吉田大八監督、佐藤江梨子、佐津川愛美、永作博美、永瀬正敏出演の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』。2007年作品。
石川県のとある山村。目の前で両親が事故死した次女の清深(佐津川愛美)、同居している兄・宍道(永瀬正敏)とその妻・待子(永作博美)のもとに東京から長女の澄伽(佐藤江梨子)が帰ってくる。経済的に苦しい実家の現状も意に介さず兄に仕送りを催促する澄伽は、ある出来事以来ながらく妹の清深に恨みを抱いていた。
『クヒオ大佐』(感想はこちら)や『パーマネント野ばら』(感想はこちら)、そして『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督の劇場映画デビュー作品。
しつこいけど、頼むから早いとこ『桐島〜』を近場の映画館で上映していただけないだろうか。
それが無理ならとっととDVD化してくれい(※2013年2月15日レンタル開始。感想はこちら)。
この『腑抜けども~』という長ったらしいタイトルの作品の存在は公開当時から知ってはいたけれど、未見のままであった。
ちまたでの『桐島~』の評判以降気になる監督の作品だし、友人からも薦められていたので今回借りてみた。
で、まず観終わって一言。
…キモチワルイ映画!!!(^▽^;)
原作が『乱暴と待機』の人だと知って納得。
主要登場人物は4人、そのなかの一人の女性はもう一人の女性を理不尽なまでに憎んでいる。
そういった共通点がいくつかある。
なんの予備知識もなく観たので、『乱暴と待機』のときと同様に「これはいったいなにを描いた、なにを伝えたい映画なんだ…」としばらくは戸惑いながらサトエリ演じる自称・女優の勘違いぶりにあっけにとられていたのだが、しかしこういう女は確実に実在する!とじょじょに珍獣をながめる気持ちに。
以下、ネタバレあり。
佐藤江梨子って、昔『キューティハニー』の舞台挨拶観て「足長ェっ」と思った。
それ以来、顔も可愛いしバービー人形みたいなスタイルの女優さん、というイメージだったのだが、この映画の彼女はなんというか、顔も外見も絶妙な気持ち悪さを醸しだしていたのだった。
腕も足もほっそほそだし。顔もなんだかカワイイんだかブサイクなんだかわかんない感じで。
あんだけ手足が細いのに胸だけはやけにデカいという、じつにアンバランスな体型。
いや、ご本人は以前も現在も外見はお変わりないわけですが。
あと、手足が細長い、と感じる女優さんもじつは背が高いからそう見えるんであって、間近で見るとけっこう太ももとかしっかりお肉がついてたりします(なにをじっくり観察しているのだろうか、私は)。
サトエリが説得力抜群に演じる澄伽(すみか)というキャラクターは、妹の清深(きよみ)が彼女をモデルにして描く漫画のヒロインそのまんまの「ホラー」な女である。
澄伽は東京の芸能事務所のマネージャーから「性格が悪い」といわれるが、性格が悪いとかいう以前の問題で、ようするに人間として大切ななにかが決定的に欠けてる人なのだ。
シャーリーズ・セロンがやはり勘違いしまくった痛女を演じていた『ヤング≒アダルト』(感想はこちら)を思いだしたけど、あの映画での彼女はまがりなりにも作家の代筆でちゃんと生計を立てているのに対して、この映画のサトエリは実家に仕送りをたかり、イタいうえにその根拠のない自信だとか高飛車な態度に見合う実力がまるっきりともなっていない。
あげくは自分が女優としての“実力”を発揮できないのは妹のせいだと思っている始末。
それ以前から彼女は勘違いもはなはだしかったのだが、4年前「女優になる」といって親の前でナイフをもって暴れる彼女を見た妹が、その姿をモデルにして描いた漫画がホラー漫画誌に掲載され、それが村じゅうに知れ渡るという惨事がおこった。
…なんで漫画で自分の名前を本名で出すんだよ、とか思うけど。
この漫画家志望の眼鏡っ娘の次女・清深を演じる佐津川愛美は、アイドル顔の美少女ながら絶妙なまでの地味っ娘キャラでけっこう萌えた(^ε^)
はじめて見る女優さんだなぁ、と思ってフィルモグラフィを確認したら、昨年観た『電人ザボーガー』(感想はこちら)で巨大化する女子高生ロボを演じてた人だった。
あぁ、あの子かぁ(゜o゜)
この地味なんだけどじつはホラー漫画好きで自分でもひそかに描いている、という女子、昔僕のまわりにもいたなぁ。
んで、この眼鏡次女が映画のなかで姉のサトエリに延々と苛められる。
髪をつかまれて押し倒される。
お風呂に入ってると熱湯を入れられ、出ようとするとカメラで撮影されそうになる。
村のばぁさんたちの前で姉を称える歌を唄わされる。
その鬱憤を晴らすように、妹はひそかに姉をモデルにしたヒロインが暴れるホラー漫画を描きつづける。
どうだい、とっても気持ちが悪いだろぉ?
Sっ気がある奴は観ていて気持ちイイのかもしれないし、Mっ気がある奴はもっと気持ちイイのかもしんないけど。
永瀬正敏が演じる長男は妻には亭主関白のようにふるまうが長女の前ではふがいなく、彼女にさせたい放題させている。
なにひとつ自分で積極的に行動をおこさず散々妹に翻弄されたあげく、すべてをうっちゃって勝手にくたばるこの長男の腑抜けぶりがまた尋常ではないのだが。
もしかして、最近ニュースでとりあげられる機会が多いドメスティック・ヴァイオレンス系の話なのか?これは。
永作博美が演じる長男の嫁は甲斐甲斐しく働いて家族に尽くすもないがしろにされ、夫とは出会ってから一度も夜の営みがなく、会ったばかりの上の義妹は彼女をまるで昔の女中のごとくぞんざいにあつかう。
フレンチトーストをご所望の義妹のために朝からパンを買いに走らされたり、飛ばされためんつゆが目玉とコンタクトレンズのあいだに入って入院したり、ウナギの小骨がのどに刺さって目を白黒させたりと、明るくけなげなキャラゆえに気の毒なことこのうえない。
しかももともと孤児だったのがやっと「家族をもてた」と喜んでいたのに、最終的にまたひとりぼっちになってしまうわけで不憫でならない。
それに夫が死んでも義父の借金がまだ残ってたはず(夫は保険かなんかかけてたんだっけ?)。
永作博美がいつブチギレて暴れだすかハラハラしつつも、ちょっと期待したりしながら観ていた。
けっきょく彼女がその後どうなったのかはわからないまま映画は終わってしまうのだが。
地元の田舎に帰ってきた女性が散々故郷やそこに住む人たちの悪口をいいまくる、ってのは『ヤング≒アダルト』でもそうだったけど、その傍若無人ぶりにとても腹が立ちつつも、ちょっとわからんでもないな、と。
帰省すれば近所の人たちから「○○ちゃん、帰ってきたの?」と声をかけられ、なにかあればすぐに村じゅうの噂になるような狭い世界。
つねにまわりの目を気にしてコソコソしていなければならない不自由さ。
そういうところから逃げだしたい、という欲求自体はごく自然なものだ。
ただ、その手段がなんであるかが問題であって。
澄伽は、たまたまTVで目にした海外で受賞したばかりの映画監督に手紙を出し、最新作の主演女優として自分を売り込もうとする。
澄伽が文通するこの映画監督・小森を「明和電機」の土佐信道が演じている。
この人が出す声が猫なで声というか、これまた虫唾が走りそうなほど気持ちが悪いのだ。
この気持ち悪さがわざとであることはラスト近くでわかるんだが。
気持ち悪いといえばきわめつきが、長男と長女の禁断の関係。
眼鏡次女がそれをはじめて目撃する場面の演出は、恐怖映画さながらである。
メンタル的にも相当問題がある長女は、長男に自分以外の女を愛さないように命じていた。
それで長男は村のなかで体裁をつくろうためだけに待子と結婚していたのだった。
…どうだい、ものすごく気持ち悪いだろぉ?
まぁ長男は父親の後妻の連れ子なので血はつながってないという設定だけれども、なんにしろ異様な状況であることにかわりはない。
高校時代に澄伽と金銭を介した肉体関係をもっていた村の若者を山本浩司が演じている。
彼は借金して東京に帰れない澄伽のカモになる。
『パーマネント野ばら』でもそうだったけど、ほんとこの人が演じる「ダメな人」は絶品。
舞台になっている石川県というのは原作者の地元らしいが、この人はどんだけ故郷にうらみがあるんでしょうか(^_^;)
姉の虐めに耐えながら黙々と漫画を描きバイトにいそしんでいた妹は、最後に逆襲に転じる。
姉が文通していると信じていた映画監督の手紙を書いていたのは、郵便局でバイトしていた妹であった。
彼女は描き溜めた漫画の原稿を東京の出版社に送り、懸賞の賞金100万とともに上京する準備を整えていた。
有名映画監督の最新作で主役を張る気マンマンでいた姉の夢はもろくも崩れ去る。
このあたりは「ざまぁwww」ってな感じで溜飲下がりまくりではあるが、でも途中から予想してたことだけど、このイカレた姉が退治されておしまい、とはならない。
このときの妹の発言はなかなか意表を突く。
「お姉ちゃんは自分の“おもしろさ”をぜんぜんわかってない!」
妹は破天荒な姉に“おもしろさ”を感じていたからこそ、彼女をモデルにしたキャラクターを漫画にしていた。
こういう発想は、まさにホラー漫画に夢中になる女の子ならではのものではないか。あるいは妹特有の感性なのかもしれないが。
姉はそれに答える。
「あたしをモデルにするんだったら、最後まで見なさい」
こうして、ナイフをもった“おもしろい姉”は、これからも妹をいたぶりつづけるのだ。
どうだい、とってもおっかないだろぉ?
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