※以下は、2010年に書いた感想です。
山本寛監督、川島海荷、金田哲(はんにゃ)出演の『私の優しくない先輩』。2010年作品。
九州の小さな島を舞台に、空想癖がある女子高生と彼女が好意を寄せている先輩、そしてそんな彼女に告白させようとあれこれ画策する「ウザい先輩」とのドタバタが描かれる。
この監督さんのアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」はあいにく観ていません(漫画は1ページ目で挫折)。
とゆーか普段アニメを観る習慣がなくなって久しいので、あえて観てみようという気が起こらなくて。
そんなわけでアニメーション監督の第1回実写作品ということ以外よくわかってないんだけど、なんとなく興味をそそられたんで観に行きました。
以下、ネタバレあり。
とにかくもう、主人公の女子高生役の川島海荷は映画の中でず〜っと「愛治君が好き!」とか「キス?いや〜ん」とか、そんなことしか言わないんである(勉強しろよ〜)。
こーゆーのを昔から「色気づきやがって」と言うんだけど、これが中学生じゃなくて16歳の高校生だってところはかえって幼いなぁ、と。
まぁそんなこと言ったら身もフタもないんですが。
クサくてウザくてキモい先輩役の金田哲の演技は「爆笑レッドシアター」*1のコントとあまり変わらず一本調子で深みはないんだけれど、キャラ的にはピッタリの配役だったんではないかと。
それにしてもつくづくこの人はヴェロキラプトルに似てるなぁ。
でもウザいのはたしかだけど、実は川島海荷が忌み嫌うほどクサくもキモくも暑苦しくもないこの先輩には、実際には劇中で強調されてるような「生臭さ」はまったくない。
あらためて言うまでもないけど、現実の高校男子ってもっともっと生臭いっスからね。比喩じゃなくてほんとに身体中が^_^; 校舎裏や部室の中ではキスどころの騒ぎではない。
だから僕はてっきりこの先輩はほんとは「存在してない」、主人公が心の中で作り出した妖精か天使みたいな幻なんだろうと思ってたんだけど(笑)さすがにそういうわけではなかったみたいで。
川島海荷演じる主人公のヤマネコこと西表ヤマコ(スゴい名前だけど、たしかに川島海荷の顔ははネコ科の動物っぽいな)はつねに地上から数cm浮いてる女の子。
暑苦しいことや現実の生々しさを避けて、憧れの愛治君を前に舞い上がっておヘソ丸出しで唄って踊るところなんかは実になんとも…眩しい。
しかし、この脳内お花畑少女が全篇に渡って延々喋り続けるモノローグの中身に、次第に腑に落ちないものを感じ始めたのだった。
元いじめられっ子の眼鏡少女に対する上から目線の優越感。
そしてヤマコがおめめキラキラさせながら憧れるほど魅力的にはどーしても見えない愛治君。
何よりも彼女がいつも語ってるのは自分のことだけ。自分にしかキョーミないご様子。
やがてそれは作り手の意図的な演出だったことがわかるんだが。
…意外とキモチ悪い映画でした。
いや、別にケナしてるんじゃないんですが。
鼻で笑って軽く流すこともできそうな他愛ない話ではあるけれど(心臓云々の話はあまり真剣に受け取るようなものではないと思う。美少女はいつだって病いに侵されるものだし)、もうとっくの昔に忘れてしまったはずの中高生時代の狭い世界の悩みだとか妄想なんかがフラッシュバックしてきて。
観終わってちょっと思い出したのが、今敏監督のアニメーション映画『千年女優』(感想はこちら)だった。
『千年女優』(2002) 監督:今敏 声の出演:荘司美代子 小山茉美 折笠富美子
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あの映画で時を越えて愛する男性を追いかけ続けたヒロインが最後につぶやいた一言は、多分この『私の~』のヤマコ=川島海荷のキャラクターにも言えることなんじゃないだろうか。
“私”が本当に大嫌いだったのは押しつけがましくてうっとーしい“先輩”じゃなくて現実の自分自身だった、っていう話。そして私が好きなのは現実の誰かではなくて、その誰かに「恋してる私」なんだ、ってこと。
だからほんとの愛治君がどんな奴だろうと関係ないんである。
それだけ、っちゃそれだけなんで「なんだこれは」と感じる人もいるかもしれない。
正直言って僕も女の子が勝手に恋して勝手に自己完結してしまう映画は苦手ではあるし、しかも主人公は実は…っていう『パコと魔法の絵本』系の設定には「そーゆーのはもういいよぉ」といささかゲンナリしそうにもなるんだけど、そこはとにかく川島海荷のおそらく今でしか表現できない魅力が詰まった貴重な記録ということで。
「まだ終わってないよ」。
川島海荷のこの一言で、宇宙の一部になったはずの少女の恋物語はまたいつでも始められるのだ。
エンドロールで彼女が唄う、広末涼子の曲のカヴァーがちょっと懐かしかったです。
majiでkoiする5秒前
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【川島海荷】认真恋爱5秒前(MUSIC JAPAN 2010.07.25)_哔哩哔哩_bilibili
*1:もはや懐かしの番組ですが。