※以下は、2011年に書いた感想です。
入江悠監督の最新作『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』。
仕事を掛け持ちしながら懸命に生きるシングルマザーや、プロの棋士を目指すも両親との関係が微妙な女子高生など、さまざまな人々の人生模様が人気バンド「神聖かまってちゃん」を軸にして描かれる。
以下、ネタバレありです。
実在のバンド「神聖かまってちゃん」のメンバーが本人役で出演。
これがスクリーン・デビューの森下くるみが過労気味のシングルマザーを好演。
そしてちょっと宮崎あおいを思わせる二階堂ふみが演じる美知子の現役女子高生のリアリティとハキハキした台詞廻しが小気味良い。
美知子の友人役の三浦由衣はどっかで観たことある気がしたけど、あぁ『悪夢探偵2』の子ね、と。
他にも入江監督作品やインディペンデント系の映画でおなじみの俳優陣などが出演。
また「神聖かまってちゃん」のファンだという坂井真紀がワンシーンだけ特別出演している。
ただヴィデオ撮りだったり、演技初体験のバンドのメンバーの芝居がぎこちなくてその中のひとりがちょいちょいカメラ目線になってるのが気になったりして、『サイタマノラッパー』の一作目のときのように映画に入り込むまでにちょっと時間がかかってしまった。
それとすぐに入り込めなかったもうひとつの理由は、『サイタマノラッパー2』の女の子たちのような「好きだ」と思える登場人物がなかなか出てこなかったこと。
みんなどこかに問題があって、喋り方が気に入らなかったりしてなかなか好感がもてなくて。
シングルマザーのかおりの息子がPCを保育園に持ってきてて園長から注意を受けた彼女の「このパソコンは父親代わりなんです」という言葉には「オイオイ、父ちゃんを保育園に連れてくなよ、理由になってねーぞ」と思ったし。
女子高生の美知子は観てて一番肩入れしやすいキャラクターだけど、両親に対する態度はいただけない。
もちろん、人に頼らず独りで生活費や息子の小学校の学費を稼ぐためにヘトヘトになって頑張っているかおりに心の余裕がないのは理解できるし、自分の兄がひきこもっている理由が父親のせいだと思っている美知子が親に反抗的な態度をとるのもわからなくはないのだが。
かおりのアラサー仲間たちが合コンの席で口々に「独りで子どもの面倒までみるなんて私は無理」「過労で倒れないでね」とかいって無責任に笑ってる様子や、その一方で「(男を)好きなの持ち帰っていいから。頼れるものには頼った方がいいよ」というところなどウンザリするし、美知子の彼氏も友人も彼氏甲斐のない、友だち甲斐のない奴らだ。
また、僕はそもそもこの映画でフィーチャーされてる「神聖かまってちゃん」というバンドを知らなかったんだけど、ヴォーカルの人のメンヘラっぽいキャラクターには拒絶反応を起こしそうになったし、劇中で歌われてる彼らの歌も正直苦手な部類。
そんなわけで、しばらくは「大丈夫かな…」という不安がなくもなかった。
でも、映画は走り出すとある時点からそのままラストまで一気に駆け抜ける。
保育園の子どもたちが「死にたいなぁ~消えたいなぁ~♪」と、かまってちゃんの歌を合唱するところはちょっとドキッとさせる。
先輩マネージャーの「“応援ソング”って、クソでしょう。偽善的で」という言葉には半分反発をおぼえ、半分同意したりした。
入江監督の作品を観るのはこれが3本目だけど、特に前作『サイタマノラッパー2』とこの『ロックンロールは〜』で強く思ったのは、脇の登場人物たちが、この人はこういう家庭環境でこういう友人がいてとか、作品の本筋とは直接かかわりのないところまで描かれていること。
園長さんと保母さんとか、美知子を応援する囲碁クラブのおじさんとか、長々と描写はされないけれどイイ味出してる。
また美知子は主要キャラクターだけど、彼女自身は神聖かまってちゃんのライヴは観てないし、それほど興味をもっているようでもなく、ひきこもりの兄にCDを渡したことぐらいで、かまってちゃんとは直接的なかかわりは薄い。
彼女だけピンでドラマを構築することだって可能だろう。
プロ棋士になるために奮闘する美知子の姿を描いたスピンオフ映画を観てみたい。
かまってちゃんのライヴがはじまってからのカットバックには素直に感動した。
音楽のことがさっぱりわからない僕も、あの場面の曲はいいなと思いました。
ステージで踊る森下くるみの姿は切なく美しかった。
CDを手にとり、部屋のドアを開けたひきこもりの兄のように、いつか乗り切れる、そう信じて生きていくしかない。
それにしても、『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』での佐藤寛子といい、鈴木杏の『軽蔑』や男子がふんどし一丁で踊る金子修介監督の作品とか、なぜか最近“ポールダンス”を描いた映画が多いけど、流行ってんのか?^_^;
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