『ボス その男シヴァージ』(感想はこちら)のシャンカール監督、“スーパースター”ラジニカーント、アイシュワリヤー・ラーイ出演の『ロボット』。2010年作品。
科学者のバシーガラン[バシー]博士(ラジニカーント)は、自分そっくりのロボット「チッティ」(ラジニカーントの1人2役)を作る。ロボット作りに没頭するあまりほったらかしにされた恋人のサナ(アイシュワリヤー・ラーイ)はバシーと別れようとするが、彼の研究成果であるチッティの性能をみてコロッと心変わり。やがてバシーと無事結婚式を挙げることになるが、自我に目覚めたチッティはサナに横恋慕して暴走をはじめる。
何ヵ月か前に最寄りの映画館で公開されてたのを観られなくて、ようやくDVDでの鑑賞。
ただ、劇場ではその後、最初の公開ヴァージョンよりも40分長い完全版が公開されてDVD化もされたけど、どうやらレンタルされてるのは最初の一般公開版だけらしく、僕が今回観たのもそれ。
完全版予告
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完全版がどうだったのか気になるし観られないのは残念だけど(さすがに買ってまで確認する金銭的余裕はないので…)、ともかく自分が観たヴァージョンの感想を書きます。
なお、文中におもにインドのボンベイ(ムンバイ)で作られる“ボリウッド映画”への揶揄めいた言い回しがあったりしますが(って『ロボット』が撮られたのはムンバイじゃないんだそうですが…)、ボリウッド映画になじみがない人間の率直な感想としてあえて書いています。
別にインドの映画を見下しているのではなくて、それらはインド映画にかぎらず日本の、特にメジャー系の娯楽映画についてもいえることだと思うので。
さて、ラジニカーント主演映画を観るのは、僕はこれが2度目。
日本で“マサラ・ムーヴィー”が話題になるきっかけとなった『ムトゥ 踊るマハラジャ』(感想はこちら)を10年以上前に劇場で観ました。
『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995) 日本公開98年 監督:
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166分という長尺だったけど、映画館は笑いにつつまれてアクションは思いのほか激しく、はじめて観たインド映画のダンスシーンは圧巻でした。
なによりも主演が口ヒゲの濃ゆい顔したオッサンというのが^_^;
それを“スーパースター”といい張るおもいきりのよさ(まぁ、日本だって昔は恰幅のいい二重アゴの中年スターが時代劇の主役を務めてたりしたんだが)。
大人数による目にもあざやかなダンスとアクション、そして摩訶不思議なモンタージュ。
映画館で観て以来観なおしてないんで内容はほとんどおぼえてないけど、ラジニカーントがキメキメでタオルをヌンチャク代わりに敵をガンガンぶっ飛ばし、踊っていた。
どうしても歌のサビの部分が空耳で「オダギリ、マッパデ、ラリラ~リ♪」と聴こえてしまう(オダギリジョーさんと全国の小田切さんゴメンナサイ^_^;)w
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観終わったあとは、「たしかに彼は“スーパースター”だ」と納得したのでした。
それでもその後、劇場公開されたりヴィデオやDVDになった彼のほかの作品を観ることはなかった。
ちなみにラジニカーントは現在60代で、素顔の彼はけっこう豪快にハゲ散らかしたどちらかといえば爺さんに近い風貌の人である(夢がこわれるといけないので画像は貼りませんが)。
それがヅラかぶって化粧すると“スーパースター”に大変身するんだから不思議。
今回も彼は青年科学者という役どころだけど、おそらくじっさいには彼の父親役の俳優とそんなに年は違わないはず。
ラジニはバシー博士と彼が作ったロボット・チッティの2役を演じているんだけど、特にこのチッティがなんともイイ味を出している。
以下、ネタバレあり。
コメディなのかと思ってたら意外と泣かせる話なのだった。
これはつまり、創造主である科学者に作られたフランケンシュタインの怪物の物語である。
ロボットは「感情」をもって、主人の結婚相手に恋をする。
恋したロボットは、彼を軍隊で使おうとする主人に反抗して、怒った主人に破壊されて捨てられる。
しかし、そのロボットを利用しようとしていた悪者によって復活、自分の欲望に忠実に行動するようになる。
そして自分を大量に複製して町なかで大暴れ。
…ってなお話。
物語やヴィジュアル面でこれまでハリウッドで作られてきた映画のさまざまなネタが大量にぶちこまれていて、それらをひとつひとつ挙げていくだけでも楽しい。
『ターミネーター』『マスク』『アンドリューNDR114』『アイ,ロボット』『マトリックス・リローデッド』『ロボコップ』etc.。
パクリまくり、ともいえるけど、それらのネタは映画のなかでちゃんと消化されているので、どっかの国の映画のように単なる表面的な「猿まね」に終わっていないし、観ていて不快感もない。
でもダンスシーンが期待してたほどなかったなぁ、と思ってたらどうやら完全版にはストーリーの本筋とはなんの関係もないペルーのマチュピチュにまでロケに行って撮った場面をはじめ、もっとふんだんにダンスシーンがあるようなので、やはり完全版を観ないとこの作品の真価は問えないんだろうなぁ。
ラジニの映画の楽しさはダンスシーンにこそあると思うので、ストーリーを理解させるのに必要最低限の長さに短縮されてしまっては、そりゃ面白さも半減する。
いつかレンタルでも出してくれないかな。
ようするに、ボリウッド映画というのは「もういいよ」ってお腹いっぱいになるぐらいいろんな娯楽要素をぶちこんでようやくその面白さが際立つのだ。
だから僕が観たヴァージョンは最大の見どころでもあるダンスシーンが大幅にカットされたために、ハリウッド製の最新作とはくらべるべくもないクオリティのCGを多用したVFXばかりが目立って(といってもVFXを担当したのは故スタン・ウィンストン主宰のアメリカの工房なのだが)、余計に全体的に安っぽさが強調されてしまった感はある。
あと、Amazonのレヴューによると『ロボット』のオリジナル音声はタミル語だけど、一般公開版と完全版ともにインド以外で公開されたのはヒンディー語の吹替版なんだそうな。
つまり僕が観たヴァージョンのラジニの声は別の人の吹き替えだということ。
ちょうど香港映画がアフレコされてた時代のジャッキー・チェンの映画での彼の声が、ジャッキー本人ではなくて別人だったような感じか。
『ムトゥ』のときの歌声と声が違うんで気になったんだよな。吹き替えなのは口もとを見てればわかるし。
インド映画ではよくあることなんでしょうか。
ストーリーについてはこまかくツッコミ入れててもキリがないので適当に印象に残ったところを挙げていきますが、まずは、チッティに火事場から全裸で助け出されて恥ずかしがってその場から逃げだした若い女性が車に轢かれて死ぬという、いろんな意味で衝撃的なシーン(女性の身体にはモザイクがかかっていた。でもあれはみるからになにか着てたけどな)。
映画館でほかのお客さんがどんな反応だったのか知りたい。
いまにも焼け死ぬ、っていうときに「見ないで~(ノДT)」とか、インドの女性の恥じらいの基準がわからん(;^_^A
インドには「カーマスートラ」というエロい経典もあるじゃないか。
ハダカがなんぼのもんじゃ~い!!
あと、そのあとの妊婦さんの出産シーンもなかなかインパクトがあった。
あれは感動的なシーンなんだろうけど、胎内を映したモニターの赤ちゃんがもろCGで、しかもなんか日本製のアニメみたいな絵柄だったんで困った。
なんか観ていてしばしばこの映画のなかのリアリティのラインがどこなのか戸惑うんである。
こういう洗練されてないゴッタ煮っぽい感覚はかつての日本映画にもあったし、現在だってインディーズ系の作品などにはみられる。
ちょっと中国映画『超強台風』のときにも感じた“天然”の可笑しさもある。
それと、この手の映画って、笑える作品だと思って観てたら予期せぬ残酷な場面が出てきたりして意表を突かれることを思いだした。
今回も暴走しはじめたチッティは、自分を救ったはずのボラ博士の頭を叩き潰す。
そして通行人の額に銃弾を撃ちこんで殺す。
警官なんて大量に射殺してる。
コメディにしてはあきらかに「やりすぎ」。
なんかお笑いもエロもヴァイオレンスもいっしょくたに映しだされていた、かつての日本のお茶の間のようでもある。
そしておそらく観た誰もがまずツッコむであろう、“蚊”のシーン。
バシーの婚約者であるサナに恋したチッティは、彼女にキスしてもらうために、彼女の顔に止まっていた蚊を追いかける。
このなくてもいっこうにかまわないであろう場面に大金をかけてCG製の蚊を作るという姿勢は、ちょっとチャウ・シンチーの映画に通ずるものがあるが(もちろんチャウ・シンチーの場合はわざとだけど)。
そういえば、チャウ・シンチーといえば自作の映画にかならずブルース・リーへのオマージュを入れることで有名だけど、ラジニ主演の『ムトゥ』にも今回の『ロボット』にもやはりリーへのオマージュ・シーンがある。
インドではブルース・リーがポピュラーだから、ってことなのかもしれないけど、これまたなにか通ずるものがあるのかしらん。
バシーに破棄されたものの、ボラによって修理され彼のチップで悪のロボット“ヴァージョン2.0”に生まれ変わったチッティは、バシーの結婚式に乗りこんで強引にサナを奪い去る。
この悪役に転じたラジニカーントがイイのだ。もともと濃い悪役ヅラだから(^◇^)
なんか「黒いジョー・ペシ」って感じの面構え。
「ワーッハッハッ」と笑い声もさまになってて。
「マトリックス」シリーズのエージェント・スミスのように無数に増殖したラジニ=チッティが暴れまくる。
ここはなにげにカッコイイ。
後半、CGによるアクション場面が多くなると若干興奮も冷めるけど、ラジニの悪役はシュワちゃんのターミネーターと並ぶほどにキャラが立ってる。
その「中の人」は60過ぎたオッサンなんですが。
んで、ヒゲを剃りヅラを装着してチッティに変装したバシーの活躍でサナは救出されて、チップをはずされたチッティは正気にもどり一件落着。
…って、すげぇ人死んでますけど。
一連の騒動の責任を問われたバシーが裁判所で「死刑」と宣告された直後に、チッティが記録していた映像によって一瞬にして「無罪」に変更されるとこは「ちょっとちょっと」と。
責任はあるだろ、どう考えたって。
最後は、チッティは危険な存在だから分解するように、といわれてお別れの場面となる。
『ターミネーター2』と『アンドリューNDR114』を合わせたようなラスト。
けっきょくこれは人間ならざる者が人間の女性を追い求めてしまったことからおこった悲劇であり、一度キスされたその快感が忘れられずに彼女を独占しようとして暴走する彼の物語は、考えようによってはどこか悲しき「おたく」の話、と強引に解釈することも可能な気もして(町なかで暴れる怪獣やロボットはしばしば社会不適合者のメタファーでもある)、僕は妙に身につまされもしたのだった。
この映画の素晴らしいところは、なによりチッティを魅力的なキャラクターとして描きだすことに成功していたことだ。
ラジニカーントはシリアスな演技とともに、きっとコメディの才能もある人なんだろうな。
…とまぁ、ツッコミどころはいっぱいあるけど、この映画のサーヴィス精神は日本映画もおおいに見習っていいところだと思います。
今回、ひさしぶりにインド映画を観て、インドの女優さんって美人だなぁ、と思いました。
この映画のヒロインのアイシュワリヤー・ラーイは、おなじシャンカール監督による日本でも劇場公開された『ジーンズ 世界は2人のために』は未見ながら顔だけは知ってたけど、ビックリするぐらい大きな瞳(ときどき血走っててアップのときちょっとコワかったけど)と、なによりもムッチリ肉感的なボディがステキ。
元ミス・ワールドで現在39歳なんだそうな。ワオッ(^ε^)
…すいませんなぁ、ゲスで。
調べてみたら、この映画以外の作品でもインドには「すっげぇ美人!」とおもわず見入ってしまう女優さんが何人もいた。
ヒーローを演じるのもラジニのようなオッサンはわりと例外的で(だからこそ“スーパースター”と呼ばれてるわけで)、男優さんたちもみな若くてマッチョで男前。濃いけど。
DVDに予告篇が入ってた『ラ・ワン』なんて、ふつうに観たいと思った。
『ラ・ワン』(2011) 監督:アヌバウ・シンハ 出演:シャールク・カーン カリーナ・カプール
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中国と並んでいまや経済大国化しているインド。
この『ロボット』でも、牧歌的な田園が舞台だった『ムトゥ』と違って登場する町並みはじつに近未来的な景観である。
主人公たちは広い家に住み、大学に通い、高価な車に乗っている。
それだけに、一見オシャレで洗練されたような世界にときどき顔を見せる泥臭い雰囲気に奇妙な感覚もおぼえる。
どこか電脳のなかで作り上げられたハリボテ感があるのだ。
ちょうど海外の人々が日本のことを「最新テクノロジーとサムライやニンジャやアニメキャラが同居する奇妙な世界」とイメージするように、インド映画最大の製作費をつぎこんだこの映画が映しだしているのは、どこかあの国の人々が外国人に見せたいインドの姿のように思える。
「カースト」という不名誉な身分制度がいまなお色濃く残っているように、繁栄の裏側には隠された多くの事実がある。
作り物であったチッティが得ようとした「愛」。
しかしロボットである彼は、ほんとうの愛を知らなかった。
「ニセモノ」である彼が得られなかったものを、はたしてめざましい経済的発展を遂げているインドの人々は得られるだろうか。
チッティの最期の台詞。
「人間は身勝手や裏切り、偽りという“チップ”をもつ。人間じゃなくてよかった。彼らはチップを取り除けないから」
この映画は、なにかすごく深いものを描いているような気がする。
気のせいかもしれないけど。
それでもやっぱりCGで暴れるラジニよりも、ヒロインといっしょに生身で踊ってる彼をもっと観たいな、と思ったのでした。
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