映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ある日どこかで』


ヤノット・シュワルツ監督、クリストファー・リーヴジェーン・シーモア、ビル・アーウィンテレサ・ライト、ゲオルク・ヴォスコヴェク、スーザン・フレンチ、クリストファー・プラマー出演の『ある日どこかで』。1980年(日本公開1981年)作品。

原作・脚本はリチャード・マシスン

音楽はジョン・バリー

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1972年、大学で脚本を担当した芝居の上演後、リチャード・コリアーの前に見知らぬ老婦人が現われて懐中時計を手渡す。それから8年後、グランドホテルを訪れたリチャードはそこで壁に掛けられていた美しい女性の古い写真に釘づけになる。その女性が1912年にこのホテルで公演した女優のエリーズ・マッケナであることを知ったリチャードは彼女が忘れられず、時間旅行の研究者フィニー教授に教えてもらった方法で1912年に遡ろうとする。

ストーリーのネタバレがあります。


「スーパーマン」シリーズのクリストファー・リーヴ主演のラヴストーリー。

テーマ曲は結構有名なので、この映画を観たことがなくても聴き覚えのあるかたもいらっしゃるんじゃないでしょうか。

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クリストファー・リーヴはこの映画をちょうど『スーパーマンII』(感想はこちら)と同時期に撮影をしていて、だから『スーパーマンII』で彼が演じているスーパーマンことカル=エルが超能力を失って人間になるシーンの髪型が『ある日どこかで』のそれと同じ。

スーパーマンの時はキャラクターに合わせて七三分けにしてるけど、この映画ではちょっとウエーブのかかった当時デヴィッド・ハッセルホフ*1がしてたようなほんの少し長めの髪型。

あの当時はああいう髪型が流行ってたのかな。いろんな映画でよく見かけましたね。

特撮大作の「スーパーマン」シリーズに対して、この『ある日どこかで』は低予算映画で派手な視覚効果はない。

監督のヤノット・シュワルツは、当時「スーパーマン」シリーズのプロデューサー、サルキンド親子が作った『スーパーガール』や『サンタクロース』(感想はこちら)を監督しているので、いろんなところで繋がりがありますね。もっともこの映画へのシュワルツの起用は原作者のリチャード・マシスンの希望だったそうですが。

あらためて、ほんとに小さな映画だなぁ、と思う。

古い写真の中の女性に魅せられた主人公が時間を旅して過去の世界へ。そこで夢見た女性に出会い二人は恋に落ちて…という、まるでマシスンが脚本を書いていた「トワイライト・ゾーン」とか日本の「世にも奇妙な物語」の一篇のようなささやかな小品。それを1時間43分かけて描いている。


だからテンポは緩やかだしストーリー自体もわりと単純で別に意外な展開はない。公開当時は観客の反応がどうだったのかわからないけど、今観ると「えっ、これで終わり?」というちょっとした肩透かし感も。

でも、とても懐かしい雰囲気なんですよね。ノスタルジックで。

琥珀色に染まった柔らかい色調の中で、まるでおとぎ話のような男女の恋が描かれる。


1972年の場面ではしばしば今の映画ではあまり目にすることがない「ソフトフォーカス」が使われていて、なんとなく目の前全体がボンヤリしているような印象を受ける。昔は普通に使われていた手法ですが。

タイムトラヴェルものっていろいろあるけど、この映画での時間旅行は自分のまわりに行きたい時代のモノを置いてその時代の衣服を着て、あとはひたすら「自分はあの時代にいるんだ」と念じる、という超シンプルなもの。

肉体はそのままで意識だけが昔に行く、というのは『マイマイ新子と千年の魔法』(感想はこちら)に似てますね。

それでもうまくいかず、リチャードはグランドホテルのフロント係だった父親の許で幼い頃からこのホテルを遊び場にしてきた今では大ヴェテランのホテルマン、アーサーに当時の宿帳を借りて、エリーズがホテルに泊まった日とリチャードの名前が書かれた部屋を確認する。

そのことでより気持ちを高められた彼は、1912年にいた。


これって、僕たちが小説を読んで舞台となる世界を頭の中で想像したり、あるいは映画を観てその世界、その時代にいるような錯覚を覚えるのと同じことで、つまり額縁の中の女性の写真に恋をした男の話というのは、フィクションの中の女性に恋をするオタクの話みたいなもの。

この映画のヒロインは舞台女優だけど、『カイロの紫のバラ』のように映画俳優に恋する話だってあるし(あちらは男女が逆だが)、「あちら側」と「こちら側」が交錯する話はそれだけでもロマンを感じさせますが。

主人公の名前をリチャードにしたのも、作者のリチャード・マシスンが自身の夢想をそのまま作品にしたからかもしれない。

そういう意味では、すごくわかりやすい男性の妄想を映像化している。

もっともこの映画は女性のファンも多いようだから、クリストファー・リーヴのような男前の脚本家に恋されて追い求められることに憧れたり、あるいは古典的な少女漫画的なシチュエーションに萌えたり、いろんな楽しみようがあるのでしょう。

無粋なことを言うようだけど、相手が60年前に生きている女性だとはいえ、ハッキリ言って劇中のリチャードの行動はストーカーのそれにも似ていて、とにかく彼女に「一緒に話したいんだ」と付きまとい続ける。

ロマンティックに演出されているけれど、相手の女性からしたらヤバい男にしつこく言い寄られてるわけで、そりゃクリストファー・プラマー演じるロビンソンでなくたって彼を追い払おうとするだろう。

そして、エリーズについてはあくまでもリチャード側からしか描かれないので、彼女の心の動きや詳しい事情については観客にはわからない。

彼女はただひたすらリチャードにとっての「理想の女性」であり、やがて自らもリチャードを愛するようになる。

リチャードこそ、彼女が長らく待ち望んでいた男性だった。

この二人の間で完結した関係こそが、ファンにとっては心地よいんだろう。

繰り返すように美しい一篇なので、その世界に浸っていればいいんですが、一方でどうしても不満というか、物足りなさを感じてしまうところもある。

たとえば、エリーズにいつも付いていて、突然彼女の前に現われたリチャードを警戒するロビンソンのことを、最初リチャードはエリーズの夫かと思うのだが違っていた。

彼はエリーズが若い頃から一緒にいて、彼女の将来を予言し続けてきたのだった。

僕はてっきり、ロビンソンもまたリチャードと同じくかつて時間旅行で未来からやってきた人間なのではないかと思っていたんだけど、ロビンソンの正体は最後まで明かされず、次の公演先への移動中にエリーズがリチャードのいるグランドホテルに戻ってきて以降は、ロビンソンは出てこなくなる。


今や相思相愛になったリチャードとエリーズはこれからもともに生きていくことにするが、何気なくポケットを探ったリチャードは1979年の硬貨を見つけてしまい、その瞬間に現在に引き戻される。

いきなりの別れにショックのあまり食事もとらなくなったリチャードは、部屋に引きこもっているのをアーサーたちホテルマンに見つけ出されるが、治療の甲斐もなく息を引き取る。

リチャードが天上でエリーズと再会したところで映画は終わる。


僕はリチャードとロビンソン、エリーズとの間にさらに何か新たな展開があると思っていたので、エリーズがあっという間にリチャードとくっついて“合体”してしまう展開に「えぇ〜…」ってなったんですよね。

なんていうか、もうちょっと「ロマンス」の方を描いてほしかった。

で、無理矢理エリーズと引き離されて現在に帰ってきたリチャードはさっさと死んでしまう。

ちょっと話が飛びすぎなんではないかと思った。ずいぶんと独りよがりな話だな、とも。

これが時を越えたありえない恋を描いた、でもだからこそ非常に純化された人の「想い」についての映画であることは僕にもわかるんです。

でも、やはりリチャードとエリーズが結ばれるまでの過程がちょっと端折りすぎで、思わせぶりに出てきたロビンソンがほったらかされたまま映画が終わってしまうのは物語としていかがなものか。

現在に戻ったリチャードもいきなり死んじゃうんじゃなくて、たとえばエリーズが亡くなるまでずっとリチャードを待ち続けていたように、彼もまた老人になるまで彼女のことを想い続けて、やがて死を迎えてようやく彼女と再会するとか、そういうラストだったらよかったんじゃないでしょうか。

この結末のあっけなさも、あの当時の映画っぽいといえばそうなのかもしれませんが。

この映画は劇場公開時にはヒットしなかったけど、その後じわじわと人気が出てファンが増えていったそうで、その理由はわかる気はします。

エリーズを演じたジェーン・シーモアは007にボンドガールとして出たり、日本でもNHKで彼女が主演した「ドクター・クイン」が放送されてましたが、この映画の彼女はちょっとウィノナ・ライダーにも似ていてとても綺麗だし、昔の衣裳がよく似合う女優さんですよね。


この映画で彼女が演じたエリーズは男が憧れる女性像だけど、初めてリチャードに出会った時の彼女の表情はとても儚げで、別れの彼女の悲痛な叫びはいつまでも耳に残る。

この映画がもう37年も前の作品である事実も、時間旅行で過去に行く男の内容と重なって切なさが増す。

僕たちはリチャードと同じように過去に旅しているのだから。

そして何よりも、僕たちはリチャードを演じたクリストファー・リーヴがもうこの世にはいないことを知っている。


学生時代の自分に懐中時計を手渡したあとに亡くなったエリーズの若かりし日の姿に恋をしたリチャードのように、僕はこの映画の中のクリストファー・リーヴのユーモラスな演技や悲しみに暮れる姿に、涙ぐまずにはいられない。

それでも僕たちは、映画を観るたびに若く元気だった時の彼に会える。

死して永遠に結ばれる恋人たちの物語に人々が惹かれるのは、それが生きている間には不可能だからでしょう。

映画には、そんな甘美な夢を見させてくれる魔法の時間がある。

ラストでエリーズとリチャードが見つめ合い真っ白になったスクリーンの向こう側には、過ぎ去った日々と愛した人への数多の想いが溢れている。


関連作品
『時をかける少女』(2010年版)

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ある日どこかで (創元推理文庫)

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*1:ちなみに「スーパーマン」シリーズでクリストファー・リーヴの声を吹き替えていたささきいさおは「ナイトライダー」のハッセルホフも担当していた。