岩井俊二監督による『花とアリス』(2004) と『四月物語』(1998) を大須シネマで鑑賞。
同じバレエ教室に通う親友同士の花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。自由奔放なアリスに振り回されてばかりの花は、アリスが一目ぼれした高校生を一緒に尾行するうちに、その彼と共に通学している宮本(郭智博)のことが気になり始める。やがて花とアリスは、宮本が通う手塚高校に進学。ある日、宮本が頭をぶつけて気を失う場面に遭遇した花は、どさくさに紛れて自分が宮本の恋人であると彼に思い込ませる。嘘を重ねるうちにアリスまで巻き込んでしまう花だったが、その嘘のせいで今度は宮本がアリスに恋心を抱き、アリスもまた宮本にひかれていく。(映画.comより転載)
10月13日(金) から公開予定の最新作『キリエのうた』関連でしょうか、岩井俊二監督の過去作2本が上映されていたので観てきました。
『花とアリス』はもともとWEBで配信されていた短篇を再構成して劇場公開用の長篇にしたのだそうだけど、僕はその短篇の方は観ていません。
それに、この映画を劇場初公開時に映画館で観たのか、それともVHSヴィデオで観たのか、あるいはDVDで観たのかも覚えてなくて。
ただ、好きだなぁ、と思ったのは記憶している。
同じく蒼井優さんが出演していた『リリイ・シュシュのすべて』は映画館では観ていないんですよね。やはりレンタルショップで借りてきたのだった。
あの当時ってちょうどVHSヴィデオテープからDVDに移行する途中で、レンタル店にはまだVHSを置いてるところもあったし、だからVHSで観たんだかDVDだったかハッキリしないことが結構ある。
2004年ぐらいならすでにDVDは出回ってたと思うから、多分DVDで観たのでしょうが、『四月物語』はどうだったか自信がない。観たのは98年の劇場公開から何年か経ってからだったと思うから。
今回、蒼井優さん主演の『ハチミツとクローバー』(2006年作品。監督:高田雅博)も上映されていたんだけど、そちらは劇場初公開時に観ています。例のごとく、内容をまったく覚えていないけれど。劇中で「はぐちゃん」とか呼ばれてたっけ。
どうして『ハチクロ』も上映されてたのかはわからないけれど、普通に蒼井優繋がりってことなのかな。僕はそちらは今回鑑賞を見合わせましたが。
確か僕はあの映画で初めて堺雅人さんを見たんだよなぁ。そういえば、加瀬亮さんの存在は2006年の『花よりもなほ』で初めて意識したんだけど、でもそれ以前に『パッチギ!』や『茶の味』『キューティーハニー』にも出てたんだな。
蒼井優という女優さんを初めて見たのはおそらく『リリイ・シュシュ』だろうと思うんだけど、やっぱり2006年の『フラガール』で一気にその知名度を上げた感があるし、あの映画はとても印象に残っています。
ただ、その後は『百万円と苦虫女』(2008) を映画館で観て、わりと評判がいい作品ではあるけれど僕はピンとこなくて、その後は彼女が主演の映画をあえて選んで観ることはなかった。
最近は『スパイの妻』を観ましたが、『花とアリス』の頃とはその演技スタイルもだいぶ変わってきているし、『スパイの妻』自体、出演者の演技にはかなり癖があったので、『花とアリス』の頃の蒼井さんの演技がとても懐かしくなった。
いや、すでに『花とアリス』の時点で演技は達者で、蒼井優さんのいろんな顔の表情が見られるし、10代の女の子の自然な感じとあえて演劇的な台詞廻しをしてみせているところなど、多様なヴァリエーションの演技で“アリス”(本名:有栖川徹子)という女の子を表現していて、なんていうか、あらためてその可愛らしさと演技の巧みさに驚かされたのだった。
どこがどう巧いのか、僕の拙い文章ではちゃんと説明できないのがじれったいんですが。
それに対して“花”役の鈴木杏さんは少々損な役回りというか、気になる先輩がシャッターにぶつかって気絶したのをいいことに、彼に自分は恋人だと偽ってデートを重ねる面白女子役なんだけど、でも終盤の「泣き顔」演技でいいところを持っていく。
鈴木杏さんを僕が初めて見たのは2000年の『ジュブナイル』で、子役の頃から活躍している人なのは知っていたし、ボーイッシュで気が強めな役柄のイメージがあったんだけど、その後は控えめでおとなしい人物だったり、いろんな役柄をこなされてますね。
僕は最近ではNHKのドラマでお顔を拝見することが多いかな。
かなり久しぶりに観て、最初のうちはちょっとノれないというか、まぁ、女子高生がワチャワチャやってるのをず~っと撮ってるわけだから、ん…これはもしかしたら俺にとっては「賞味期限切れ」の映画なのだろうか、と思っちゃったところがあったんですよね。
だいたい、こういう内容の映画で上映時間が135分って、と。ずいぶんと贅沢な時間の使い方だよね。
かと思えば、この次に感想を書く『四月物語』は上映時間がわずか67分だし。
岩井俊二監督って、長い映画はやたらと長いし(『リップヴァンウィンクルの花嫁』→感想はこちら なんて180分ある)、短い映画はほんとに短くて、上映時間の配分が作品によって極端ですよね。
この『花とアリス』は、やっぱちょっと長ぇな、と思い始めた頃に終わるんですが。
19年前の映画だけど、使ってるのがガラケーだったりはするものの、まだそこまで「昔」という感じはしなくて、花とアリスだけでなく登場人物たちが互いに「キミ」と呼び合うところなど、ユーモアと現実感、どこかファンタスティックで、でも学校の先輩への恋心だとか女の子同士の友情など、そういう部分はけっして絵空事ではない、いろんなものがブレンドされたような不思議な魅力のある映画だな、と思いました。
高校生のなんちゃって三角関係とかどーでもいいや、と思いそうにもなるんだけど、でも「ハートのエース」のくだりなんかやっぱりちょっとグッとくるんだよなぁ。
花とアリスの「バディ感」がイイんですよね。この映画での共演をきっかけに、鈴木杏さんと蒼井優さんは本当に親友になったんだそうですが。
成り行きで、自分は宮本先輩の今カノで、アリスは元カノである、と大嘘をついた花だったが、アリスは先輩に興味を持ち始め、彼と何度か会っているうちに次第に先輩の方がアリスに好意を抱き始める。
おまけに花のことを「苦手」とまで言い出す宮本先輩。
この宮本君が、なんかいつも落語の本を読んでて「寿限無」の呪文を唱えているんだけど、彼は落研であるにもかかわらず落語の腕が全然上達せず、花やアリスと会話する時もボ~ッとした表情だし言葉にも覇気がない。
なんでこんな奴が好きなのか謎だけど、要するにオタクが二人の女の子たちに振り回される話なわけで、その設定自体がもうオタク臭い。
でも、鈴木杏と蒼井優の二人の好演のおかげで、この映画はただのオタクの妄想に終わっていない。
きっと女性のお客さんたちからも彼女たちは可愛く見えるだろうし、一人の先輩男子を獲り合ってるように見えてても、実際には仲良し女子二人組がじゃれ合ってるだけなんだよな。
「付き合う」と言ったって、一緒にゲーセン行ったりお茶したりしてるだけのたわいない関係で、でもそんなささやかな恋愛だからこそどこか純粋でもある。
あの年頃の女の子って、まだ10代にもかかわらず「思い出」がどうのと語ったり、いろんなことで忙しくしていて、全身で思春期を駆け抜けてるなぁ、と思う。
映画と全然関係ないですが、高校時代に好きな女の先輩と、やはり好きな同学年の女の子がいて、僕は彼女たちと同じ課外クラブにいたんだけれど、一度だけ電気が消えた真っ暗な体育館を僕が真ん中になって三人で手を繋いで歩いたことがあった。
好きな女の子たちに挟まれてちょっと夢のような時間でしたが、花とアリスに挟まれてる宮本先輩ってまさにそういう状態だよね。
僕はハーレム願望ってないけど、でもあの時のことはずっと覚えている。
岩井監督の『ラストレター』(感想はこちら)を観た時に、その「おっさんの妄想」垂れ流しなストーリーが受けつけなくて酷評してしまったんだけど、やっぱりああいうのは思春期だからこそ許されるんで、年取ってからもずっとそれを引きずったままなのは気持ち悪い。もう終わってることだからこそ、美しいんだから。
『花とアリス』の19年後を舞台にした続篇とか、観たくないもんなぁ(なんかそのうち作りそうだが…)。
鈴木杏さんも蒼井優さんも現在も活躍中で(蒼井さんはご出産されたので俳優業は抑えめかもしれませんが)、昔の映画を観ると今ではどこに行ったのかわからない人もチラホラいたりして、人の流れの激しい中で20年とかそれ以上第一線で頑張り続けているというのはほんとに凄いことで、僕などはただ映画観てあーだこーだと好き勝手言ってるだけだけど、かつて10代だった女の子たちがすでに30代半ばになっていることを考えた時、眩暈に似たものを感じてしまう。
岩井俊二作品って、出演者がいつも豪華ですよね。
この映画でもほんのチョイ役で結構有名俳優たちが出てたりする。
キムラ緑子さんなんて、ただ下着姿で出てくるだけみたいな役なのにw
岩井監督の映画に出るのって、すでにあの当時でもある種のステイタスになっていたんだろうか。
平泉成さんがアリスの父親役で出てくるけど、最初は祖父役かと思ってしまった。
だって、別れた元妻役がWinkの相田翔子さんだもの。さすがに歳離れ過ぎでしょ^_^;
平泉さんが演じる父親が娘に教える、中国語で「愛してる」を意味する「我爱你(ウォーアイニー)」は、僕は90年代に「らんま1/2」で知ったなぁ。
この映画観ていて気になったのは、なんか映像がフィルムっぽくないんですよね。ヴィデオ撮影っぽいというか。
技術的なことはわからないんでなんとも言えないけれど、岩井俊二監督って撮影や音響の技術面だとか撮影技法なんかでも新しいことをやってきた人だから、この作品もヴィデオ撮影だったんだろうか。それとも編集をデジタルでやったってことかな?
エンドクレジットで「ネガ編」の文字を見た気がするし。「キネコ」の文字も。
あの当時は、劇場での上映はフィルムだっただろうしなぁ。
映像の劣化を感じさせずに19年前の映画を観られるのって、とても不思議な感覚。
鈴木杏も蒼井優ももう10代ではないのに、映画の中の彼女たちはまるで今現在の姿のように見える。だから、19年という歳月が目の前で一瞬にして過ぎたような、そんな錯覚に襲われもした。
全然「賞味期限切れ」などではなかったなぁ。よかった(^o^)
忘れかけていた感覚を少しだけ思い出させてくれた、そんな映画でした。
北海道の親元を離れ、大学に通うために上京した楡野卯月(松たか子)。新しい人々との出会いなど小さな冒険の中で、卯月は東京の生活に少しずつ慣れていく。そんな彼女には、憧れの先輩と同じ大学を選んだという人には言えない不純な動機があった。(映画.comより転載)
この映画、実は4月30日(日) まではYouTubeで無料で配信されているんですが(『花とアリス』も5月1日から5月7日まで無料配信)、せっかくの機会だから劇場で鑑賞。
こちらは僕は初公開当時は映画館では観ていなくて、多分、レンタルヴィデオで観たんだろうと思うんですが、劇中でモノクロの時代劇が映って江口洋介が織田信長を演じていたのは覚えていたけれど、それ以外はいつものように忘れてました。
北海道から大学進学で上京してきた主人公が新しい生活を始める、という物語で、やがて主人公・卯月は実は地元の高校の先輩を追ってきたことがわかる。
その山崎先輩を演じているのは田辺誠一さんですが、若い頃の田辺さんって若い頃の豊川悦司さんにちょっと似てますね。
北海道の旭川からわざわざ引っ越しの荷物をトラックで送ってくるのか?と思うし(部屋に入りきらなかった物はまた実家に戻すの?)、卯月が住み始めるのって学生用のアパートというよりは普通の集合住宅っぽくて、90年代の終わり頃ってあんなんだったっけ、とか、学生の女性たちの髪型がまだバブルの頃の残り香があって時代を感じさせたり、それから若い役者たちの喋り方など、19年前の『花とアリス』に比べると25年という年月は(わずか6年の違いにもかかわらず)明らかにふた昔前の感覚。
出演者がまた若いんだよなぁ。
痴漢っぽい男役の光石研さんや釣りサークルの先輩の役の津田寛治さんも、ずいぶんとシュッとしている。
店の前のポップに写ってた菅野美穂さんは変わらないなぁ。
卯月の後輩を演じていた“つぐみ”さんは90年代の終わり頃から2000年代の初め頃にかけて何本かの映画で顔を見たけど、現在は芸能活動はされてないみたいですね。
このように、「映画」というものは、たとえ映像は綺麗なままでも年月の経過というものをまざまざと感じさせる。
松たか子さんは『ラストレター』でも若々しい姿を見せてくれていたけれど、僕はTVドラマって観ないのでこの映画が公開された時にはすでによく顔が知られていた松さんのことをいつ頃知ったのかよく覚えていないんですよね(97年の竹中直人監督の映画『東京日和』にも出てたんだなぁ。観たはずだけど松さんのことは覚えていない)。いつの間にか有名になってた、って感じで。まぁ、ご家族が皆さんすでにおなじみのかたがただったし。
2000年代にお父様の二代目松本白鸚(当時は松本幸四郎)さん主演の「ラ・マンチャの男」を観にいって、そこで大胆なダンスを披露されてました。
TVドラマでは自己主張をガンガンするような役もこなされてるんだろうし、三谷幸喜監督の『THE 有頂天ホテル』でも元気一杯な役だったし。
でも、一方では山田洋次監督作品や岩井俊二監督の映画ではおとなしかったり真面目で他の人たちに振り回されるような女性を演じていたりして、俳優なんだから確かにいろんな役を演じ分けるでしょうが、でも作品によって異なるタイプの人物を演じる松たか子さんに、何か正体の見えない不思議なものも感じる。
この映画の卯月も、出会ったその日からガンガン語りかけてきて距離を詰めてくる同期の女子(留美)に翻弄されながらもだんだん自分のペースを掴んでいく。
山崎先輩が武蔵野に住んでいることを突き止めた彼女は、後輩からの情報で彼がある本屋でアルバイトしていることを知り、その近くに引っ越すことにしたのだった。
あの本屋の近所には、たまたまあの集合住宅しかなかったということだろうか。
書店であんなハイペースで本を買ってたらあっという間にお金がなくなっちゃうんじゃないかとか、部屋が本だらけになるんじゃないのとか、見ていてツッコみたいところはあるんだけど、恋は人を盲目にしますからねぇ。
僕も、中学時代に好きだった先輩が進学した高校に入りましたよ。
ちょいちょい自分のどーでもいい思い出話を挟んで申し訳ないですが、でも岩井俊二監督のあの当時の映画って、僕は自分の青春期と重ね合わせながら観ていたし、今でもそれは変わらないんですよね。ふと、10代や20代前半の頃にタイムスリップしたような気分になる。
カレーを作り過ぎちゃってお隣りの女の人(演じるのは藤井かほりさん。この人もひと頃映画で見たなぁ、塚本晋也監督の『東京フィスト』とか。懐かしい)に食べてもらったエピソードとか、釣りのことにしてもそうだけど、どれもお話の本筋にはかかわってこないし、この映画は「松たか子のPV」という感想もあって、そしてそれはあながち間違った評価ではないと思いますが、四月にいろんなことが始まっていく様子が描かれていて、まるで連続TVドラマの第1話のように「先輩との関係も、これからどうなっていくのだろう」と思わせたところで映画は終わってしまう。
大学の入学式の模様とか、おそらく実際の入学式を撮った映像を使っているんだろうけど、岩井俊二監督ってそういう、現実の情景をフィクションの中にうまく挟んで作品内の世界をリアリティあるものにするのに長けていて、そのあたりはちょっと佐々木昭一郎さんの作品(「夢の島少女」の感想はこちら)を思わせるんですよね。きっと影響を受けているのでしょうけれど。
映画の中でしばしば冠婚葬祭を描くのもそうだし、もともとCF(コマーシャル・フィルム)の世界から映画の方に移られた人だから、映画自体がCF的というか、「まるで映画のようなCF」の断片で映画を作っているみたいなところがある。
だからこの作品が「松たか子のPV」っぽいのは、まぁ、当然なのかもしれない。
なんで「信長」だったのかはよくわかりませんでしたが。
それから、岩井俊二監督の映画って、たとえば学祭の描写がとても豪華ですよね。
どれだけお金をかけているのかわからないけれど、『花とアリス』なんてエキストラの数も凄かったし、ちょっと前に観た小中和哉監督の『Single8』(感想はこちら)がどうしても低予算がしのばれる撮影規模だったのに対して『花とアリス』の贅沢さといったら。
『四月物語』だって物語の規模に対して、やっぱり実際の大学でロケしているだけあって「現実感」がある。
大学に進学した若い女性のなんでもないような日常をこんなふうに魅力的に切り取れるのは、やっぱりCFやミュージック・ヴィデオで鍛えられた人だからでしょうかねぇ。
これ1本きりだったら少々物足りなかったかもしれませんが、『花とアリス』との二本立てとして観たので満足感がありました。
最新作『キリエのうた』も若者を描いたもののようで、すでにおっさんになった僕に楽しめるかどうかわからないし、前作『ラストレター』でちょっと心が離れてしまった岩井俊二監督の映画にまた興味が持てるかどうか心許ないですが、今回観た2本の過去作はどちらも好きだったから、また岩井監督の映画を楽しめるようになりたいな。
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