒロインの蒼井優鈴木杏が気になるようになりました。

花とアリス』では「減るもんじゃないんで」と言いながらもパンツが絶対見えない蒼井優のバレエシーンがお見事でした。
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『花と~』を観て気になったのは、鈴木杏に想いを寄せられる男子生徒のキャラクター造形。『Love Letter』もそうだったけど、無愛想で何考えてるのかわからないちょっとボ~ッとした男子がいて、女の子の方がだんだん意識しだしてそのうちに、みたいな展開。

この二本の作品だけでは断定できないけど、それでもこういうのが岩井監督のある種、理想の男子像なのかな、などと思ったりした。

男の子の方から何もアクションを起こさない(少なくとも映画の中では)ということでは実に都合よく描かれてはいるんだけど。

最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、似たような感じの男性がマザコンで無神経な夫として描かれてましたが。

こういう映画を観るたびに、もういい歳こいたオッサン(岩井さん以外の他の監督さんたちも含めて)が、同世代の大人の男女ではなく中学生や高校生に託して描くものってなんなのかと考える。

中高生相手の商売だから、と言われたらそれまでだけど。

ひと頃は「純愛」という単語がやたら使いまくられてなんだか不幸のつるべ打ちみたいな映画が連発されたり、ここ最近では「壁ドン」に代表される作り物めいた“強引男子”に女子が萌える類いのクソみたいな邦画の数々が溢れかえってて完璧にスルーしてきたんだけど、でもそれって別に題材に問題があるわけじゃなくて、よーするに描き方次第なんだよなー、とか思いながら。

男性の観客が観ても、あぁ、こういう迫り方されたら女性は確かにクラッとくるだろうなぁ、と想像できるような描き方は可能でしょうから。

ダメなのは単純に作り手のワンパターンぶりと観る側の幼稚さのせいであって。

少女漫画的だからダメなんじゃなくて、「こういうシチュエーション作っときゃウケるんだろ」みたいに観客を舐めた作りの映画がダメなのだ。

僕が最近の日本のアニメが嫌いな理由に似ている。

岩井監督は庵野秀明との対談本の中で、なぜ子どもや中高生を自然体に撮れるのか、という疑問に「特別な演出はしていない」というようなことを言ってるけど、興味深かったのは「演技未経験の完全な素人の子よりも、児童劇団などで演技の訓練を受けてきた子役(当然その中でもトップクラスに限られるが)の方がやはり飲み込みが早い」という話。

いかにも大人ウケしそうなわかりやすい演技をする子役に「普段そんな喋り方しないだろ」と言うと、納得して段々早口で喋りだすという。なるほどなぁ、と。

あと、岩井俊二市川崑をリスペクトしてる、っていうのが意外だったんだけど、照明、撮影、編集等で影響を受けてると言われると、これまたちょっと納得、と。

もっとも市川崑作品の中では沢口靖子主演の超絶日本昔話『竹取物語』が一番好きで、『天河伝説殺人事件』で岸惠子が女学生姿で出てきて卒倒しそうに(嬉しくてではない)なったりしてた小生に、わかったように市川崑を語る資格などビタ一文ないんですが(それ言ったら岩井俊二に対してだってそうだけど)。


2009年に観た『ハルフウェイ』は、監督は脚本家の北川悦吏子で、僕はてっきり岩井俊二監督は素人監督にちょっと手を貸した程度の参加だと思い込んでいたんですが、どうもインタヴュー読むと結構ガッツリかかわってたようなんだよね。

岩井俊二監督インタヴュー


北川悦吏子さんはその後も中山美穂主演の映画を撮ってるけど、それも岩井監督はしっかりとサポートしている。

僕はその映画は観ていませんが、わりと酷評されてましたな。

『ハルフウェイ』は僕は劇場で観てキツかった記憶があります。もう内容はよく覚えていないけど、「HALFWAY」という英単語もまともに読めないような女子高生がカレシと同じ有名大学を目指す、みたいななんか心底ナメきった話で、観てる間は軽く拷問受けてる気分でした。

『ハルフウェイ』 出演:溝端淳平 成宮寛貴 白石美帆 大沢たかお
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北乃きいダルビッシュみたいな顔したイケメン君の岡田将生がコクるのコクらないの、つき合ったら今度はカレシが東京行くの行かないのと延々やってる。

観てるこっちは北乃きい仲里依紗のスカートの中が見えるか見えないか気になったりしてたけど。

アドリブ一発撮りっぽい演出、ドキュメンタリー風のラフな編集、そしてヒーリングミュージックみたいなBGM。

なんとなく、まぁお馴染みな感じの。

この「ストーリーがとりたてて劇的なわけでもない映画」をジッと見入らせてしまう演出・撮影・編集方法に一時期ハマッてたことがあって(『Love Letter』はわりと起伏のある物語だったけど)、当時は「自然であざとくない、こーゆー映画が俺は好きなんだ」とか思ってたのに、今回はなんかもう辛ェのなんの。

美人の先生といえばこのヒト、みたいな白石美帆とか、やたら物分かりがよさげな大沢たかおの教師とか、別にいいんだけど、とにかく劇的どころかストーリーらしいものがないんで完全に置いてけぼり食らってしまった。

勝手なことばっか言ってハシャいだりスネたりしてるヒロインが北乃きいじゃなかったら、思いっきりローリングソバット食らわしてやりたくなったほど。

岩井俊二監督は、ひと頃のようにメディアがこぞって持ち上げることもなくなって「好きな人、観たい人が観ればいい映画」を撮る監督さん、というポジションに落ち着いたような感じなんで、だからそれをわかってて観る以上、ムカつこうがヘコもうがそれはこちらの責任なんですが。

やっぱり僕はちゃんと物語のある『Love Letter』や『花とアリス』みたいなのが好きだなぁ。

って、『ハルフウェイ』の監督は北川さんなんだけれども。

題名の「ハルフウェイ」の意味がわかるシーンだけが、ちょっとよかったかな。

でもちょうどジブリの『ゲド戦記』がただの「宮崎駿モドキ」だったのと同じで、どんなに表面的な手法を真似たところでそれは「岩井俊二モドキ」にしかならなくて、シナリオなどあってないような状態の代物ではひたすら退屈でしかない。

岩井俊二は一人で充分ですよ。わかってくださいよ。


最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』は今をときめく黒木華主演だしミュージシャンのCoccoも出演しているので、見ごたえはあったし嫌いじゃないですが、不満としては音楽が全篇ほとんどクラシックミュージックのみだったこと。

まるでイージーリスニングのCDから抜き出してきたような選曲で、僕は『Love Letter』や『花とアリス』の劇中で流れるオリジナル曲が好きだったから、そのあたりは大いに物足りなかった。

それでも岩井俊二の初期の作品って僕の青春時代と重なるので、その香りがする最新作もなんだか懐かしくて。

次回作はいつになるのかわからないけれど、それまでに過去の作品を観直しておこうかな。


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*1:もちろん、二人のヒロインが互いに似ているのには理由があるのだが。

*2:追記:すみません、花に囲まれた家に住んでるのは鈴木杏さん演じる“花”でした。