佐藤純彌監督、高倉健、千葉真一、宇津井健、山本圭、織田あきら、渡辺文雄、鈴木瑞穂ほか出演の『新幹線大爆破』。1975年作品。
かつては中小企業の経営者だった沖田哲男(高倉健)は倒産して借金を抱え、町で偶然出会って以来面倒を見てきた大城(織田あきら)、学生運動崩れの古賀(山本圭)らと3人で計画し新幹線に爆薬を仕掛けて国鉄に500万ドルを要求する。爆薬は新幹線が時速80キロ以下になると爆発するようにセットされていた。運転指令室長の倉持(宇津井健)は警察と連携を取り、乗客1500人の命を守るために運転士の青木(千葉真一)に途中の駅で停車せず爆薬を取り除くまで走り続けるよう指示を出す。
昨年11月に亡くなられた高倉健さんを偲んで。
現在、ちょうど「第三回 新・午前十時の映画祭」で公開中ですが、レンタル店でDVDをみつけたので借りてきました。
当時のオールスターキャストによるパニックアクション映画。
僕は今回が初見なんですが、なんでもフランスで人気があったとかいう話はどっかで読んで知っていました。僕は当時の映画に詳しくないのでその評価の高さに興味をそそられて、機会があったら観たいと思っていた。
日本映画って、海外ではクロサワやオヅ、あるいは芸術系の作品以外のアクション物などはそのキッチュさを面白がられることはあっても純粋に娯楽映画として商業的に成功することってほとんどないと思うんですが、その珍しい例のようで。
この映画には主要登場人物からほんのチョイ役まで数え切れないぐらいの有名俳優たちが出演していて(刑事役でウルトラマンのハヤタ隊員も)とてもすべてを把握しきれないのだけれど*1、そんな日本の俳優たちを知らない外国の人々まで魅了した、というのがなんとも興味深い。もっとも海外で公開されたのは、犯人側のドラマが大幅にカットされた短縮ヴァージョンらしいけど。
今にも上半身裸になってトンファーで闘いだしそうな千葉真一が暑苦しい顔で運転士を演じていて、正直この役を彼が演じる意味があるのかどうかよくわからなかったのだけれど、運転指令室長役の宇津井さん相手では地味めの俳優さんだと存在感が埋没してしまうだろうから、千葉さんのキャラ(&顔)の濃さがちょうどいいバランスにはなっていた。
主演の健さんは、最近は晩年の映画での枯れた姿を見ていたから、当然ながら40代の当時は若く精悍で声にも張りがある。
多くの人たちは60年代の任侠物やこの時代の健さんこそが「高倉健」のイメージなんだな、とあらためて思った。逆にいえば、高倉健という俳優は50年以上も自分のイメージをずっと保ち続けてきた、ということ。
この映画に関しては特に新幹線のミニチュア撮影に興味があったので注目していたんですが(特撮はウルトラマンのキャラクターデザインなどで有名な成田亨)、まぁ、ミニチュアの場面は観ていればそれと気づくんだけど、健闘していたかな、と。
爆発はもうちょっとリアルにやってほしかったけど。
それよりも本物を使って撮影された機関車の暴走シーンの方が迫力があった。
あれどうやって撮ったんだろう。
撮影には国鉄からは一切協力が得られなかったそうで(新幹線の安全神話を揺るがすようなストーリーだから無理もないが)、隠し撮りとセット撮影とミニチュア撮影を編集で組み合わせることで臨場感を出していて、これも今の目で見れば違いは一目瞭然なんだけど、「映画」というのは最終的に編集で作り上げられるものなのだということがよくわかってなかなか楽しい。
この映画は爆薬が時速80キロ以下になると爆発するという設定が、ヤン・デ・ボン監督、キアヌ・リーヴス主演の『スピード』の元ネタになっているといわれるけど、いかにも90年代的なノンストップ・アクション映画だった『スピード』と比べるとずいぶんと古めかしいのは否めない。
主人公の沖田自身は新幹線には乗らないので、新幹線内のタイムリミット・サスペンスと沖田の500万ドル強奪をめぐる警察との攻防はまったく別の場所で同時に進行する。
『スピード』のキアヌとデニス・ホッパーみたいに千葉ちゃんと健さんが直接闘ったりはしない。
特に沖田の回想で犯人側の3人の男たちの過去が振り返られる部分はいかにも70年代的な泥臭さに溢れていて、正直冗長だと思った。上映時間は150分以上ある。
選択肢としてはジャック・ベッケルの『穴』みたいに主人公たちの過去を一切描かない、という作劇だってあると思うんだけど、主演が高倉健ということで敢えて人間ドラマを入れた模様。
「人間ドラマ」といっても、沖縄から集団就職で東京に出てきたが何事もうまくいかずに主人公に拾われた青年や、学生運動の内ゲバで人間不信に陥った男という負け犬たちのしょぼくれたエピソードはありきたりで新幹線の爆破という派手なサスペンスアクションとそぐわないし、そもそもカタギであるはずの沖田がなぜあのような大勢の人命にかかわる大それた犯罪を実行に移したのか(たとえば新幹線に仕掛けられた爆薬は実はダミーだった、というようなオチがあれば、よりドラマティックだっただろうに)、彼の人としての倫理観に大いに疑問が湧くので、そういう薄っぺらい人間描写が端折られたっていっこうに困らない。
しばしばこの映画については「反体制」という言葉が使われてそれゆえに高く評価するような感想を散見するんだけど、社会に対するルサンチマンを晴らすために無関係な一般市民を巻き添えにする沖田たちはテロリストそのものであり(古賀も「やり遂げることに意味がある」と言っているし)、僕は彼らに共感も同情も一切覚えない。
別に映画の主人公や仲間たちが反社会的な行為に及んだって構わないと思うけど、だったらむしろそれに「反体制」「反権力」などという理由付けなどせずに、彼らの犯行の動機は曖昧なまま観客の想像に委ねた方がよっぽど映画として誠実だったと思う。
海外で公開されたのはこの人間ドラマをほぼカットして100分ちょっとに縮めたヴァージョンらしいので、フランスをはじめ各国でウケたのは健さんのドラマパートではなくて、アクションがらみの部分と千葉ちゃんの出演シーンなんですね。
ということは、海外版では山本圭や織田あきらが演じた仲間たちのシーンはほとんどなくなってるということだな。
ちょっとその短縮ヴァージョンを観てみたいと思った。
『スピード』みたいに余分なドラマをそぎ落とした観やすい映画になってるかも。
まぁ、1970年代当時の時代風俗を見る楽しみ(新幹線の食堂車とか)があるから、オリジナル版の一見冗長なドラマ部分も懐かしい雰囲気で目に心地良かったですが。カーラーで髪の毛巻いた女性なんかも「サザエさん」の登場人物みたいで可笑しい。
全体的に良く言えば猥雑でエネルギッシュ、悪く言えばわざとらしい演出が目につく。
新幹線に爆薬が仕掛けられたのを知った乗客たちがパニックを起こす描写も、何かといえばやたらと襟のデカい油ギッシュでむさ苦しいオヤジたち(と妊婦)がわめき、中には狂って唄って踊りだしたりする奴も。
そのパニックを起こす役者たちの演技が総じて大仰で鼻につく。
人間というのはいざとなったらぶざまで醜い姿を晒すものだ、という、東映のヤクザ映画の根底に流れていた、あるいは終末ブームが蔓延していた70年代的な(リアルタイムでは知りませんが)どこか突き放した人間観。
だからこそ、最後に乗客たちの命が助かるのが感動的といえるのかもしれないが、ほんとに「人間ドラマ」を描く気があるのなら、犯人側や乗客たちの事情や彼らの焦り、そしてその後の変化を一人ひとりもっと丁寧に掘り下げるだろう。
その辺は結構“雑”なのだ。
だから、テンポを優先させてオリジナル版を短くした海外版が必ずしもこの映画の面白さを損ねているとは限らない。観てないからわからないけど。
ところで、新幹線っていっぺんに1500人も乗れるの?乗車率何パーセントなんだ。
1500人の命が、とか言ってるわりには描かれてるのはわずか2両分ぐらいですが。騒いでるのはいつも同じ連中だし。
登場人物たちがところ構わずどこでもタバコを吸っているのが時代を感じさせる。
それにしても、犯人の正体がわかっているのに彼の写真が一枚もない、というのは、そんなことありうるんだろうか。会社経営してたのに。
どーでもいいけど、司令室のおっさんたちが何度も「バンザーイ!バンザーイ!」と両手を挙げて万歳三唱してる姿がまるでハリウッド映画に登場するインチキ日本人みたいで、凄ぇ見苦しかった。あんなもん海外の観客に自信満々で見せてたんなら恥だ。オヤジどもの万歳三唱の姿は醜い。
結論としては、一部の人々が持ち上げているほどの傑作だとは思いませんでした。
B級アクション映画以上でも以下でもないと思う。日本ではそういう映画があまりないから持てはやされているんでしょう。
こういう映画が当時大量に作られていたんなら日本映画も企画力や体力があったんだなぁ、と感心するけど、大作映画として満を持して封切られたものの日本ではヒットせず海外でたまたまウケたんで逆輸入みたいな形で評価されたことからも(『スピード』の件などもそうだが)、ちょっと“クール・ジャパン”めいた自画自賛的なものを感じる。
いや、健さんをはじめこの映画に携わった人々のことをとやかく言うつもりはないですが。
過度の期待もせずに観たら普通に楽しめるだろうし。
特に某秘宝系の人たちが「あの頃はよかった」的に吹聴する70年代がほんとにそうだったのかどうか知らないが、これはいろんな意味で荒々しく混沌としたあの時代を反映した映画だったのかもしれない。
※千葉真一さんのご冥福をお祈りいたします。21.8.19
※山本圭さんのご冥福をお祈りいたします。22.3.31
※鈴木瑞穂さんのご冥福をお祈りいたします。23.11.19
関連記事
『ブラック・レイン』
『あなたへ』
『カサンドラ・クロス』