アダム・マッケイ監督、ウィル・フェレル、ジョン・C・ライリー主演の『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-』。2008年作品。日本未公開。
互いの親が結婚したことで義理の兄弟となったボンクラ中年息子のブレナン(ウィル・フェレル)とデール(ジョン・C・ライリー)。両親は定職につかずにブラブラしている彼らをなんとか就職させようとするが、精神年齢が極端に低いままの息子たちはやがて意気投合してバカがさらに加速するのだった。
以下、ネタバレあり。
ふたりの親に『モールス』のリチャード・ジェンキンスと『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』のメアリー・スティーンバージェン。
監督も共演者も違うのだが、まるでシリーズのように頭に「俺たち」と冠されることが多いウィル・フェレル主演映画(ほかにも『俺たちダンクシューター』などがある)。
先日観た『俺たちフィギュアスケーター』(感想はこちら)とももちろん無関係な作品だが、今回のフェレルの共演者は『シカゴ』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた実力派俳優ジョン・C・ライリー。
この人をはじめて見たのはポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』。
あのときのキャラが強烈すぎたのでいまだにそのイメージが拭えない。
しかし今回はそれを更新するようなダメぶりを見せてくれる。
チリ毛に渡辺哲みたいな顔したライリーのブリーフ姿はじつに醜い(;^_^A
『ブギーナイツ』ではいい歳して「俺はハン・ソロだ」とホザくバカを演じていたけど、この映画ではフェレルと「ドラゴンと呼べ」「僕はナイトホークだ」と、やっぱり同じようなやりとりをしているのだった。
なんなんだお前ら^_^;
かつてペニー・マーシャル監督の『ビッグ』でトム・ハンクスは中身が小学生の主人公を演じていたけど、彼とブレナンたちが違うのは、こいつらは中身も正真正銘40代だということ。
40年生きてきたのに親元ですねかじりながらTVでセガールの映画観て夢中で応援したり、自分の部屋を「俺のオフィス兼ビート・ラボだ」とか抜かしたり、木の上に秘密基地つくってエロ本を溜めこんだりしてる。
完全に頭の中身が中学生ぐらいでストップしている。
すべてを親に頼って自分では何ひとつできないのに、偉そうにあれこれ指図したりワガママ放題。厨二病にもほどがある。
ウィル・フェレルひとりでも持て余すのに、それと頭が同レヴェルのジョン・C・ライリーが加わったら親はお手上げである。
最初、似た者同士のふたりはいがみ合っているが、そのケンカのしかたがまさに中坊並み。
「俺のドラムに触るな!」「そんなドラム、タマ袋擦りつけてやる!」ってんで、ほんとにそうする。
画面にフェレルがドラムに擦りつける“おいなりさん”が映る(もちろん作り物だが)。
ケンカして家のなか無茶苦茶にしたかと思えば、今度は仲直りして寝ぼけてやはり部屋中を破壊。
仕事の面接に行っても社会常識がなさ過ぎてどこにも採用されない(面接場面でセス・ローゲンがゲスト出演)。
これ「おバカ映画」の皮かぶってるけど、実はかなり深刻な社会テーマを扱った映画なんじゃないか。
いや、冗談でなく僕はいろいろと笑えないところがあった。
アメリカって日本のように子どもがいつまでも親元にいることはなくて、ニートとか引きこもりなんていないんだろうと思ってたんだけど、『ハングオーバー!!』でもそんな描写があったりして、むこうにもそ−ゆー問題って存在するのか?と思った。
あるいはアチラの観客にとってはあまりにありえない生態だからあきれたり笑えたりするのかもしれないが。
老いた親たちは引退してゆったりと過ごしたいと思っているのに、息子たちがあまりにどーしようもないのでそれもかなわない。
ジョン・C・ライリー演じるデールは親やブレナンの前ではさんざんいきがってるけど、なんと小学生にイジメられている。
そのへんの公園で遊んでる普通のガキんちょたちにである。
…小学生にイジメられる40代。
いっしょにいたフェレル演じるブレナンがデールとふたりして小学生の一団にボコられて犬の糞を舐めさせられるシーンは、多分この手の「バカ映画」のなかでも群を抜いて情けない名場面だろう。
いっとくけど、別にこのふたりは知能が低いわけではない。
いや、知能が高いようにはどうしても見えないがいわゆる「ハンディキャップを負った人」というふうには描かれてなくて、とにかくほんとにバカなのだ。
ブレナンにはデレクという弟がいるが、彼は兄とは違って妻子持ちで事業でも成功している。
オレ様ぶりを発揮するデレクをブレナンは嫌っているが、それは義理の兄であるデールも同じ。
頭にきて、おもわずデレクを殴るデール。
それがきっかけでブレナンとデールは打ち解けて、すっかり仲良しに。
イヤミなデレクを演じるのは『ピラニア3D』ではエリザベス・シューとともに勇敢に戦ってたアダム・スコット。
ところでブレナンやデレクがデールにいうキモサベ*1ってなんだ?
ともかく、ブレナンとデールはあらためて「義兄弟」となる。
キャッキャキャッキャと戯れるふたりの姿に爆笑。
トイレでオシッコをクロスし合って「チャンバラだ」と喜んだり、オモチャ(暗視カメラだが…)を自慢したり、親に「僕たちのベッドを2段式にしていい?」とたずねたり…だからお前ら40歳なんだろ!?^_^;
ちょっと言葉で表現しづらいけど、ウィル・フェレルが見せる泣きそうな顔とか、笑ってるとこも怒ってる様子や仏頂面も、とにかくぜんぶが笑える。
どうもこの人には観客を中毒にするなにかがあるようだ。
フェレルとライリーを主役にしようと考えた人は天才に違いない。
面白すぎる。
しかし先ほど書いたように、30代や40代で働きもせずに親に暴力ふるってるような人間が珍しくないこの国では、これはかなりイタい。
まぁ、この映画では親がお金をもってるからこそこんなバカが許されるわけだし、悲惨さも感じにくいが。
そしてデールの父親が貯金で夢見ていたヨットでの世界一周旅行は、バカ息子たちの暴走でヨットごとオシャカになる。
デレクの妻が欲求不満でデールとイイ仲になるというマンガちっくな展開もあるけど、オヤジばっか出てきて潤いがなさすぎるのでこういうのもありかと(相手もオバサンだが)。
ヨットを見事に破壊したうえ、「会社はじめるから俺らに投資しろよ」と気がふれたようなことをいうバカ息子たちにさすがに堪忍袋の緒が切れた父親は(あたりめーだ)家を売り離婚、一家はバラバラに。
ふたたびケンカをはじめたブレナンとデールだが、両親によりを戻させるために一念発起してそれぞれに自分たちが住むアパートや仕事をさがしはじめる(デールの面接場面で「ハングオーバー」シリーズのケン・チョンが“普通”の役でゲスト出演)。
このあたりはさっきまで中二どころか小学生並みだった彼らとあまりに違うので面食らう。
こうしてふたりは仕事をみつけ、過去のトラウマから歌うことをやめていたブレナンはみなの前で歌を披露する。
その歌が…「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」。
どんだけこの歌が好きなんだよ、ウィル・フェレル。
彼の歌でみんな仲直り、すべてが丸くおさまる。
このとってつけたような大団円(;^_^A
痛々しい話をあえてコメディで描いた、ということならお見事だし、日本の観客(…というか俺)にはかなり身につまされる映画でしたが、ウィル・フェレルとジョン・C・ライリーのコラボはなかなか強烈でした。