ベン・アフレック監督・主演、レベッカ・ホール、ジェレミー・レナー、ジョン・ハム、ブレイク・ライヴリー、ピート・ポスルスウェイト出演の『ザ・タウン』。
2010年作品。日本公開は2011年。PG12。
原作はチャック・ホーガンの小説「強盗こそ、われらが宿命」。
ボストンのチャールズタウンに住むダグ(ベン・アフレック)は地元で将来を期待されたアイスホッケー選手だったが、いまでは幼馴染のジェム(ジェレミー・レナー)ら仲間と銀行や現金輸送車の強盗を“生業”としている。ある日襲った銀行で念のために支店長のクレア(レベッカ・ホール)を人質にしたが、無事仕事を終えたため解放する。とりあげた免許証から彼女がおなじ街に住んでいることを知ったダグは、彼が強盗犯の一人だとは気づいていないクレアに接近する。一方、FBIのフローリー捜査官(ジョン・ハム)は、容疑者としてダグたちに目をつけていた。
先日映画館に観に行った『アルゴ』(感想はこちら)が面白かったので、おなじくベン・アフレックが監督・主演したこの作品を借りてきました。
『アルゴ』は実話がもとになっていたけれど、こちらはベン・アフレックの出身地ボストンを舞台にした犯罪小説。
以下、ネタバレあり。
主人公のダグは父親の代からの犯罪者一家。父親(クリス・クーパー)は40年の刑で服役していて、二度と塀の外で会うことはできない。また兄弟同然のジェムの妹クリスタ(ブレイク・ライヴリー)は元恋人で、いまでもときおり体をかさねる仲である。彼女は娘のシャインをダグの子どものように考えているようだが、ダグは否定している。
ダグとジェムは、いつも街の“花屋”ファーギー(ピート・ポスルスウェイト)の命令で強盗を働く。
原作は読んでないしボストンについてもチャールズタウンについても不勉強なんでまったく知りませんが、ともかく映画のなかではあまりガラがよろしくないかたがたが正業のかたわらに犯罪に手を染めている。
ダグやジェム、クリスタたちがみんなであつまってバーベキューをしている様子などから彼らの生活環境がうかがえる。
このへんの描写は、ちょっとマーク・ウォールバーグ主演の『ザ・ファイター』(感想はこちら)を思わせもする。
幼い娘をもつクリスタはクスリをやっていて、バーでも人目を引く格好で男たちとたわむれている。
ベン・アフレック演じるダグは、ふだんはあずき色のジャージを着てたりする。
タトゥーを入れて光り物をつけたジェムたちの格好も、いかにも地元のゴロツキといった感じのもの。
メイキング映像を観ると、舞台となるチャールズタウンの地元の人々に取材して登場キャラクターたちを造形していったんだそうな。
ダグの仲間の一人を演じているのは、じっさいにこの街の出身者らしい。
また、表向きは花屋、裏では地元を仕切っているファーギーの仲間やFBIのメンバーのなかにも、この街の元犯罪者たちがキャスティングされている。
イイ顔した俳優だと思ったらホンモノだったわけですな。撮影現場にはいつもどこかに元受刑者がいたんだとか。
みなさん現在は更生してカタギだそうだけど、それにしてもおっかねーな。
まず、冒頭の銀行強盗シーンから惹きつけられる。
ちょっと『ダークナイト』の同様の場面を思わせもするが、こちらはよりリアル。
彼らはアクション映画のようにむやみに人を殺したりはしない。しかし場合によっては人殺しも辞さないというスタンス。
だからこそ、人の死がじつに重々しく感じられる。
たとえば、ジェレミー・レナー演じるジェムは殺人罪で9年刑務所に入っていたような男だが、人質にしたクレアを殺しはしない。
目隠ししていたとはいえ彼女をそのまま逃がすのはかなりのリスクだが、人殺しでまた捕まるのはまっぴらだと思っている。
そして「またムショに入るぐらいなら死ぬ気で戦う」とまでいって、じっさい映画の後半にはそのとおりにする。
警察やFBIと銃撃戦をして死んでも行きたくないって、どんだけ怖ぇんだよ刑務所(;^_^A
いまじゃ『ボーン・レガシー』や『アベンジャーズ』(感想はこちら)『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(感想はこちら)など引っ張りだこの売れっ子俳優だけど、僕がはじめてこの人の存在が気になったのは『ハート・ロッカー』(感想はこちら)の主役でだった(その前に『S.W.A.T.』に出てたのは先日TV放映で観るまで気づかなかった)。
なんというか、体育会系の塊みたいで、“ホンモノ”っぽいな~、と。
この『ザ・タウン』で演じたジェムもただ悪い奴、というのではなく、幼馴染のダグのために何度も男気を見せる。
彼はダグを殺そうとした男を射殺して刑務所に入ったが、ダグの名前をけっして口に出さなかった。
またダグがクレアに嫌がらせをした男たちをこらしめに行くときも、「理由は聞くな」といわれて躊躇することなく同行する。
この場面はちょっとジェレミー・レナーに惚れました。ウホッ。
ただまぁ、頼りがいがある男というのは逆にめんどくさいところもあったりして、街を出ようとするダグを引き止めてふたたび犯罪に協力させようとしたりする。
特に、ダグがクレアと会っているところにあらわれる場面。
クレアは銀行強盗のときにジェムの首のタトゥーを目撃していた。
3人が顔を合わせたときのダグ=ベン・アフレックの焦りが伝わってきて、手に汗握ってしまったYO!
あのあたりの演出も、ウマいなぁと思いました。
また、わずかな出演だけど、ダグの父親をクリス・クーパーが演じている。
この父親は刑務所での面会で、幼い頃に姿を消していまもなお行方知れずの母親を追いつづける息子にむかって、残酷な言葉を告げる。
お前の母親は天使じゃなかった。お前のまわりにいる、男たちとヤりまくって欲しくもない子どもを抱えた22歳の女たちとおなじだった、と。
最低の父親にも思えるが、しかしのちにファーギーによって、ダグは母親の失踪の真相を知る。
母がいなくなった日、なぜ父が泣いていたのかその理由が判明する。
悲惨な話ではあるが、しかしダグの父親は女房をそのような目に遭わされながらどうしてファーギーに復讐しなかったのか。
彼を“去勢”したファーギーがあまりに恐ろしかったからだろうか。
この「家族」を自分たちの犯罪に巻き込む、というのは終盤でダグやジェムたちがスタジアムに強盗に入るときに、そこの従業員たちに「お前たちの家族を監視している」と告げて脅す場面にもある。
犯罪者の常套手段だが、じつに卑劣きわまりない。
そもそも、なんで正業をもっているのに犯罪に手を染めるのか。
彼らは経済的に困窮しているわけではない。
銀行から奪った金は、一部をファーギーにわたして自分たちの取り分は博打や女に使う。
だからよくよく考えるまでもなく、主人公たちに対しては本来なら嫌悪感をもっても不思議ではないのだが、そこが演出の巧さなのだろうか、次第に彼らが憎めないキャラクターに思えてくるのだ。
僕はギャング物、あるいは犯罪物といったジャンルが特に好きというわけではなくて、「リアル」といわれるマーティン・スコセッシが描くギャングにはまったく共感をおぼえることができないし、おなじくマイケル・マンの映画の犯罪者たちにも人間味が感じられなくて、その時点で映画への興味が薄れてしまうのだが、この『ザ・タウン』の登場人物たちにはそれぞれに背景があって(すべてが語られているわけではないが)、彼らは自分とはかけはなれた環境に生きているにもかかわらず、どこか愛着すらわいてきたのだった。
これはつまり、いけないことだけど、フィクションのなかだからムチャしてる奴らにどこかで爽快感をおぼえるからだろうか。
こういう奴らが現実にいるのかどうかは知らないけれど、すくなくとも映画のなかではむやみに人は殺さず、綿密に計画を立てて命がけの“仕事”をしている彼らはカッコイイ。
カーチェイスなどもあったりして、「リアル」な物語のなかにもアクション映画的な見せ場が設けてある。
最新作の『アルゴ』もそうだったが、このあたりのバランスもじつに達者だと思う。
ジェムとFBIの銃撃戦は、これも先ほどのマイケル・マンの『ヒート』を思いだした。
ジェレミー・レナーの死に様は、『ヒート』のトム・サイズモアを越えたリアリティがあった。
問答無用の乱射にもふるえた。
ダグは「晴れた日には人が死ぬ」という彼の言葉をおぼえていたクレアのとった行動で、彼女の想いが自分と同様に本物であったことを知る。
「ここか、あの世で会おう」という、父にいわれた言葉をクレアに残して、街を去るダグ。
どうも主人公の特権か、ダグに都合が良すぎる展開が気になったり(ちょっとダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガー主演の『トレインスポッティング』を連想したりもする)、人質にとられて間近で犯人たちの声を聞いていながら、(目隠しされてたし無理からぬこととはいえ)けっきょく彼らと再会してもまったく気づかないままダグとイイ仲になっていくクレアがマヌケに感じられてしまったところはある。
最後もきれいにまとまりすぎ、というきらいがなくもない。
それでもダグがクレアに託した金が、亡くなったダグの母親の名前が入ったプレートとともに氷の張っていなかったスケートリンクの修繕に使われたことがわかるラストは、気が滅入るだけの実録犯罪物でも嘘くさいアクション物でもない、しっかりとした「劇映画」の体裁となっていてとても好感がもてました。
非常に手堅い作りの映画だと思った。
最後にファーギーに落とし前をつけるところなんかは、コッポラの『ゴッドファーザーPARTII』のクライマックスのようなカタルシスがありました。
出演者はみな好演しているけど、なかでもFBI捜査官フローリーを演じるジョン・ハムがとてもいい。
アメリカのTVドラマ好きの人にはおなじみの俳優さんなのかもしれないけど、僕は『ブライズメイズ』の最低男の役が印象に残ってて、女性を見るときの目つきとかまじめに芝居してるときの顔つきとか、いいなぁ、と思いましたよ。ウホッ。
『アルゴ』でもそうだったけど、ベン・アフレックは男優の使い方が巧みですな。
優れた監督の条件だと思うけど。
“花屋”のファーギーを演じるピート・ポスルスウェイトは、残念ながらこの映画のあと2011年に亡くなっている。
この人をはじめて観たのは『ユージュアル・サスペクツ』だっただろうか。
どっからどう見てもガイジンなのに「コバヤシ」という苗字のキャラで、日本中が「あんたのどこが小林やねんっ」とツッコんだ。
その後さまざまな作品でその顔を拝見した。ちょっとおぎやはぎの小木に似てると思った。
『ザ・タウン』ではもっとも憎むべき街のボスを演じているが、すでに病いがだいぶ進行していたのか、まだ63歳ぐらいなのにずいぶんとやつれていた。
あらためてご冥福をお祈りいたします。
ところで、どうでもいいことなんだけど、ジェムの妹クリスタを演じてるブレイク・ライヴリー。
僕はこの女優さんのことよく知らないけど、今月から全国順次公開のクロエ・グレース・モレッツ主演の『HICK ルリ13歳の旅』(感想はこちら)に出演してるんで、以前から名前と顔だけは知っていた。
なんとかくその貫禄ある顔から20代後半か30代前半ぐらいだと思ってたんだけど、まだ25歳なんだって。
なんかスザンヌと木下優樹菜が合体したような顔した人だなぁ、って。
笑うとカワイイ顔してるんだけど、でもこの人モデルだからデカいんだよね(身長178cm)。ヒール履いてると、じつは190cm近い長身のベン・アフレックとそんなに背が変わらなくなる。
だから『HICK』でならんで立ってる身長163cmのクロエが、ものすごくちっちゃく見える。ほんとはライヴリーさんがデカいんだけど。
個人的にはデカい女の人、好きですが。
これまたどうでもいいことですが、この映画では“去勢”とか“カマを掘る”とか、男色恐怖をあおるような台詞がけっこうある。
しかもそういうことを口にするのがクリス・クーパーとかピート・ポスルスウェイトみたいなオヤジたちなんで、よけいコワい。
「ウホッ」とかいってる場合ではない。
とりあえず刑務所には一生入りたくないと思いました(;^_^A
あと、ダグがフローリーに残していく紙切れに書かれた「Go fuck yourself (失せろ)」という文句は『アルゴ』にも出てきたけど、ベン・アフレックはこの罵声が好きなのかな。
ちなみに、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンの唯一の台詞がこれで、そのときの日本語訳は「おととい来やがれ」でした。
僕は監督としてのベン・アフレックの評判をぜんぜん知らなくて『アルゴ』で目からうろこが落ちたんだけど、彼はかなりの逸材なんですね。
これからの監督作品も楽しみです。
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