映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ミラクル7号』


※以下は、2008年に書いた感想に一部加筆したものです。


監督・出演:チャウ・シンチー、出演:シュー・チャオキティ・チャン他『ミラクル7号』。

2008年作品。

www.nicovideo.jp

父親が拾ってきた緑色の球体から生まれた謎の生物“ナナちゃん”と少年ディッキーの友情物語。


大ヒットした『少林サッカー』は僕も大好きな映画なんですが、ドタバタ・マンガ大行進だった前作『カンフーハッスル』では冒頭のギャングたちの斧持ったダンスとタマゴ大好きおデブさんが投げるナイフがことごとくシンチーの身体に刺さって悶絶するところが面白かったぐらいでノれず、そして今度はよりによってピ○チュウのバッタモン映画かい…と完璧に無視を決め込んでいた。

予告篇でも見せてたCG製の毛玉犬の媚びた仕草がどうにも胡散臭くて。


まぁ、でも結局観てしまったわけです。日曜の夜だったので観客は他に2〜3組ほど。狙いの客層のはずの子どももいない。

真顔になると虚無的な眼差しになる主人公のディッキー少年を演じてるのが実は女の子、というのは知ってたが、インタヴュー記事に載ってた髪が伸びてからのスナップショットではスッピンのマナカナ高峰秀子を足して3で割ったような(ってどんなだ)どこにでもいそうないたってフツーの顔立ちの少女だった。


美少女なら他にいくらでもいただろうに、1万人の中からこういう子を選ぶチャウ・シンチーのセンスはナイスだと思う。

最初から少年役に女の子を使うつもりだったのか、それとも主役に相応しい子役がたまたま女の子だったのか知らないけど、女優に口髭生やさせたり今回も巨漢の女の子役に男性レスラー使ったりして役者で遊ぶシンチーのことだから故意にやってるのはあきらか。


しかしこのディッキー少年を演じたシュー・チャオ(徐嬌)ちゃん、身体を張って頑張っているけど劇中ではかなり悲惨な目に遭う(以下、細かいネタバレあり)。


お気楽なE.T.モドキ映画を想像してたら冒頭からいきなり怒濤の「貧乏」描写が始まる。

ディズニー映画『魔法にかけられて』(感想はこちら)ではお姫様の歌声に乗ってゴキブリの大群が部屋中を猛ダッシュ&乱舞して客席から声にならない悲鳴が上がっていたが、この映画ではそれを上回るおぞましいシーンが登場。

恐れを知らぬディッキー君はシンチー演じる父親と一緒にゴキさんたちを素手で潰しまくって、おまけにその手で互いにハイタッチ。これは間違っても食事しながら観てはいけない。

壁に大量にくっついたヤツらの残骸は鳥肌&トラウマものです。

学校ではみすぼらしい格好で皆からイジメに遭い、金持ちのクラスメイトにはAIBOみたいなオモチャを自慢されるディッキー君。


早速店で父親にねだるが、日雇い労働しながら学費の高い学校に息子を通わせてるシンチーには、オモチャどころかマトモに動く扇風機を買う金すらない。

「給料出たら買ってやるから」となだめるしかないシンチー親父。それでも諦めきれずにオモチャを放さない息子に父親の手が何発も飛ぶ。

“ありえねー”とか言ってノーテンキに空飛んでたチャウ・シンチーの映画とは思えない涙ちょちょぎれるリアリズム世界。

そんな苛酷な毎日にもディッキー君はけっしてイジケたり暗く落ち込んだりしないが、じっと耐えて明るく振る舞うその姿が切ない。

そんな彼のところへ宇宙犬“ナナちゃん”がやってくるのだが、コイツが22世紀のネコ型ロボットみたいに便利な道具で助けてくれるかと思ったら、くれたのは「巻きグソ」であった。

そして「Dr.スランプ」みたいな「あはは〜!!うんちー!」の世界に突入!幼児だったら大ウケ確実!!

ウンコまみれになって囃し立てられながらホースで水をかけられるディッキーの諦めと自嘲が入り交じった表情がなんともやるせない。

巨大な瞳をチワワみたいにウルウルさせてクンクン鳴いてるナナちゃんも、可愛がられるどころか観てるこっちが引くぐらいの虐待を受ける。

ピクミンよろしく投げられ便器に突っ込まれて押し潰されて、しまいには頭からバネが飛び出す。いまだかつてここまで徹底的に痛めつけられたCGキャラを他に知らない。

癒しキャラを務めるのもラクじゃないよーで。

人語は一切喋らないが、飼い主になったディッキーとは意思の疎通ができて超能力も持っているナナちゃんはたしかにどっかで見たことあるようなキャラだし、それ以外でもこの映画の中には日本のマンガやアニメから頂いたとおぼしきアイデアが満載ではある。


ただ、もしこれが現在の日本製アニメなら(良質と評判らしいカッパの映画*1は未見)おそらく悪事を企む敵役なんかが登場して最後は大バトル、なんてハデな展開になるところだけど、少年と宇宙から来たヘンテコなクリーチャーの出会いを描くこの映画は、地球の平和や正義を懸けた戦いなどという壮大な話には進展せずに、荒唐無稽であってもあくまで彼らの周辺の他愛ない世界に終始する。

どこか『ペットントン』などかつての東映子ども向け番組や藤子マンガの映画化みたいな趣き。

後半、シンチー親父が工事現場で事故死(ロングショットで物凄くあっけない死に方)したのを担任教師から涙ながらに伝えられて、「僕、もう寝ます。パパは僕を放っておくはずがないから、朝起きたらきっと戻ってます」と泣きながら部屋に籠もるディッキー。

うっ…目頭が熱くなってきた。

亡くなった父親を生き返らせるためにエネルギーを使い果たして触角に付いてるカラータイマーの点滅が止まり、瞳がペケ印の安っぽいヌイグルミになっちゃうナナちゃん。ディッキー君じゃなくてもボーゼンとしてしまうが、ここが一番キた。


UFOキャッチャーの景品みたいなヌイグルミに親子が電気ショックや点滴を施して蘇生を試みるマヌケでシュールな絵面には、幼稚園児の頃観てたら悲し過ぎて大泣きしたかもしれない。

(××)顔のナナちゃん人形を首からぶら下げて原っぱに寝っ転がって空を見つめるディッキー。

まわりの騒動は収まったがナナちゃんは戻らない。

なんだかかつて読んだ「さようならドラえもん」を思い出した。

ここで終わってもよかったと思うけど、それではツラ過ぎてチビッ子たちには酷だと考えたのか、結局ナナちゃんは大量の宇宙犬とともに再び帰ってきてディッキーの満面の笑顔でメデタシメデタシ。


以前からチャウ・シンチーの映画には所々、なんでそーなるの?と首をかしげてしまうような奇妙な展開があったりキャラ同士の噛み合わない会話のイビツさが気になってたんだけど、子どもが愉しめる家族向けに作られた本作ではそれがさらに顕著になってて、作り手が子ども目線というか、まるで幼児か小学生が考えたとりとめのない空想をそのまま映画にしたような不思議な作品でした。

いい歳したオトナが愉しめるかどうか保証はできないけれど、ドリフとアラレちゃんと藤子不二雄が好きならきっと大丈夫でしょう。

あのナナちゃん人形、欲しいなぁ。


↓ちょっとだけ大きくなったシュー・チャオちゃんが出てます。

ムーラン(花木蘭)』(2009) 主演:ヴィッキー・チャオ
www.youtube.com

そして今年2014年にはシュー・チャオ出演の韓国映画ミスターGO!』が、またチャウ・シンチーも最新作『西遊記~はじまりのはじまり~』が日本で公開。

www.youtube.com

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シュー・チャオちゃんはちょっと日本のアイドルにこういう顔の子いるよなー、って感じの美少女に成長。


シンチー叔父貴も6年ぶりの新作がお目見え(彼は監督のみで出演はしていませんが)。

残念ながらどちらも劇場で未鑑賞ですが(スイマセン、他に観たい作品がいっぱいあるので)、また機会があったら彼らの作品を劇場で観られたらいいな、と思っています。


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*1:原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』のこと。