映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『アンブレイカブル』 見張る者


M・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリスサミュエル・L・ジャクソンロビン・ライト、スペンサー・トリート・クラーク、シャーレイン・ウッダート出演の『アンブレイカブル』。2000年作品。

音楽はシャマランの作品を多く手がけているジェームズ・ニュートン・ハワード

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フィラデルフィアで起こった乗客131名が死亡する列車事故でただ一人無傷で生き残ったデヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)は、コミックブックの画商であるイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)から、自分が特別な力と使命を帯びた存在であると告げられる。まともに取り合わなかったデヴィッドだが、息子のジョセフ(スペンサー・トリート・クラーク)はやがてイライジャ同様に父をコミックブックの中のスーパーヒーローと同一視するようになる。


シックス・センス』(感想はこちら)に続いてシャマラン監督の過去作をDVDで鑑賞。

劇場公開時に映画館で観ました。シャマラン映画の中では『シックス・センス』に次いで好きです。

では早速ですが、以降はこの『アンブレイカブル』と少し前に公開されたシャマランの最新作『スプリット』(感想はこちら)、またフェデ・アルバレス監督の『ドント・ブリーズ』(感想はこちら)のネタバレがありますので、未見のかたはご注意ください。


大ヒット作『シックス・センス』に続いてそのわずか1年後に再びブルース・ウィリスが主演した映画で、公開前にはストーリーの中身やオチについていろいろと憶測が飛び交っていましたが、この作品が不幸だったのは『シックス・センス』のあまりのヒットによって以降のM・ナイト・シャマラン作品には「巧みな伏線」と「見事などんでん返し」が期待されてしまったこと。

でも残念ながらというか、この『アンブレイカブル』は非常にウェルメイドな作品であった『シックス・センス』とは異なってストーリーテリングの巧さで観る者を唸らせる類いの映画ではなかったので、公開当時には酷評も散見しました。


これは、アメコミスーパーヒーローの世界と現実の世界を重ね合わせた一種の「例え話」、寓話で、B級ジャンル映画を別の角度から通常とは異なるアプローチで描く、その後のシャマラン映画の基調となった作品でもある。

僕はそこに非常に面白さを感じたんだけど、あるいは早過ぎた作品だったのか世評はそんなでもなかった気がする。

それが俄然注目を浴びるようになった(というほどの盛り上がりもないけど、一部で一瞬だけ騒がれていた)のは、最新作『スプリット』がこの映画の“続篇”だったから。

あのラストは『アンブレイカブル』を観ていなければ完全に意味不明で、だから僕は1本の映画としてちゃんと完結していない『スプリット』のあのラストの処理を批判したんですが、前作『ヴィジット』(感想はこちら)で「自分ならPOV(主観ショット)はこう使う」と示してみせたシャマランが、今度は「自分ならアメコミ映画をこう料理する」と宣言し始めたような面白味もちょっと感じはした。

まぁ、文句言いつつも2019年公開予定というさらなる続篇には一応お付き合いするつもりでいますが。

サム・ライミの「スパイダーマン」シリーズや『ダークナイト』『アイアンマン』のヒットから始まるアメコミヒーロー映画の流行によって、『アンブレイカブル』はそれらをはるか前に予言していたような体裁にもなって、シャマランが17年も前の自作をわざわざ持ち出してくるのは商売っ気だけではなく純粋に創作意欲が刺激されたからではないか、と。

さて、この『アンブレイカブル』のお話自体はとてもシンプルで、つまり、大事故でも死なず傷も負わなかった主人公は、実はアメコミに描かれているような特殊な能力を持つスーパーヒーローだった、という特になんのヒネリもないストーリー。

ただそこに現実に困難や悲しみを抱えている者を重ねることで、何かとても身につまされるものがあった。

サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャがデヴィッドに言う、「毎朝起きる時に感じる“悲しみ”、それは自分がやるべきことをやっていないからだ」という言葉は、劇場公開時に映画館で観て物凄く胸に刺さったんですよね。

自分はいるべき場所にいない。やるべきことをやっていない。

だからいつも悲しい気持ちが拭えずにいる。そのことは本当に共感できたから。

夫が悲惨な列車事故に巻き込まれたにもかかわらず、いたわりの態度がほとんど見られない妻の姿にはちょっと疑問も残るけど、あれは前作『シックス・センス』でブルース・ウィリスが演じた主人公と妻との関係をなぞったもので(主人公が感じている“悲しみ”についても同様)、観客に対する「引っ掛け」だったんですよね。

事故に遭う前、デヴィッドは妻のオードリーと息子のジョセフを残して、独りニューヨークで職を探そうとしていた。


オードリー役のロビン・ライトは最近ではアメコミスーパーヒロイン映画『ワンダーウーマン』(感想はこちら)に出演している。


なぜニューヨークなのかはよくわからないが、M・ナイト・シャマランは実際この映画の舞台のフィラデルフィアで育ってニューヨークで映画の勉強をした人だから、彼にとって自分が「いるべき場所」はニューヨークで「やるべきこと」は映画を作ることだった、ということでしょう。それがデヴィッドに重ねられているのだと思う。*1

ところで、シャマランはしばしば自分の監督作品にチョイ役で出演しているけれど、『アンブレイカブル』ではスタジアムでデヴィッドに麻薬の売人と疑われる男性を演じていて、また『スプリット』にもちゃんと台詞のある役で出ている。

アンブレイカブル』と『スプリット』が同一の世界を舞台にしているのなら(『スプリット』でジェームズ・マカヴォイ演じるケヴィンは、終盤で列車の駅のホームに花を供える。彼はフィラデルフィア列車事故の遺族ということだろうか*2)、シャマランが演じた男性も同一人物でなければおかしい。

彼の配役はシリーズの意外な伏線になっているのかな?*3


こちらは『シックス・センス』に出演時の監督。


イライジャは、デヴィッドがスタジアムの警備員の職を選んだのは、無意識のうちに人々を「守る」役割を担っていたからだ、と語る。


彼によれば、コミックブック(アメコミ)というのは子どもでもわかるように表現を誇張してはいるが、そこには世の中の「真実」が描かれている。それは大切なことを人々に伝えているのだ、ということらしい。

全身の骨が脆く折れやすいために生まれた時から怪我が絶えず、不自由な生活を強いられてきたイライジャにとってコミックブックは心の支えであり、今や彼の生きる意味を説く秘密の書物だった。

このあたり、ジェームズ・マンゴールド監督がヒュー・ジャックマン主演で撮った『LOGAN/ローガン』(感想はこちら)の劇中に「X-MEN」のコミックブックが出てきてそこに映画の主人公であるウルヴァリンが描かれていたメタフィクショナルな展開を思わせる。

あの映画の中でもコミックブックは事実を基にして描かれたことになっていた。

LOGAN/ローガン』もまた、“アメコミ”という「現代アメリカの神話」について描いた映画だったんですよね。

イライジャの境遇に同情はしつつも彼の妄想めいた主張にデヴィッドは警戒するが、父のことをスーパーヒーローだと信じるようになったジョセフの言葉やこれまでに一度も怪我や病気をした経験がないこと、通常の人間には不可能なほどの重さのバーベルを上げられたり人々の犯した罪を察知する能力の目覚めなどから、イライジャの言っていたことが事実であることを確信する。


唯一“水”が苦手、というのも、スーパーヒーローにはだいたい弱点があるものだからだ(字幕にはないが、イライジャの台詞の中にスーパーマンの弱点“クリプトナイト”の名前も出てくる)。

自分の正体を知ったデヴィッドは、人ごみの中ですれ違ったオレンジ色の作業服を着た大男が他人の家に押し入って家主を殺し、その家族を監禁していることを察知する。

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妙にリアルな怖さのある凶悪犯罪者。


デヴィッドは大男のあとを尾けて被害者宅で男と格闘、彼を倒して監禁されていた女性たちを救う。

自分が本当にやるべきことに目覚めたデヴィッドは、もう悲しくなかった。オードリーとも再び心が通い合う。

自分が信じた通り、父がスーパーヒーローだったことを知ってジョセフの瞳から涙が溢れる場面は本当に感動的だ。

しかし、デヴィッドを見出したイライジャの方もまた、自らが生まれた理由と彼自身が果たすべき“役割”に気づいていた。スーパーヒーローの対極にいる存在、すなわちヴィラン(悪役)“ミスター・ガラス”としての役割に。

あの“列車事故”を起こしたのはイライジャだった。それは彼の対極にいる者、“壊れない男”を捜すためだった。

身体障害者が大量殺戮の実行犯にして重度の精神異常者として描かれていることは、ちょうど僕が『ドント・ブリーズ』に覚えた疑問に近いものも感じるんですが、ただ『アンブレイカブル』を擁護すると、この作品は最初からアメコミについて語っている「寓話」であって、目の見えない老人が襲ってくるホラー映画の一種だった『ドント・ブリーズ』に比べてもより荒唐無稽で、最後まで観ていればそもそも現実にはありえない空想的な物語であることがわかる。

確かに映画の冒頭からイライジャがいかに困難な人生を歩んできたのかをわざわざ描き、事件の真相が判明する直前にも彼の母親にデヴィッドの前で息子のこれまでの苦労について、そして彼女が与えたコミックブックが生きる気力を失いかけていたイライジャの心をどれほど支えてきたのか切々と語らせていただけに、あの突き放したようなオチには釈然としないものも感じる。

心の支えであったはずのコミックブックが逆にイライジャの心を病ませて妄想に駆り立て、多くの人々の命を奪った、というあの結末には裏切られたような気持ちになる。

それでもイライジャの苦悩がとても切実なものに感じられたし、逆にコミックブックでしばしば身体障害を思わせる特徴を持ったヴィランが登場するのは何故なのか、ということを考えると(おそらく、身体の一部が機械だったり武器になっている姿がかっこいいから、という単純な理由でしょうが)、現実の世界からのアメコミ作品へのツッコミにもなっていて、そのあたりも僕は非常に興味深いのです。

壊れない男、デヴィッドを演じるのが“ダイ・ハード”マン=絶対死なない男、ブルース・ウィリスであることにももちろん大きな意味がある。

“ミスター・ガラス”ことイライジャのテーマカラーがパープル、というのもいかにもで、「バットマン」の宿敵ジョーカーを思わせもする。

ジョーカーもまた、裂けた口という身体的特徴を持ったヴィランである。

また、劇中でオードリーはイライジャについて「ツラい人生を長く送ってきた人はしばしば心を病むのよ」と言う。

ジョーカーは毎度のように犯罪に走ってはバットマンに捕まえられて、精神病院に入れられる(そして脱走する)。

まぁこれもずいぶんと偏見が入ってるとは思うんですが、イライジャの現実と空想を混同するかなり妄想の入った言動からは、アメコミ(や、漫画、アニメなどのオタク的なカルチャー)にハマる人々、その影響について考えさせられもする。閉店後のコミックショップで一人考え事をしているイライジャに店員が「日本の漫画でマスかくなよ」と言ったりもするし。*4

ここでのイライジャの傍若無人な振る舞いも、彼をただの気の毒な人にも善人にも簡単に振り分けられない複雑なキャラクターにしていて面白い。

階段で転倒して大怪我したイライジャを病院で担当するのがたまたまデヴィッドの妻のオードリーだったり、コミックショップで見つけた「セントリーマン(見張る者)」というアメコミからデヴィッドの正体を見抜いたり、ただの偶然が「必然」とか「運命」などに感じられてくるような飛躍の激しい電波系の展開も個人的に好みだった。


これはリアルな現実の世界やそこに住む人々をアメコミの荒唐無稽な世界に当て嵌めてみた、という映画で、それがアメコミについての考察にもなっていて、またそれは自分や自分が好きなもの、まわりの人々、世界、さまざまな事物や現象について引いた視点や別の角度から見つめてみる試みでもあって、僕はそういう作品にとてもそそられる。

最初に書いたように、それは「例え話」「寓話」という面を持つ。

現在アメコミヒーロー映画は盛況を極めていますが、正直僕はわりと食傷気味で、それらの中には先ほどの『LOGAN/ローガン』のように非常に優れた作品がある一方で、派手なVFXに頼りきっただけの空ろなものも少なくない。

もちろん、目を楽しませてくれるVFXアクション大作は僕だって好きだから、中身があるかないかというよりも、肝腎なのは自分が面白いと感じられる作品があるかどうかなんですが。

M・ナイト・シャマランの作品にはここ何年も続くVFX大作とは異なる持ち味があって、アクションとかVFXの見事さで観客を魅了するのとは違う(そういう映画だって大切ですが)、人間描写、人間ドラマにこそ見どころがある。

だからこそ、僕は彼の作品に期待したいんです。

ラストの展開についてかなり酷評した『スプリット』だって、出演者たちの演技はよかったし。

この『アンブレイカブル』にはそういう視覚的な派手さ以外の、空想の世界と現実の世界がふと交じり合い、軽い眩暈を起こすような魔法があると思う。

ブルース・ウィリス演じる“セントリーマン”デヴィッドと、ジェームズ・マカヴォイ演じる“ビースト”ケヴィンが対決する続篇『ミスター・ガラス(原題:GLASS)』を楽しみに待っています。


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*1:それと、ニューヨークはしばしばアメコミヒーロー物の舞台にもなるから、ということもあるのかもしれない。

*2:どうやら『アンブレイカブル』でデヴィッドが駅ですれ違う赤い服の女性に連れられた幼い少年が『スプリット』のケヴィンだった、ということらしいですが。

*3:別に特に深い意味はなかったようで。

*4:コミックショップにはスパイダーマンのビニール人形が吊られているし、イライジャのギャラリーの壁には「マイティ・ソー」のポスターが掛けられていた。