映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『小悪魔はなぜモテる?!』


ウィル・グラック監督の『小悪魔はなぜモテる?!』。

主演は『ゾンビランド』(感想はこちら)や『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(感想はこちら)『アメイジング・スパイダーマン』(感想はこちら)などのエマ・ストーン。2010年作品。

日本では劇場未公開。

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高校生のオリーヴ(エマ・ストーン)は、友人のリーからのキャンプの誘いをことわるために架空の彼氏をでっち上げる。しかしリーはオリーヴがその彼氏と一夜をともにしたと早合点。話を合わせているうちにいつのまにかオリーヴは「尻軽女」として学校中で噂になっていた。


原題は“Easy A”。

「イージーA」というのは、成績の“A”をとりやすい授業のことと「アバズレ」という意味も含まれているそうで。

つまり、ほんとは一度もエッチなんかしてないのにみんなから「誰とでも寝る女」と思われちゃった女子高生のお話。

すでに観た人たちにとても評判がいいので期待していました。

で、レンタル店で見かけたんで借りてきた。

以下、ネタバレあり。


エマ・ストーンは現在24歳だからこの映画に出たときには21~22ぐらいだったんだろうけど、アメリカの高校生ってどんなだかわかんないので(別に制服着てるわけじゃないし)こういうもんかな、と。

2007年の『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(感想はこちら)でも女子高生を演じていて、基本的にはあのときとかわらない(『アメスパ』でも女子高生役だったしな)。

おっきな瞳で全体的に大づくりな顔(年取ったら木の実ナナみたいになりそう。ってゆーか、いまでもじゅうぶん似てたりするが)、そしてハスキーヴォイス。

一見すると軽そうなギャルっぽくも見えるんだけど、遊んでる女の子役よりもじつは真面目で頭がいい役が多い女優さん。

この作品の主人公も勉強家でウィットに富んだ切り返しや皮肉が巧い女の子。


ただ、どっからどう見ても魅力的なこのエマ・ストーンが演じるオリーヴは、映画のなかでは男の子たちからは見向きもされない子ということになっている。

正直、この時点で説得力がゼロだったんだが。クラスにこんな子いたらイケメン野郎どもがぜったいほっとかないって。

また彼女の両親(スタンリー・トゥッチパトリシア・クラークソン)はなんだかよくわからない人たちで、なにかと「大丈夫か?」「相談したいことがあればなんでもいいなさい」と世話を焼くんだけど、実質的にはまったく役に立っていない。

下ネタ連呼とか、ことあるごとに娘に擦り寄ってくるあんな親、気持ち悪い。


…と、なんだかさっきから険のある書き方をしているように、結論からいうと僕はこの映画はダメでした。

かなり疑問が残った。


映画にはナサニエル・ホーソーンの小説「緋文字」が引用されている。

オリーヴのかよっている高校の授業(教師役は『スパイダーマン3』でサンドマン役だったトーマス・ヘイデン・チャーチ)で「緋文字」が取り上げられていて、劇中でデミ・ムーア主演の映画版もネタにされている。

例のごとく僕は読んでないけど、17世紀のアメリカで姦通の罪に問われた女性の物語らしい。

主人公ヘスターは見せしめに服に姦通(Adultery)を意味する「A」という緋色の刺繍を入れられる。

そのエピソードがやがてオリーヴにかかわってくる。


オリーヴは彼氏もいないしまだ処女なのだが、成り行き上「架空の彼氏」とヤッたことになってて、それを聴いたキリスト教原理主義者のクラスメイト、マリアンヌ(アマンダ・バインズ)が学校中にいいふらしたもんだから噂がさらに加速していく。

それを面白おかしく描いている…つもりなのだろうが(そして褒めてる多くの人たちにもそう感じられたんだろうけど)、これが僕にはまったく可笑しくなかったのだった。

いや、あいかわらずくるくる変わる表情でエマ・ストーンが演じるオリーヴはたしかにキュートなのだが(唄いながらシャンプーしたりとか)、なんというかストーリー展開や登場人物たちの言動にまったく納得いかなくて。

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オリーヴは同級生のリー(アリソン・ミシェルカ)といつもツルんでいるのだが、こいつがまた友だち甲斐のない奴で、見ていてほんとにムカッ腹が立ってくる。

基本的に自分のことしか考えてなくて人の話は聞かない。

というより、この映画に出てくる女の子たちはみんなそんな感じ。

しかし、私見だが友だちの質が悪いのは本人にも責任がある。

いい奴で憎めないんだけど欠点もある、というんではなくて、リーはいっしょにいても楽しくないタイプの人間で、だからオリーヴはウソまでついて彼女に誘われたパーティをことわるのだ。

なのになぜかいつもいっしょに行動している。

日本でも女の子たちが別にそれほど親しくもないのにいつも群れてる、というのはよくあるし、僕だってそういうのは学校生活で身におぼえはある。

でも、このオリーヴという少女は普段からわりと思ったことをズバズバいう子で、友だちをうしなって独りぼっちになることを怖れているようには見えないのだ。


やはりエマ・ストーンがあまりに貫禄があって正々堂々としすぎているので、彼女が次第に(というか急に)学校中でみんなから「えんがちょ」状態になるというのが飲み込みづらい。

ここは、たとえばオリーヴはもともとイケイケな子だったのが、なにかのはずみで学校中から爪弾きになるといった展開のほうがよかったんではないか。

だって、彼女がどうしても“処女”でなければならない理由ってあるか?なぜそこにこだわる。

高校生でセックスの経験があったって、イコール「アバズレ」ということにはならない、ってことを描いてこそ説得力がうまれるんじゃないだろうか。


さて、オリーヴにはブランドンという友人がいて、彼はゲイである。

ある日、ブランドンはオリーヴに「自分とセックスしたふりをしてほしい」と頼む。

学校でのイジメがヒド過ぎて耐えられず、「女の子とヤッた」ということになればそれから抜け出せるというのだ。

あきれてことわるオリーヴだったが、けっきょくはしかたなく承諾する。

同級生の家でのパーティで部屋にふたりでこもって大声あげたり物音たてたりして「ヤッてるふり」をする(そもそも“仲間はずれ”にされてるはずの人間がなぜパーティに呼ばれるのかよくわからないが)。

作戦は成功。ほかの男たちのブランドンを見る目がかわる。

するとその話をきいた別のイケてない男たちが、オリーヴにおなじように「自分とヤッたことにしてほしい」と頼みにくる。

人のいい彼女は商品券などと引き換えに「ヤッたことに」してやる。

これがつづいて、最初に書いたような事態になったというわけ。

まぁ、当たり前の結果なのだが、これのどこが可笑しいのだろうか。

僕は不愉快な気分になるだけでちっとも面白くなかった。

とにかく出てくる奴らがみんなつまらん輩ばかりなのだ。

こんな映画観てたら、それこそ高校で銃でも乱射したくなってもしかたがないぐらいに。

それならそれでもかまわないし、主人公がそんなまわりの奴らと全面対決して勝利をおさめてカタルシスを味わわせてくれればいい。

あいにくそんな展開にはなりませんが。


居直ったオリーヴは「緋文字」のヘスターに自分をなぞらえて、服に赤い「A」の字を縫い付けてわざときわどい格好で登校する。

でもそれまでの彼女が特別地味には見えなかったので、変身したあととのギャップがあまり感じられないのだ。

最初から最後まで主人公は魅力的なんである。

これは巧くないんではないか。


『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』にもエマ・ストーンは主役、もしくは準主役級のキャラクターで出演しているが、彼女があれだけ引き立った陰には、じつは憎まれ役だったブライス・ダラス・ハワードの存在があった。

しかし、この『Easy A』にはオリーヴと対等に渡り合える相手がいないのだ。

友人のリーも、キリスト教原理主義者のマリアンヌも、そしてオリーヴの味方なのかと思ってたら違ってたカウンセラー(リサ・クドロー)も、女性たちは見た目もキャラ的にも誰もオリーヴにかなわない。

最初からオリーヴは犠牲者で、母親を除くほかの女性キャラたちはみんなイヤな奴らとして描かれている。

これはどうもフェアではない。

ここには主人公自身が自分の欠点に気づいて変化したり、あるいは観客が彼女のなかになにかを発見したりするような展開がないし、ほかの女性キャラは『ヘルプ』でのブライス・ダラス・ハワードみたいな憎まれ役としての魅力に欠けるので、オリーヴが最終的に彼女たちを見返してもそこにカタルシスはない。

だからラストの彼女のダンスにも「一発逆転!」という感動もなかった。

女の子だけじゃなくて、この映画に出てくる男どももみんなクズばかり。

ブランドンはイジメから逃れるためにオリーヴをスケープゴートにするし、ときどき出てきてはおいしいとこもっていくトッドはなぜかオリーヴに惚れられるが、彼女が孤軍奮闘してるときにはただ見てるかどっか姿消してる。

トーマス・ヘイデン・チャーチ演じる教師だって、生徒の前で別の生徒の悪口いってたり、オリーヴになにかしてやるわけでもなくなんのために出てきたんだかわからない。

校長役のマルコム・マクダウェルが言葉遣いがどうのこうのとオリーヴに説教するが、あんたは『時計じかけのオレンジ』(感想はこちら)でそれどころじゃない悪事しでかしてただろ!

けっきょく残るのは、「アメリカの学校って最悪だな」というウンザリした気持ちだけ。

これはかつて『スーパーバッド』(感想はこちら)や『グレッグのダメ日記』(感想はこちら)、『ソーシャル・ネットワーク』(感想はこちら)を観たときにも感じたことだったので、これだけひどく描かれるということはそこそこリアルな実態なんだろう。

あぁ、日本に生まれてよかった。

映画観てそんな感想しか抱けないなんて情けないけど。


そんなわけで、かなりガッカリしました。

期待してただけに。

この映画は『ブレックファスト・クラブ』や『フェリスはある朝突然に』のジョン・ヒューズ監督作品にオマージュが捧げられているようだけど、ヒューズの作品ってこんなに主人公に甘かったっけ(まぁ、そもそもこの監督の作品は個人的に好みではないのだが)?

『フェリスはある朝突然に』(1986) 主演:マシュー・ブロデリック
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これ面白かった、好き!って人には悪いけど(人気作ですから多いでしょうが)、僕はうけつけませんでした。とても残念。

一見ギャル風だけど実は頭が良くて身持ちも堅い、というキャラが得意なのはもうよくわかったから、エマ・ストーンは一度、ブライス・ダラス・ハワードのように憎まれ役とかおもいっきり悪女を演じてみたらどうだろうか。

似合うと思うんだけどな。


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