映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『アラサー女子の恋愛事情』

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リン・シェルトン監督、キーラ・ナイトレイクロエ・グレース・モレッツサム・ロックウェルマーク・ウェバー、ジェフ・ガーリン、エリー・ケンパー、ケイトリン・デヴァー、ダニエル・ゾヴァット、ディラン・アーノルド、ジョディ・セレン、グレッチェン・モルほか出演の『アラサー女子の恋愛事情』をDVDで視聴。2014年作品。日本未公開。

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シアトルで20代後半で無職のまま学生時代からの恋人アンソニーマーク・ウェバー)と同棲しているメイガン(キーラ・ナイトレイ)は、共通の友人アリソン(エリー・ケンパー)の結婚式で彼からプロポーズされるが、その直後にとんでもない現場を目撃してしまう。その場を離れたメイガンは、友人たちとスーパーマーケットで酒を買おうとしていた高校生のアニカ(クロエ・グレース・モレッツ)に声をかけられる。それをきっかけに彼女たちの交流が始まり、メイガンはアニカが父親のクレイグ(サム・ロックウェル)と暮らす家に一週間滞在することになる。

 

クロエ・グレース・モレッツの出演映画ということでアメリカでの公開当時から作品の存在は知っていたものの、キーラ・ナイトレイと共演してることぐらいしか情報がなくて、おまけに日本では劇場公開されず、ようやく4年も経ってから動画配信、DVD化されて気になってたんだけど、「アラサー女子の恋愛事情」といういかにもDVDスルー作品といった感じのやる気なさげな邦題(似たようなタイトルの劇場公開映画もありますが)が付けられて、なんか複数の男女がくっついたり離れたり、みたいなラヴコメかなんかだったら興味ないなぁ、と思ってしばらく放置していました。

でもレンタルDVDって人気がない作品は気づくと店頭からなくなってたりするんで、機会を失う前に今のうちに観ておこうと、アベンジャーズの過去作を借りるついでに1枚だけあったDVDを一緒にレンタル。

ただし主演はクロエじゃなくてキーラ・ナイトレイなので、彼女は助演というポジションか下手すりゃリメイク版の『サスペリア』(感想はこちら)みたいなごくわずかな出演かも、と覚悟したうえで。あの映画のクロエちゃんの扱いはあんまりだったもんなぁ。

サム・ロックウェルも出てるのにDVDスルーってことは、よっぽどユルい内容なんだろうな、と。

ストーリーについては予告篇すら観ずに予備知識ゼロだったので、最初の方の女子たちの会話とかとても退屈で「これはほんとに最後までちゃんと観られるかな…」と不安になったほど。

だけど最初に言っとくと、これはなかなか面白かったですよ。お薦め♪

といっても大作でもなんでもないので、ちょっとした小品といったような内容ですが。

大学院まで出たのに無職のままで就活にも身が入らず、将来に漠然とした不安を抱えた状態で彼氏からプロポーズされたもんだからうろたえた主人公が、さらに○○の××現場を目撃してしまうあたりから物語が動き出す。

これは「ロマンティック・コメディ」 と紹介されているし、確かにヒロインは「アラサー女子」で彼女の「恋愛事情」が描かれはするんだけど、果たしてこれが“ロマンティック”かどうかはなんとも。コメディと呼べるほど笑えもしないし。まぁでも、ところどころ可笑しいですけどね。途中で「うわぁぁ!」ってなる場面もあるし。

現実離れしたシンデレラ・ストーリーとかファンタスティックな恋愛劇ではなくて、わりとリアリスティックなお話でした。

いや、父親がサム・ロックウェルで娘がクロエ・グレース・モレッツの親子のところにキーラ・ナイトレイが居候、ってどんなパラダイスだよ、と思いますが。

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それではこれ以降はネタバレがありますので、ご注意ください。

 

実は僕はキーラ・ナイトレイの主演映画ってこれまで1本も観たことがなくて、助演作品は何本か観ているので彼女の演技力の高さもその存在感の確かさも知ってはいるんだけど、今回あらためてユニークな女優さんだと思いましたね。

パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのヒロインを演じてからもう10年以上経つし、10代の頃に比べるとだいぶ頬がこけてきたけど、なんていうか、彼女が見せる顔の表情の変化が面白くて。顔をくちゃくちゃにして主人公の心の余裕のなさを表現してるのが若干フリーキーな感じで、単なる美人女優というのではない、彼女ならではのポジションを確立している。

ふとした瞬間の表情に紛れもない美しさを感じるんだけど、劇中ではほんとにちょっとイタタな女性に見える。

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変なダンスがキュート 


プロポーズしてきた彼氏には「オーカス島で一週間セミナーを受ける」と嘘をついて、たまたま知り合った女子高生に頼まれて母親代わりに一緒に学校で面談を受けたのをきっかけに、彼女の家に転がり込む。ちょっとありえないシチュエーションだけど、キーラ・ナイトレイが演じてるとなんとなく見入っちゃうんだよね。この先どうなっていくんだろう、って。 

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女子高生のアニカを演じるクロエの、友だちのミスティ(ケイトリン・デヴァー)と寝そべってケラケラ笑う10代の現役女子学生っぽさとの対比もいい。キーラ・ナイトレイとクロエの組み合わせがとてもよくハマってて、リスペクトしたり信頼に亀裂が入ったり、少し年の離れた二人の女子のやりとりはなかなか楽しかった。

ちなみに、主人公のメイガン役は当初アン・ハサウェイが務めるはずだったのがスケジュールの都合で降板、代わりにナイトレイが演じることになったんだとか。

アン・ハサウェイはオスカー女優だし彼女ならきっと巧みに演じただろうけど、役柄のイタさ具合でいうと、僕は最終的にキーラ・ナイトレイが演じることになって正解だったんじゃないかと思います。アン・ハサウェイだとちょっと整い過ぎてる気も。

キーラ・ナイトレイの演技はもちろん、クロエの演技もハッキリ言って僕は去年劇場公開された『クリミナル・タウン』(感想はこちら)よりもこちらの方がよっぽどよかったと思うし、あの映画じゃなくてこっちを映画館でやってくれればよかったのになぁ。なんで4年間も寝かしてたんだろう。もったいない。

僕は男なんで女性たちの同性同士の友情についてはよくわからないけれど、学生時代からずっと付き合いがあって腐れ縁のようにもなってる友人関係の煩わしさというのはわからなくもないし、なんだかんだ言ってそういうしがらみに囚われがちなところはアメリカも日本も変わんないんだなぁ、って思った。

30代手前のメイガンは未来のアニカのようでもあり、だから彼女は母親が出ていったつらい経験のあるアニカがそれでも明るく屈託なく生きていたり、好きな男子とプロムで踊るかどうか迷っている姿にかつての自分を重ねたりして、大切なことに気づいていく。

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また、アニカの方はどこかで理想の大人の女性のように感じていたメイガンが、自分と父を置いて出ていった母と同じようにズルさや愚かさも持った生身の人間であったことを知る。 

実家の両親(ジェフ・ガーリン、ジョディ・セレン)の心配をよそに「あたしはまだ本気出してないだけ~」みたいに呑気に構えているメイガンはダメダメなんだけど、それでも彼女はあくまでも常識的な感覚の持ち主で、自分の父親があろうことか友人の母親とイチャついて“手コキ”してもらってる現場を目撃してショックを受けたり、彼氏からのプロポーズに直感的に何か違和感のようなものを覚えて一週間の猶予を求める。

エリー・ケンパーが演じるアリソン(布袋様の像のことをずっと「ブッダ」と呼んでるのが地味に気になる)は映画の冒頭からメイガンとは仲がよくなさそうで、それなのになんでツルんでるんだろう、と不可解だったんだけど、それは彼氏のアンソニーが昔からの友人関係をずっと引きずってる人で、メイガンはその恋人に合わせてただけなんだよね。そして物事の決定をいつもまわりに委ねてきた。

僕がこの映画がよくできてるなぁ、と思ったのは、メイガンとはソリが合わないアリソンや結果的にメイガンが振ることになるアンソニーもけっして“悪者”としては描かれていないこと。アニカの母親でさえも。

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アンソニーのメイガンのための婚約指輪選びをアリソンが手伝ったのは彼女なりの厚意だったんだろうし(まぁ、友人の女性に婚約指輪選びを手伝ってもらうって、結婚相手の行動としては普通に「ナシ」ですが)、アリソンの「道を踏み外さないで」という忠告は一見至極もっともな言葉だ。アンソニーだってメイガンに対して悪気があって何かヒドいことをするわけではなくて、もしも相手が別の女性だったらまったくなんの疑問も問題も生じずに無事結婚してふたりとも幸せな生活を送れたかもしれない。

でも、メイガンにとってはそうではなかった。

昔からの友人関係って、ありがたさを感じることも多いし、一生の付き合いが続く人たちだっているだろうけど、時には「お別れ」が必要な場合もある。前に進むために。

メイガンにはこれが“潮時”だったのだ。

ただ待っているだけでは、ただ与えられたものを黙って受け取っているだけでは、自分が本当に求めているものは手に入らない。

──なかなか耳が痛い言葉ですが…実際のところ、ずいぶんと都合がいいっちゃ都合が良過ぎる話ではある。

たまたま泊まった家の主が妻に去られた弁護士のイケオジで、その彼が辛抱堪らんくなって彼女にキスって、どんなハーレクイン・ロマンスじゃ!^_^;

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だからそこが巧いんですよね。

サム・ロックウェル演じる孤独でちょいやさぐれ気味のインテリ中年男性にグラッときそうな人はいるだろうし、もしもキーラ・ナイトレイみたいなざっくばらんな美人のアラサー女子と一つ屋根の下で寝泊りしてバーで一緒にお酒飲んで話が弾んだりした日にゃ、そりゃムラムラもするでしょう。

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メイガンがアンソニーを振って結婚を解消する理由が少々強引だったり、結局のところ新しく好きな相手ができたから邪魔な今カレを切り捨てただけじゃないか、と思えなくもないんだけど、「恋愛」ってけっして馴れ合いじゃなくてそういう残酷なものでもあるし、クレイグとメイガンの関係だって今後もずっとうまくいくかどうかはわからない。

クレイグとアニカを置いて家を出ていったクレイグの妻ベサニーだって、最初から夫と娘を捨てるつもりだったわけじゃない。

かつては、ベサニーも白いドレスを着ていたのだ。メイガンが買ったあのドレスのように。

この映画ではさまざまな世代の女性たちが登場する。彼女たちが重なるように描かれているんですね。 

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アニカの母親を演じるのは『フェイク』や『13F』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(感想はこちら)のグレッチェン・モル


メイガンの婚約者との別れだって、クレイグとの出会いがなければ起こらなかっただろう。

メイガンの父が欲望に負けて浮気してしまったのも、婚約中でありながらクレイグと一夜をともにしたメイガンの過ちと同じこと。

人はいろいろと間違いを犯すものだしそれは褒められたことではないけれど、その経験を糧にして前に進んでいくしかない。友情も恋愛感情も変化していく。

ディズニーアニメ『シュガー・ラッシュ:オンライン』(感想はこちら)で描かれたことと同じ。

この映画が、結婚するはずだった恋人を一方的に振る女性を主人公にしていながらも彼女にさほど腹が立たないのは、メイガンは自分の行為を正当化しないし、自分の行ないを後悔したり反省もするから。彼女の父親もそうだし、アニカの母親もまた元夫や娘への愛はもはやないが後ろめたさは感じている。みんなどこか弱かったり欠点を持っている。私たちと同じなんだ、と思えるから。 

クレイグが語る「仕事や家族ができれば居場所が見つかると思っていたけど、寂しさが募るばかりだった」という言葉に深く共感してしまった。 

道を踏み外したら困るけど、でも時には「直感」も大事。

アニカが想いを寄せるイケメンのモテ男“ジュニア”(ダニエル・ゾヴァット)だってほんとに誠実な男子なのか、今後ずっとアニカとうまくいくかどうかはわからない。でも、ともかく彼女は一歩踏み出した。すべてはそこから始まる。 

今ではビール腹のおっさんになった僕は、もう恋なんてはるか何万光年も昔に置いてきてしまった感覚があるけど、でもちょっと切ない気分を味わうことができたのでした。

 

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