※以下は、2011年に書いた感想です。
園子温監督、高橋ヨシキ共同脚本、吹越満主演の『冷たい熱帯魚』。R18+。
熱帯魚店を営む社本(しゃもと)は、死別した前妻との間の娘・美津子と再婚相手の妙子と暮らしている。ある日、彼は美津子の万引きをきっかけに同業者の村田と知り合う。「いい人」そうに見えた村田にはおそるべき秘密があった。
主人公の社本役に吹越満、村田役にでんでん、村田の妻・愛子役に黒沢あすか。
以下、ネタバレあり。
んーっと、まず結論から云おう。
困った^_^;
…やぁ、スゴいね。
思えばつい最近とてもよく似たテイストの映画を観たばかり。
あの映画では連続殺人犯役のチェ・ミンシクが暴れ回ってたけど、この『冷たい熱帯魚』で暴れるのは、でんでん。
いかにも獰猛そうな肉食系オヤジのミンシクに比べると、一見人懐っこくて口も達者なその辺の商店街の個人経営者を演じるでんでんは、なおさら油断がならない存在である。
愛想よく話しかけてきて、いきなり距離を詰めてくる。
そしてあっという間にこちらの呼び方が「あなた」から「お前」に変わっている。
こういう人は実際にいるからイヤだ。
似たような人物を最近何かの映画で見たなぁと思っていたら、これも韓国映画の『義兄弟 SECRET REUNION』でソン・ガンホが丁寧な言葉遣いから急に態度が横柄になる興信所の社長を演じていたことを思い出した。
ソン・ガンホもガハハ親父っぽいが、でんでんは全然イカツくなくてコワそうにも見えないからこそ、その後の豹変ぶりのインパクトはより強い。
この人の喋り方、しばしばロレツがちゃんと回ってないときもあったりして、それが余計リアル。
でんでん演じる村田は美津子(梶原ひかり)の万引きを店長に告げておきながら、激高して警察を呼ぼうとする店長をとりなして、美津子を自分の店で働かせるよう、父親の社本に勧める。
村田の熱帯魚店では「フーターズ」みたいなやたら胸を強調したシャツにケツがはみ出た迷彩柄のショートパンツという、ありえないコスチュームの女の子たちが働いている。
村田の妻の愛子も、言葉遣いからその挙動まですべてが怪しい。
もうこの時点でヤバい人だと気づくべきなのだが、反抗的な娘になすすべがない社本は、渡りに船とばかりに成り行きにまかせて了解してしまう。
このあたりの展開はかなり強引で、「そんなバカな」と思いながら観ていた。
美津子は父親のことはシカトするか反抗的な態度をとるのに、会ったばかりの村田にはなぜかやたらとなつくところなど不自然ではあるが、しかし村田の調子のよさに煙に巻かれたように主人公一家が手綱を握られてしまう様子に、なんとなく納得させられてしまったりもする。
それにしても愛子役の黒沢あすかといい、社本の妻の妙子(神楽坂恵)といい、なんでいつもああ胸の谷間を露出した服着てミニスカ穿いてんのか。
愛子はともかく、妙子にいたっては普段からどうしてあんな格好してんのか意味がわからない。水商売系の仕事をしているのかもしれないし、そこで社本と知り合った、というような設定があるのかもしれないが、具体的にそういう描写はない。
欲求不満だということをわかりやすくアピールしてるんだろうか。
この映画を製作した『片腕マシンガール』や『東京残酷警察』などの“逆輸入型日本映画レーベル”「スシタイフーン」はヴァイオレンスとエロ、特撮などが売りだから、ジャップ大好きメリケン野郎どもへのサーヴィスなのかもしれないが、まぁほんとに安いエロである。
村田が妙子に突然「服を脱げ」と言い出してコトがおっぱじまるあたりなんかは「なんだいきなりこのAVのドラマ・パートみたいな激安展開は」と思ったが、客席からは笑い声が漏れたんで、あぁギャグなのか、と。
『悪魔を見た』でも同じようなちょっとSMっぽいシチュエーションがあって、やっぱり相手の女性の方は喜んで男のなすがままになる。
こういうのって、なんかのパロディなんでしょうか。
女のおっぱい揉みながら汚いエロ・シーンを演じるでんでん観てヒくこともなく、友だち同士で客席で笑ってた女性のかたがたは、一体何がそんなに可笑しかったのか僕には不思議でならないんだが。
もうこの映画、とにかく濡れ場(あえてこう表現)の画ヅラが汚くて(;^_^A
でんでんだけでなく、やがて強面俳優の渡辺哲も参戦する。
でんでんと渡辺哲。
このオッサンたちのFU○Kシーンほど見たくないものはない。
村田の相談役の筒井を演じる渡辺哲は、黒沢あすかとがんがんキメまくるだけでなく、そのあと切られたポ○チンをでんでんにポイ捨てされていた。
『悪魔〜』のチェ・ミンシクは主人公のイ・ビョンホンを挑発するときに罵声を発する以外は無口で、何を考えているのかまったくわからない、というか多分ヤることと殺ることしか考えてない地球外生命体みたいなキャラクターだったが、でんでんもまたヤることと金を儲けること、そして邪魔な者の「“ボデー”を透明にすること」をつねに考えているのは同様ながら、普段からおしゃべりでおまけに興が乗ると小言もカマしてくるという、実にやっかい極まりない男。
だから、そんな奴に目を付けられてしまった主人公の悪夢が描かれる前半は、たしかにこういうジャンルの作品の中ではその人間描写において傑出していると思う。
ときに韓国映画にも匹敵し、北野映画も超えることをやってるのはたしかではないかと。
それと、この作品にはどうも根底に「父と子」の問題があるようで、主人公の社本も殺人犯の村田も父親との間に何かいろいろとあったらしいことをうかがわせる。
村田はクライマックスで社本に「オレを父親だと思って殴れ」という。
村田が延々と社本に説教するこの場面は見どころではある。
これはほとんどSMプレイの「言葉責め」で、村田は社本が他人からはいわれたくないこと、触れられたくないことを暴いていく。
社本の逆襲に遭って「…社本君、ちょっとイタい」とつぶやくでんでんに場内大爆笑。あそこはたしかに笑った。
こういうことでみんなで笑ってられる間はまだまだ“健全”だと思う。
プラネタリウムを観ながら現実逃避する社本に「お前は地球が青くてツルッとしてると思ってるかもしれないが、オレにいわせりゃ地球はゴツゴツした岩の塊だ!」と怒鳴る村田の言葉は、意味はよくわかんないけど妙な説得力がある。
面白かったし、でんでんの繰り出すまるでその場で思いついた言葉を喋っているように聞こえる自然過ぎる台詞廻しは実に見事だったが、一方で「全部台詞でいうなよ」とも思った。
それは社本と妻が言い争う場面にもいえる。
鑑賞後、いっしょに観た友人とこの映画について語り合ったが、ふたりして同じ意見だったのは、でんでんがいなくなってからの場面はいらないよね、ってことだった。
食卓での「あたしの時間を返して、って思ってるんだろ」のくだりはいらない。
最後の娘とのやりとりもいらない。
でんでんの“ボデー”が透明になった時点で終わっていれば、2時間ぐらいでおさまったかもしれないし。
あれでは、けっきょくうだつのあがらなかった父親であり夫である主人公が最後にブチギレて終わり、っていう、ありがちな展開でしかない。
それと勘違いしないでもらいたいんだけど、娘をぶったり、妻に「メシを作れ!」って怒鳴ったりすることが父親らしさ、夫らしさなんかではないから。
映画というのは「虚構」なので、その登場人物がいったりやったりしたことがそのまま作り手の価値観だとはかぎらないが、正直『悪魔を見た』もこの『冷たい熱帯魚』も、特に女性の描き方、その扱い方がアホ丸出しの男の身勝手な妄想にしか見えなくて、なんかそのあたりが物凄く「安く」感じられてしまったのだった。
もしかしたら、園監督はそんなことはわかったうえで愚かな男たちを描いているのかもしれないし、それを女性の観客は呆れながら笑ってたのかもしれないが。
好きかどうかと問われれば、個人的には「好きではない」、と答えるしかない映画です。
友人に「この映画と『塔の上のラプンツェル』(感想はこちら)とどっちが好きか*1」と質問したら、彼はこの映画を選んだ。
僕は逆でした。
つまりそういうこと。
もちろん、どちらがいいとか悪いとかいうことではない。
「好み」の問題だから。
オレは「地球は青くてツルッとしてる」と思いたい奴なんでしょう、きっと。
だからこの映画は嫌いだ。
いうまでもないが、それはこの映画が僕が触れられたくないところに言及してくるからである。
ホラー映画ファンとか、残酷モノが大好物の人にはご馳走かもしれない。
何しろ映画の後半はほとんどグチャドロばっかだから。
僕はその手の映画のファンではないので詳しくないけど、これはきっとそういう方面でもかなり画期的な作品であることは間違いないだろう。
もう、人間が解体されてく過程が克明に描写されます。
でんでんも下半身なくなってモツが出てたし。
それにしても、男女問わずこういう映画を面白がって観る人たちが思いのほか多いことには驚かされる。
そして、自分が好きなものを守ろうとするならば人が好きなものも認めなければなるまいと思うから、僕はこの映画の存在そのものは肯定します。
でも、まるで口の中に無理矢理ドテ煮を山盛り詰め込まれたようで、やっぱり『悪魔〜』のときと同様、僕は「もう結構」と思いました。
まぁ、映画観たあと、友人と焼鳥や鶏刺し食ったけどね。
最後に一言だけこの映画の作り手にいいたいんだけど…川を汚すのはやめよう。
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*1:おなじ時期に劇場公開されていた。