ガース・ジェニングス監督『リトル・ランボーズ』。2007年作品。日本公開2010年。
ランボウ、といってもかつてディカプリオが演じたフランスの詩人ではなくて、おなじみ“独りぼっちの軍隊”の方。
以下、ネタバレなし。
てっきりアメリカ映画だと思っていたら、イギリスとフランスの合作だった。舞台は英国。
PG12なのは子どもがタバコを吸うシーンがあるからかな。万○きもするし。
画面の色合い、日差しが温かくノスタルジックなルック。イギリス映画というと曇天、という勝手な思い込みがあるので意外な感じがする。
時代がいつ頃なのか最初はわからなかったけど、登場人物たちの服装やメイク、カセットデッキやヴィデオデッキ、ヴィデオカメラの形などからおそらく1980年代かと。
キリスト教の厳格な宗派である家庭に住む主人公のウィル少年と、親と離れて兄と二人で生活しているリー・カーター少年の友情の物語。
彼らが夢中になるのは映画作り。
お手本はご存知シルヴェスター・スタローンの『ランボー』。
冒頭から映画館でいきなり「映画泥棒」しているリー。
リーを演じるウィル・ポールターのツラ構えがもういかにもな「やんちゃ顔」。
ハリウッド映画なら即いじめっ子役にキャスティングされること間違いなし(その後『ナルニア国物語/第3章』に出演)。
悪童リーのウィルへのちょっかいの出し方なんかは典型的な問題児童の行動パターン。
でもそんな彼も家では兄貴の友達に面白半分に痛めつけられたり、横暴な兄のために毎朝朝食を作ったりしている。
一方、ウィルは一切の娯楽を禁じられていて、リーと付き合うのも家族には内緒。
一見まったく逆の性格に見える二人の共通点は父親がいないこと。そして表現の欲求に駆られていること。
それはウィルが聖書に書き込んだ物語をもとにしてリーのヴィデオカメラで撮影する、共同の「映画作り」となって結実する。
劇中『ランボー』が大きくフィーチャーされてはいるものの、スタローンやランボー、アクション映画などに対するいわゆるヲタク的な薀蓄やパロディ要素は一切なくて、二人の少年たちは別に映画マニアでもない。
ウィルが演じるのは“ランボウの息子”(映画の原題:Son of Rambow)。捕らわれの父親を救うために彼は戦うのだ。
映画制作そのものが“父親”の代わりを担っている。
そんな彼らも、普段は明るく振舞ってはいても、ときに心の中に溜め込んだ寂しさや鬱屈が見え隠れする。
ほっとかれてるから何もかも自分でやらなければならない。あるいはあれもダメこれもダメと戒律で縛られ、大人たちから理不尽に禁欲を強いられる。
といっても彼らは“可哀相な子どもたち”では全然ない。
可哀相などころかけっこうたくましい。
家で親たちとモメながらも映画を撮ることをやめないウィルは、どんどん増えていくメンバーたちに巧みに指示を出して見事な映画監督ぶりを見せる。
それが逆にリーとの絆を脅かしてしまう描写は身につまされる。
「自分たちだけのもの」だったはずの大切な宝物が他人に乗っ取られる不快感。
“イケてる奴”と仲良くなると、友情を誓った者が離れていくジレンマ。
映画制作のメンバーになる連中もみんなイイ顔してる。
この映画の出演者は、教会の牧師からちょっと呆けかけてるおばあちゃんまで、みんな顔が実にそれっぽいので作り物っぽさを感じさせない。
それにしてもイギリスのガキどもはやりたい放題だな。すっごく楽しそう。
フランスから来たディディエの調子コキぶりも、いたなぁああいう奴、なんて思いながら。
しかしイギリス人がフランス人に憧れることってあるんだな。
物語そのものは、クライマックスも含めてまぁお約束どおりではあるんで別に意外性はないんだけど、少年たちの演技、彼らのやりとりの細かいディテールが実に面白い。
女の子たちの描かれ方がちょっと雑だけど(でも「あるある」って思う)。
『ハリー・ポッター』もいいけど、やっぱこういう学校風景の方にリアリティを感じるなぁ。
この作品の登場人物たちは、ウィルや母親に宗派の教義を押しつけてくるジョシュアを除けば基本みんなイイ奴として描かれてて(リーの兄貴でさえ)後味は悪くないように撮られているんで、そういう意味では安心して観ていられる。
現実にはここ最近でも小学校や中学校などで悲しい事件が頻発しているし、個人的にも少年時代をただ無邪気に懐かしがることは出来ないんだけど。
だからもっと陰惨な話にだってできたと思うけど、人生の明るい面を見せることで希望につながる映画になっている。
なかなかステキな少年たちの成長物語でした。
でもこの映画が撮られたのはもう5年前なので、あの二人の少年たちも今じゃ成長してもっとゴツくなってるんだろうな(※その後、主演のビル・ミルナーは『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の冒頭で少年時代のマグニートーを演じている。感想はこちら)。
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