ニック・パーク監督によるアードマン・アニメーションズのクレイアニメ「ウォレスとグルミット」。
「午前十時の映画祭12」で鑑賞。短篇三本立て。字幕版での上映。
チーズ・ホリデー (1989) 23分
発明家のウォレスは飼い犬のグルミットとともにロケットを作って月にチーズを取りにいく。
ペンギンに気をつけろ! (1993) 29分
第66回(1994年)アカデミー賞短編アニメーション賞受賞
もろもろの支払いで家計が大変なウォレスは、部屋を人に貸して稼ごうとしたところ1匹のペンギンがやってくる。しかし、そのペンギンは指名手配犯だった。
ウォレスとグルミット 危機一髪! (1995) 31分
第68回(1996年)アカデミー賞短編アニメーション賞受賞
アルバイトで窓拭きの仕事を始めたウォレスは、雇い主の女性・ウェルドンに恋してしまう。しかし、ウェルドンが飼っている犬のプレストンには何やら秘密があるようだった。折りしも、ちまたではヒツジたちが盗まれる事件が相次いでいた。
声の出演
ウォレス:ピーター・サリス
僕が「ウォレスとグルミット」を初めて観たのがいつだったのか、もう覚えていませんが、萩本欽一さんがウォレスの声を担当されてました。TVで観たんだろうか。
同じニック・パーク監督の劇場映画『チキンラン』(日本公開2001年)は映画館に観にいったんだよね。
でも、「ウォレスとグルミット」の初の長篇作品『野菜畑で大ピンチ!』(日本公開2006年)は観ていない。
2018年に公開されたというニック・パーク監督の『アーリーマン』に至っては、残念ながらその存在すら知りませんでした。
今回上映された短篇の3本目『ウォレスとグルミット 危機一髪!』には羊のショーンが出てきて、そのキャラを使ったスピンオフが「ひつじのショーン」シリーズだけど、監督は別の人なんですね。
だからか、ショーンのキャラクターも「ウォレスとグルミット」版での彼と主人公になったスピンオフとでは違う。
で、あらためて「ウォレスとグルミット」の初期の3作を観たんですが、とても面白かったしキャラクターたちは愛おしかったし、また「ひつじのショーン」との微妙な違いも興味深かった。
マイペースなご主人のウォレスと“飼い犬”と言いながらほとんど小間使いのようにこき使われるグルミット(窓拭きの仕事も、実質働いてるのはグルミットだし)の関係は「ひつじのショーン」での牧場主と飼い犬のビッツァーのそれに踏襲されているし、グルミットが頭がよくて有能(場合によっては飼い主よりも)なところはショーンのキャラともカブっている。
唯一大きな違いはウォレスが「言葉を話す」というところだけど、だからか、牧場主よりもウォレスの方が若干ウザさが増してるような気も^_^;
「ひつじのショーン」の何を言ってるのか言葉が聞き取れない牧場主はどこか幼児を見るような目で見られて、そのおかげで彼のマイペースさもビッツァーやショーンたちに対する理不尽さもある程度緩和されるんだけど(逆に結構ヒドい目にも遭わされてるしw)、ウォレスは言葉を使って自分の意思を発するので、毎度彼の思いつきや行動に付き合わされるグルミットが気の毒にもなってくる。
グルミットはちょっとした犬っぽい声を出す以外は一切言葉を発しないので、彼の忠犬ぶり(でも、あまりにぞんざいに扱われ過ぎると家出する)がなんともいじらしい。
「ウォレスとグルミット」の第1作目である『チーズ・ホリデー』は、ウォレスがいきなり「月はチーズでできている」と言い出してロケットを作り出すんだけど、主人公たちの詳しい紹介みたいなことはすっ飛ばしてあっという間にふたりで月世界旅行へ。
TVシリーズのような悠長にやってられない、ということかもしれないけど、この「いきなり話の核心から始まる」というのは面白いですよね。
でも、ウォレスが発明家である、とか、グルミットはめちゃくちゃ優秀な飼い犬、兼パートナー、という登場人物の設定はしっかり紹介されているわけで、無駄な場面が一切ない。
で、彼らが月で出くわす10シリング入れると動き出すオーブンレンジ型ロボットがまためっちゃキュートなのだ。動きがいちいち可愛い。ウォレスが持ってきた雑誌でスキーというものを知った“彼”は、月からチーズを持ち去ろうとするウォレスたちを追っかけてきてあわや飛行中のロケットを破壊する寸前でその外壁の鉄板とともに月面に落ちていくんだけど、その鉄板で「スキー板」を作って憧れのスキーを堪能する。
たわいない話ではありますが、ゲストキャラをこんなに愛らしく描くニック・パーク監督が本当にニクい。あのロボットでスピンオフ作ってほしいぐらい。
2本目の『ペンギンに気をつけろ!』は過去に観た記憶があるんだけど、どんな話だったのかは覚えてなかったからこれまた新鮮でしたね。
指名手配犯のペンギンの一見無表情なところが『映画 ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム』のアヒルを思い出させた。ウォレスが発明した下半身のロボットのような機械「テクノズボン」とウォレスを使ってダイヤモンドを盗み出そうとして汗をかくとことかやっぱり可愛くて、悪い奴なんだけど憎めない。
3本目の『危機一髪!』は、なんか鉄人28号っぽいツラの犬が出てきたな、と思ったらほんとにロボだった。
「ひつじのショーン」でも劇場版ではしばしば映画ネタをやってたけど、あれはニック・パークさんの影響なのかな。この映画でもどこかスリラー映画っぽい演出で、笑えるし楽しいんだけど、実のところちょっと怖くもある。
ロボット犬が粉砕機に巻き込まれて目玉が飛び出て潰される場面なんか、何げにグロいし。そこんとこで「ショーン」とも異なるんですよね。何かほの暗さがあるというか。「ショーン」はTVシリーズでもあるから、グロさはなるべく控えるようにしてるのかもしれませんが。
「ウォレスとグルミット」には、どこかに「アートフィルム」的な肌触りがある。
粘土をこねてるからか、時々人形に指紋がついてたりして(笑)
「ウォレスとグルミット」はウォレスの声を務めていたピーター・サリスさんが亡くなってから新作は作られていないようで、ちょっと寂しくはあるんですが、でも、もしもまたいつか最新作が作られるのであれば観てみたいです。
まだ観ていない『野菜畑で大ピンチ!』もそのうち上映してくれないかなぁ。