映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『となりのトトロ』


※以下は、2012年の金曜ロードSHOW!での放映時に書いた感想です。


監督:宮崎駿、声の出演:日高のり子坂本千夏糸井重里北林谷榮島本須美高木均ほか、スタジオジブリのアニメーション映画『となりのトトロ』。1988年作品。

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なぜかOPEDは映画に使用されたヴァージョンがまったくみつからない。
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昭和30年代。田舎に引っ越してきた草壁一家の姉妹サツキとメイと不思議な生き物“トトロ”の交流を描く。

以下、ネタバレあり。


公開当時に映画館で観ました。

同時上映は高畑勲監督のトラウマ映画『火垂るの墓』(感想はこちら)。

『火垂る〜』は反戦映画というだけではなく人間の酷薄さにも迫った優れた作品だと思うのだけれど(子どもの“芝居”をリアルに描いたものとして日本映画のなかでも傑出している)、個人的にこの映画のことを世間でしばしば「泣ける映画」などと称することに抵抗感がある。

幼い子どもが衰弱して死んでいく映画を「泣ける」とかいうのはどうなのかと。

いや、泣いたけどさ、俺も。

海外では「落ち込む映画」としてかなり上位にランキングされてるそうだけど、まだそちらの方がしっくりくる。

映画館で『トトロ』と同時上映されてちょうどいいバランスだったんじゃないかと思います。


さて、定期的に日テレで放映されてそのたびに高い視聴率をとってる現在では信じられないことだけど、『トトロ』は公開当時には当たらず、興行収入はこれも公開時にはふるわなかった『ナウシカ』(感想はこちら)よりもさらに下回ったんだとか。

でも僕が観たときには映画館けっこう混んでたけどなぁ。

宮崎監督の講演会のときだって、超満員でグッズ売り場にも人があふれてたし。

というか、宮崎アニメで映画館が空いてるのを見たことがない(ほかのジブリ作品はある)。


スタジオジブリのトレードマークでもあるこの映画はよく「懐かしい」といわれるけど、劇場ではじめて観たときから僕はこの映画にいわゆる『ALWAYS 三丁目の夕日』的なノスタルジーを感じたことはなかった。

舞台は昭和30年代ということになっているけど、まるで現代のどこかの山村のように見える。

夏休みに山にキャンプに行ったような感じ。

もちろん、あのような風景はいまではもう日本にはないのかもしれないけど、映画を観ているとどこかにありそうな気がするのだ。

このへんな生きものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」というキャッチコピーは、お父さん役もつとめる糸井重里が最初は「このへんな生きものは、もう日本にはいないのです。たぶん。」としたところ、監督が「そうかもしれないけれど、いると信じて作りたい」といって変更になったという。

サツキとメイたちが住むことになるオンボロ家屋も、洋風のテラスがある和洋折衷型でモダンな雰囲気だし。

先ほどの『火垂るの墓』と観くらべてみると、『トトロ』に描かれた世界が純日本風というよりもどこか西洋のファンタジー的な意匠をふくんでいるのがわかる。

だからあまり昔という感じがしない。

たしか公開当時、宮崎監督はトトロのことを「水木しげるが描く妖怪とは違うもの」といっていた。


この、日本でありながらどこか西洋ファンタジーの匂いもするところが僕は児童書「いやいやえん」の世界に近いなぁ、と感じていたんだけど、のちにジブリは「いやいやえん」のなかの一篇「くじらとり」を短篇アニメにしているので、やはり直接影響があったのかな、と思った。

宮崎監督は昔から児童文学を熱心に研究しているようなので、ありえることだし。

それから、宮澤賢治が描く世界との高い親和性も感じる。

イーハトーヴ」とか「グスコーブドリ」といった賢治のネーミングセンスやその童話の世界観は、『トトロ』に通じるものがある(宮崎駿は以前から賢治をリスペクトしている)。


上映時間は宮崎駿の長篇作品のなかでもっとも短い88分。

これまでの宮崎アニメの「大きな物語」とは打って変わって、『パンダコパンダ』を思わせる牧歌的なお話がつづられる。

しかもパンダが人語を発していた『パンダコ』と違って、トトロはものいわぬ動物や精霊のような存在で、より現実に近い世界観。

もののけ姫』(感想はこちら)の“物の怪”たちはよくしゃべるやけに自己主張の激しい人間くさい連中だったが、トトロたちはなにもいわない。

そのなにを考えているのかわからない茫洋としたきまぐれオバケたちのキャラクターは、のちの『千と千尋の神隠し』(感想はこちら)の神様たちにつながるものだ。

まさに風や雨、森の木々のざわめきのような自然の化身に思える。

彼らが吹くオカリナの音は、風に乗ってどこか遠くの人々に届くだろう。


姉のサツキがお母さん代わりのしっかり者として父親を支える一方で、幼い妹のメイは観客に笑いを提供する。

子どもの生態を細かく観察して再現してみせた部分(「オジャマタクシ!」のくだりとか、お父さんを待ちながらバス停でメイが舟を漕ぐ場面など)と、漫画映画的にデフォルメされた部分(中トトロとの追っかけや穴から落ちて目玉グルグルなど)がとてもうまく融合している。

トムとジェリー」のような狂騒的な笑いではなく、かといって「サザエさん」のような予定調和的微苦笑でも「クレヨンしんちゃん」みたいな幼児ギャグでもない。

このおもわず大人でも顔がほころんでしまうような笑いの質はとても貴重だと思う。

川の水で冷やしたキュウリの歯ごたえや傘に雨粒が当たる音。なんてことない日常からあらたな発見をしていくところはまさに『パンダコパンダ』の発展系といえる。


ところで、この映画で一箇所とても奇妙に感じた場面があって、それはサツキが泣くところ。

これがなんというか、これまでの宮崎アニメでは見たことがないクシャクシャのサル顔なのだ。

メイの泣き顔はもうちょっとカワイイけど、それでもこれまでの目の下に涙を溜めて可憐に泣いてた宮崎ヒロインたちとくらべると写実的で、けっこうインパクトがあった。

ちょっとここだけ『火垂る〜』のキャラクターっぽくて。

よりリアルな少女を描きたかったんだろうけど、サツキの声を担当したのが浅倉南こと日高のり子なのでずいぶんと大人びて感じられた。

同級生のカンタの声は現役中学生が演じていたから、サツキの落ち着きぶりがよけい際立つことに。

ちなみに、ディズニー版のサツキの吹き替えは小学校低学年だったダコタ・ファニングがやってるけど、こちらは逆に幼すぎる気がした。

女の子のサルみたいな泣き顔描写はこの作品のみで、以降は異様にデカい涙の粒が目からあふれて頬をつたう『千と千尋』のような、ふたたびデフォルメされた描き方になる。

それはそれでまた以前とは違った超現実的な表現なのだが。


技術的なところでは、登場人物のセル画の輪郭線が一般的な黒ではなくて茶色になっていて、より背景に馴染んで見える。

この映画と『火垂るの墓』では特注のカーボンを使ったらしい。

これは次作『魔女の宅急便』(感想はこちら)の冒頭でもおなじ処理がされている(キキが実家を出てからは輪郭線は黒になる)。

ナウシカ』では、トルメキア軍を攻撃するアスベルの前に「やめて!」と叫ぶナウシカの姿が一瞬よぎるシーンや、腐海で彼女を包み込む王蟲の触手などにこの手法が使われていた。


さて、この話題には正直あまりふれたくないんだけど…。

この映画がTVで放映されるたびに、またぞろ思い出したようにネットに「トトロ都市伝説」なるものを得意げにまき散らすバカどもがいて心底ウンザリさせられる。

特に中学生なんかが多いようで。オカルトっぽいものに興味がわくのはわかるんだけどさ。

僕が子どもの頃だってサザエさんドラえもんの最終回の噂(“都市伝説”という言葉はまだ使われてなかった)なんてのもあったけど、あくまでもそれはネタであって、いまだに本気で信じてる奴などいない。

しかし『トトロ』に関してはいくらジブリが公式に否定しても、あるいはその“都市伝説”とやらが強引にもほどがあるこじつけによる根拠のない捏造だと証明されても、しつこく「メイはほんとは死んでるんですよね?(キリッ」などと言い張る輩がいる。

…頭が沸いてんのか?お前らが1秒でも早くね!

ヴァラエティ番組でこの流言を無責任に垂れ流してたお笑い芸人も同罪。

ほんとに不快。

作品をちゃんと観てたら、そんな話にはなりえないことがわかるはずだ。

むしろ、サツキやメイたちがああやって元気に生きていることの素晴らしさを描いているのに。

陰りのある物語には奥行きが感じられるもので、だからこそ『トトロ』はすぐれた作品なわけなのだが、そういうものを理解できない人間はすぐにわかりやすい心霊ネタに飛びつく。

映画を観てあれこれ憶測するのは人の勝手だけど、作品が伝えるものを歪めまくったうえにそれをあたかも事実のように面白がっていいふらす連中には頭にくる。

ちなみにこの映画の公開当時にはそんな噂などみじんもなかった。

ここ10年ちょっとのあいだにインターネットで広まったものだ。

そんな工夫の足りない怪談話を、中坊だけでなくいい年こいた大人までもが信じ込んでたりするんだからあきれる。

バカに年齢制限はないものとみえる。

あとお願いだから、現実とファンタジーの区別がつかない奴は映画を観るな。


こういうデマを吹聴する者が絶えないのも、メイが森の小さな祠(ほこら)を見てふとおびえた表情をしたり、彼女がいなくなってから田んぼのなかで小さなサンダルがみつかるといった、最悪の事態を想像してしまう描写が随所にみられるからだ。

子どもにとって「コワい場所」というのがある。

それをこの映画は思い出させてくれる。

まだ夜や物陰は暗く(いまだって電灯のない山中や海は夜には真っ暗だ)、怖ろしかった。

そういった闇の怖さと明るい昼間のほのぼのとした童話的な世界が共存している。

それでもこの映画は、怖ろしさよりも夏季合宿にきたようなワクワク感の方が強い。

サツキの腕からたきぎを巻き上げていく突風や屋根のトタンを鳴らす強風には、子どものときに感じた台風のときのコワいけどちょっとなにかイヴェントがはじまるような予感を思い出させるし、月明かりの下をススワタリたちが空に昇っていくシーンは、幻想的でありながらまるでホタルイカの群れを見るようなリアルな美しさがあった。

観察にもとづいた自然描写が、この映画をたんなる絵空事ではなく、トトロたち“もののけ”を実在感あふれるキャラクターにしている。

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まぁ、ネコバスあたりになるとかなりサーヴィスしてる感もありますが。

ネコバスが「不思議の国のアリス」のチェシャ猫にソックリ、というのはよく知られているけど、うまいとこからもってくるなぁ、と思う。

 


こういうのこそ“オマージュ”というのではないか。

もっとも「不思議の国」でチェシャ猫は笑顔をうかべてアリスを煙に巻く。彼女に危害を加えることはないが、なんともとりとめのない存在である。

ネコバスの方はというと、ものはいわないがサツキやメイたちの助っ人として活躍する。

不思議の国のアリス」は一見この奇妙で冗談めいた物語には似つかわしくないような、ちょっと感傷的な場面で幕を閉じるのだが、一方『トトロ』には清々しいほど感傷はない。

この映画を観て感傷に耽る人がいるとしたら、それは映画の内容にではなくて、子どもの頃にこの映画を観た自分自身を思い出してのことだろう。

『トトロ』はいつだって“いまの子どもたち”にむけて作られている映画なのだ。


お母さんが病気で死んでしまうのでは、と心配になって泣き出してしまったサツキ。

そんなお姉ちゃんを見て、ひとりでお母さんに届け物をしようとするメイ。

幼い頃に感じた不安を思い出す。

迷子になったら、もう二度と親に会えないのではないかと大泣きしたあの頃。

子どもにとって、親とはぐれること、親をうしなうことは幽霊やオバケよりももっと怖ろしい。

そして大人たちにとっても、幼い子どもの行方がわからなくなるほどの恐怖はない。

けっきょく、片っぽだけ落ちていたサンダルはメイの物ではなかったことがわかり、安堵してへたりこむカンタの婆ちゃん。

観ている親にとっても胸をなでおろす瞬間。

そして、サツキの願いでトトロはネコバスを呼び寄せる。

ネコバスに乗って無事メイをみつけたあと、今度はふたりでいっしょにお母さんのいる病院へ。

病院の一室ではサツキたちの両親が談笑している。

母親はちょっと風邪を引いたものの、命に別状はなかった。

窓の外にトウモロコシが置いてあるのに気づくお父さん。

そして「いま、そこの松の木でサツキとメイが笑ったように見えた」とつぶやく妻に夫は答える。

「案外そうかもしれないよ。ほら」

トウモロコシには「おかあさんへ」という字が刻まれていた。

井上あずみの唄う主題歌が流れはじめる。

幸福感に満ちたエンディング。


いかがだろうか。

これを観てつまらない心霊ネタなんかを思い浮かべて喜んでる人間とは、僕は友だちにはなれないと思う。


これまで多くの子どもたちが、この映画から「忘れ物」を届けてもらった。

いや、忘れ物をしてるのは子どもたちじゃなくて、自分がかつて子どもだったときのことを忘れてしまった者たちじゃないのか。

子どものときにだけ、あなたにおとずれる不思議な出会い

この映画を観るたびに、見るものすべてが新鮮で未来には可能性が広がっていた頃を思い出す。

かつて「子どもに何度もこの映画のヴィデオを観せている」という若い親に、宮崎監督は「そんなヒマがあったら外で遊ばせなさい」と、ごもっともなことをおっしゃっていた。

となりのトトロ』は、もう一度世界をあらたに発見する喜びを教えてくれる映画である。

ある朝、畑に顔を出した小さな芽にサツキとメイは歓喜して叫ぶ。

夢だけど、夢じゃなかった!

現実と幻想のはざまにいる幼女と、そんな妹の純真さにみちびかれて自分も森の妖精“トトロ”と出会うことができた姉。

この物語に感化されて、多くの人々にとってこの世のなかがよりいっそう輝きに満ちたものになりますように。

こうしてトトロはこれからもずっと僕たちとともにいるのです。きっと。


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