NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」も残すところあと一週間となりました。このドラマには半年間ずっと楽しませてもらってきました。こんなふうに朝ドラの内容についての感想を何度も書くことも我ながら珍しい。
しばらく間が開いてしまったので、前回のみね子が向島電機の工場の閉鎖をきっかけに「乙女寮」を出て“すずふり亭”で働き始めて「あかね荘」に移ったところの感想からいきなり飛んでしまいますが、あれからビートルズが来日したり、同じ寮の大学生・島谷との恋愛と別れがあったり、みね子が東京に来た目的であったお父ちゃんとの再会を果たしたり、そのお父ちゃんが記憶を失っていた二年間に彼と一緒に暮らしていた女優の世津子がみね子の手引きであかね荘に住むことになったり、やはりみね子のもとに転がり込んでいた同郷の時子が女優として売り出し始めたりと、いろいろありました。
個人的には2014年春の「花子とアン」以来観てきた(「ま○」は途中離脱)朝ドラの中でも一番好きだし、これまでは特に後半になると集中力が途切れがちだったのが終盤間近まで持続しました。それだけでも特別な作品ではある。
ただそういうこともあって勝手な思い入れもあるので、逆にいろいろと疑問も湧いてきていて絶賛とは言いがたいところがある。
細かいツッコミをしだすときりがないんだけど、一番の疑問点はヒロインのみね子のキャラクター。
映画評論家の町山智浩さんが7月頃にTwitterでみね子のヒロイン像について批判的な呟きをされていて、僕はそれに対して「まだこの先何ヵ月もあるんだから決めつけずにもうちょっと付き合ってみませんか」というエアリプをしていたんだけど、終盤になってどうも町山さんの指摘は的を射ていたんじゃないか、と思い始めたんですよね。
全部読むとちょっと長いですが、Twitterのモーメントにまとめていたので、張っておきますね。
自分で読み返してみても、ところどころ物語の展開やみね子の言動に不安になったり、でもなんとか持ち直したりを繰り返していて(ツイートでしばしば懸命にこのドラマを擁護してる自分がいじらしい)、作り手の手のひらでいいように転がされてる感も^_^;
その後、みね子はみんなの前で自分の意見を(必要以上に)述べるようになっていったので、町山さんが苦言を呈されていたように自己主張をしないわけではないんだけれど、じゃあその中身はというと、実はたいしたことは何も言っていない。みね子役の有村架純が民放CMで演じているかぐや姫のように、どこかとらえどころがなくて表面的。時々自己主張してはいても基本的に彼女が受け身なキャラクターであることには変わりがない。
モーメントの中の呟きでも時々例に挙げていたアニメーション映画『この世界の片隅に』(感想はこちら)のヒロイン、すずさん(奇しくも声を担当しているのは朝ドラ「あまちゃん」でブレイクした現“のん”こと能年玲奈。有村架純は彼女の母親の若い頃を演じていた)も一見受け身な女性像だったのが、物語の要所要所で彼女の主張や信じ続けてきた価値観が瓦解していく瞬間が描かれたりしていて、共感を覚えたり愛おしさを感じさせる人物になっていたように、すべてではなくてもどこか一点だけでも他の人たちとは違う「何か」があれば(すずさんの場合は絵を描くのが好きなこと。それゆえにどこかものを見る視点が独特なこと)そこに個性を見出せて彼女に共感するきっかけにもなるんだけど、みね子には得意なものも特に興味があることも、父親に再会して以降はこれといった目標もなく、恋愛に関しても常に受け身で自分から相手に想いを告げたり率先して何か行動を起こすことがない。いつも何かに対しての“リアクション”だけなんですね(借金のためにトラブルになってマスコミに追われている世津子を助け出したのは、例外的な行動だった。ここでの彼女は実に“従来の朝ドラヒロイン”っぽかった)。
このドラマは2~3年間ぐらいの出来事を描いていて、それはここ最近ずっと続いていた少女時代から晩年までの女性の一生を描いてきた作品群とは異なる方法で、それ以外でも朝ドラの「お約束」にいちいち反するような設定、演出を持ってきたり、反対にその「お約束」にツッコミを入れたりと、そういうメタ的な作りは僕はわりと好みだったんです。
「てるてる家族」みたいにミュージカル調な場面が入るところなんかも。
枠の中でウェルメイドに作るよりもいろいろハズして遊んでみる、その試み自体は楽しんできたんですよね。
なかなか「変わらない」ヒロインというのも狙いなんだろうと思っていたし、だからこそそこに何か変化が起こることを期待していたのです。
そう簡単には変化しないヒロインが、でも人生のある時期に何かを学び、わずかながら成長していく。そこに感動があるんじゃないかと。
ところが、もう最終回も近づいてきているにもかかわらず、みね子さんはいっこうに変わっていく気配がないんですね。
とりわけ僕が「…んん?」と思ったのは、かつて島谷と恋しあうことの喜びや別れのつらさを経験したはずのみね子が、彼女のことを虎視眈々と狙っていた(笑)すずふり亭のコック、ヒデとの間に、この期に及んでこれまたノーテンキにもほどがある恋愛模様をカマしてきたこと。
いや、恋愛模様などという代物ではなくて、ほとんどコントですが。
ヒデがみね子に好意を持っていることはかなり以前から描かれてきたから、いずれはこういう展開になることは予想できたけど、島谷同様になぜかいつも上からモノを言うのが鼻についたり、みね子本人の気持ちを確かめる前に恋のライヴァルでもあった島谷にまるで自分とみね子が付き合うのがもう決まっているかのように語ったりしていて、僕はヒデという人物に正直あまり好感が持てなかったので(イケメンだから、ではない。これまでマッサンだって『あさが来た』の新次郎だってイケメンで好人物だった)、どうも彼とみね子の恋愛を応援する気になれなくて。あまりにどーでもよすぎて。
本気でみね子がヒデを振ればいいのに、と思っていた。そしたら彼女が町山さんの仰るような男に都合のいいヒロインなんかじゃないことの証明にもなったでしょうに。
とにかく、みね子にはこと恋愛に関しては主体性がまったく感じられない。イケメンに想いを寄せられたから自分も好きになったみたいに見える。そうじゃなくてもそう見える。なぜなら、彼女が島谷やヒデを好きになる過程が描かれないからだ。
みね子が彼らのどんなところに惹かれているのか彼女自身の表面的な言葉以外ではわからず、彼女が恋心に思い悩んだり怖気づいたりする描写もまったくといっていいほどない。とにかくただただ恋に浮かれている。
やたらとみんなの前で自分の恋路について語ったり、そのあと本人にバレて慌てふためいたりと、「何このバカ女」と思わずにはいわれないような浮かれっぷり。なんで同じことを繰り返すの?この人は恋愛から何かを学んだり、葛藤したり、新しいことに踏み出そうという気持ちがまったくないのだろうか。僕は自分の心が完全にこのヒロインから離れていくのがわかったのでした。
これまでもその言動に「?」と感じることが何度もあったけど、そのたびに「いや、まだまだこれは物語の途上で、“このドラマはヒロインが「自らの夢や目標を掴むまで」を描くのかもしれない”からと思い直してきた。なんとかみね子に寄り添ってこのドラマを観ようと努めてきたんです。でもここ最近のふざけきったような描写には、そういう想いを何か鼻で笑われたような不快感をもよおした。何かといえば「あ~~!?」とか叫んでばっかいるし。
このドラマは、これも最近の朝ドラでやたらと連発されてきたヒロインの「口癖」みたいなのがなくて、そういうところも意識的に定型化を避けてきたと思ってたのに、後半になるにしたがってどんどんこれまでの朝ドラヒロインの悪いところばかりが目につくようになってきた。ヒロインの「ガワ」だけがこれまでのそれに近づいてきて、でも中身はやっぱりカラッポなまま、という。
僕が、みね子の「カラッポさ」にはちゃんと意味があるんだと信じてきたのは、ただの買いかぶりだったんだろうか。
もちろん、僕がどんな思い入れを持とうとそんなの作り手にも他の視聴者の皆さんにも関係がないし、だから「知るかよ、お前が勝手に入れ込んで勝手に裏切られてるだけだろ」と言われるかもしれませんが。
このドラマ、みね子はいつでも男子と相思相愛だし、逆に脇役たちの報われない恋については、すずふり亭の“アプレ娘”由香に対する和菓子屋のヤスハルのようにサラッと流されて顧みられることはない。米屋の自称“さおり”こと米子の三男への一方的なアタックも、受け身なみね子との対比以外に狙いがよくわからなかった。あまりにデフォルメされすぎてて、ほとんどストーカーだったし。
三男の時子への想いにはスポットライトが当てられていたけど、だからこそみね子の浮かれ具合にイラッとさせられる。
まぁまだあと一週間ありますから、彼ら脇役の報われない恋だって逆転しないとは限らないし、そうなると、前作「べっぴんさん」の終盤みたいに登場人物たちがあっちでもこっちでもくっついて子どもができて…みたいなことになってくんでしょうかね。
僕は、このドラマは「本当の幸せってなんだろう」という問いかけをしているんだと思っていたんです。
高度成長期で働きづめだったお父ちゃんたちから仄見えた「努力」一辺倒の姿勢への疑問。
恋愛や結婚こそが幸せ、という価値基準への疑問など。
そうじゃないものにも「幸せ」は宿るんじゃないでしょうか、という問いかけをしてるんだと思っていたのです。
だからこそ、従来の価値観から自由に羽ばたいていくみね子の姿、彼女の考え方、行動には重要な意味合いが込められていると思っていたんだけど。
そうじゃなかったのかなぁ。
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