※以下は、2008年に書いた感想です。
香港映画界の雄『少林サッカー』『カンフーハッスル』のチャウ・シンチーをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎え、女優柴咲コウ嬢が何ヵ月もの特訓を重ねて撮影に臨んだ「闘う美少女映画」。
秘かに期待していた作品である。
今度はカンフー使ってラクロスやるのね。きっとまた笑いとアクションてんこ盛りなんだろうな。ナイナイ岡村隆史も出てるし。
予告篇を観て多くの人がそう思ったことだろう。僕もそうでした。
柴咲コウのくっきりした顔立ちはちょっと『少林サッカー』の“一休少女”ヴィッキー・チャオを思わせもする。
あいかわらず大活躍の柴咲コウは昨年(2007年)の『舞妓Haaaan!!!』では阿部サダヲにふり回される健気で不器用そうな女の子をアミダラ姫みたいな白塗りで好演しててなかなかツボだったが、今回は恋愛には目もくれずにひたすら少林拳に打ち込むクンフー娘を演じている。
以下、ストーリー解説およびネタバレあり。
中国で修行を終えて九年ぶりに日本に帰ってきた柴咲コウ。いきなり小学生たちに「君たち、少林拳やらない?」と呼びかけて「気持ち悪~い!」と逃げられる。その直後に中学生にも試みるが結果は同じ。
でもメゲたりしない。
中華料理屋の店員・萊萊ちゃん(キティ・チャン)に誘われて、なんだかよくわかんないうちに所属することになったラクロス部の部員たちにもやはり「みんなで少林拳やろう!」。
とても熱心。
彼女は伊豆にある少林拳の道場主の孫娘なので熱心なのは、まぁわかる。
ちなみに祖父役(写真のみの出演)は富野由悠季。ガンダム教の教祖さま。『男たちの大和』でもそうだったけどなんかこーゆー顔出し多いな、この人。
それはともかく、この柴咲コウの少林拳“普及”にかける熱意が、後半いい知れぬ恐怖を味わわせてくれるなどとはこの時点では予想もしていなかった。
部員のみんなは少林拳なんかやる気はない。しかも団体競技に慣れてない柴咲コウは、練習試合でスタンドプレーに走って彼女たちから総スカンを食らってしまう。ヘコむ柴咲。
一方、学長の仲村トオルは何か企んでる様子で黙々と身体鍛えたりしてる。
コーチに就任した中華料理屋の店長・江口洋介からダメ出しされて、一念発起した柴咲コウは少年たちとサッカーをするうちにチームプレーを学んでいく。この辺からずっとBGMが流れている。
気づくと柴咲の指導で少林拳の修行を始めてるラクロス部の部員たち。
…え、いつの間に。BGMはまだ流れてる。
ようやくBGMが終わると、もうみんな仲良し。少林最強。
『ロッキー』の特訓シーンも軽く飛び越え、挫折と葛藤、和解のプロセスをすっとばして目の前でシナリオ何ページ分かが一気にワープした。
それにしても、ここまでで上映開始からけっこう時間経ってるけど…怒濤のようなギャグは?激しい功夫アクションは?…と不安が募ってきた頃、柴咲の師匠・江口洋介に仲村トオルの魔の手が伸びる。
“湘爆vs.ビーバップ”という、もはや誰が喜ぶんだかわからないカードだが、ともかくここらで魅せてくれ!!
しかし柴咲に「少林拳は攻撃ではなく防御のためにある」などと説く江口はトオルとのガチバトルを拒否、一方的に叩きのめされておまけに萊萊ちゃんが人質に。
…防御してないじゃねーかよ!!
腑甲斐ない“口だけ師匠”はほっといて、萊萊を助け出すため柴咲コウは単身敵のアジトへ乗り込み、ワイヤーワークを駆使して次々と立ちはだかる大勢の敵をなぎ倒す。待ってました!
と思ったら…あれ、もう終わり?なんかイマイチ盛り上がりに欠けるよーな…。いや、これで終わりじゃ…ないよね?これから面白くなるんだよね?
そしてついに現われたラスボス仲村トオルとの対決!
え……っと。弱っ。
だんだん心の中を「…」が占めてくる。
!?
まばゆい光が二人を包む。
…富野ワールド?
丹波さんが霊界から降りてきそうな状態の中、優しくささやく柴咲コウ。
「少林拳、やろう」
仲村トオルの目から涙が。
@☆※!?
なんかお母さんのおっぱい吸ってる赤ちゃんとか、いろんな映像が矢継ぎ早に出てきて(『CASSHERN』で似たようなのを観た記憶が…)
…救われちゃったよ仲村トオル。
…は?
で最後。柴咲コウはラクロスの試合で活躍。チームは大躍進。それを江口洋介と改心した仲村トオルが手を握り合って観ているのでした。めでたしめでたし。
…って、前半あんだけ引っ張っといて、ラクロスちっともからんでないじゃん!部員たち全然活躍してないし!最後まで彼女たちのキャラの判別すらつかない。
エンドロールでサッカー少年たちもみんな笑顔で少林拳の修業に打ち込んでる。
人々の間に少林拳が広まって大団円、というのは『少林サッカー』と変わらないのに、なんだろう、この背筋に走る薄ら寒さは。
…困った。まったく考えも及ばない方向から不意打ちを食らって激しく動揺している。
まるで○○大先生のありがたい説法聞いてるか、「○○の○○」の素晴らしいアニメかなんか観てるようだ。
自分の感じ方がオカシイのか?と思って、上映終了後に後ろの若い二人組の会話に耳を傾けると、
「最後のあれ…わかった?」「わからん。(吐き捨てるように)…病んでるよ」
…どうやら腑に落ちなかったのは自分一人だけではないらしい。
かようにして「日本における女性功夫アクションの傑作誕生」という、こちらの勝手な期待は無残に打ち砕かれたのでした。非常に悔しい。せめてフツーに映画として、同じ岡村隆史主演の『無問題』程度には愉しませて欲しかった。責任者の方は猛省していただきたい。
でも道ばたでもしも柴咲コウに「少林拳やろう!」と笑顔で勧誘されたら、断わる自信はないのであった。
『女必殺拳』(1974) 監督:山口和彦 主演:志穂美悦子
トドメは刺すべし。志穂美の悦ちゃんを見習おう。
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