映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

【知多半島映画祭】『あのまちの夫婦』

東海市芸術劇場で行なわれた知多半島映画祭に行ってきました。


主催者のかたからお誘いがあって僕もクラウドファンディングに参加した、俳優の津田寛治さんが脚本と監督を担当された短篇『あのまちの夫婦』を鑑賞。


出演:渡辺哲、赤座美代子、篠田諒、原田篤鈴木啓介知多半島の皆さん

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知多半島の出版社に勤める相馬は若いカメラマンの榊原とともにさまざまな店を訪ねる。妻の紀子は榊原をまるで息子のように得意料理のシチューでもてなす。しかしやがて別れの時が来る。旅立っていく者、留まる者、それぞれの人生の断片。


知多の各地で撮影したいわゆる「ご当地映画」といった感じの作品で、特にちょっと切ないラストの野間埼灯台が印象的でした。地元のかたたちも出演されていて、スタッフもボランティアの人たちが参加されたそうで。

津田さんご本人は愛知や知多ご出身ではないし特にこの場所に縁が深いわけでもなかったのが、去年この映画祭にいらっしゃった時に主催者の鈴木啓介さんに声をかけられて監督を打診されたとのこと。

渡辺哲さんは知多半島常滑ご出身だし、赤座美代子さんは名古屋市出身なので、ずっと東京で活躍されているお二人が地元の映画作りに協力された、ということですね。

カブトビール」も映ってましたw

今では普段なかなかこういう短篇映画を観る機会もないのでちょっと懐かしい気分がしましたが、おそらく地元民であろう人たちや、津田寛治さんのファンで長野から三時間かけてやってきたというかたなど、お客さんが大勢いらっしゃってました。

商業映画ではなくて地元の活性化も視野に入れた活動でしょうから映画の出来にいちいちあれこれ言うのも野暮なのはわかっていますが、一応観客の一人として感想を述べさせてもらうと、短くて観やすかったのと懐かしさや切なさに浸れた一方で、なんとなくありがちな物語だな、とも。

主演の渡辺哲さんと妻役の赤座美代子さんの台詞のやりとりを聞いていても、まるでCMのようで、あれぐらいの初老の夫婦(実際にはお二人は70代だが)があんな会話するだろうか、という不自然さを感じてしまって。

もっともっとさりげない言葉のやりとりをするんじゃないかなぁ。子どもが欲しかったんじゃないか、というところとか、結構説明的だった。

それでも津田監督が狙ったと仰っていたように、いつもはヤクザとか刑事などコワモテの役のイメージが強い渡辺哲さんに普通の勤め人で優しい物腰の老紳士役を振った、というのはとても新鮮だったし、NHKあたりで放映してくれればいいのにな、と思いましたね。

仕事と自分が本当にやりたいことの間で悩む榊原に向かって相馬がカレーライスを食べながら「君の写真は上か、下を写したものが多いね。その中間が見たいな」と言ったり、「人間が苦手だから」と答える榊原に「そこ怠けちゃうんだ」と呟くところなど、身につまされるような台詞はよかった。

灯台と海を見つめながら、赤座さん演じる妻が「…このまま死んじゃおうか」と呟く場面には、ある種の「痛み」とともに、どこかロマンも感じたりした。

「ここと似た場所に行くなら、ここにいればいいのに」という妻の言葉。それでも若者は羽ばたいていく。

地元で生まれ育ちそこから一歩も出ずにやがて老いて死んでいく者と、外に飛び出していく者との対比。

どちらにも事情があってどちらにもそれぞれの想いがある。

いい映画でしたよ。津田さんはこれが3本目の監督作品なのだそうで。

トークセッションでは津田監督と主演の渡辺哲さんが登壇して、撮影のエピソードや観客からの質問に答えられていました。

『あのまちの夫婦』の夫が出版社勤めで妻が元看護師という設定は、この映画祭の主催者でこの短篇の“言いだしっぺ”、そして編集長役で出演もされている鈴木さんご自身がモデルなのだとか。

わきあいあいとした雰囲気の手作りの映画祭といった感じでした。

津田監督は会場からの質問にも丁寧に答えられて撮影時のエピソードや普段の現場での話なども披露して場を盛り上げてくださったし、渡辺哲さんは「地元での撮影は、まるで自分の尻の穴を見られているようで照れくさかった」と仰ってました。

お二人のお人柄がしのばれました。

こういう短篇映画ってソフト化されることも稀だし観逃すと次にいつ観られるかわからないから、一期一会といった感じで貴重な機会でしたね。

映画製作や映画祭にたずさわられた皆さん、本当にお疲れ様でした。


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