※以下は、2010年の劇場公開時に書いた感想に一部加筆したものです。
監督:山崎貴、脚本:佐藤嗣麻子、主演:木村拓哉の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』。2010年作品。
ガミラス星からの攻撃をかいくぐり、放射線に汚染された地球を救うためにイスカンダルを目指してSPACE BATTLESHIP ヤマトが発進する。
まず、今回はいつも以上にかなり「上から目線」で生意気な口きくんで、この映画をすでに観て感動して涙流したという人、あるいはこれから観る予定で本気で期待してる人、出演者のファン、そしてこの映画の制作に直接関わったかたがたは気を悪くされるかもしれません。
映画制作にたずさわる人々のことを心から尊敬しているし、さまざまな大人の事情で現場では実現しなかったこともいっぱいあるのでしょう。
でもチケット買って映画館で観た以上、作品に対しては正直な感想を書かせてもらいます。
だから「文句あるならテメェが撮ってみろ」などと無理なこと言わないでいただきたい。
たしかに2010年最大の“問題作”であることは間違いないです。いろんな意味で。
実のところ、この映画は制作発表当初から僕の鑑賞予定のラインナップの中にはまったく入っていなかった。
アニメの「宇宙戦艦ヤマト」をちゃんと観たことがなくて(ガンダム世代なもんですから)、だからそれと比べてどうこうということは一切ないんだけど、何かを期待させられる要素が見当たらなかったので。
「宇宙戦艦ヤマト」(1974) 歌:ささきいさお 声の出演:富山敬 納谷悟朗 他
www.youtube.com
しかも劇場やTVで予告が流れ、公開が近づき、試写会に行った人たちの感想の中には芳しくない評価を散見する。
というより、ほとんど絶望的といっていい酷評がいくつも見られる。
「Yahoo!映画」で非常に的確な批評をみつけたんでご紹介しておきます。
↑このかたのレヴューの中に、この映画の問題点、惨状ぶりがほとんど列挙されてます。
一方で信じられないほどの高評価もあるが、そういう“絶賛系”については「Yahoo!映画」で星5つつけてベタ褒めしてるレヴュアーのほとんどがこの映画の感想だけしかレヴューを書いてない、ようするにサクラなのであてにならない。
これはもう、絶対爆発することがわかってる爆弾を処理しにいくハート・ロッカー状態である。
無事に戻ってこられるはずがない。
この映画はどーやらアメリカのSFドラマ「バトルスター ギャラクティカ」(YouTubeでドッグファイト・シーンをちょっと観たことある程度であいにく僕は未見なんだけど)をパクっ…いや、参考にしてるんでしょ?
それで「日本人が初めて挑むSFエンターテインメント」みたいなこといってるってことは、元ネタを超えるよほどの自信があるのか、あるいはハリウッドや日本の特撮業界の先人たちをナメきってるかのどちらかだろう。
そういう態度で映画作ってる人間の作品にはろくなものがない。
なのでギリギリまで迷っていた。
でも、もしかしたらあまりにぶっ飛び過ぎてて逆に笑えるかも、と妙な方向に興味が湧いてきたのだった。
そう。見方を変えれば今回の映画ほどみんなで観たあとでツッコミ入れ合いながら語らうのが楽しい作品はないんじゃないか。
それと、ある人が「デスラーを演じてるのが海老蔵、ぐらいのサプライズがあったら…」と書いているのを読んでウケたんだけど、もしかしたら奇跡が起こる可能性だってないとは限らない。
市川海老蔵氏が先日酔っ払ってチンピラ相手に「灰皿テキーラ」カマしてフルボッコにされた*1のも、この映画の撮影後に我に返って「うわぁ、やっちまった!」とヤケをおこしたからなのかもしれないし。
ヤマトの宿敵のあの青いオッサン“デスラー”については、今回の映画ではその配役がひた隠しにされてきた。
…そりゃもう、“振り”に決まってるではないか。だってガミラス星人を生身の人間が演じたら、それが誰だろうと笑えるに決まってんだから。
そんなのは深作欣二監督の『宇宙からのメッセージ』を観りゃわかる。
『宇宙からのメッセージ』より、ガバナス星人の皆さん。
もう頭の中で勝手な想像が働き始めていた。
マズい。もし映画館に観に行って、エビゾーがマントひるがえして『アバター』(感想はこちら)みたいな青い顔に金髪のヅラかぶって「お〜い、ヤマトの諸君」とか言いながら出てきたら、俺の腹筋がフル稼働し過ぎて呼吸困難になっちまう。
なんか生まれて初めてAVコーナーか風俗店に入るみたいにあれやこれやとめくるめく世界が展開してきて頭パンパンになり、辛抱タマランくなってきたのだった。
最高に笑える一品だったら(完全にコメディのつもり)またみんなと観に行こう。
ってなわけで行ってきました。
知って困るネタバレはないです。
……こ、これは^_^;
一言でいうと、「キムタクが宇宙でヤマトをラブホ代わりにして黒木メイサめがけて“波動砲”をブッぱなす映画」でした。
下品で申し訳ないけどそのとおりなんだもん。
そのことに気づくと、あの“スペース・バトルシップ”がもうアレのメタファーにしか見えなくなってくる(ご丁寧にも途中で“コンドーさん”までかぶさるし。これ、子どもも観る映画だよな?)。
と、こう書くとアッパー系の笑撃作に思えるけど、その実態は天国が限りなく近く感じられるほどのダウナー系なのだった。
観てるうちにオチそうになりました。
いや、ひょっとすると途中まではまだほとんどの人が「それほど悪くもないんじゃないの」と思うかもしれない。
でも観続けてればわかります。
だんだんデスラーの正体とか、どーでもよくなってくるから。
威力のレヴェルがダイヤル式で「1」とか「2」ってデッカく表示される銃とか…コントの小道具ですか!いや、すべてがコント仕立てではあるんだが…しかし笑えんのだ、これが。
映画を観ていて、登場人物たちの生き死にがこれほどどーでもよく感じられたのは『ヒーローショー』(感想はこちら)以来かもしれない。もちろん井筒監督の映画とはその理由がまったく違う。
ヤマトのクルーたちのキャラクターの描きこみが決定的に不足してるので、彼らに感情移入したり思い入れを込めるのが困難なばかりか、なんというか、とにかくその台詞廻しがいちいちムカつくんである。さらに監督のおおざっぱな演出がそれに拍車をかける。
波動砲を撃ったあとに毎回手をあげて喜ぶブリッジの奴らの演技には殺意をおぼえるほど。
「チーム古代」(なんだそりゃ)のくだり、キムタクの演説、全部いらない。
黒木メイサ、好きなんだけどなぁ~。とってもヘタッピに見えちゃってるんだよなぁ。
キムタクとのやりとりとか、ぶっちゃけ正視に耐えなかった。
兄を見殺しにされたと艦長を憎んでたキムタク、いや古代進はいつのまにか艦長を信頼しきってるし、やはりあんなに古代につんけんしてたメイサ、もとい森雪は古代がカマすレイプまがいのキスとその直後の一発(直接的な“合体”場面はないけど、その証拠はラストシーンでわかる)で「あなたがいない世界で生きててもしかたがない」って物凄い豹変ぶり。
登場人物の感情もヤマトと一緒にワープしたものとみえる。
そして…イスカンダルに着くの、早ェっ。
「ヤマト」ってコスモクリーナーを手に入れるためにイスカンダルへ旅する話じゃないの?
「地球からはるばると…」って一瞬ではないか。
んで、またあっという間に地球に戻ってくる。
「地球か……何もかも皆懐かしい」って、さっき出てきたばっかだろ!
この台詞の主は本来は渋くて泣かせる役のはずなのに、この映画の中ではほんとまったくといっていいほど役に立ってないのね。この人は宇宙まで一体何しに来たのだろうか。
それとクライマックス直前にキムタクが「考えろ、考えろ」と言いながら考えだす場面で、驚くべきことに映画が“一時停止”する。
それはちょうど、舞台で芝居してる最中に台詞がトンじゃって変な間ができてしまい、他の出演者が一瞬素に戻り一拍おいてなんとかフォローしようとアドリブの台詞を言う、というような観客にとっては非常に気まずい状況に酷似している。
映画でそんな事態になるって前代未聞だよ。事故かと思った。
どんだけ前衛的な演出なんだ。
沖田艦長(サンタのコスプレみたいな付け髭の山崎努)の台詞「指揮をとったことがない者は我々の重圧を知らない」って山崎監督、それはご自分のことですか?
「人の上に立つ者」が口にしちゃいかん言葉ではないのか、それは。
こんなリーダーに指揮されたら下の者はかなわんだろう。
これは起こるべくして起こった大惨事といえる。
かように“ふざけきった映画”だったんだけど、それが逆にぶっ飛び過ぎてて斬新、とか微笑ましいということは一切なく、最初にお伝えしたとおりひたすらダウナーな気分にさせてくれるブツでした。
いやぁ、すげぇよこれは。映画自体が自爆していた。玉砕でした。我ながらよく生還できたと思う。
あの問題作『少林少女』(感想はこちら)が普通の映画に思えてくるもの(いや、あの映画も大概ですが)。
この映画を観て「感動して泣いた」っていうレヴュー書いてた人たち、…どこで?ねぇ、どこでなの!?
僕がこうやって偉そうにつべこべ文句垂れてるように、この映画を褒めようが持ち上げようがそれは観た人の自由だけど、「日本映画にしてはがんばってる」って言葉には邦画に対する侮蔑しか感じられない。
「VFX(視覚効果)が『スターウォーズ』と同じレヴェル」っていう感想も噴飯もので。ILMのスタッフに土下座して謝ってくれ。
これだけはハッキリいえるけど、同じパクリでも『スターウォーズ』のパチモン映画『宇宙からのメッセージ』の方が千倍面白いです。
深作欣二は「世界進出」なんて世迷言は一言も吐かなかったけど。
もうこの映画も沖田艦長役を千葉真一がやって「おのれぇガミラスぅ…コォォ~きぇえ~いぃ!!」って暴れりゃよかったんじゃないの?w
ショボさを笑うこともできないんですよね。ただひたすら溜息が出てくるだけで。
この何ヵ月か前に観た中国製のトンデモ・パニック映画『超強台風』を愉しめたのは*2、あれが曲がりなりにも人間を描いた映画だったからなんだと(いろいろ間違ってはいるけど)激しく実感。愉快な特撮もいっぱい見られたし。
しかしこの『SPACE BATTLESHIP~』の登場人物は誰一人としてまともに演出もされてないし、ましてやSF映画史に残るような映像などワンカットとしてない。サプライズもない!
…エビゾー?出てこねーよっ!!
やっすいCGだったよデスラー。
あ、唯一笑えたのが最後に「ママー!」って登場する子ども。
あぁ、キムタクの“波動砲”の狙いは正確だったんだな、って話。
下品で申し訳ないけどほんとにそのとおりなんだってば!
しかし、あのワープのわずかな時間にタマ込めて発射、そして受精、着床!って野生の草食動物並みの素早さですな。
キムタク、いや古代の精力ハンパねぇー(早○ともいう)。
いっそのこと、かつて小松左京のSF小説の映画化作品『さよならジュピター』で三浦友和が見せた「無重力SEX」みたいに、キムタクとメイサが全裸で宙に浮かんで抱き合いながら回転してくれてたら、確実に僕の評価は180度違ったのに。
まぁ、いずれにしろ世界中から笑われることに変わりはないですが。
「ゴールデンラズベリー賞外国語映画賞」なんてのがあったら、間違いなくノミネートされると思います。
真剣にやって笑われちゃった、というならまだ可愛げがあるけど、自分でもカッコイイと思って「どうだ、すげぇだろ!」って超ドヤ顔で売り込もうとしてるとこがなおさら深刻。
ってゆーか、それ以前に誰もこのシナリオにダメ出ししなかったの?
…ヤバいぞ、「日本国民の皆さん、ヤマトを海外で公開することに決定いたしました」って正気を失ってるとしか思えない。日本国民は我が国の名誉と尊厳のためにただちに全力で阻止せよ、これは命令である!!!
冗談ではなく、これ以上被害を増やさないように署名活動でもしてせめて海外での上映だけは中止に持ち込むべきじゃないのか、この星のためにも。*3
頼むからこんな映画に(あえて“こんな”といわせてもらう。ほんとにコレに20億も使ったのか?)社運を賭けないでくれTBS。
それから山崎監督は今後奥さんには脚本を絶対に任せないで、ちゃんとプロのシナリオライターに書いてもらってください。
さらば“SPACE BATTLESHIP”ヤマトよ永遠(とわ)に。
二度と地球に帰ってこないでくれ。
…でもシネコンのチケット売場のおねえさんたちが着てた(上だけ)ヤマトのユニフォームは可愛かったです。
おわり。
以上は2010年に書いたものです。
いやぁ、なかなかの罵倒っぷりですね^_^;
でも罵らずにはいられなかった。
あれから4年経ってこの作品に対する世間の評価は定まっただろうからもう怒りもないですが(作品の存在を許したわけではないが)、山崎監督は今度は「ドラえもん」に手を出して、さらに黒木メイサは実写版「ルパン三世」に出てる(キムタクは何やってるのかよく知らないけど)。
…懲りてないなぁ。そもそも「失敗した」という自覚がないのかも。
山崎監督は『ヤマト』のあと『ALWAYS 三丁目の夕日’64』を撮って、あのシリーズも人によってはクソミソにケナされてますが、僕は意外と好きなんで観に行きました。
ただ、とりあえず「ALWAYS」シリーズは3作目で完結したし、今後僕は山崎貴監督作品をけっして観に行くことはないだろうと思っています。
現在公開中のCGアニメ映画『STAND BY ME ドラえもん』も大ヒット中らしいけど、どんだけ皆さんが「ドラ泣き」しようが観に行くつもりはない。
さすがに今では僕もわざわざ地雷踏むために映画館まで行く気にはなれないので。
考えてみれば、この『スペース・バトルなんちゃら』以降、日本の漫画やアニメの実写化映画をまったく観なくなりました。
そういう意味では、とても大切な教訓を残してくれた映画だったとはいえるかもしれません。
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『ALWAYS 続・三丁目の夕日』
『ALWAYS 三丁目の夕日'64』

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