映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『トキワ荘の青春 デジタルリマスター版』

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市川準監督、本木雅弘、大森嘉之、鈴木卓爾阿部サダヲ、さとうこうじ、古田新太、翁華栄、生瀬勝久、安部聡子、土屋良太松梨智子、柳ユーレイ、広岡由里子桃井かおり、きたろう、原一男内田春菊時任三郎北村想ほか出演の『トキワ荘の青春 デジタルリマスター版』。1996年作品。

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1950年代。東京のアパート「トキワ荘」にやがて人気作家となっていく若き漫画家たちが集う。その中のリーダー的な存在である寺田ヒロオ本木雅弘)の目を通して見た戦後から高度成長期へと変わっていく世の中と、そこで夢を追う者たちの姿を描く。


実は、1996年の初公開時に映画館で観たんだったか、それともレンタルヴィデオで観たのかもはや覚えていないんですが、あの当時に観たことだけは記憶しています。

その後もBSとかで一度ぐらい観たかもしれないけど、やっぱりよく覚えていない。

かようにこの作品に対しては強い思い入れもなく、結局その後、市川準監督の作品を観ることはありませんでした。

同じ監督のその前の『東京兄妹』(1995)は映画館で観ているし、90年代に映画を意識的に観だすようになってから市川監督作品のタイトルはしばしば目にしていて、あの当時の思い出の中でそれらのタイトルがちらちらとフラッシュバックすることもあるんですが。

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『東京兄妹』も『トキワ荘の青春』も淡々とした静謐な映画で、それゆえ僕の中に強烈な印象を残すことはなかったので、監督が亡くなって10年以上経つ今でもその作品を愛するかたがたが結構いらっしゃることがちょっと不思議ではあった。

ただ、ここのところ90年代にリアルタイムで観た映画たちがリヴァイヴァル上映されることが増えてきたし、デジタルリマスターで再上映されることを知って懐かしさから、また観てみたいな、と思って。

上映前に主演の本木雅弘さんのコメントが流れましたが、それにしても25年経ってもあの当時のイメージをキープされているのはスゴいな、と思いましたね。観ているこちらは外見が激変してるのに。

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本木さんがコメントの中で、阪神淡路大震災オウム事件後の96年当時の市川監督の言葉を引用して「人を愛おしく思いにくくなっている時代」について語られていて、なるほど、なぜ今「トキワ荘の青春」なのだろう、という疑問への一つの回答をもらったな、と。コロナ禍の現在、“人を愛おしく思いにくくなっている”からこそ、スクリーンに映し出される、かつてはあった若者たちがひしめき合う梁山泊的な「トキワ荘」での青春の日々がこれまで以上に愛おしく感じられるのだ。

僕は今では漫画を読むことはほとんどなくなってるし、もともと熱心な漫画少年というわけでもなかったけど、子どもの頃は手塚治虫はもちろん、藤子不二雄作品はおなじみだったし、石森章太郎赤塚不二夫も、つのだじろうもファンというわけではなくても作品を読んだことはあって漫画家たちの名前と有名な「トキワ荘」の存在は知っていた。

藤子不二雄A安孫子素雄)の漫画を原作にして80年代にNHKでやっていた銀河テレビ小説まんが道 青春編」も観ていましたし。

だから、漫画家たちの笑えて泣けるドラマを期待していたんですが、映画『トキワ荘の青春』って、起承転結のあるエピソードがいくつも紡がれていくような「物語」形式ではなくて、特にオチもない日常の一コマ一コマが短く点描される作風だったし、“テラさん”こと寺田ヒロオさんについては、先ほどのTVドラマ版で河島英五さんが演じていた男臭くて熱い先輩、というイメージがあったので、この『トキワ荘』での物静かでどこか憂いを帯びたモックンには違和感があったんですよね。

公開当時になんとなくあまり印象に残らなかった、というのはそういう理由もある。

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個人的な好みでいえば、漫画に打ち込む若者たちの熱き青春ドラマの方を観たいんだよなぁ、とは思うんですが、もともと昭和のある時代の過ぎ去った日々を愛おしく振り返るようなノスタルジックな作りだったこの映画に、さらに25年分の月日の積み重なりが加わって、初めてこの映画を観た当時よりもはるかに心に沁みたのでした。

正直、あまりに静かなんで、ちょくちょく眠気がしてきて目の焦点が合わなくなったりもしたんですが^_^; 

赤塚不二夫を演じる大森嘉之さんは『瀬戸内少年野球団』(1984)の“バラケツ”役や『青春デンデケデケデケ』(1992)の高校生坊主役などでヤンチャなキャラを演じていたけれど、この映画では一転、冴えなくて奥手気味の若者役(でも将来は“これでいいのだ”のあの人気漫画家になる)なのが新鮮でした。

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出番はわずかながら手塚治虫役の北村想さんは劇作家で、僕は高校時代に彼の戯曲を読んだりお芝居も観ていたので、ちょっとユニークなキャスティングが面白かったですね。

学童社の編集者役の俳優さんが映画監督の原一男さんに似てるなぁ、と思ったら、ご本人だったw 原監督、演技達者ですね(^o^)

あと、テラさんの兄を時任三郎さんが演じてたけど、時任さんと本木さんって二人とも90年代の初めにリゲインのCMで歌唄ってたな。90年代っぽいネタですが(笑)

この映画が公開された90年代には僕は関西に住んでいたので、演劇の世界で古田新太さんや生瀬勝久さんはおなじみだったし、安孫子さんを演じた鈴木卓爾さんは矢口史靖監督と組んで撮っていたワンキャメ・ワンカット撮影の自主映画『ワンピース』ですでに知っていたから(鈴木卓爾さんは、のちに映画版の『ゲゲゲの女房*1を監督して、水木しげるを描いてました)、これらの出演者の皆さんにもどこか共感が湧いたし、トキワ荘に短期間入居して石森章太郎赤塚不二夫らと合作漫画を描いていた漫画家・水野英子を演じる松梨智子さんは、2000年代に彼女が監督した自主映画の上映会を観に中野に行ったりした(作品のDVDも持ってるw)ことなどを思い出して、しばしノスタルジーに浸った(笑)  …そうかぁ、もう10年前に引退されたんだなぁ。

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松梨さんが演じる水野さんのキャラはユーモアもあってとてもよかったから、もうちょっと彼女のエピソードを観たかった。

この映画に登場する漫画家たちは、それぞれが主人公として物語が作れるような人たちなんだし。

劇中で時々舞台となる1950年代の写真が挿入されて当時の時代背景を偲ばせはするんだけど、たとえば「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズみたいなメジャー系の大作じゃないから、トキワ荘周辺の風景と、あとは草野球をする河川敷や出版社の建物の中ぐらいしか映らなくて、だから映画を観ていても実際今からどれぐらい昔の話なんだか実感が湧かなかった。

藤子不二雄のお二人がトキワ荘にやってきて手塚治虫が引っ越していってからテラさんがトキワ荘を去るまでが、わずか3年間、1954 (昭和29年)~57年のことだったんですね。

初代ゴジラや『七人の侍』が公開されてた頃だよ、めっちゃ昔じゃん^_^; 

漫画家の人たちって10代でプロデビューしてる人ばかりだからとてつもなくキャリアが長いイメージがあるんだけど(事実、安孫子さんもそうだし、さいとう・たかをさんのように恐るべき長さのキャリアを誇るレジェンドもいらっしゃいますが)、でも若くして物故されてるかたも少なくなくて、それだけ消耗して身体を酷使する仕事なんだな、ってつくづく思いますね。

手塚さんも石ノ森さんも藤本(藤子・F・不二雄)さんも60代の初めで亡くなってるんだもんなぁ。 

テラさんこと寺田ヒロオさんもやはり61歳の若さで他界している。

この映画は寺田ヒロオさんが92年に亡くなられたあとに撮られた作品だから、市川監督は「まんが道」で描かれたような頼りがいのあるアニキではなくて、やがて燃え尽きて仲間たちとも交流を絶った、哀しみをまとったような人物としてテラさんを描こうとしたんだろうか。本木雅弘さんの起用は、そういうことだったのかな。

1950年代の終わり頃はちょうど「劇画」がブームになりだす時期で、テラさんが描く牧歌的な絵柄で善良な登場人物ばかり出てくる少年漫画はもはやウケなくなっていた。

トキワ荘で何人もの漫画家の卵たちに慕われ、彼のおかげで漫画を描き続けることができた者たちがいた一方で、テラさん自身は時流から外れ、やがて筆を折ることになる。

実に皮肉だし、悲劇的でもある。映画では描かれない晩年のエピソードなどを知ると、本当に切なくなる。 

あいにく僕は寺田ヒロオさんの描いた漫画をちゃんと読んだことはないんですが、でも映画の中で映し出される彼の漫画のキャラクターはとても可愛らしくて、きっと現在ならイラストとかキャラクターグッズなどで多くの人たちに受け入れられると思う。

テラさんは時代遅れなんじゃなくて、「早過ぎた」んじゃないだろうか。

かつて「漫画」のために同時代の共通の思い出さえも犠牲にして(東京タワーが建った時も、東京オリンピックの時にも休まず仕事を続けていた、と確かさいとう・たかをさんがTVで語っていた)紙とペンで数々の作品を生み出し続けた人々がいた。 

残された漫画たちはある作品は連綿と読み継がれ、ある作品は忘れられて、やがて発掘されて再び読者を得る。

僕がその存在を知った時にはすでにこの世には残っていなかった「トキワ荘」(1982年解体)は、漫画界の伝説となって語り継がれ、こうして映画の中にその面影を残していく。

時の移ろいは残酷でもあるが、時を経るごとにその愛おしさが増していくものもある。

この映画は、まさしくそんな1本ではないだろうか。


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*1:2010年作品。同年NHKで放送された朝ドラ版とは別の企画で出演者やスタッフも異なる。