川島雄三監督、フランキー堺、南田洋子、左幸子、石原裕次郎、岡田眞澄、芦川いづみ、小沢昭一、梅野泰靖、菅井きん、二谷英明、山岡久乃、金子信雄ほか出演の『幕末太陽傳』。1957年作品。デジタル修復版2011年。
音楽は黛敏郎。撮影は高村倉太郎。
幕末の文久2年、品川の遊郭「相模屋」で飲めや歌えやの大騒ぎを繰り広げた佐平次(フランキー堺)は、一文の金も持ち合わせておらず、遊んだ分を居残りで働くことに。しかし、お調子者の佐平次は自らの困難をものともせず、遊郭に立ち寄った高杉晋作(石原裕次郎)らとも交友し、巻き起こる騒動を次々と片付けていく。(映画.comのあらすじに一部加筆)
山中貞雄監督作品に続き、「Nikkatsu World Selection」で鑑賞。
僕は恥ずかしながら川島雄三監督 (1918-1963) の映画をこれまで1本も観たことがなくて、この『幕末太陽傳』は特に有名だし、これまでにも何度かリヴァイヴァル上映されていたんだけど観逃していました。
それで、今回ようやく観ることができた。
なんで「太陽」なんだろう、と思ってたら、昭和30年代の「太陽族」からなんだな。裕次郎も出てるし。そんなことすら知らずに失礼いたしました。しかし裕次郎は歯並び悪いなぁ^_^; まるで80年代のアイドル歌手みたい。
川島雄三監督は45歳の若さで亡くなったけれど、そのフィルモグラフィを確認すると監督作品は恐るべき本数の多さで、にもかかわらずそれらを1本も観たことがなかったのは情けなかった。『洲崎パラダイス 赤信号』(1956) や『しとやかな獣』(1962) など、タイトルだけは知っていたので、いつかはこれらも観てみたいなぁ。
撮影の高村倉太郎さんは、僕は20年以上前に日活の専門学校で生徒として教わりました(諸事情により、僕は在学中に学校を除籍になってしまったが)。
日活の学校行ってたくせに、日活作品をほとんど観ていないんですが。
古典落語「居残り佐平次」から主人公を持ってきていくつもの落語の演目の要素を組み合わせて作ったという物語は、落語に馴染みのない僕でも楽しめるものでした。
客として訪れた妓楼で、金がないために「居残り」して働くことになる、って話は、長谷川町子の漫画「新やじきた道中記」で似たようなエピソードがあったっけ。
正直なところ、この映画が国内だけではなくて海外でも評価が高い理由はいまひとつわからないのだけれど、まぁ、誰だって楽しめるコメディなわけで、あまり理屈にとらわれずに昭和30年代の初め頃に撮られたこの娯楽作品を堪能。
お客さんは結構入ってましたね。やっぱり人気作品のようで。
主演のフランキー堺は、ご存命の時には僕が観た映画は『写楽』(1995) ぐらいで(映画館でだったか、レンタルヴィデオだったかは失念)*1、その全盛期の出演作も観ていないから*2、フランキー堺という俳優さんのほんとの凄さを僕は知らないんですよね。
TVで「赤かぶ検事」を演じられてて、流ちょうな名古屋弁を喋ってたことが印象に残ってるぐらい。
『モスラ』(1961) のコメディ演技は愉快だったけれど、お年を召されてからはシリアスなお芝居も多かったから、全篇本格的にコメディ演技をしてるところを見るのは今回が初めてかもしれない。
しゃくれてて笑うと猫みたいに目尻がキュッと上がる感じがなんともユーモラスで、もともとミュージシャンだからか身体の動きのキレが素晴らしかったですね。
目立つ存在として、女郎の“こはる”役の南田洋子と同じく女郎の“おそめ”役の左幸子がいるんだけど、お二人ともほんとに美しい。
南田洋子さんといえば、僕なんかは70~80年代以降のCMとか夫の長門裕之さんとの2ショットの印象ばかりが強くて、やはり彼女が若かった頃の映画をまったくと言っていいほど観ていなかったので、あらためてこんな綺麗な人だったんだなぁ、って。
77年の大林宣彦監督の『HOUSE ハウス』ではおばあちゃんっぽい役だったけど、でも当時南田さんはまだ40代半ばだったんだよな。
南田洋子が正統派美人役とすれば、左幸子は劇中でお歯黒をしてることもあって若干フリーキーな顔つきではあるんだけれども目鼻立ちがハッキリしていて、途中で顔だけエマ・ストーンに替わっても気づかないんじゃないかと思うほど(笑)
90年代にヴィデオで今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(1963) を観た時に、左幸子さんの娘から中年女性までを演じ切る巧さ*3とその美貌に惹かれたんですよね。しかもエロくて(^o^)
今村昌平さんはこの『幕末太陽傳』では助監督として名前が出ていたし、脚本も監督と共同で書かれてますね。
今回、「Nikkatsu World Selection」のラインナップの中に今村監督の『神々の深き欲望』(1968) もあったんだけど、上映時間が3時間近くて鑑賞を断念。いつかまたの機会に。
『幕末太陽傳』での南田洋子と左幸子のいがみ合いがほんとに楽しくて、着物姿でキャットファイトするんだけど、思いっきり蹴りを入れてたり、ワンショットの中で走り回って本気でぶっ叩き合ってるように見える。
出演者も、二代目水戸黄門になるはるか以前の西村晃がちょっとだけ出てきたり(黒澤明監督の『用心棒』→感想はこちら よりも前の作品なんだもんなぁ)賑やかで、でも借金のカタに娘を身売りさせる、みたいな展開って『河内山宗俊』でも描かれていたように人身売買の世界で、実は全然笑えないんだよね。
川島監督は売春防止法施行以前の色街に強い思い入れがあるんだろうか。
たくましい女たちが大勢出てくるし、彼女たちはただ気の毒な存在として描かれているわけではないのだけれど、でもそのたくましさの裏には、これも『河内山宗俊』で描かれていたように世を儚んで生きることを諦めざるを得ないようなこともある。
一方では、がめつく稼ぐためなら男を何人も掛け持ちして、結婚を約束する起請文を大量にばらまいたりする。
そういう節操のないやり方を快しとしない“おそめ”は、“こはる”から「お茶っ引き」と呼ばれてブチギレる。
このあたりは笑いどころなんだけど、これだって生きていくために彼女たちは苦労しているんで、笑いと涙は表裏一体。
南田洋子や左幸子が往年の女優、という雰囲気が濃厚なのに対して、大工の父親の借金のために女中として働いていたが、いよいよ身売りすることになる“おひさ”役の芦川いづみは、TVドラマなどで今でもよく見かけそうな顔の人だなぁ、って。可愛い(^o^)
相模屋の主人が金子信雄で、女将が山岡久乃、その道楽息子が梅野泰靖。
この一家、昭和の香りがするなぁw
梅野泰靖さんは三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』(1997) で西村雅彦の後ろでいい加減なことばっかり言ってる芸能マネージャーを演じてました(三谷作品にはそれ以外にも出ている)。
この『幕末太陽傳』でもほんとにテキトーなんだけど、でもおひさちゃんに惚れちゃって佐平次の手を借りて最後には二人して駆け落ちする。
小沢昭一演じる、あばたの金造「アバ金」のコントみたいなメイクがほんとに見苦しくて^_^; ふんどし一丁になったり桟橋から水に落とされたり幽霊の真似したりと全力でコメディ演技を頑張ってる。「小沢昭一の小沢昭一的こころ」、懐かしいですが。
まだスターリンとは似ても似つかない頃の岡田眞澄が超絶イケメンながら気弱そうな若衆役で出演していて、何度も「日本人離れした顔」とイジられる。
悪い風邪を引いて咳をしながらも「地獄も極楽もあるもんけぇ。俺はまだまだ生きるんでい」と言い残して走り去っていく佐平次の後ろ姿に、清々しさとわずかな苦みとなんとも言えないかっこよさを感じる。
時代を駆け抜けていった多くの人々をスクリーンの中で見つめながら、僕はこの現実を生きている。まだまだあらたな出会いはあるでしょう。
昭和30年代の映画って、ほんとに僕は観ていなくて馴染みがないんだけれど、面白い映画がたくさんありそうですよね。
デジタル修復されて綺麗な画面になって観られる機会が増えたから、できればこれからもあの時代のいろんな映画を観たいです。