映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『探偵はBARにいる』


橋本一監督、大泉洋松田龍平小雪西田敏行出演の『探偵はBARにいる』。2011年作品。PG12

原作は東直己の小説「ススキノ探偵」シリーズの第2作「バーにかかってきた電話」。

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カルメン・マキ - 時計をとめて
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札幌の薄野(ススキノ)で探偵をしている主人公の「俺」(大泉洋)は、「コンドウキョウコ」と名乗る謎の女性から仕事の依頼をうける。それは弁護士の南(中村育二)に「カトウ」のことをたずねる、というものだった。さっそくいわれたとおりにする「俺」だったが、その直後に何者かによって拉致されてしまう。


いかにも70年代後期~80年代の東映っぽいテイスト(って、よく知りもしないくせにいってますが)で、おそらくそのあたりへの“オマージュ”もふくまれてたりするんだろうけど、僕には後半のある場面で登場人物が「女囚さそり」のかっこうをしてたことぐらいしかわからず。


だからそういう「わかる人にはニヤリとさせる」部分というのはちゃんと理解できてないし、原作も読んでないので個人的な好みでのみ語ります。

以下、ネタバレあり。


あらすじからもわかるように、この映画の主人公は劇中で一度もその名前が呼ばれることはなく、全篇に彼のモノローグ(独白)が流れる。

やはり主人公の名前が最後までわからないニコラス・ウィンディング・レフン監督、ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』(感想はこちら)をちょっとおもわせるが、作品のトーンはかなり異なる。

この『探偵~』の方は主演が大泉洋ということからもわかるように、ちょっと三の線が入っている。

探偵には相棒がいて、松田龍平が演じている。

松田が演じる高田は北大農学部の助手で空手の師範代、バイトで探偵の助手をやっていて隙あらば寝ているというまるでつかみどころのない人物で、探偵のボディガード兼、運転手でもある。

助手といっても口の利き方は対等。

彼の運転している車はおそろしくボロいが、探偵が車の悪口をいうと「車にあやまれ」と怒る変人でもある。

探偵はケータイをもたず、しょっちゅうバー「ケラーオオハタ」に入り浸っている。そこの黒電話で依頼人から連絡をうける。

探偵と相棒、このコンビが毎回事件に巻き込まれるというシリーズ、らしい。


…なんとなく深夜にやってるアニメみたいな作品だな、と。

主人公と腕の立つ相棒との軽妙なやりとりとともに女もからんで物語が転がる、というのはちょっとルパンと次元みたいな関係でもある(行きつけの喫茶店で『カリオストロ』みたいにしょっちゅうスパゲティ食ってるし)。

ようするに「ハードボイルド」というやつ。

ただし主人公は二枚目半か三枚目。

この二枚目半の探偵、というとまっさきに思い浮かべるのは、松田優作の「探偵物語」。

といっても、とんねるずやキムタクのパロディは観てたけど、僕はあのドラマを過去に再放送で何度か観たことがあるだけで(ショーケン主演の「傷だらけの天使」と頭んなかでゴッチャになってるし)、松田優作の出演作品に特に思い入れがあるわけでもないのでよくわかんないんですが。

松田優作の息子の松田龍平がこの映画に出演しているのも、いちおう偶然ではないんでしょうな。


また、なんとなく設定が似ている林海象監督、永瀬正敏主演の「濱マイク」シリーズも連想する。

濱マイク」シリーズの第1作目『我が人生最悪の時』と2作目『遥かな時代の階段を』は劇場で観ました。

3作目は観たのかどうかすらおぼえてないが(そーいや濱マイクってTVシリーズにもなってたな)。

濱マイク」シリーズは、どちらかというと純粋なB級娯楽作品というよりもタイトルからしてちょっとスカしたアートフィルムっぽさをただよわせていて好き嫌いが分かれるところなんだろうけど、この『探偵~』はもっとふつうのプログラムピクチャーとして作られている。

制作は東映、予算をかけた大作でないことは映画を観ていればわかる。

いちおう立ち廻りはあるがアクション映画ではない。

これはまた、北海道出身の俳優、大泉洋主演の「ご当地映画」でもある。

ハードボイルドの定石に倣って主人公の一人称のモノローグで話がすすむが、ちょうど“濱マイク”が私立探偵マイク・ハマーのもじりだったように、探偵役を大泉洋が演じることで「ハードボイルド」のパロディの体裁をとっている。

これについては、この役は「大泉洋だから成り立った」という見方と、「大泉洋が役柄と合っていない」という見方の両方がある。

正直いうとそのどちらにもうなずけてしまう。

『アフタースクール』(感想はこちら)でのちょっととぼけたキャラクターはとてもよかったし、この『探偵~』の彼も一見するとほとんど『アフタースクール』のときとおなじようなキャラに見える。

だからハードボイルドを気取った(でもかっこよくキメきれてない)主人公、というのはピッタリのようにも思える。

しかし、先ほどの「探偵物語」や、あるいはのちの「あぶない刑事」などは、本来シリアスでニヒルであるはずの主人公たちが「おふざけ」や「軽妙なやりとり」をくりひろげる「ハズし」の面白さで人気があったわけだけど、肝腎なのは松田優作も、そして舘ひろし柴田恭兵もみなシリアスな芝居が似合う「男前」であること。

それにくらべると、この映画の主演の大泉洋は圧倒的に「気のいいあんちゃん」のイメージが強いのだ。

いや、僕は大泉さんの出演作品はこれと『アフタースクール』しか観てないので、「別の作品ではシリアスな役もバッチリやってるよ」といわれるかもしれませんが。


大泉さんが出ていた「水曜どうでしょう」の再放送をたまに観ると、これプロの俳優さんに対して大変失礼な言い草ですが、彼が映画やTVドラマなどでみせる「軽妙な演技」よりも「水曜どうでしょう」のときの“ミスター”や“ヒゲのディレクター”たちとのやりとりの方がよっぽど面白いのだ。

また、たまにヴァラエティ番組に出たときの大泉さんは、映画やドラマのなかでの彼とあまり印象が変わらない。

ふだんもああいう感じの人なんだろうなぁ、と思わせる。

これは松田優作舘ひろしたちが軽妙なキャラを「演じていた」のとはずいぶんと違う。

なんていうんだろう、大泉さんは演劇畑出身だけど、ちょうど映画での演技も小劇団のお芝居っぽいのだ。

このことがいいとか悪いとかいうのではなくて、だから『アフタースクール』での彼の演技が作品のトーンによく合っていたのも、あの映画が大泉洋という俳優がもつ「気のいいあんちゃん」ぶりを最大限に生かした脚本だったからだろう。


僕がこの『探偵はBARにいる』でまず面食らったのは、『アフタースクール』のような軽妙なミステリーを想像していたら、予想外に陰惨な内容だったことだ。

とにかく人がよく死ぬ。

冒頭で西田敏行が演じる「霧島グループ」の社長が、道ばたで若い女性が男たちにむりやり連れ去られようとしているところに出くわして、彼女を助けようとして惨殺される。

それ以前にも、建物からの店の立ち退きを拒否した女性が焼き殺された事件があったり、「戸塚ヨットスクール」のような施設で息子を殺された夫婦が殴られて顔が腫れたり拳銃で蜂の巣にされて一家が全滅させられてしまったりする。

黒幕は右翼を装ったヤクザ。

『アフタースクール』にもヤクザは出てくるがどこかコミカルで、劇中で人は一人も死んでいない。

だから観客は嫌なあとあじを残さずに最後まで観ていられる。

しかし『探偵〜』の方はやけに重くてエグいのだ。

重い内容がダメとはいわないが、ではこれは社会の裏側を描いた本格ハードボイルド(“ハードボイルド”とは“本格推理物”からはずれたジャンルなのだから、おかしな表現だが)なのかといったら、先ほど書いたように主人公はハードボイルド気取りの「気のいいあんちゃん」だし、相棒もなに考えてるのかよくわからないキャラで、登場人物たちにはおよそ現実味がない。

荒唐無稽と現実味のバランスがどうもちぐはぐな印象をうける。

さっき「深夜アニメみたい」といったのはこのことで、僕はアニメに疎いんで具体例を挙げられなくて申し訳ないんですが、つまり「主人公はふだんは三枚目だが、いざとなったらシリアスにキメる」という、アニメだったらその切り替えが不自然ではなくて、また荒唐無稽な設定や展開でも通用するかもしれない。

でもこの映画でその切り替えがうまくいってたとは僕には思えない。

この映画の「リアリティ」の置きどころがどのへんなのはよくわからないので、主人公の探偵が事件の真相を知って列車のなかで「スピード上げてくれぇ!!」と叫んでしゃがみこむ場面はグッとくるところのはずなのだが、僕は冷めてしまいました。

だって、結婚式で花嫁が復讐のために花婿とその父親を拳銃で殺害って、そんな大映ドラマ並みに無理のある展開って(;^_^A

ハリウッドでニコラス・ケイジブルース・ウィリス主演のアクション物だったらともかく。

それとやたらと登場人物の関係が入り組んでいるにもかかわらずお話自体はハッキリいってどうでもいい代物で、写真だけの出演の吉高由里子とか松重豊が演じるヤクザの若頭など、いったいなんのために出てきたのかよくわからない。

自分の夫を殺された妻の復讐譚、という単純明快な事件がなにゆえあんなわけのわからない展開になるのか。


「荒唐無稽」だからつまらない、のではなくて、荒唐無稽をやるならおもいっきり「説得力のある荒唐無稽」をやらないと、逆に安っぽさや中途半端さが際立ってしまう。

現実ではおこり得ないがフィクションの世界だからこそ描ける物語というのはたしかにあって、冴えない三枚目探偵が電話口の声だけしか知らない依頼人に恋する物語なんて、描き様によってはめっちゃ泣ける話になったと思う。

小劇団のお芝居とかだったらじゅうぶん通用する設定でしょう。

それを映画でやるんだったら、鈴木清順のような前衛性をもたせるとか(東映は“前衛”嫌いだそうですが)、あるいはおもいっきりぶっとんで千葉真一の空手映画のように徹底的に劇画チックに描くとか、見せ方はいくらでもあったと思うのです。

血しぶきが上がる残酷!スプラッター探偵モノ、なんてのだって悪くはない。

ぶっちゃけ大泉さんは「ハードボイルド」というイメージからは程遠い俳優さんなので、そのギャップで面白さを感じさせられなければこの映画はなにをやろうとしてたのかわからないのだ。

もし主演が松田優作や「あぶ刑事」のふたりだったら、お話がたいしたことなくても「絵」になるけど、大泉さんでは「ウホッ」とはならないわけで。

いや、大泉さんが「イケメンじゃない」からミスキャストだといっているのではなくて、彼にかぎらないけど、この映画の登場人物たちからは「ハードボイルド」には不可欠の“色気”がいっさい感じられないのだ。

松田優作には、おどけていても「こいつを本気で怒らせたらヤバそう」という感じがあった。

だから「探偵物語」は、工藤ちゃんがヴェスパに乗ってふざけてても油断できなかった。

大泉洋がブチギレたらマジで怖い、と思わせる一瞬があったら、この「ススキノ探偵」シリーズにも艶が生じたかもしれないのだ。

しかし大泉さんは怖くない。

最初から最後まで「気のいいあんちゃん」にしか見えない。

だから彼の一見「ハードボイルド」な物言いはすべてが「ごっこ」に感じられる。それは優作の息子も同様なのだが。

ヒロインを演じる小雪も、『三丁目の夕日』の元ダンサーと演技の違いがわからない。

小雪が演じる沙織はこの映画のなかでもっともドラマティックなキャラクターのはずなのだが、小雪の“声”には心に秘めた強い想いを感じさせる艶がうかがえない。


相棒いわく「デブでブス」かもしれないのに主人公がその“声”だけで惚れずにはいられないようなエロさや情念がまるで感じられないのだ。

それに電話口の“声”が重要なはずなのに、謎の女「コンドウキョウコ」と沙織の声がまったくおなじというのはおかしくないだろうか。

観客には電話口の依頼人小雪なのは最初からわかってるのに、主人公はラスト近くまでそのことに気づかないというのも作劇として完全に失敗なんじゃないか。

物語の中盤で沙織は「男たちのあいだをわたり歩く悪女」というレッテルを張られるが、美人女優の小雪がどうせ単なる悪女で終わるはずなどないから、彼女にはまわりからそう思われながらも果たすべき目的があるはず、と思ってたら案の定予想したとおりだった。

いちおう「推理モノ」の一種でもある「ハードボイルド」だったら、そのあたりのどんでん返しはしっかりやらないと。

あと、これも僕の偏見なんだけど、この映画で西田敏行演じる霧島は劇中で大勢から「ものすごくいい人だった」というふうに語られてて、主人公も「一度いっしょに飲みたかった」といって涙ぐんだりするんだけど、僕は口ヒゲに白いスーツ着て軽口叩いたりしてる西田さんがそういう人物には見えなかったんだよね。

最初彼が登場したときは、てっきり悪役だとばかり思ってたんで。まぁ、最近『アウトレイジ ビヨンド』(感想はこちら)のヤクザ役見たばかりということもあるんだろうけど。

僕は、西田敏行という俳優さんは根っからの善人というよりも「西遊記」の豚の妖怪みたいに影でコソコソ悪巧みしてる役の方が断然似合ってると思う。

これも意外なキャスティングの妙というよりは、ミスキャストか演出に問題があったように感じてしまった。


そしてこの人、高嶋政伸

この昨年“俳優生命を賭けて離婚した男”が演じる、つねにクチャクチャとガムを噛んでてやたらとゲップをする殺し屋カトウ。


これはなかなか異様で魅力的な悪役だっただけに、彼が途中であっけなく退場してしまったのが惜しくてならない。

これも「ハズし」だったのかもしれないが、唯一の面白がりどころを捨てちゃったようでもったいねーなぁと思った。

探偵の行きつけのサ店の店員を演じる安藤玉恵が、やたらとパンツ見せたりして往年の東映作品に出てた女優さんたちのような下品さをかもしだしていた。

この人、昨年の『夢売るふたり』(感想はこちら)でも風俗嬢を演じてたけど、こういう役が多いんだろうか。


この映画は「ハードボイルド」のパロディのつもりなのかもしれないが、もしパロディなんだったら“探偵”とか“謎の女”とか、このジャンルに登場するおなじみのキャラクターたちや物語を本家よりもよりいっそう極端にシンボリックに描かなければ(たとえば007シリーズのパロディ『オースティン・パワーズ』のように)パロディとして成立しない。

だからこれは本格的な「ハードボイルド」でもなければ、そのパロディにもなっていない。


その一方で、こんなに陰惨なストーリーではなかったら、大泉さんが演じたあの「お人よしの探偵」のキャラはじゅうぶん立っていたし、それこそ『アフタースクール』のようなストーリーの面白さで観客を惹きつけることも可能だったのではないかと。

気になったのでネットでほかの人たちの感想も読んでみたんだけど、どうもこの映画は好みがハッキリと分かれるようで、「面白かった!」「大泉洋松田龍平のコンビがいい」「北海道が舞台で嬉しかった」という高評価がいくつもある一方で、僕と同様に「ピンとこなかった」という人もいる。

大泉洋松田龍平のコンビがよかった、というのは同感だし*1、ご当地映画がいかにもな観光映画じゃなくてこういうジャンルムーヴィーというのはうらやましいなぁ、と僕も思いますが。


思いのほかディスっちゃったので自分でもちょっと引いてます^_^;

いや、僕も大泉さんは好きなんですョ(なんだこのむりやりなフォロー)。

この「ススキノ探偵」シリーズは、今年5月に続篇が公開されるそうで。

これは別に皮肉でも嫌味でもなく、人気シリーズに成長したらいいなと思います。

松田龍平主演の「悪夢探偵」シリーズとコラボったりなんかしたら面白いかもね。

まぁ、僕は『悪夢探偵2』で塚本晋也監督の映画から離脱してしまったクチですが。


ススキノの「ニッカウヰスキー」のネオンや映画のなかでやたらと呑んでる主人公見てたら、おもわずバーボン傾けたくなりました。

やっぱ「ハードボイルド」は大人の味よね。

そーいや、日本三大歓楽街の一つであるススキノはなかなか楽しいところらしいですね(『千と千尋』的な意味で)。

一度行ってみたいなぁ。


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バーにかかってきた電話 ススキノ探偵シリーズ

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*1:どうやらキャッキャと仲よさげにしてる大泉&松田コンビに萌えるかたがたがけっこういらっしゃるようで、それがこの映画の人気の秘密でもあるらしい。