映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『キリング・フィールズ 失踪地帯』


アミ・カナーン・マン監督、サム・ワーシントンジェフリー・ディーン・モーガンジェシカ・チャステインスティーヴン・グレアムクロエ・グレース・モレッツ出演の『キリング・フィールズ 失踪地帯』。2011年作品。日本公開2012年。

www.youtube.com

テキサスシティ。殺人課の刑事マイク(サム・ワーシントン)とブライアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)は10代の少女たちの連続失踪殺害事件を追っていた。しかし、保護観察中で劣悪な家庭環境のためブライアンが気にかけていた少女アン(クロエ・グレース・モレッツ)が、彼が目を離した隙に何者かに連れ去られてしまう。


今年の4月に単館系で公開されてたけど、映画館では観なかった。

なぜなら、すでに観たほかのみなさんの評価がかなり微妙だったから。

タイトルから予想できるように、この映画でクロエ・モレッツは失踪する。

誘拐される少女というのは彼女はこれまでにほかの映画で何度か演じていて、僕はそのなかで『リピート 許されざる者』(感想はこちら)を観たんだけど、あの映画ではクロエは冒頭30分あたりで行方不明になったまま終盤まで出番がなかった。

今回もなんとなく似たようなあつかいなんじゃないか、という予感もあって、まぁDVD待ちかな、と。

観てみたら『リピート』よりは出てたけど。

あいかわらずクロエさんは出演作が目白押しで、今年もすでにマーティン・スコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』(感想はこちら)、そしてティム・バートンの『ダーク・シャドウ』(感想はこちら)を劇場で観て、巨匠二人の作品に出演というおおいなる飛躍はとても喜ばしいことだと思うし彼女も好演していたけど、どちらの映画もおもいっきりクロエの無駄遣いをしていた。

『ヒューゴ』では、このために切った短めの髪にベレー帽をかぶった彼女には主演のエイサ・バターフィールドといっしょにもっともっと冒険させてあげたかったし、『ダーク・シャドウ』ではジョニデと魔女の痴話ゲンカとかほんとどーでもいいから、思春期反抗娘クロエをもっと活躍させてほしかった。

出演作品が日本で公開される機会も増えて知名度も上がってきてるのに、せっかく期待して観た作品がどれも不発では(※個人の感想です)じつにもったいない。

来年はスティーヴン・キング原作の「キャリー」の再映画化で主演、そしてお待ちかね『キック・アス2』がお目見えということで、ぜひとも2011年のようなクロエ・イヤーにしてほしいと切に願っております。

で、この『キリング・フィールズ』が『ヒューゴ』と『ダーク・シャドウ』の合間にひっそりと公開されてたように、大作の前にまだ日本で公開されていなかった2011年制作の彼女の初主演作『HICK ルリ13歳の旅』がようやく11月から全国順次公開だそうで、これはぜひ劇場に観に行きたいと思います。


…と、ここまできてやっと映画の感想ですが。

まぁ、なかなか日本で公開されなかったのもうなずけるような地味な作品でした。

まるでTVの2時間刑事ドラマみたいな。

監督は『ヒート』のマイケル・マンの娘、アミ・カナーン・マン

親父さんのプロダクション作品。

愛娘の監督作品ということでいろいろと助力はしたんでしょう。

主演は『ターミネーター4』や『アバター』以降、映画に出まくりの人気俳優サム・ワーシントン

相棒のブライアンを演じるのは、ザック・スナイダーの『ウォッチメン』(感想はこちら)で不敵なアイマスクの悪徳ヒーロー“コメディアン”を演じていたジェフリー・ディーン・モーガン

この人、なんだかロバート・ダウニー・Jr.とハヴィエル・バルデムを足して2で割ったみたいな感じで、そのワイルドな容貌がなんか好きだ。

ワーシントン演じるマイクの元妻で女性刑事のパム役を『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(感想はこちら)で人のいい若妻を演じていたジェシカ・チャステイン

クロエ演じるアンの家にいつも入り浸っているライノ役を、『裏切りのサーカス』(感想はこちら)でゲイリー・オールドマンの部下を演じていたスティーヴン・グレアム

なんかちょっとラッセル・クロウの劣化版みたいな顔してるけど、いろんな作品でよく見る人だ。

彼はマイケル・マンの『パブリック・エネミーズ』にも出演していたので、今回はそのつながりだろうか。

そして、アンの母親役にはデヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」でローラ・パーマーを演じていたシェリル・リー

かつて「世界で一番美しい死体」とよばれた彼女の現在の姿に、ときの流れを感じた。

そういったわけで、出演者は実力派ぞろい。

親父さんに倣ってか、アミ・カナーン・マンの演出もじっくりと腰が据わったもので、安っぽさはない。


ただ、この作品はアクションでもサイコサスペンスでもないので、ハラハラドキドキさせる要素にはおおいに欠ける。

つまり最初にいったように地味なのだ。

「2時間ドラマみたい」と表現したのはそんなところから。

作品の雰囲気はいいのですよ。だからわりと集中して観ていられたのだが。

でも、これは『リピート』のときにも感じたんだけど(違う監督の作品ですが)、とにかくシナリオが残念すぎる。

お話の筋がまるで通っていないのだ。 なんでこれでオッケーになったのかわからない。

以下、ネタバレあり。


テキサスでは10代の少女たちが失踪し、死体で発見される事件が相次いでいた。ニューヨーク出身のブライアンと地元育ちのマイクはコンビで捜査にあたる。

被害者の多くは施設にいたり麻薬の中毒者だった。

マイクは、ブライアンとともに車で送った少女アンの家から出てきた男ライノに目をつける。彼はアンの母親と関係をもっていた。

一方、彼とは別に二人の男たちが捜査線上にあがる。

一人は黒人のピンプ(ポン引き)のレボン、もう一人は上半身にタトゥーの入った白人のルール。

このいかにも怪しげな二人組(特に白人の方はこれみよがしにアンに声をかけたり、店で彼女に接近したりする)は、しかしその後のアンの失踪とは無関係だった。

予告篇を観ると、クロエ演じるアンの失踪が映画のメインの話のように思えるが、じつはそうではなかった。

なによりアンが失踪するのは映画の終盤なのだ。

しかも、彼女はブライアンといっしょにいて車を降りてドラッグストアに胃薬を買いに行ったところで忽然と姿を消してしまう。

だが、犯人はあの店にあのタイミングでアンがやってくるのをなぜ知っていたのだろうか。

そして、そんな重大な事件が目の前でおこったのにブライアンは町じゅうをほかの警官たちと捜しまわるわけでもなく、地図をもってひとりで“キリング・フィールズ(殺人地帯)”とよばれる、これまでも死体が多く発見されている湿地帯にむかう。

なにやらこのあたりから、これまではかろうじてあった“リアリティ”が急激にうしなわれはじめるのだった。

本来ならば、バラバラだったピースが収束していかなければならない頃なのに、唐突に少女が拉致されるという強引すぎる展開。

このシーンの直前に、自分に会いにきたアンに「一人で過ごせないのか!」と一喝したと思えば「君は独りじゃない」と優しく語りかけるブライアンの態度もよくわからず、「独りじゃないって、神さまのこと?神さまはいそがしくて私のことなんか気にとめてくれない」というアンの言葉にしても、「少女の孤独」を描くにはなにもかもが中途半端すぎるのだ。

それに、演じているジェフリー・ディーン・モーガンの説得力のある演技で観ているあいだはなんとなく流してしまうが、ブライアンは白人女性の家では彼女を襲った犯人を取り逃がし、今度はアンをさらわれ、最後には真犯人に撃たれて死にそうになるという、まるっきりの役立たずである。

黒人と白人のコンビを取り逃がすマイクといい、このふたりの刑事たちは(「実話に基づく」とあるが、どのへんまでが事実なのかもわからないし)映画の登場人物としてはまったくもって使えない連中だ。


そしてこの映画の一番の謎、というか最大の傷は、アンがなぜさらわれたのか皆目わからないこと。

彼女をさらったのは、おなじ家に住んでいたライノだった。

ところが、このライノという男が何者なのか最後までよくわからないのだ。

なんでアンの家族と同居しているのか。

こいつはアンの母親とつきあっているらしく(そのわりにはこの二人からは親密さがいっさいうかがえないのだが。しかも存在感は薄いがどうやらアンの母親にはちゃんと夫がいるようだ)、またちょっとおつむの足りなさそうなアンの兄をいつも従えていて、最初僕は、マイクから目をつけられていた彼はアンの味方なのかと思ったのだった。

妹の前で「娼婦」という言葉を口にする彼女の兄をたしなめたりしているので。

しかし、けっきょくアンを誘拐したのはこのライノであった。

…なんで?

意味がわからない。

つい先日までいっしょに車に乗っていたアンをさらって湿地に置き去りにする理由がまったくもって不明(しかもそこは、これまで殺人事件の犠牲者たちが捨てられていた場所の近くである)。

ライノとつるんでいたアンの兄は母親に「ライノがアンを殺した」といっているが、アンはただ縛られて放置されていただけなので死んではいなかった。

彼は母親に「アンが警察を呼んだからだ」と説明するが…どういうこと?

これまでだってアンはブライアンの車に何度も乗っているから、それを見て彼女が警察を呼んだと思ったのだとしたらおかしい。

そもそも、一連の殺害事件の容疑者としてマイクが追っていたあの黒人と白人の犯罪者コンビはなんだったのか。

彼らをかくまっていた(脅されて?)あの黒人のおばさんは、なんで車に火をつけたのか。

黒人と白人の二人組は、マイクと警察の追跡をふりきって行方をくらませたままそれ以降は出てこない。

ライノは殺害された被害者女性キルスティン・レインのケータイを使ってマイクたちのオフィスに電話してきたので、では彼がすべての殺人事件の犯人だったということだろうか。

それとも、キルスティンだけが彼の手にかかったのか。

ならば、黒人と白人コンビ、レボンとルールの車のなかに付着していた被害者の一人、デビー・ミルズの血痕の件は?

すくなくともデビーを殺したのはレボンたちだ。

じつにややこしい。

一回観ただけでは僕の頭じゃ理解できない。


白人女性の家にしのびこんで彼女を襲った二人組は、ライノとアンの兄だったのか。それとも黒人と白人コンビだったのか。

幸いにしてアンは殺されずに済んだが、マイクやブライアンにそれで一件落着みたいな顔されても、これまでに殺されたり現在も行方不明のままの少女たちのことはいったいどうなったんだ?

わからないことだらけ。

映画では最後まで最低限必要な説明すらされない。

『リピート』はあまりのシナリオのずさんさにおどろいたが、この映画にもかなりビックリした。

こんなに釈然としないストーリーはひさしぶりだ。

映画館で観なくてつくづく正解だった。

人間ドラマでもなければ社会派サスペンスというわけでもなく、完全に破綻したストーリー。

俳優たちはよかっただけに、ほんとにもったいない。

なんだか、ずたずたにカットされまくって支離滅裂になっちゃったって感じの作品だった。


あと、僕はサム・ワーシントンという俳優さんがなんでこんなにメジャー大作に出つづけられるのかとても不思議なんですが。

というのも、なんというかハリウッドスターとしてのカリスマ性を彼からみじんも感じないので。

アクション俳優という感じでもないし。

“華”がないのだ。

なんだかものすごくディスってるみたいだけど、この『キリング・フィールズ』の彼はなかなかよかったのです。

テキサスという田舎町の、アクション物の絵に描いたようなマッチョ刑事ではない現実味のあるキャラクターを好演していたと思う(だからこそ、そのキャラの圧倒的な描きこみ不足が残念でしかたないんですが)。

ようするに、彼にはVFXを駆使したハリウッドの3Dアクション大作の主人公よりも、こういう等身大の役柄の方が合っているのではないかと。

この俳優さんをちゃんと使いこなせる映画監督がいたら、きっと見ごたえのある人間ドラマが作れるんじゃないだろうか。

でもクロエ・グレース・モレッツは、結果としてまたしても無駄遣いされていた。

いや、彼女の演技も悪くはないのだ(ブライアンに「私がなにしたっていうのよ!」と怒りをぶつけるシーンは、ちょっとオーヴァーアクト気味な気がしたが)。

それだけになおさら、母親から育児放棄されて町をさまようこのアンという少女をもっと丁寧に描きこんでほしかった。

同様にマイクやブライアンについても、ストーリーを理解するのに支障をきたすほど彼らの背景の描写が不十分だった。

なんかいろいろあるような気配だけみせておいて(パムとブライアンの過去の関係とか)けっきょくそれがまったくストーリーにからんでこないのは、シナリオの不備以外の何物でもない。


犠牲者のために神に祈るブライアンに、マイクは「ここは神からも見放された地だ」という。

治安の悪い田舎町での人間関係、性犯罪や人種差別問題など、掘り下げようと思えばいくらでもできる題材だったにもかかわらず、監督のいたらなさが俳優たちの努力を無駄にしてしまった、じつに残念な例だと思う。

…ほとんどダメ出しオンリーみたいな感想になっちゃったけど、TVの2時間刑事ドラマをあまり大真面目に語る気にならないように、この映画には真剣に語るべき内容があったとは思えないので(精一杯語りましたが)。


クロエ・グレース・モレッツという子役出身のティーン女優は、その演技力、存在感などですでに高い評価を得てはいるものの、たとえばかつてのダコタ・ファニングのように世界中から絶賛されて「天才子役」として注目を浴びるところまではいってなくて、『キック・アス』の大成功のあともけっこうマイナーなインディーズ系の映画への出演がつづいている。

そのなかで地道に知名度を上げてメジャー作品への出演も勝ち取ってきたわけで、映画監督たちにはこのいまもっともかがやいている若手女優の魅力をしっかりと引き出してほしいのだ。

そのためには、『キック・アス』(感想はこちら)や『モールス』(感想はこちら)のように、作品自体の出来がよくなければ。

つまらない映画には出てほしくない。

もちろん、つまらないかどうかは映画が出来てみなくちゃわからないから、ある意味賭けみたいなものなのだが。

だって、しつこくて悪いけど、スコセッシやティム・バートンだって失敗するんだからね。

クロエ主演の『HICK』もまたこの『キリング・フィールズ』とおなじような貧しい白人家庭の娘が放浪する話で、途中で男にレイプされそうになったり、現実の社会問題をいろいろと浮き彫りにした作品のようだけど、はたしてその完成度はいかがなものなんでしょうかね。

正直いって予告篇を観るかぎりでは、僕はけっこう不安なんですが(『HICK』の感想はこちら)。

www.youtube.com

じっさいは親兄弟たちといつも仲良く円満に生活しているクロエ・グレース・モレッツが、映画のなかではいつもどこか荒んだ家庭環境の少女をリアルに演じていることは興味深いが(『キャリー』の主人公やヒット・ガールもそうだ)、どうか彼女がいままで以上にそのもてる実力を発揮できますように、おじさんは遠い国から見守っています。



関連記事
『クリミナル・タウン』

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

キリング・フィールズ 失踪地帯 [DVD]

キリング・フィールズ 失踪地帯 [DVD]