※以下は、2010年に書いた感想です。
『マルコヴィッチの穴』のスパイク・ジョーンズ監督作品『かいじゅうたちのいるところ』。
2009年作品。日本公開2010年。
家を出て「かいじゅう」たちが棲む島にたどり着いた少年が、ユーモラスだったり凶暴なところもある彼らと過ごす。
けっこう前から気にはなってたにもかかわらず、まだ観てませんでした。
原作の絵本は読んだことがないけど、予告篇観るとちょっとテリー・ギリアムの『バンデットQ』を思わせたりもして、着ぐるみのクリーチャーたちが出てくるファンタジーで良作との評判だし、公開後真っ先に観に行ってもおかしくなかったはずなのに躊躇していたのでした。
どうもしばらく“ファンタジー”と呼ばれるジャンルの映画で「これぞ」という作品に巡り合ってなくて、でもそれはもしかしたら作品そのもののせいというよりも、純粋に空想の世界を愉しめなくなっている自分自身に原因があるのでは、と思い始めて。
だからせっかく素敵な作品であっても入り込めなくて残念な気分になるのはイヤだなぁ、と。
それでもとりあえず観てみたんですが。以下、ネタバレあり。
あ、加藤清史郎くんが声アテた吹替版じゃなくて、字幕版でした。
ユーモラスな造形の「かいじゅう」たちは、『ラビリンス 魔王の迷宮』などの80年代ファンタジー映画を思い出させて、そのたたずまいを眺めているだけでちょっと涙ぐみそうになってくる。
『ラビリンス 魔王の迷宮』(1986) デヴィッド・ボウイのモッコリタイツも記憶に鮮やか。
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これは少年の通過儀礼を描いた映画。
主人公のマックスはちょっと幼い感じの甘えん坊な少年。
お姉ちゃんにかまってもらえなくて暴れたり、忙しくて疲れてるお母さんにダダをこねたりもする。
友達がいないわけじゃないけど、でもどこか周囲に溶け込めない自分がいて、いつも独りで遊んでいる。
言葉や態度でうまく表わせないけど、その胸に苛立ちと不安を抱えながら。
この辺の描写がハリウッド製のいわゆる“ファンタジー映画”のルーティンよりもインディーズ寄りの撮り方で惹きこまれる。
少年役の男の子もこまっしゃくれたジャリタレ風でも愛玩用の媚びた演技でもなくて、あの年ごろの(大人にとってはけっこう面倒臭い存在でもある)ナチュラルな表情を見せている。
映画観ながら幼少~少年期のさまざまなことを思い出したりしてました。
それにしても、むこうの方々には「ウサギの着ぐるみ」をかぶったキャラクターは狂暴、もしくは邪悪、とかいうオブセッションでもあるんだろうか。
ハーモニー・コリンの『ガンモ』の主人公、それから題名忘れちゃったけど眠れない主人公が見る白昼夢の中(?)に出てくる着ぐるみウサギ、あとデヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』にもそれらしきキャラクターが出てた気がする*1。
少年が旅に出るきっかけはいたるところにある。
現実と「あちらの世界」の境界は曖昧で、家を飛び出して遠くを眼差〈まなざ〉すと、海の向こうにはかいじゅうたちの棲む場所がある。
そこで少年はかいじゅうたちの王様になる。
「僕はなんでもできるんだ」。
で、かいじゅうたちのいるところで少年は何するかというと、彼らとふざけあったり重なって寝たりケンカしたりしてる。
それだけ。魔女や悪魔と戦ったり宝物を手に入れるために冒険したりはしない。
金かけた「ウルトラファイト」といったところ。レッドキング対チャンドラーみたいな場面も出てくるし。腕スポーン!って。
「ウルトラファイト」第80話 別の意味で泣ける映像。ウーさん!!
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で、もいだ腕の付け根にあとで腕のかわりに小枝刺してたりしてる(こらこら^_^;)。
監督のスパイク・ジョーンズがCGやアニメによる映像化という案を退けて「着ぐるみ」にこだわったのは賢明だったと思います。
やっぱり、ほんとにそこに居る、っていう実在感って大事。
抱き合ったり、蹴られたり石ぶつけられて痛がるかいじゅうたちは着ぐるみだからこそいとおしい。
子どもが話す言葉って、大人のように理路整然としてなくてときに支離滅裂に聞こえたり(身体は大人でそういう人もいますが)、でまかせだらけに思えたりすることもあるけれど、それはつまり理屈よりも感覚を優先して話したり行動したりしてるからでもある。
興味があちこち飛ぶし、そうかと思えば妙なところに細かくこだわったり。
かたっぱしからバレバレのウソをついたりもする。
さっきまで仲良く遊んでたのに、ほんとにどうでもいいことで(本人には重大問題なんだろうけど)突然大泣きしながら取っ組み合いの喧嘩を始めたり。
僕もちっちゃい頃、友達と「世界で一番強いビーム」を撃ち合ったりしてたっけ。そしたら向こうは「宇宙で一番強いビーム」を返してきて、それを「無敵バリヤー」で防いだりして際限がなかった。
そういう他愛もない、でもおそらくとても重要なやりとりが少年とかいじゅうたちとの間で続く。
リアル「ゴン太くん」みたいなかいじゅうたちの性格もいろいろ。
どこか少年のいた現実の世界の人々が投影されているようでもある。
何も言わずに突っ立ったまんまの奴もいる。
オッサン顔のかいじゅうキャロルは少年の分身。
おとなしくしてたかと思えば急に癇癪を起こしてせっかくみんなで作った家を破壊したりする。
ストーリー展開がどうとかいう以前に、かつて自分も居た場所、行ったはずの場所で彼らかいじゅうたちとともに過ごし、そして最後はサヨナラして戻ってくる話。
着ぐるみのかいじゅうが泣きながら走る場面では涙が出そうになりました。
名残りを惜しんで手を振るかいじゅうたちは少年自身でもある。
母親役のキャサリン・キーナーがいい。お母さんだって恋もするし仕事は大変だし、手の焼ける息子にイラ立ちもする。
「家族って難しい」。
かいじゅうたちが言っていた言葉。
心配して待っていたところに息子が帰ってきてホッとしたのか、やがてうたたねを始める母親とそれを静かに見つめる少年。
つまり、そういう映画だったんだよね。
映画館で観られてよかった。
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*1:どうやらこの映画の少年が着ているのはウサギじゃなくてオオカミだったようです。