※以下は、2012年に書いた感想です。
アーヴィン・カーシュナー監督、マーク・ハミル主演の『スターウォーズ エピソード5 帝国の逆襲』。1980年作品。
「スターウォーズ」シリーズ第2弾。
第53回アカデミー賞録音賞、視覚効果賞(特別業績賞)受賞。
氷の惑星ホスに反乱同盟軍の秘密基地があることを察知したダース・ベイダー(演:デヴィッド・プラウズ、声:ジェームズ・アール・ジョーンズ)は、帝国軍艦隊を率いて猛攻を開始する。R2-D2とともに脱出したルーク(マーク・ハミル)は、いまや霊体となったオビ=ワン(アレック・ギネス)が告げたジェダイの導師ヨーダのいる惑星ダゴバへ向かう。
前作『新たなる希望』(感想はこちら)でもそうだったように、今回もスターウォーズに対する僕の独断と偏見に満ちた感想を書いていきます。
特に、いちいち“新(プリクエル)三部作”を揶揄するような書き方をするのが目障りと感じるかたもいらっしゃるかもしれませんが、もし異論や反論があるかたはぜひご意見をお聞かせください。
また設定や登場人物などこまかい説明は省くので、「スターウォーズ」シリーズのことをよく知らない人にとってはまったく意味不明な文章だと思いますがご了承のほどを。
以下、ネタバレあり。
シリーズ中もっとも人気があって評価も高い作品。
僕も一番好きです。
主人公のルークをはじめ、ハン・ソロ(ハリソン・フォード)とレイア姫(キャリー・フィッシャー)、あいかわらずお調子者のC-3PO(アンソニー・ダニエルズ)と頼りになるR2-D2(ケニー・ベイカー*1)、ハン・ソロの相棒チューバッカ(ピーター・メイヒュー*2)も再登場。オビ=ワンの師匠ヨーダ(マペット操演と声:フランク・オズ)が初登場する。
おなじみのキャラクターたちの見せ場も増えて銀河を舞台にした英雄物語はより深みを増し、前作では機械なのか人間なのかすらさだかではなかったダース・ベイダーの正体があきらかになる。
ジェダイの騎士が使う“フォース”と呼ばれる超能力を身につけるためにヨーダのもとで修行することになるルーク、そしてそんな彼をワナにおとしいれるために待ち構えるベイダー。
この作品ではじめてあの「帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」が流れる。
また「ソロとレイアのテーマ」や「ヨーダのテーマ」など、ジョン・ウィリアムズによる劇中曲もいまなお耳に残る名曲が多い。
僕がこの作品をはじめて劇場で観たのはリヴァイヴァル上映で、『ジェダイの復讐』(感想はこちら)と2本立てという、いまでは夢のようなラインナップだった。
『帝国~』は冒頭のスクロールするあの字幕が日本語だった記憶がある。
どうやら『帝国の逆襲』は初公開時にオープニング・クロールが日本語のヴァージョンが上映されたようで、リヴァイヴァル上映でもそのフィルムが使われたそうで。映画本篇は原語だった模様。
その後ヴィデオもレンタルされてたけど、僕は「金曜ロードショー」での吹替版(旧)に馴染みがある。
この金曜ロードショー版は80年代にはTVで毎度おなじみだったが、ソフト化もされず現在では公には観られない貴重なヴァージョンになってしまっている。
初登場のランド・カルリジアン男爵の吹き替えは、「北斗の拳」のラオウや『ロッキー』の黒人ボクサー・アポロ役などの内海賢二(※ご冥福をお祈りいたします*3)。
ゴツいキャラクターをアテることが多い内海さん(「Dr.スランプ」の千兵衛さんのようなひょうきんキャラもあるが)の声は、ランドを演じたビリー・ディー・ウィリアムズのそれとよく似ている。特に笑い声なんかソックリ。
1作目からつづいてオビ=ワンの声を担当する滝田裕介の声も、まるでアレック・ギネス本人が日本語をしゃべっているようだ。
またヨーダの声はムーミン・パパやトトロの声などの故・高木均。
とぼけた声色とシリアスなときの演じ分けがほんとうに見事で、フランク・オズの声の雰囲気がよく出ている。
ダース・ベイダーの声は1作目の坂口芳貞(※ご冥福をお祈りいたします。20.2.13)から鈴木瑞穂(※ご冥福をお祈りいたします。23.11.19)に交代。鈴木瑞穂は『ジェダイ~』でもベイダー役で続投している。
何度もしつこいけど、声優たちの演技、そして翻訳の的確さなど、僕はこの吹替版は最高の出来だと思う。
そのソフト化を許さないルーカスはマジで○○○(最高の侮辱の言葉)だ。
吹替版の比較【ネタバレ注意】
僕は当然「金曜ロードショー」推しですが、石田太郎のダース・ベイダー(「日曜洋画劇場」版)はジェームズ・アール・ジョーンズのバリトン・ヴォイスに一番近いので、これも捨てがたいなぁ。
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前述のように僕はこの映画を初公開時にリアルタイムでは観ていないんだけど、はたしてこれをはじめて劇場で観た人たちはどう思ったんだろうか。
なにしろハン・ソロたちは延々帝国軍から逃げ回り、ヨーダのもとで修行していたルークはクラウド・シティでダース・ベイダーと立ち廻りをして驚愕の事実を知るが、そこで物語が完結しないまま映画が終わってしまうのだ。
その後、ロバート・ゼメキスが『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part 2&3』でやったように完全な続き物を何本かに分けて作るということなどまず考えられなかった当時(『ゴッドファーザー』のように結果的に三部作になったシリーズはあるが、1作ごとに話は一応完結している)、この形態はかなりムチャだったのではないか。
しかも『BTTF』の2作目は半年後に続篇が公開されたが、『帝国~』のつづきが観られたのは3年後である。
たとえば『ロード・オブ・ザ・リング』のように最初から三部作として作られたわけではなくて(『ジェダイ~』のシナリオは『帝国~』の完成後に書かれている)、シリーズがきちんと完結する保証などなかったのだ。
しかし、そんないってみれば宙ぶらりんな状態の作品が「シリーズ最高傑作」といわれるのはどういうわけか。
それはリー・ブラケットとローレンス・カスダンによって書かれたシナリオが優れていたのと、監督のアーヴィン・カーシュナーの演出が的確だったからにほかならない。
まず、「あれ?ルーカスが監督じゃないの?」という人がときどきいるけど、旧三部作でジョージ・ルーカスが監督をしたのは第1作目だけです。
この『帝国の逆襲』はアーヴィン・カーシュナー、つづく『ジェダイの復讐(帰還)』はリチャード・マーカンドがメガホンをとっていて、ルーカスは製作総指揮を務めている。
もちろん「スターウォーズ」の著作権やシリーズへの最大の発言権をもっているのはルーカスなので、彼の意向が作品に強く反映されているのはたしかですが。
この『帝国〜』はシリーズで唯一ルーカスがシナリオに参加していなくて、原案のみ。
だからなのかどうか知らないが、この作品についてルーカスはあまり発言したがらないようである。
なんでこんなことをいちいち強調するのかというと、現在では「スターウォーズ」というシリーズはまるでジョージ・ルーカスがなにからなにまでたったひとりで作り上げたもののように考えている“ルーカス信者”たちがいて、ルーカス自身もそう誤解されるような発言をしばしばしているけど、「そうじゃない」ってことをことわっておきたいから。
多くのスタッフと出演者たちの創意工夫によって「スターウォーズ」は名作たりえたのだ。
それをすべて自分の手柄のように語るのは、映画にかかわったほかの人々に対して失礼だろう。
ルーカスは97年の「特別篇」以降、旧三部作にあれこれ手を加えたソフトを販売しつづけているけど、その利益は撮影当時作品にたずさわった人々にはまったく還元されていないという。
DVDやブルーレイの収益で儲かるのはジョージ・ルーカスと現在のルーカスフィルムの社員だけなのだ。
SWのイヴェントのたびに律儀に顔を出してるマーク・ハミルやキャリー・フィッシャー、ケニー・ベイカーたちが、なんだかとってもいじらしくなってくる。
それでもかつての出演者やスタッフたちのほとんどは「スターウォーズ」の制作に参加できたことを誇りに思っていて、ルーカスに感謝している。
監督のアーヴィン・カーシュナーもそうだ。
ルーカスは、画作りに凝ったりソロとレイアのラヴストーリーにこだわるカーシュナーにしばしば「芸術映画が作りたいわけじゃない」といってダメ出ししたといわれる。
そうやってディスカッションしたことが結果的に作品の質を向上させたんだと思う。
ルーカスがイエスマンに囲まれて作った新三部作とは、なによりもそこが違う。
カーシュナーが描いたソロとレイアのロマンスは、次回作『ジェダイの復讐』にしっかり引き継がれた。
この『帝国~』でのハリソン・フォードとキャリー・フィッシャーのふたりと、プリクエル三部作の2作目『クローンの攻撃』でのヘイデン・クリステンセンとナタリー・ポートマンの演技やシナリオの出来の違いをくらべておもいっきり『クローン〜』の悪口をいいたい誘惑に駆られるが、前作『新たなる希望』の感想でけっこういいたいこといったんでガマンします。
1作目『新たなる希望』とこの『帝国の逆襲』で、よく見ると主人公のルークの顔が違うのは、1作目の公開後にマーク・ハミルが交通事故で顔を大怪我して整形手術をうけたため。
映画の冒頭、雪のなかでワンパに顔を殴られて傷を負うシーンによって、これをルークの顔つきが変わった理由としている。
「顔」といえば、今回ホログラム越しにはじめて登場する銀河皇帝は、劇場公開版では特殊メイク・アーティストのリック・ベイカーの妻の顔とチンパンジーの目を合成して作った映像にクライヴ・レヴィルが声をアテているが、「特別篇」のDVDでは『ジェダイの復讐』の皇帝役イアン・マクダーミドが演じなおしている。
続篇と整合性を保つためにその処理は理解できるが、ここでもルーカスは「アナキン・スカイウォーカーの息子…云々」という【オリジナル版】にはなかった台詞を加えている。
「特別篇」には、冒頭のワンパやクラウド・シティの住民、シャトルで指令船にもどるベイダーなど、ほかにもこまごまと何箇所か新撮カットが追加されている。
『新たなる希望』の感想にも書いたとおりそれらはどれも蛇足で、完成していた映画のテンポを著しく乱している。
それにしても、自分が監督した作品を勝手に改悪されてしまったカーシュナーは内心どう思っていたのだろう(3作目『ジェダイの復讐』の監督リチャード・マーカンドは映画公開のわずか4年後、「特別篇」の10年前の87年にすでに他界している)。
アーヴィン・カーシュナーはもともとルーカスが通っていた南カリフォルニア大学(USC)の講師だったが、やがて教え子に「使われる」身になったわけである。
彼はルーカスに対してはいっさい恨み言をいうこともなく、2010年に87歳で亡くなった。
アーヴィン・カーシュナー監督、チューイとツーショット。
この人、ポール・ヴァーホーヴェンのあとを継いで『ロボコップ2』も撮ってるんだよね。
つくづく2作目に縁がある人だが、器用だったんだろう。
もっとも、『ロボコップ』の1作目(感想はこちら)が好きだった僕は、『2』は劇場で観てガッカリしたんですが。
でも3作目でロボコップが空飛んじゃうのを観たら、なんか2作目もまだマシだったんじゃないかって思いなおしたけど。
まぁ、いま観たらどれも楽しいけどね。
アーヴィン・カーシュナーにとっても、そのフィルモグラフィのなかでこの『帝国の逆襲』は特別な位置を占めていたのではないか。
たとえルーカスの雇われ監督だったとしても。
ストーリー、演技、特撮、音楽。これらが見事に合わさって、この続篇映画を前作以上のクオリティの作品にした。
ライトセイバーのたたかいについては、ジェダイの騎士たちがピョンピョン跳ね回ったりアクロバティックな動きをするプリクエル三部作を見慣れた目には旧三部作の殺陣は地味で鈍重に感じられるかもしれないが、それはしかたがない部分もあって、なにしろ80年代当時はハリウッドには香港映画のような剣戟アクションは存在しなかったのだ。
ワイヤーアクションやクンフーの殺陣とその撮影方法がようやくハリウッドでも取り入れられるようになったのは、『マトリックス』や『グリーン・デスティニー』、そして『エピソード1』の頃なのである。
だから当時の『スターウォーズ』に「殺陣がショボい」というのは酷な話。
そのなかでもこの『帝国~』は健闘していて、ルークとベイダーのライトセイバー戦はかぎられた時間のなかでなかなか迫力のある場面となっている。
ちなみに、『帝国~』とつづく『ジェダイ』の剣闘シーンでベイダーを演じたのは、フェンシングの元オリンピック選手のボブ・アンダーソン。
その後も「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズや『レジェンド・オブ・ゾロ』などでもソード・アクションの指導をした大ヴェテランだが、「スターウォーズ」シリーズではアンダーソンの名前はクレジットになく、彼がベイダーを演じていたことは旧三部作公開時には伏せられていた。
共演したマーク・ハミルのインタヴューによって彼の功績が公にされている。
この映画でなによりもまず目を惹かれるのが、『新たなる希望』からわずか3年のあいだにめざましく進歩した特撮技術。
いま観てもワクワクするミレニアム・ファルコン号と帝国軍の巡洋艦や戦闘機のドッグファイト。
けっして長々とは見せず、要所要所で見せ場をきっちりと配置している。
CGでなんでも描けるようになったいま、ハリウッド映画は(もちろん邦画も)こういうメリハリのある見せ方こそお手本にするべきだ。
前作『新たなる希望』には70年代の残り香がうかがえたけど、この『帝国〜』の映像の質感や特撮技術は完全に80年代のもの。
もちろん、それを可能にした特撮工房ILMを作ったのはルーカスだ。
ジョージ・ルーカスはしばしばウォルト・ディズニーとくらべられることがあるが、たしかに彼らはよく似ている部分がある。
それは、自分で作品を作り、また映画の技術面でも大きな貢献をしたこと。
その名前自体がブランドになっていることも。
だから「スターウォーズ」シリーズをすべてルーカスが監督したと勘違いしている人たちがいるのも無理はないのかもしれない。ウォルト・ディズニーが存命中に「ディズニー映画」をぜんぶ彼が撮っていたと思い込んでいる人たちがいるように。
ひさしぶりに観て感じたのは、これが「シリーズ最高傑作」といわれるのは、つづく『ジェダイの復讐』でこれまでの伏線がちゃんと回収されたからだよな、ということ(厳密にいうと回収されてなかったりもするが…気にしないよーに)。
もしもこの作品でシリーズが終わってたら、傑作どころか「ふざけんな」といわれていただろう。
完結篇の『ジェダイ~』については文句をいってる古参のファンもいるようだが、それについてはのちほど。
ルークのことを「彼が最後の希望です」というオビ=ワンに、「もうひとりいる」と謎の言葉を残すヨーダ。
囚われた友人ソロを救うため、チューバッカとランドはミレニアム・ファルコン号でジャバ・ザ・ハットのいるタトゥイーンへ飛び立つ。
そして物語はシリーズ最終作につづくのだ。
※レイア姫役のキャリー・フィッシャーさんのご冥福をお祈りいたします。16.12.27
※ダース・ベイダー役のデヴィッド・プラウズさんのご冥福をお祈りいたします。20.11.28
※ダース・ベイダーの声を演じられたジェームズ・アール・ジョーンズさんのご冥福をお祈りいたします。24.9.9
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