映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『空気人形』


※以下は、2010年に書いた感想に一部加筆したものです。


是枝裕和監督、ペ・ドゥナARATA板尾創路出演の『空気人形』。2009年作品。

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ある日、男が持っていたダッチワイフに命が宿り、まるで人間のように生活し始める。


僕は是枝監督の代表作『誰も知らない』を観ていません。

なぜかというと、かつて監督の一作目『幻の光』を観て、ウンザリした記憶があるからです。

ヴェネツィアかどっかで賞をもらった作品ということで観に行ったんですが。

大阪は十三(じゅうそう)の「第七藝術劇場」(だったかな?)という映画館で、まわりはみんなネイティヴの関西弁を喋る観客の中で聴く江角マキコ浅野忠信の関西弁は、よそ者の僕にもインチキっぽく聴こえてキツく、またあきらかに往年の名老け役、笠智衆を意識した祖父役の柄本明はどう見ても老人には見えなかったりして、その内容もなんというか、フィックスの長廻しが続くような、こういう静的な日本映画は海外でウケるでしょ?みたいな感じの作りで入り込めず、「なんちゃって小津映画だったら周防正行監督の『変態家族 兄貴の嫁さん』で十分」と思いました。


そういうわけでそれ以降の是枝監督の作品は敬遠してたんです。

その後、監督が“劇映画”であることを意識して撮ったという、V6の岡田准一主演の『花よりもなほ』を観たんだけど、ユーモラスな場面もあるものの、やはり観終わったあと「…う~ん、だから?」という感想しか湧いてこず、どうも俺はこの監督の作品は肌に合わないんじゃないか、と思い至ったのでした。


では、なぜこの『空気人形』を観ようと思ったか。

ペ・ドゥナが出てるから。

業田良家による原作漫画は読んでないけど、メイド服を着たペ・ドゥナの写真を見たらなんとなく内容が想像できた。

そして実際に映画館で鑑賞してみると…僕の今までの是枝監督作品に対するネガティヴなイメージはものの見事に覆されたのでした。

以下、ネタバレあり。


冒頭から板尾創路がダッチワイフと合体している。擦れてプキュプキュいってる人形抱きながら「綺麗やぁ~」とか語りかけてて、いきなり観客を気まずくさせてくれる。

板尾さんの演技は実に見事で、ペ・ドゥナを前にうろたえるところなんかの笑いとイタさの同居ぶりなど、大袈裟でなくこの人は名優の素質があるんではないかと思った。

バイト先で「辞めてもらってもいーんだよ、お前の代わりなんかいくらでもいんだから」と言われても愛想笑いするしかなかったり、空気人形に「めんどくさいのはお前じゃのうて、人間の方や」と言う板尾さんには心の中で号泣。

松本人志監督の『しんぼる』もこの人が主演だったらもうちょっと面白かったかもしれない。『電人ザボーガー』(感想はこちら)はちょっとアレだったけど。


さて、この感想は2009年に劇場で観て1年経ってから書いているので記憶がだいぶ飛んでいて、富司純子が徘徊してたとこやペ・ドゥナとおじいさんとのふれあいとか、余貴美子がさえない受付嬢やってたことなど断片的にしか思い出せないんだけど、ペ・ドゥナARATAが抱き合うシーンでけっこう胸が熱くなったことは憶えている。


とにかくペ・ドゥナの美しいこと。

脱ぎっぷりも素敵。

自分で自分に空気を入れる場面のエロティックな感じ。

この女優さんを初めて観たのはポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』。

ほえる犬は噛まない』(2000) 出演:ペ・ドゥナ イ・ソンジェ ピョン・ヒボン
フランダースの犬」(この映画の原題)の主題歌の使い方が秀逸。
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黄色いパーカー着て走り回り、ドアに顔ぶつけてスローモーションでぶっ倒れたりしてる彼女を見て、「面白い顔の女の子だなぁ」と思った。

その後、山下敦弘監督の『リンダリンダリンダ』に韓国からの留学生役で出演して香椎由宇前田亜季に「パンツ見エテル」と笑ったり、ブルーハーツを熱唱したりしてた。

リンダリンダリンダ』(2005) 出演:ぺ・ドゥナ 前田亜季 香椎由宇 関根史織
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これもポン・ジュノ監督『グエムル』では、ちょっと短めの赤いジャージ着てアーチェリーで怪物と対決したりと、なかなかこちらのツボを突くキャラクターを演じ続けてくれている。

童顔だけどすでに30代。美人、というよりもファニー・フェイスで声も低めなんだけど、長身でスタイルも抜群。僕の「サスカッチ・ウーマン・アンテナ」がピンッ!と反応したのでした。

そしてけっこうコスプレ率の高い女優さんでもある。今回も人魚やメイドなど、さまざまな格好を披露。


彼女の、ほんとに今人形から人間に変わったばかりのような演技、やがて普通に心を持ち、恋をして持ち主から旅立ってゆく姿に、いいようのない感動をおぼえた。

ペ・ドゥナのたどたどしい「世界は多分 他者の総和…」という独白は、詩人の吉野弘の「生命は」という詩であることを友人が教えてくれた。

たどたどしい、といっても、ペ・ドゥナさんはほんとに日本語巧いよ。外国語の台詞をあんなふうに情感を込めて言えるなんて。

特に板尾さんとのやりとりは、正直いって日本の女優さんではなかなか出せないリアリティがある。

ARATA演じるレンタルヴィデオ屋の店員の運命については、一度観ただけではよく理解できないところもあって、ぜひ他の人の意見を聴いてみたいところ。


しかしあのホラー映画みたいな結末はなかなかショッキングながら、ある種の美しさを感じてしまったりもする。不思議で不気味な余韻を残す映画でした。

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これはもちろんリアルな話というよりも、一種の寓話だろう。

小さな工場で作られて出荷され、“ご主人様”の手に渡って奉仕し、やがて捨てられていく“彼女たち”の中のひとりの目を通して、生きている人間をみつめた物語。

いくらでも取替えがきく誰からも省みられない存在、と自分のことを思っている“私”や“あなた”の物語。

おじいさんがつぶやく「人間はつまらんよ」という哀しい言葉。

この孤独な老人だけでなく、人間たちはみんなどこか寂しそうだ。


ペ・ドゥナが演じる“空気人形”は、そんな町の人間たちが見た共同幻想みたいなものではないか、というのが僕が出した解釈だった、ということを今思い出した。

「ハッピバ~スデ~・トゥ~ユ~♪」のシーンでは涙が出そうになった。


アニメかなんかのフィギュアで1人エッチしてる青年と過食症の女性の髪形や顔が似ていて途中ちょっと混乱させられたりするけど、この女性の「キレイ…」という言葉には、最後の最後にほんの少し心洗われた。

今この感想を書いていて、自分の中で薄れていく記憶と儚い存在である“空気人形”、そして人間の哀しさがシンクロしたような気がする。

僕はもうこの映画でオダギリジョーが演じた人形制作者が発した言葉さえ思い出せない。

あんなに感動した映画のことを、まるで空気が抜けたみたいにこうも簡単に忘れてしまうなんて。


もう一度この映画を観たくなった。

そして失われた記憶の欠けらをさがしてみよう。


花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光りをまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
吉野弘「生命は」より)


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