※以下は、2010年に書いた感想です。
行定勲監督、薬師丸ひろ子、豊川悦司、石橋蓮司、水川あさみ、濱田岳、城田優、津田寛治、奥貫薫、井川遥出演の『今度は愛妻家』。2010年公開作品。
カメラマンの俊介の妻・さくらが家を出ていってしまった。ずっと彼女を邪険に扱ってきた俊介は始めこそせいせいしていたが、やがて決定的な喪失感を抱き始める。
観たい映画が何本かあって時間の都合でこれにしたんですが、完全にノーマークの作品でした。
薬師丸ひろ子と豊川悦司が夫婦役、といわれても、機関銃撃って「かい・かん」の一言にヤラれた薬師丸ひろ子直撃世代ではないし(“ちゃん、リン、シャン”の方がなじみ深かったりする)、特にトヨエツのファンというわけでもないので。
『セーラー服と機関銃』(1981) 監督:相米慎二 主演:薬師丸ひろ子
ちゃん リン シャン
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以前観た行定監督の『北の零年』がわりとビミョーだったから、っていうのもある。
でも、よかったですよ。
最初のうちは豊川悦司のこなれない小芝居(舞台出身のはずなんだけどなー)とかこの浮気な夫が巻き起こす茶番がしばらく続くんで、これを俺は最後まで集中して観てられるかな、と心配になったんだけど。
ウザさ一歩手前でやたら明るく可愛く振る舞う“三丁目の母ちゃん”チックな薬師丸ひろ子とチョイ悪風な豊川悦司の夫婦のイチャイチャをずっと観せられてもなぁ、と。
薬師丸ひろ子って、失礼ながらちょっと色黒な女の子からいつのまにか“お母さん”になってたような印象があるので(その間の彼女の映画やTVドラマをちゃんと観てなかったせいもあるが)、正直今まであまりピンとこなかったんだけど、この映画観て、あぁ、ほんとに素敵な女優さんなんだ、と思いました。
彼女の歳相応なおでこや目の下、首のシワまでもが愛しくなってくるというか。
喧伝されてるようにネタバレ厳禁なストーリーではあるので、以下は映画を観てからか、ネタバレしても全然平気、という方のみお読み下さい。
元々舞台劇なんだそうで、なるほどたしかに限定された場所と数人の登場人物たちが繰り広げる会話劇が主体。
主要キャストは冒頭に挙げた人たちで、そのうち津田寛治と奥貫薫はTVCMの中でのワンシーンだけ。井川遥もほぼゲスト出演。実質5人。
先ほど書いたように小劇場的な小芝居が続くし、言わずもがなのことをわざわざ台詞にしてたりもする。
「映画」としてはそれは美しくなかったり説明過多にも思えるんだけど、でもそうやってわざわざ口に出して言う必要なんかない、野暮だと思うような事柄も、多分現実では言葉や態度で示さなければ相手には伝わらないんだ、ということ。
「なんで…言ってくれなかったの?」という薬師丸の台詞からもそれが伺える。
オカマさん役の石橋蓮司がイイ味出してて(声が美輪さんみたいだ)予想外に活躍するんだが、妻がいる男の家になんでこのオッサンがしょっちゅう出入りして部屋の掃除したりしてんのかは後半わかる。
水川あさみは、一所懸命に夢を追ってて必死なのはわかるんだけど、そのなりふりかまわない姿がまわりにはけっこうシンドい女優志望の女の子を好演。
一見損な役回りだけど、観てる側がときに不愉快にもなるああいうキャラクターをリアルに演じられるのって大切だと思う。
また、『鴨川ホルモー』ではチョンマゲ頭にして小便を漏らし、『フィッシュストーリー』でも童貞チックなパシリ君役だった濱田岳*1が、ここでもやはり「本番」で残念な(でも憎めない)草食系男子ぶりを発揮。
さて、ここからオチを書きます。
以前『鉄道員(ぽっぽや)』を例に挙げて「死んだ人がまた主人公の前に現われてあれこれくっちゃべる映画は好かん」というようなことを書いたけど、まぁよーするにそういう映画だったわけですね、これは。
なんで嫌なのかというと、死者の考えや気持ちだとかを生きてる人が勝手に都合よく想像、解釈して、それをあたかも亡くなった本人の意思みたいに描くことに抵抗を感じるから。
亡くなった人の想いは本人以外にはわからないし、だからこそもうそれを確認するすべもないという事実に、残された人は茫然とするんでしょ?
でもこの映画観て、なるほど、こういう描き方もあるのか、とちょっと考えをあらためました。
最後に妻が夫にかけた言葉は、そう言って欲しいという夫の願望なんだよな、と。その言葉を言う前に彼女は夫のもとを去ったのだから。
それはわかった上で作り手は亡き妻に語らせている。
そう思って観てるうちに抵抗もなくなっていきました。
ただ、別れの原因を事故や急病の類いにするのはできればやめて欲しいなぁ、と思ってて、でもああいう展開になったんでしょーがないのかな、と少々残念な気持ちで観てたんですが、妻がもうこの世にはいない、とわかってからも映画はまだしばらく続いて、残された人々を描写していく。
これが意外と長い。トヨエツはダラダラと妻への未練や後悔を語り続け、まわりの石橋蓮司たちと怒鳴り合ったりしてる。
その姿は美しくはないし、同じ地点をグルグルと回ってるだけに見えて少々カタルシスに欠けるような気もしてくる。
でもそれが、ただ劇的なオチや泣かせどころを作るためだけに登場人物を死なせたんではなくて、映画の作り手が「大切な存在を失うということ」について真摯に描こうとしている態度に見えました。
そう簡単に人は忘れられないし立ち直って前向きにもなれない。
言い訳ばかりして、自分を支えてくれてる人たちに辛くあたってしまったりもする。
前半では鼻についた豊川悦司の小芝居も終わりの頃には鳴りを潜め、残された夫の悲しみが滲み出ていました(泣いたあと、ちゃんと鼻をかむのもいい)。
夫に呼び止められて、一瞬不機嫌そうに「何?」とたずねる薬師丸ひろ子の声と顔の表情。
これまで彼女のわざとらしいくらい明るく屈託のない姿ばかり見てきたから、そんなふとした落差にちょっとショックを受ける。
いつも愛想が良くてそれが当たり前だと思ってた子が見せる普段と違う雰囲気に戸惑うことがあるけど、それを思い出した。
本当にかけがえのない姿だったのだ、あの明るさは。
とてもこまやかな演技でした。
しかしあの激マズな「人参茶」、気になるなぁ。
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*1:その後も多くの映画やTVドラマに出演中。