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神戸の服飾商社の創業者を父に持つすみれは、自己主張をハッキリする姉のゆりと違って無口でおとなしかったが、母・はなの影響もあって刺繍に夢中になる。やがて戦争の時代を経て母となったすみれは、出征したままいまだに戻らない夫の紀夫を待ちながら、幼い娘のさくらや姉夫婦らと戦後の世の中を生きていく。
主人公・すみれのモデルは、アパレルメーカー“ファミリア”創業者の一人である坂野惇子。
今月初めに新番組として始まりましたが、正直最初の二週間ほどは戦前から終戦まで話の展開があまりに速くてまるでダイジェスト版を観ているようでした。
子どもだったヒロインは一週間も経たずに女学生になり、あっという間に結婚してまもなく戦争が終わる。なんとも慌ただしくて「これ大丈夫なのか」と不安に。
でもやがて、これまでお屋敷に住むお嬢様育ちで自分が働くことなど考えてもいなかったすみれが空襲で実家を失い、働き手の夫も帰らず収入を得るために仕事を探すようになるあたりから話の進展は緩やかになって、外国人夫婦(妻のエイミーを「マッサン」のヒロイン、エリー役だったシャーロット・ケイト・フォックスが演じている)の赤ちゃんのおしめを作ったのをきっかけに、亡き母の形見のウェディングドレスの生地を使って女学生時代の友人たちと協力しあってベビー服を作り上げ、ベビーナースをしていた明美も加わって4人の女性たちで子ども服を作る仕事を始めることにする、というところまでお話が進みました。
このドラマの特徴として、たとえばこれまで「ごちそうさん」や「花子とアン」「あさが来た」「とと姉ちゃん」などでユーモラスに描かれていたヒロインたちのような「キャラ立ち」をまったく行なっていないことが目を惹きます。
すみれはドジっ娘ではないし、変顔もしないし、「なんか、なんかな…」という口癖はあるもののそんなに多用もされず、非常にオーソドックスというか昔ながらの正統派ヒロインなんですよね。
お嬢様育ちなので人がよく裏がない。
でもそのためにすみれの実家で働いていた女中の娘・明美(谷村美月)のような境遇の人の気持ちがわからず、意図せず傷つけてしまうこともある。明美の母はすみれの実家で人減らしのために解雇され、戦後まもなく亡くなっていた。
そのことで明美にはすみれと彼女の家族に対する反感があるのだが、苦労と屈辱を強いられた明美に対してすみれには直接なんの罪もないとはいえ、それでも人の心に誠実に向き合う大切さを彼女の行動とその言葉を通してこの二人が打ち解けあうようになる過程も端折らずに描く。
すみれはけっして鈍感なのでも無神経なわけでもないが、これまで生きてきた環境の影響は大きく、だからこそ戦後の大変な時期に彼女は自らの意識を大幅に変えていかなくてはならない。
これはいいとこのお嬢さんだったヒロインの物語ではあるけれど、でも僕たち視聴者の視点でもあるんじゃないだろうか。
収入がなくなり仕事はなかなか見つからず、養うべき子どももいる。
世の中には自分よりももっと大変な生活をしている人々はいるが、自分だってけっして楽ではない。
その中でかつて女学校で一緒に学んだ級友たちとともに子ども服を作る仕事を始めようとするすみれ。
とても共感できる物語だ。
自分で新しい会社を作る、というと前作「とと姉ちゃん」のヒロイン、常子(高畑充希)を思い出しますね(あと、服飾関係では尾野真千子主演の「カーネーション」も)。
姉妹と友人という違いはあるものの、女性たちメインで、というのも似ている。もちろんどちらも史実を基にしているので、どちらがどちらの真似ということはないんですが。
しかも「とと姉ちゃん」の場合は出版の仕事に行き着くまでに結構紆余曲折があったのに対して、この「べっぴんさん」の方はストレートに子ども服へと繋がっていく模様。
ほんと、まだドラマが始まってわずかひと月ですが、すでにヒロインは目標を定めてそこに向かっている。
これからまだ5ヵ月ありますが、今後どんな物語が描かれるのか予想もつかない。「とと姉ちゃん」との差異が実に面白い。
おふざけを一切やらないヒロインとストーリー(曽我廼家文童演じる執事が「私は誰、ここはどこ?」とやってたのも最近は見なくなった)、そして最初の猛ダッシュから一転して、一つのエピソードをじっくりと時間をかけて描くスタイル。
すみれが口にした「天使のドレス」というのは、もちろん彼女たちがこれから作り上げていく子ども服、そしてそれこそまさしくドラマのタイトルの「別品(べっぴん)」のことに他ならない。
ところで、主演の芳根京子さんは昨年公開された映画『幕が上がる』(感想はこちら)で演劇部の部員の一人を演じていましたが(って、公開当時は知らなかったけど)、あの映画で主人公を演じたももいろクローバーZの百田夏菜子さんが今度は芳根さん演じるすみれの友人で一緒に子ども服を作っていく良子役で出演しています。良子は昭和40年代の場面にもいたので、彼女は主要キャストとしてこれからもずっと出てくるはず。
『幕が上がる』ではヒロインだった百田さんと、部員その1みたいな役だった芳根さん(ほんとに注意して観ていないと彼女だと気づかないぐらい)が、その立場がまったく逆転している面白さ。
映画やドラマの世界って不思議ですよね。
先ほどもちょっと述べたように、ここしばらくの朝ドラは「キャラ萌え」を狙ったようなキャスティングや演出もわりと見受けられたんだけど(それが一概に悪いとは思いませんが)、「べっぴんさん」にはあまりそういうのを感じないというか、もしかしたら意図的にそういう要素を排しているのかも、とも思います(ももいろクローバーと四つ葉のクローバーがかかってるのはご愛嬌w)。
そこにちょっと新鮮味を感じるし、目立たないけれど新しい挑戦をしている気もする。
丁寧に物語を紡いでいこう、という作り手の意気込みも。
まだまだ物語は始まったばかり。
「天使のドレス」をめぐってどのような展開になっていくのか、楽しみにしています。