※以下は2010年に書いた感想に一部加筆したものです。
小林監督のイラクで起きた日本人人質事件に関わった女性を描いた『バッシング』というタイトルの作品は憶えてましたが、作品を観るのはこれが初めて。
足の不自由な老漁師と孫娘のロードムーヴィー。
ともかく予告篇で観た仲代達矢と徳永えりが演じる祖父と孫娘のたたずまい、特に赤いジャンパーを着た“春”役の徳永えりのガニ股走りにはなんだか抱きしめたくなるような愛おしさをおぼえて(抱きしめられたら迷惑だろうけど)、これは観に行こう、と思ったのでした。
徳永えりが『フラガール』に蒼井優の親友役で出てたことを今回初めて知った。
徳永さんは撮影前に参考のために仲代達矢主演、黒澤明監督の『影武者』を観たら、「この人と対峙するのか」とひるんで仲代さんのその他の出演作を観られなくなってしまったんだそうで…そりゃいきなり『影武者』からいったらひるみもするでしょうよ(そう考えると御大とケンカして「無名塾」辞めた真木よう子は鉄のハートの持ち主だな)。
せめて『ハチ公物語』あたりから始めればよかったのに。
仲代達矢といえば、若い頃「目が死んでる」と叩かれたり、彼が出演している小林正樹監督の『切腹』か五社英雄監督の『人斬り』だったか(それとも岡本喜八監督の『斬る』だったかな?)を観たアメリカのハーレムの黒人が「あの眼つきは絶対何か(クスリを)ヤッてる」と言ったというステキなエピソードなんかを思い出します。
たしかに『殺人狂時代』の仲代さんの目はヤバかったけど。
『殺人狂時代』(1967) 監督:岡本喜八 出演:仲代達矢 天本英世
www.youtube.com
五社監督の『陽炎』で、スローモーションで踊りながら登場する仲代さん(ほんとは踊ってるんじゃないけどそう見えた)に爆笑させてもらった記憶が。
…なんかバカにしてるような書き方だけど、そんなことないですよ。
ただ、定期的に観返す黒澤作品もそうだし、今でもわりと頻繁に若い頃の出演作を拝見する機会があるから「老人役」といわれてもピンとこなかったりするんだよね。
77歳(※映画の公開当時)、って意外と若いんだな、とか。
『椿三十郎』(感想はこちら)で強面の室戸半兵衛役だったけど、三船敏郎にブン殴られてた若い侍役の平田昭彦や土屋嘉男の方が年上だったんだよな。
さて、そんな仲代達矢がわがままで甘えんぼな老人を演じるこの映画。
以下、ネタバレあり。
けっして巧い映画ではないと思う。
リアルなようでリアルでない台詞廻しとかところどころ無理がある展開、あぁ、ここはもっと自然に見せられなかったんだろうか、ちょっと“演技が古くないか?”と思う場面もいくつかある。
また音楽が垂れ流し気味だったのも残念。佐久間順平による劇中曲はとても切なくて美しい旋律だっただけに、もっと大切に使って欲しかった。
あと細かいことだけど、ほとんどすべての切り返しショットで律儀なぐらいキャメラがイマジナリーラインを越えてて、向き合って喋ってる役者たちの目線が互いに合ってないのが気になったんだけど、あれはわざとなんだろうか。しかしなんのために?
そして何よりあのラスト。
…あれは「映画の嘘」だよなぁ。
あんなふうに呆気なく美しく散ることができたら…という夢想はあるけど、多分現実はそうはいかない。
高倉健の『鉄道員(ぽっぽや)』もそうだったけど、唐突過ぎるんだよな。あんだけ元気な人がいきなりあんなふうに劇的にくたばるかって。
映画の作り手があの二人に与えた結末には納得できなかった。
これから待っているさまざまな現実から逃げて、淡島千景が仲代達矢にかけた言葉を裏切る結果になってしまっている。
すべてに甘えてきた男が孫娘にすべきなのは電車の中で安らかにこと切れることではなく、「姉ちゃん」に言われたように苦しくても強く生きていくことのはず。
柄本明演じる弟の至極まっとうな罵声に報いるためにも。
それを主人公から奪ってしまった監督の判断が適切だったかどうかは疑問。
と、不満はありながらも観てよかったと思います。
長兄夫婦役の大滝秀治と菅井きん、姉役の淡島千景など大ヴェテランをはじめ、ほんのちょっと出てくるだけの俳優たちが皆とてもいい。
田中裕子の「食堂のおばさん」ぶりも見事。
もう二度と会うことはないかもしれない人々との束の間のふれあいと別れ。
徳永えりの前かがみのガニ股走りはユーモラスというより痛ましさを感じてしまって、足を引きずる仲代達矢と一緒に歩く彼女の後ろ姿にはちょっと目頭が熱くなった。
監督に指示されたあの歩き方で徳永さんは脚を痛めたそうです。ほんとにおつかれさまでした。でも苦労は報われたと思います。
べらんめぇ調で喋ってたと思うと「〜なの?」と急に可愛い口調になったりする仲代さんが面白い(しかし、生まれて一度もコーヒーを飲んだことがなくてどーやって飲めばいいのかわからない70代なんて、今どきいるんだろうか)。
かつて出会ったこういうタイプのオジサンたちを思い出す。
まぁ、実際に身近にいるとけっこうやっかいな人々だったりするんだが。
同じ映画館で観ていた“リアル爺ちゃん”たちは、祖父と孫娘の北国行脚とあの結末をどう感じたのだろう。
地味な内容だけど、この映画はこういうジャンルの映画にわりとある、演技の素人を使ってその存在感で映像的な“リアリティ”を出す、というタイプの作品ではなくて、その道のプロたちが集まってしっかりと「芝居」をしている。
映画における「演技」というものについて考える上でもとても参考になる作品だと思います。
上映時間が134分だったことを知ってちょっと驚き。全然長さを感じなかった。
また一本、心に残る映画が。
仲代さんが美味そうに2杯続けてイッキ呑みしてたワンカップ「男山」が呑みたくなりました。
※大滝秀治さん、淡島千景さん、菅井きんさんのご冥福をお祈りいたします。
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