映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『悪魔を見た』


※以下は、2011年に書いた感想に一部加筆したものです。


甘い人生』『グッド・バッド・ウィアード』でも組んだキム・ジウン監督、イ・ビョンホン主演の『悪魔を見た』。2010年作品。日本公開2011年。R18+(18禁)。

共演は『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシク

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オールド・ボーイ』(2003)日本公開2004年 監督:パク・チャヌク
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婚約者を殺された男(イ・ビョンホン)が真犯人(チェ・ミンシク)を追いつめ、復讐を遂げるまでを描く。


…ひさびさに心底胸くそ悪い映画を観たな、と。

一言で云うと「非道い映画」でした。

軽く拷問入ってた。

いや、もちろん映画の出来をいってるんではなくて、その内容のことですが。

いつまで続くんだよ、と思って観てたけど、あとで上映時間が2時間20分以上あったと知って、やっぱり拷問だったと再確認。

これはちょっと説明しがたいなぁ。

とにかく暴力シーンも容赦ないけど(一部カットされてるとか)、なんというか…女の人の扱いがあんまりで。

女性にとっては非常に屈辱的で不快な場面がいくつもあるので、途中で観るのをやめたくなる人がいても不思議じゃないと思う。

僕が観た回では途中退出者はいなかったけど。

チェ・ミンシクが演じる連続殺人犯ギョンチョルの犯罪については、それはもう見事なぐらいに理由付けはされなくて、彼はただただ純粋に「楽しみのために」獲物を狩ってゆく。

ヤりたいからヤり、殺りたいから殺る。

これを彼は“狩り遊び”と称する。

だから、これは物凄くリアルに描いた『13金』や『ハロウィン』みたいなスラッシャー(スプラッター)映画なんだ、と思えば、たしかにそういうふうに見えなくもない。

まぁ、ほんとにこれを「やべぇ、すげぇ」とかいって普通に楽しめちゃう人はちょっと問題があると思うが。


それにしても、あいかわらず役者陣の演技がスゴい。

陰気な顔つきが実によく似合うイ・ビョンホンは『甘い人生』の役柄をさらに深化させたような感じだし、何よりもチェ・ミンシクの怪演に尽きる。

「狂ってる」役というのは、おそらく俳優にとっては最高にやりがいがあると思うんだけど、それにリアリティをもたせるのは容易なことではない。

目をひん剥いたり大声上げたり暴れたりという「ブチギレ演技」をすれば狂ってるように見えるかというとそうではなくて、むしろ日常生活での地味な、しかし確実に「人を不愉快にさせる」仕草や言葉遣いなどのディテールの積み重ねによって、「この人は普通ではない」という感覚を観る者に与えるのである。

ミンシクが演じるギョンチョルという男は、狂っているというよりも多分あれが彼にとっては平常の状態なんだろう。

とにかく絶対かかわり合いになりたくない、やっかいなタイプの人間。

性格異常というか、「狂気」というよりも、人間の姿をしていて言葉も喋るが人間ならざる何か別の生き物のように思えてくる。

この人の頑丈さ、しぶとさはジェイソン並みだ。

彼のように他人を犠牲にすることに罪悪感を一切もたない、自分の快楽のためにのみ生きる人間、それを映画のタイトルにある「悪魔」という言葉で表現したんだろう。

劇中には悪魔という単語はまったく出てこないのだが。

どちらかといえば「鬼畜」という言葉の方がピッタリのような気もする。

以下、ネタバレあり。


観始めたばかりのころは、真犯人を追う主人公と捜査の目をかいくぐって犯行を重ねる殺人犯の知恵くらべが展開されるんだと思ってたんだけど、この何考えてるのかさっぱりわからないギョンチョルというオヤジは予想外に早く主人公に捕まる。

この人には計画性などというものはまったくないのだった。

だから「知恵くらべ」などしない。

脳みそではなくて下半身で行動するような男だったんである。

もう、観てるうちにチェ・ミンシクの顔がどんどん三又又三(元ジョーダンズ)にしか見えなくなってきて、なんだか若返った遠藤憲一と狂った金八先生がたたかってるような映画だった。


ギョンチョルが途中で合流する仲間も、これまたなんともいえない顔つきやペチャペチャ音を立ててメシを食う様子、喋り方や笑い方まで不快感のかたまりみたいな男。

この映画の何が一番不快だったかって、それは復讐に燃えてどうやら連続殺人犯と同様に“狩り遊び”に夢中になりだしたらしいイ・ビョンホンの行動が次第に意味不明になっていくところ。

狩っては逃がし、また狩っては逃がすという行為を繰り返すうちに犠牲者がガンガン増えてゆく。最後には亡き婚約者の身内にまで犯人の手が及んで…。

って自業自得じゃねーか、何やってんだとっとと殺れよビョンホン!!!

この人も最初に婚約者を殺された時点でおかしくなってた、ってことでしょうか。

ギョンチョルがいう「お前は最初から俺に勝てないんだ」という言葉。

失うものが何もない者は最強だということ。痛めつけられようがどうなろうが後悔も反省もしないから。

だからこそ、僕はイ・ビョンホンの「完全なる復讐」の顛末に納得いかなかった。

あの男“ギョンチョル”にはもはや何も失うものはなかったんじゃないのか。

婚約者の指輪を見つけてギョンチョルが犯人だと確信するイ・ビョンホンは、なぜ彼の家がわかったのだろう。

ギョンチョルの息子から聞いたというふうに描かれているが、年老いた両親すらその居場所を知らないのに捨てた息子には教えているって、そんなことあり得るか?捨てたのに会ってたってこと?

道徳心とか良識とか、そういうものがぶっ壊れている人間が、自分の肉親のことは大切に思っている、という映画『告白』(感想はこちら)にもあった結末に僕は違和感をおぼえる。

思いやりや人に共感する気持ちが麻痺している、もしくはそういった感情が最初からない人間は、自分の親や子どものことだっておそらく気にはしない。*1

残念ながらそういう人間は現実にいるので。


最初に書いたように、「スプラッター映画」として観ればとても迫力があるし、出演者の演技はお見事としかいいようがない。僕がこれほど不快な思いをしたのも、襲われたり殺されたりする犠牲者役の女優さんたちの演技が真に迫っていたからなわけで。

痛快アクション映画だった前作『グッド・バッド・ウィアード』から一転して出演者たちからああいう演技を引き出した監督の手腕を評価するにやぶさかではない。

…しかし、なんなんだろうな、あの執拗な暴力の繰り返しは。

正直もう結構です、と。

ひとついえるのは、この映画は純粋に“残酷エンターテインメント”として楽しむべきで、もしもこれに何やら教訓めいたものや現代社会の病理などを読み取ろうとすると無意味なストレスを抱え込むことになる。

そういうことでいえば、映画としてはたとえばポン・ジュノの作品群(『殺人の追憶』『母なる証明』)のような衝撃というのはなかったし、ここで描かれる暴力や陵辱は本当に徹頭徹尾「無意味」なのだ。

この手の残酷シーンに目がない観客を喜ばせる以外には。

この監督さんはやっぱりエンターテインメントの人なんだと思う。

そんなわけで、個人的には『甘い人生』の方が単純に楽しめたかな。


以上は2011年の劇場公開時に書いた感想です。

そして今年2013年、キム・ジウンはハリウッド進出第1作でアーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション映画『ラストスタンド』(感想はこちら)を監督。

なるほど、マカロニウエスタンならぬ“キムチウエスタン”『グッド・バッド・ウィアード』での活劇アクションの経験をおおいに活用したのだろうか、見事な快作でした。

今後も彼の監督作品が楽しみです。


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*1:その後、どうやら赤の他人にはいくらでも無慈悲に残虐なことができるが、血の繋がった家族は大切にするような人間もまた現実にいるのだ、ということを数々の事件で知りました。「身内」と認識した人間とそうでない者を峻別して機械的に仕分けるんだろう。想像力や共感能力が著しく欠如した、まさしく人間の皮を被った鬼畜だな。