※以下は、2011年に書いた感想に一部加筆したものです。
パンナー・リットグライ、トニー・ジャー共同監督、トニー・ジャー主演の『マッハ!参』。2010年作品。
国王の息子ティンは謀反を起こした家臣ラーチャセーナによって両親を殺され、逃げのびて山賊の頭に引き取られる。そこで仲間たちとともに修行して武術を体得した彼は成長して、いまや王になろうとしているラーチャセーナに復讐するために彼の即位式におもむくが、顔にイレズミをした強敵に倒され捕らえられてしまう。
『マッハ!!!!!!!!』シリーズ第3弾。
これは前作『マッハ!弐』(感想はこちら)と前後篇になっているので、もしもこの映画だけをいきなり観ても、ちょうど『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をPART 3から観る以上に意味不明だと思います。
興味をもたれたかたは『弐』からごらんください。
その『マッハ!弐』は日本でも劇場公開されたにもかかわらず、よほど興行成績が悪かったのか、その続篇にして完結篇である本作はなんとDVDスルー。
正直いって『弐』の劇場公開時に観に行ってイヤな予感はした。
公開初日だというのに映画館ガラガラだったので。
で、観終わって、たしかにこれはヒットは難しいだろうな、と思った。
超絶スタントと笑いのコンビネーション、アクションシーンを違うアングルでくりかえし見せる往年のジャッキー・チェン主演作品を彷彿とさせるスタイルで観客を沸かせた1作目とはまったくテイストの異なる映画だったから。
『マッハ!!!!!!!!』(2003) 監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ 日本公開2004年
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舞台はアユタヤ王朝時代、しかも「笑い」の要素ゼロのタイ版『アポカリプト』だった。
トニー・ジャー演じるティン(主人公の名前は1作目と同じ)は渾身の力をふりしぼって敵を叩きのめすが、そこには1作目のようなアクションの爽快感はほとんどない。
「アクション映画」というよりは「残酷ヴァイオレンス映画」。
あっけにとられて当然。とても同じシリーズとは思えなかった。
そして衝撃のラスト。
物語が完結しないままティンは敵に負けて映画は終わってしまう。
この時点では前後篇ということを知らなかったから、これにはいっしょに観に行った友人ともども呆然とした。
ほかにもこの映画を観たという友人がいたけど、案の定、芳しい評価は聞けなかった。
しかしこの「完結篇がDVDスルー」というのは、いってみれば『スターウォーズ 帝国の逆襲』でハン・ソロが冷凍保存されて連れ去られたまま、その続篇が映画館で上映されないようなものだ。
そんなバカな。
トニー・ジャーのムエタイやその他のさまざまな武術を組み合わせた肉体アクションはあいかわらず超人的だったし(象さんたちも大活躍)、それなりに見ごたえもあっただけに、世間のあまりのスルーっぷりはちょっと納得しかねるものがあった。
それでもあれから2年近く経ってこの映画を観たことも忘れかけてた今年の夏に、その続篇がひっそりとDVD化されているのをレンタル店で発見したときの寂しさといったら。
1作目のヒットがあまりに鮮烈だっただけにこの尻すぼみな終わり方はあまりに残念だけど、ともかくシリーズの締めくくりを見届けようと借りました。
日本の予告篇(削除されちゃったけど)では「これで引退?最後のトニー・ジャー」とかいってまるでアクション俳優を辞めちゃうかのような雰囲気をかもし出してたけど、今後も『トム・ヤム・クン2』*1の撮影の予定があるし別にこれが最後でもなんでもないんで勝手に終わらせないよーに。
たしかにトニー・ジャーはこの『マッハ!参』の完成後、いっとき引退を宣言して仏門に入っていたらしい。
『マッハ!弐』の撮影中にいろいろとトラブルに見舞われて、黒社会の人間に追われてるとかなんとか物騒な話もあった。
よほど大変な目に遭ったんでしょう。
でもその後、還俗して映画界に復帰している。
なのでこれからもトニー・ジャーは映画を撮りつづけます(よね?)。
以下、ネタバレというほどのものではないです。
なぜならストーリーらしきものはほとんどないから。
映画は、ティンが前作で敵の手に落ちて拷問をうけるシーンからはじまる。
作品の印象は前作に引きつづき、よくいえばリアルで重厚、悪くいえば陰惨。
とにかく執拗に繰り返される拷問シーンには、なぜここまで主人公を痛めつける必要があるのか疑問がわいてくる。
前作は『アポカリプト』だったが、今回は『パッション』でほぼ全篇にわたって拷問されつづけていたキリストの姿が思い浮かんだ。
なんだろう。トニー・ジャーはこのシリーズでメル・ギブソンをリスペクトしてんのか?^_^;
村人たちは瀕死のティンを救うために自分たちの金製品を持ち寄って溶かし、それで仏像(オン・バク)を作る。
このオン・バク像が、1作目で現代のティンが住んでいた村に安置されていたあの仏像ということですね。
こうしてお話はつながったわけだ。
村人たちの祈りと幼なじみの女性ピムの手厚い看護によって一命をとりとめたティンだったが、彼の身体は自由がきかなくなっていた。
絶望してついには崖から飛び降りようとするまでに思い詰めたティンに、彼を助けた僧侶が語る。
ティンという名前は“ともし火”という意味。
そして“ともし火”は「光」の象徴である。
英知である光が、無知である闇を払うのだ、と。
これは「光」が「闇」を倒す、古典的な英雄譚。
こういう神話的な話は好きだし、どん底に落ちて這いずり回って苦しむティンの姿に、実際なにがあったのかつまびらかではないけれど現実の世界でずいぶんと苦汁をなめたのであろうトニー・ジャー本人がかさなって、「これ以上なんのために生きていけばいいんだ」という彼の叫びには異常なまでの実感がこもっていた。
ただ、このティンが命拾いして復活するまでがとにかく長いのなんのって。
なっかなか立ち直らないのだ。
彼を励ますピムにむかって「消えてくれ!」と言い放って悩み死のうとするものの、僧侶の言葉で思いとどまって瞑想とリハビリによって気力と体力を回復、決戦にそなえてトレーニング。
その過程をこれでもかというほど延々とやってる。
ひとりの人間が力を取り戻すまでを丁寧に描いているといえるが、正直かったるかった。
ティンとピムがふたりで踊る場面はなかなか美しい光景なんだけど、あまりに長いんでちょっと時間稼ぎにも思えてしまった。
一方、王になった伊吹吾郎似のラーチャセーナは呪いを怖れるあまり正気をうしないはじめ、自分の手下までをも手にかけるようになる。
やがて狂える王はイレズミの男の手にかかってあっけなく命を落とす。
あたらしく王座についたイレズミの男に、ティンは最後の戦いを挑むのだった。
以上のごとく大変シンプルな話なんだけど、もたもたと非常にもったいぶって描かれるためにもどかしくて仕方なかった。
結果的には、カタルシスをほとんど感じることができない、かなり残念な作品でした。
作品のクオリティは前作よりもさらに低くなっていた。
いや、イイカゲンに作ったとは思わないし、力作なのはわかる。
でも、いいたくないけどあまり面白くなかった。
なにしろ、ようやくお話が動き出すのは映画がはじまって1時間を越えた頃なのだ。
主演した『七人のマッハ!!!!!!!』ではバイクに乗ってトラックに衝突したり突っ込んでくる車の車輪を間一髪で避けたりと、「バッカじゃねーの(^▽^;)」とあきれるぐらいの凄まじいスタントを披露していたダン・チューポンは今回は顔にイレズミの入った悪役を熱演しているが、しかし94分の作品で話が転がりはじめるのが60分を過ぎてからって、それはあまりにも遅すぎだろう。
『七人のマッハ!!!!!!!』(2004) 監督:パンナー・リットグライ 日本公開2005年
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それとこれは前作のときから気になっていたんだけど、チューポンはこの映画ではイレズミのメイクをして長髪のためトニー・ジャーと顔の見分けがつきづらくて、一瞬どちらか判別できないときが何度かあってとても紛らわしかった。
あと、これは映画の出来とは関係ないけど、『マッハ!弐』の感想でも書いたように「ワイヤーを使わない」というのは日本の配給会社が勝手にいってることなので。
基本トニー・ジャーは使ってないようだけど、ダン・チューポンが人を投げ飛ばしたりジャンプしたり空を滑空する場面などでワイヤーが使われている。
なんかいつのまにかワイヤーを使うのが悪いことか恥ずかしいことみたいに考えられてるフシがあるけど、ジャッキーだってワイヤーは普通に使ってるんだからね。
そしてクライマックスの戦い。
イレズミの男はあきらかに人智を超えた力をもっていて、刀で刺されても死なない。
ティンとの戦いも勝負にならないかに思えたが、ティンの力によって(?)雷に打たれて神通力をうしなう。
これで対等の力になったと思いきや、イマイチ盛り上がらないまま戦いはあっけなく終了。
ここでグッとこさせなきゃ、これまで観客にず~~っとガマンさせてきた意味がないでしょうに、どうしたんだトニー・ジャー!!!
前作はアクションシーンにまだ見るべきところがあったが、今回はちょっと擁護できない。
前作の撮影途中で制作が中断したりしてさまざまな事情でこういう形にせざるを得なかったのはわかるんだけど、それでもやはりこれは前作と合わせて1本の作品として完成されるべきだった。
本来1本のはずのものを2つに分けたんだから冗長になるのは当たり前。
でもせめて最後の戦いのあとにピムや僧侶と喜び合うシーンを入れるとか、それぐらいはできたんじゃないの?
エンディングぐらいきっちりシメてほしかった。
そんなわけで、アクション映画にくわしい人はどう感じたのかわからないけど、僕はとてもフラストレーションが溜まりました。
人にはオススメしません。
それでも苦しい状況のなかでなんとか映画が完結できたことはよかったと思います。
これでトニーも先に進めるでしょう。
一度は引退して出家までしたが、彼はふたたび帰ってきた。
『トム・ヤム・クン2』では、妹分みたいな存在で日本でも人気のアクション女優ジージャー・ヤーニンと共演するという話も。
かつてジャッキーが『ポリス・ストーリー3』でヒロインにミシェル・ヨーを迎えてスタントアクションをさらに盛り立てたように、トニーが彼同様にタイのアクション映画界のみならず世界の至宝であるジージャーとともにあらたな傑作を作り出してくれることを期待しています。
今度こそ「痛快アクション」をお願いしますよ、トニ~・ジャ~~!!!!!!!!
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*1:日本公開タイトル『マッハ!無限大』。