映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ベイビー・ドライバー』 永遠のドライヴ


エドガー・ライト監督、アンセル・エルゴートリリー・ジェームズジェイミー・フォックスジョン・ハムエイザ・ゴンザレスジョン・バーンサルスカイ・フェレイラ、CJ・ジョーンズ、ケヴィン・スペイシー出演の『ベイビー・ドライバー』。2017年作品。

www.youtube.com

少年の頃に遭った交通事故の後遺症で常に耳鳴りがするためいつもイヤホンで音楽を聴いている“ベイビー”(アンセル・エルゴート)。凄腕のドライヴァーである彼は裏社会の男ドク(ケヴィン・スペイシー)に借金があり、彼に雇われて強盗の片棒を担いでいた。ダイナーで出会ったウェイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)と恋に落ちたベイビーだったが、彼女との大切な時間もドクからの呼び出しに邪魔される。

ネタバレがあります。


ホット・ファズ』は好きだし意外とファンも多い監督さんですが、僕は彼の監督作である『スコット・ピルグリム』(感想はこちら)と『ワールズ・エンド』(感想はこちら)を劇場で観てからは「今後、エドガー・ライトの映画は観ない」と決めたのでこの映画も無視していたところ、公開後TwitterのTLにはいろんな人たちによる賛辞が並び、今でも再上映されているほどの人気作なので、気になってDVD借りて観てみました。

結論から言います。面白かったです。おみそれいたしました。

言い訳させてもらうと、僕は映画評論家の町山智浩さんの解説を聴いて、全面的にいろんな曲を散りばめた映画ということだったので、なんかまた「わかる奴にはわかる」みたいなスカした作品かと思っていたんですが、『スコット・ピルグリム』や『ワールズ・エンド』のような安っぽいふざけたノリの映画じゃなくてわりとまっとうなクライム映画だったから、普通に楽しめました。


エドガー・ライトがこういう「まともな映画」撮るのって珍しいし。

僕は普段音楽というものをほとんど聴かないのでミュージシャンとか曲名とかわかんなくて、*1音楽ファンが得意げに「あの場面で使われてた誰それの何々という曲が~」みたいな薀蓄を垂れる類いの映画が苦手なんですよね。

知らねぇよ、と。

この『ベイビー・ドライバー』でも聴き覚えがあったのは「テキーラ」ぐらい。

Button Down Brass - Tequila
www.youtube.com

ただ、この映画は音楽の知識がなくても(あればより楽しめるでしょうが)劇中で流れる曲に身を任せてストーリーを追っていればいいので、観ていて抵抗がなかった。

「運命の女性との逃避行」は『トゥルー・ロマンス』っぽいし、足を洗いたいのに裏社会のボスに弱みを握られて犯罪に加担させられる主人公というのは『レイヤー・ケーキ』(感想はこちら)っぽくもある。

ただ正直なところ、カーチェイスと音楽をシンクロさせた映像というのは(映画館のスクリーンで観たらどうだったかわかんないが)町山さんが絶賛されていたほどスゴいとは思わなくて、悪いけど個人的には現在劇場で公開中のミュージカル映画グレイテスト・ショーマン』(感想はこちら)の方がよっぽどアガるなぁ、と。

いや、今、町なかでほんとにカーチェイスを撮影するのがいかに大変か、ということを説明されると「なるほどなぁ」と感心はするし、CGを使わずに実際に車を走らせてクラッシュさせたり確かにこだわりは感じられるんだけど、そこまで興奮するほどでも、と。負け惜しみではなく。

曲のタイミングと銃撃を合わせるのは気持ちよかったけど、音楽と車の動きを合わせるのって、昔CMでやってたし。

www.youtube.com

でも、普通に面白かったですよ。現在、続篇の準備中とのことなので、公開されたら観にいこうかな(さりげなく前言を撤回)。

主演のアンセル・エルゴートは僕はてっきり初めて見る俳優さんだと思ってたんだけど、フィルモグラフィ確認したらクロエ・グレース・モレッツ主演のリメイク版『キャリー』(感想はこちら)に出演していた。


あぁ!あのイモっぽい兄ちゃん役だった人か!!

作品が変わるとこんなにも雰囲気が変わるもんなのね。

だって『キャリー』での彼は、カリスマ性ゼロな見てくれのほんとにイケてない感じのキャラだったから。

この『ベイビー・ドライバー』では上目遣いの表情などどこか若い頃のハリソン・フォードを思わせて、6月公開の『ハン・ソロ』(感想はこちら)は彼が主演だったらよかったのに、と言われたりもしてるけど、それもよくわかる。

“ベイビー”という愛称通り、顔立ちもどこか幼さを残していてちょっと可愛いし。

ヒロイン役のリリー・ジェームズは実写版『シンデレラ』(感想はこちら)が記憶に新しいけど、おとぎ話のお姫様役から今回はダイナーで働く田舎町の娘役で、まぁ、シンデレラも最初は似たような境遇だったわけだけどw 現代劇もなかなか似合っててよかったです。


彼女の出演してる映画をこれからも観たい。

この映画でリリー・ジェームズが演じるデボラは主人公が夢見る女性であり、ヒーローとともに冴えない日常から逃げ出そうとしている、要するに王子様に救われるのを待っているヒロインと同じなので、もうちょっと能動的なキャラクターにできなかったのかな、とは思う。後半、頑張って戦ってはいますが、『トゥルー・ロマンス』のパトリシア・アークエットぐらいの激しさがあってもよかったかも。

それに可愛い顔して実は腹筋バッキバキな彼女なら、リメイク版『トゥームレイダー』のアリシア・ヴィキャンデルばりのアクションだって可能だろうから。


シンデレラは脱いだらアスリート体型。


続篇ではベイビーとともにガンガン戦う彼女を期待します。

裏社会のボス、ドク役のケヴィン・スペイシーは、今や本物の“悪者”になってしまいましたが、*2 あんだけ悪さしていた男が終盤に急にイイ人っぽく振る舞いだすのが唐突で、あそこはあんなふうにベイビーたちを助けようとするんじゃなくて最後まで憎々しげなままで苦しみながら思いっきり悲惨な死に方をしてほしかったなぁ。

だって諸悪の根源はコイツでしょうに。

他に頼めるドライヴァーがいないから毎回ベイビーを呼んでたはずなのに、「代わりを捜す」とか言い出すし。それができるんなら最初からそうしろよ、と。「同じ面子は使わない」と言ってるけど毎回顔ぶれは結構重複してるし。

そして、これまたセクハラ問題で窮地に立たされているベン・アフレック主演の『ザ・コンサルタント』(感想はこちら)にも出演していたジョン・バーンサルが仕事仲間の一人で出てたから、彼も主要キャラの一人なのかと思っていたら序盤以降出てこなくなったりして、これはなんのハズしなんだ、と。

続篇に再登場するのかな?

あっけない、といえば、ドクの取引先の“ザ・ブッチャー(肉屋)”役で『ファントム・オブ・パラダイス』(感想はこちら)の“スワン”役のポール・ウィリアムズが出てたけど、あっという間に撃ち殺されていた。

一体なんだったんだろう。音楽畑の人だから、なんかそちら関係でのカメオ出演だったりするんだろうか。いや、あまりに即行で退場してしまうんで。

奴隷(『ジャンゴ 繋がれざる者』→感想はこちら)から大統領(『ホワイトハウス・ダウン』→感想はこちら)まで幅広い役をこなすジェイミー・フォックスはノリノリで悪党を演じていて、さすがの安定感。

彼が演じるバッツ(首に蝙蝠の羽のタトゥーが入っている)は細かい違和感にすぐ反応してベイビーを問い詰めてくるんだけど、たとえばサミュエル・L・ジャクソンほどしつこい嫌ァ~な怖さはなくて、ダイナーでジョン・ハム演じるバディにカラむシーンなんかは言葉の端々に劣等感を滲ませながらも相手を分析する頭のよさも見せる。

ベイビーが「イヤだ」と拒否ったらわざわざデボラが働くダイナーに立ち寄るとか、ああいうめんどくさいカラみ方する奴いるもんね。彼はもうちょっと粘ってくれてもよかったなぁ。

まぁ、バーンサルが演じていた途中で消えちゃった男とキャラがカブるところもあるが。

この映画ではベイビーと最後まで戦うのはバディだけど、彼はドクのような裏で人を操る人間ではなくてベイビーに対しても逃がしてやろうとしていたり、愛する女性のことを最後まで想っていたり、なかなか好感が持てる悪役ぶりでした。

ジョン・ハムはちょっとティモシー・ダルトン似で“イケおじ”枠の人だけど、これまで結構“人でなし”のキャラも演じてて、出演時間は短めだけど『ブライズメイズ』(感想はこちら)の時の女グセの悪いクズ男の役は最高でした。

ちなみにティモシー・ダルトンは同じエドガー・ライトの『ホット・ファズ』で『食人族』みたいな串刺しになってましたがw エドガー・ライトはあの手の顔が好きなのだろうか。


それにしても、主人公の母親が遺した音楽テープが物語の鍵になる、というのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(感想はこちら)とも共通してますが(父親がろくでなし、というのも)、なんか元ネタでもあるんですかね。

ガーディアンズ~』と違って『ベイビー・ドライバー』のヒロインは出会った時から主人公に興味を持ち、彼を受け入れてくれる。まさに『トゥルー・ロマンス』ですが、つまり母親代わりなんだよね。『トゥルー・ロマンス』のシナリオを書いたタランティーノ(この人もハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題にかかわってるが)はヒロインに自分の母親をイメージしていたというし。

“ベイビー”なだけに、理想の女性=ママなんだな。

そう考えると、これは少年の時に両親を事故で亡くしたという設定の主人公が母親代わりの人を見つける話、ということになる。

そうすると、続篇ではその「母親」とさらにどういう関係に発展していくのだろう。ベイビーが作っていたテープは永遠に廻り続けるのか、それとも…?


関連記事
『ラストナイト・イン・ソーホー』
『ウエスト・サイド・ストーリー』
『クリミナル・タウン』
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
『ゴジラvsコング』
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』

ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

*1:今ではiPodが時代遅れであるということすら知らなかったぐらい。じゃあ、皆さん今は音楽をどうやって聴いてるんですか(真顔)?

*2:過去の複数のセクハラ疑惑が持ち上がり、「#MeToo」運動の中で糾弾されている。