エドワード・ヤン監督、チェン・シャンチー(チチ)、ニー・シューチン(モーリー)、ワン・ウェイミン(ミン)、ワン・ポーセン(アキン)、リチー・リー(フォン)、ダニー・ドン(ラリー)、ワン・イエミン(バーディ)ほか出演の『エドワード・ヤンの恋愛時代』。1994年作品。日本公開95年。
急速な西洋化と経済発展が進む1990年代前半の台北。企業を経営するモーリー(ニー・シューチン)は、自分の会社の経営状況も、婚約者アキン(ワン・ポーセン)との仲も上手くいかずにいる。モーリーの会社で働く親友チチ(チェン・シャンチー)は、モーリーの仕事ぶりに振り回され、恋人ミン(ワン・ウェイミン)とはケンカが絶えない。そんなモーリーとチチの2人を中心に、同級生・恋人・同僚など10人の男女が2日半という時間の中で織りなす人間模様を描き、心に空虚感を抱える彼らが自らの求めるものを見いだしていく姿を映し出す。(映画.comより転載)
エドワード・ヤン(楊徳昌)監督 (1947-2007) の94年の映画『エドワード・ヤンの恋愛時代』が4K化されてリヴァイヴァル上映されるというので、たまたまよく行くミニシアターでやるらしいことを知って、興味を持ちました。
もっとも、僕は台湾映画をこれまでほとんど観たことがなくて、エドワード・ヤン監督の他にはホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督やツァイ・ミンリャン(蔡明亮)監督の名前を知ってて90年代に彼らの作品を1~2本ぐらい観たことがあるだけです。*1
90年代は映画に興味を持ち始めた頃で、だからミニシアター系の作品も一応押さえておこう、みたいな感じで足を運ぶことがあったんですね。
ただ、そのほとんどを覚えていないし、もはやどの作品を観たのかもさだかではなかったりする。
エドワード・ヤン監督もそういう一人で、確か『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』をTVでやってたのを録画して観た記憶があります。でもめちゃくちゃ長い映画だから、ちゃんと最初から終わりまで観たのかどうか自信がない。でも、映画の存在は知っていた。
95年に公開された『カップルズ』は劇場に観にいきました。
フランスの女優のヴィルジニー・ルドワイヤンをこの作品で知った。でもやっぱりどんな内容だったか思い出せない。『恐怖分子』(1986年作品。日本公開96年)は今はなき名古屋シネマテークでやってたけど、観ていない。タイトルだけは知ってた。
20代の頃にいろんな映画を観たけれど、片っ端から忘れてて、何か大切なものをことごとく取りこぼしていってる気がします。
結局のところ、僕はミニシアター系(もちろん、ピンからキリまでありますが)よりもハリウッド映画の方が好きなんだろうなぁ、と思って2000年代にはメジャー系の映画ばかり観ていた時期もあるけれど、とは言いながら、やっぱりマイナーな映画が無性に観たくなる時もあったし、今ではハリウッド大作みたいな映画は以前ほど数を観てはいないので、そろそろまた昔観た映画を観返したり、タイトルだけは知っていたけれど観たことがなかった旧作を4K化された綺麗な画質で観るのも悪くはないな、と思い始めています。
で、台湾映画はずっとご無沙汰だったから(アン・リー監督も台湾出身だけど、今ではハリウッド映画の監督のイメージが強いし)久々に観てみたのですが。
…う~ん、これは。感想を書くのが難しい。
というのも、観始めてしばらくは登場人物たちの関係が掴めず、どういう話なのかもよくわかんなくて、『恋愛時代』という邦題(原題:獨立時代)なんだから恋愛ドラマなのだろうけれど、とにかくお話が頭に入ってこない。
基本、全篇登場人物たちがず~っと喋っているので字幕を追い続けることになるんだけど、あるカップルがタクシーの中で口論していたり、男同士がカノジョのことであーだのこーだの言い合ってたりする。
…む、これは退屈だ…。観る映画を完全に間違えてしまった、と後悔した。
途中から、よーするにこれは90年代に日本のTVでよくやってた「トレンディドラマ」だとか、ヤンエグが恋に悩む、みたいなのの台湾版なのだ、と理解した。
主人公たちは親から継いだ会社の経営者だったり、その親友だったり、役所勤めだけど元同級生同士だったり、あの当時台湾がどういう経済状況だったのか知らないけど、いかにもバブルの時代っぽい。
仕事をやってる場面はほとんど出てこなくて、もっぱら恋愛にうつつを抜かして大騒ぎしたり落ち込んだりしている。
だけど、僕はあの当時の日本の恋愛ドラマに全然興味が持てなくてちっとも面白いと思わなかったし、複数の男女がなんかオフィスだとか自宅やら店なんかであれこれと恋愛模様を繰り広げるようなのをず~っと見せつけられてると耐えられないんだよね。残念ながらそれは今も変わらなかった。
観てるうちにだんだんまぶたが重くなってきて、いくつもの字幕を読み逃した。
かと思えば、急に目が冴えてここぞとばかりに集中して観続けるんだけど、しばらくするとまた意識が遠退いていく…ということを何度も繰り返しながら、なんとか完全に寝落ちしてしまうのは避けられたけれど、じゃあ、どんな話だったのか思い出そうとしてもよく思い出せない。
…いかん、90年代頃の二の舞じゃないか。
俺はそもそもこういう映画を観られない体質なんだろうか。
この映画はどうやら映画監督や映画ファンが将来に残したい映画のベストなんとかの上位に入るような作品らしい(映画のレヴューサイトなどでも点数が非常にいいし、多くの人たちが絶賛している)んだけど、ごめんなさい、何がそんなにいいのかさっぱりわからなかった。
だって、ずっと喋ってるだけだから。
知らない奴らの恋バナに延々付き合わされているだけにしか感じられなくて。
何度か心が離れて映画館の中を魂が浮遊しそうになったんですが、でもこれで諦めるのは悔しくて、どうにか最後まで観ました。
お話の中心にいるのは二人の女性、チチとモーリー。チチはモーリーとは親友同士だが、彼女が経営する会社で働いている。やがて、彼女たちは「親友」以上の関係であることがわかってくるのだが…。
登場人物たちの関係を理解するのに物凄く時間がかかったし、理解、と言ってもどのくらい理解できたか大変心許ない。台詞の量も多いし、主要登場人物たちに加えて彼らの家族も出てくるので、俺は一体今何を見せられているのだろう、と途方に暮れそうになった。
しかも、出てくる女性たちは綺麗なんだけど、彼女たちのお相手をする男たちが貧相なツラだったり、なんかその辺にいそうなフツーの顔面のオーナーばかりでイケメンが一人もいない。
そういう連中がカノジョがどうとか結婚がどうとかやってるので、正直「勝手にやってろよ」と思ってしまった。
なんであんなシケた外見の男ばかり出したのだろう。…いや、あちらの男性たちは兵役があるから脱いだらムッキムキなのかもしれないけど。
まぁ、金持ちは不細工なのがリアルっちゃリアルなのかもしれませんが。日本でもメディアに出てくる小金持った連中ってキモメンばかりだもんな(毒舌)。
チチ役のチェン・シャンチーが『ローマの休日』(感想はこちら)のオードリー・ヘプバーンみたいな髪型、メイクをしていて(ヘプバーンの顔写真が映るので意識的にやってるのはわかるが)、なんでオードリー?って思った。
モーリー役のニー・シューチンはちょっと立花理佐に似てるなー、なんて。
サバサバ女子の彼女は見ていて小気味よかったし、綺麗でしたねぇ。
役所勤めのミンと、互いに傷を舐め合うように一夜をともにしたあと、モーリーはミンと付き合いたいようなことを言うんだけど、ミンはそのつもりはなくて、彼の心はちょっといろいろ関係がこじれ気味なカノジョのチチの方を向いている。
ミンの心が自分の方を向いていなかったことがわかって、キレて立ち去るモーリー。
この時の彼らのやりとりだけは共感できたな。身に覚えのあることだったから。
この映画、実は誰と誰が浮気していて、みたいなことがどんどん出てきて、そこんとこはちょっと面白かったですが、そういうのもいかにも「トレンディドラマ」っぽいよね。凄く狭い範囲で男女がくっついたり離れたりを繰り返してる。
たとえば、同じように恋愛を描いていても、ウォン・カーウァイの映画は僕は楽しめたし、だから恋愛を描いているからつまらないんじゃなくて、やはりそれをどう描いているかによるんだろうなぁ。
結局、ヨリを戻すんかい、なラストも、まぁ、それが無難なのでしょうが、そしてそこに至るまでの過程をこそ描こうとしたのだろうけど、その肝腎の「過程」が、僕には学生気分が消えない若者たちが仲間内でワチャワチャやってるだけに見えて、グッとくるようなことがほとんどなかったのがつらかった。
なんかアーティストっぽい奴が二人ばかり出てきてたけど、勝手に悩んでたり自分に自信が持てなくてヤケになってたりと、…知らんがな、としか。
ミンが自分のせいで親友が仕事をクビになったことを気に病んで急に「天安門」だとか「中国統一」がどうとか言い出した時には、時節柄突然90年代と今現在が交差したような気持ちになりましたが。
90年代頃の台湾の若者たちの悩みは僕にはわからない。
でも、多くの人々が彼らの姿に共感したり、彼らが抱える空虚さに自分を重ねたりしたのだろうから、この映画は時代を超えて存在しているのでしょう。あいにく僕にはわかりませんでしたが。
僕はこの映画の彼らのようにぐちゃぐちゃと悩み怒り怒鳴り合って、フラれたりまた一緒になったり…みたいな過程を全部捨ててしまったので、だから共感が難しいんだな。我が事のように思えないから。
劇場鑑賞に挑戦してみてよかったとは思いますが、面白かったかと問われれば「う~ん」としか答えられない。
今度、9月には『牯嶺街少年殺人事件』が上映されるんですよねぇ。うわー、どうしようかなぁ。*2
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