『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のグレッグ・モットーラ監督、『ゾンビランド』(感想はこちら)『ソーシャル・ネットワーク』(感想はこちら)のジェシー・アイゼンバーグ、「トワイライト」シリーズのクリステン・スチュワート出演の2009年制作、日本未公開作品『アドベンチャーランドへようこそ』。
大学院に進学するために遊園地「アドベンチャーランド」でアルバイトを始めたジェイムズ(J・アイゼンバーグ)は、そこで働くエム(K・スチュワート)に次第に惹かれてゆく。
以下、ネタバレあり。
『スーパーバッド』(感想はこちら)には笑わせてもらったんで、同じ監督が次に撮ったこの作品もきっと下ネタ満載のアホ映画だと思ってました。
DVDのパッケージにも“メッチャおもしろい!”って書いてあるし、『ゾンビランド』とタイトルが似ててアイゼンバーグも出てるから。
…そしたら「これは一体いつの時代に作られたんだろう」と思ってしまうぐらい実にオーソドックスな青春ラヴ・ストーリーだった。
Yo La Tengo - Farewell Adventureland
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舞台は1987年。
なんかバックに当時の音楽が流れて恋人たちがドライヴしたり遊園地で花火見たりとか。
笑うつもりで観てたものだから、おふざけがまったくない切ないお話に呆然。
とても『スーパーバッド』と同じ監督の作品だとは思えない。
あの映画のテイストはもしかしたらプロデューサーのジャド・アパトーのものだったのか、それともこのモットーラさんが非常に器用な監督さんなのか(※その次に『宇宙人ポール』を撮ってるから、やはり器用なんでしょう。『宇宙人ポール』の感想はこちら)。
まぁ、コメディが巧い監督はラヴ・ストーリーを撮るのも上手っていうからね。
この『アドベンチャーランド~』はモットーラ監督の実体験をもとにしてるそうで、なるほど、たしかに作り手としての思い入れがこもってるというか、もうベタなぐらいの「忘れえぬ、ひと夏の思い出」が切々と綴られている。
好きな子が、年上でイケメンの既婚者の男と付き合ってる、なんてのも「あるある~」って感じで。
元カノに振られたことをエムに話したジェイムズに「好きな子に他の女の話はするな。弱みは見せてもいいが、切り札にとっておけ」というこの元ミュージシャンの男コンネル(ライアン・レイノルズ)のアドヴァイスなんかも、「なるほど、そうなんですか~、メモメモ」みたいな。
で、それはそれで自分の乏しい経験をかさねてところどころ胸にじ〜んとくるものもあったんだけど、それにしたって、もしもモットーラ監督が主人公のジェイムズに自分を投影して描いているのなら、けっこうイイ気なもんだな、とも思ってしまった。
ジェイムズは前カノに振られたばかりで、おまけに親の経済的な都合で大学院進学のために自分で金を稼がなくてはならなくなるが、そのおかげで遊園地のバイトでエムに出会っていい雰囲気になる。
おまけに同じバイト先の美人リサPからも誘われて…という、うらやましいことこの上ない状態なんである。
ジェイムズはエムがコンネルとひそかに付き合っていることを知らない。
そんなコンネルから“据え膳食わぬは男の恥”みたいなこといわれて、態度がハッキリしないエム(コンネルとの関係で悩んでるから)のこともあってリサと一緒に食事して、でもそれ以上はなくて、みたいな、観てるこっちはもう「お前十分いい思いしてんじゃねぇかよ」と思ってしまうんだが、本人はなんか真剣に悩んでる。
母を亡くして義理の母親とうまくいってないエムが、その苛立ちと孤独感からコンネルと付き合っているらしいことが描かれているし、彼女がほんとはジェイムズのことを好きなのも観てるこちらにはわかっているので、「二股かけてたのを内緒にしてた」エムに対するジェイムズの怒りやとんちんかんな行動が実にもどかしく、観てて「イ~ッ!!」となった。
しかも、そんななのにこのジェイムズは“童貞”という設定。
童貞だからこそ、というべきか。
それにしても解せないのが、この映画の登場人物たちはとにかくプライヴェートなことをなんでもかんでも人にベラベラ喋り過ぎなところ。
好きな子との関係とか、誰が誰と付き合ってるとかヤってるとかたちまち噂になるし。
エムとコンネルのことがバイト仲間に広まって彼女があからさまに嫌がらせをうける場面なんて、いつもはみんなあんだけ好き放題やってるのに、既婚者と不倫してることはそこまで糾弾されなきゃいけないことなんだろうか?当事者同士ならともかく、他の奴らには関係ないのに。
エムがバイトを辞めることになった一番の原因は主人公のジェイムズがリサにエムとコンネルの関係をくっちゃべったせいであり、何よりコイツが諸悪の根源だと思うんだけど彼が直接責められることはない。
『ゾンビランド』も『ソーシャル・ネットワーク』でもそうだったけど、ジェシー・アイゼンバーグ、おいしいとこもっていき過ぎである。
まったくもってイイ気なもんだ、と思っていたところに、ジェイムズのバイト仲間だったジョエル(マーティン・スター)が彼に「お前はぜいたくだ」と言い捨てるシーンがあって、激しく同意した。
もしかしたら、モットーラ監督はこのジョエルの目線でこの映画を撮ったんじゃないだろうか、とも思った。
それだったら好感がもてるんだけど。
このビン底眼鏡の青年ジョエルはジェイムズとは違って、好意をもった女性からはユダヤ系であることを理由に交際を断られ、おまけにエムと付き合ってるはずのジェイムズにあこがれのリサまでもっていかれて、失意のままバイトを辞める。
少なくとも僕は彼に感情移入してこの映画を観た。
だから、主人公のヒロインへの想いはとてもよく伝わったし、エムを演じるクリステン・スチュワートの化粧っけのない儚げな美しさには惹かれたけど、あのとってつけたようなハッピーエンドにはそれほど心を動かされなかった。
「忘れられない夏」というのは、過ぎ去ってもう戻ってはこないから感動的なんであって、けっきょく二人がくっついてこれからも一緒に生きていくのなら、それは「ちょっといい思い出」ぐらいの価値しかないだろう、と思ってしまうわけだよ、“万年失恋小僧”のオレなんかは。
それよりも故郷にとどまったまま、パイプを吹かしながら寂しげな表情をしていたジョエルの姿に泣けた。
なので、ほんとは実現しなかったんだけど「こうあってほしかった理想」を映画の中で“ジェイムズ”というキャラクターを使って描いた、ということならば(ジェイムズを演じたアイゼンバーグもジョエルと同じユダヤ系である)、僕はこの映画を熱烈支持したい。
エム役のクリステン・スチュワートは美形なんだけどどこか陰がある、表情の起伏がそれほど激しくない不思議な顔の女優さんだな、と。
僕は「トワイライト」シリーズを1本も観たことがないので、そこでヒロインを演じてる彼女のことを全然知らなかったんだけど、プロフィール見たらこの人、デヴィッド・フィンチャーの『パニック・ルーム』でジョディ・フォスターの娘役やってた人なのね。ちょっと男の子みたいな顔立ちと髪型してたあの子がこんなお姉さんになったんだ、と驚いた。
『パニック・ルーム』(2002) 出演:フォレスト・ウィテカー ジャレッド・レト
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『ランナウェイズ』(感想はこちら)ではジョーン・ジェット(『キック・アス』のヒット・ガールの殴りこみのシーンで彼女の曲が使われてる)を演じてて、ダコタ・ファニングと共演している。
なんだか映画のタイトルや監督、俳優などの名前をあげていくと、各自がいろんなところで微妙につながってるのが面白い。
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