映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

ナウいはダサい

結構前のことだが、実家で母と食事をしている時に何気なく会話の中で彼女が「ナウいねぇ」という言葉を口にしたので、ちょっと呆気に取られて笑ってしまい、さすがに「ナウい」は死語なので人前では使わない方がいい、とたしなめると、「じゃあ、今ではなんて言うの?」と尋ねてくるので、「いや、普通に“新しい”とか“かっこいい”でいいんじゃないの」と答えたが、先方は釈然としない顔をしている。

「どうしても何か言いたいんなら“イケてる”とか」「…イケてる?」

いや、「イケてる」だって今では全然イケてなくて死語に片足突っ込んでるのかもしれないけど、ナインティナインの『めちゃイケ』はまだやってるから完全に死に絶えた言葉でもないだろうし。

う〜んと…だから、イイ年して無理して今風の言葉遣いなんかしなくていいでしょ、みたいなことを話した。

結局その後、母から「イケてる」という言葉を聞いたことは一度もないですが。

僕の母は今70歳手前だけど、テレビのヴァラエティ番組の街角インタヴューなどでもたまに「ナウい」という言葉をギャグや敢えてではなく素で使ってるおばさんはいる。

ちなみに母は今でも冬になるとたまに「ちゃっぷいちゃっぷい、どんとぽっちぃ」と呟いたりする。80年代に流れていた使い捨てカイロ「どんと」のCMの中で使われていたフレーズだが、当時30代だった母がテレビで何度も耳にした流行語が脳の深い部分に定着している模様。

かように「ナウい」という表現はある世代の人々の頭にインプットされたまま、消去されずに今に至っている。そしてたまにふいに彼女たちの口をついて出る。

1990年代、バブルの時代には「トレンディ」という言葉が使いまくられ、使い尽くされて2000年代には完全に死滅したが(“トレンド”という言葉は普通に使われているのに、“トレンディ”と言った瞬間にポッと恥ずかしくなるのは何故だろう。不思議だ*1)、「ナウい」は現在60〜70代ぐらいの、主におばあちゃんたちの中で細々と生きながらえている。

もっと子どもの頃、滋賀県の大津に住む大叔母が服か何かのことを「モダンやねぇ」と褒めてるのを聞いて軽く衝撃を受けたことがある。スゲェな、終戦直後か、『はだしのゲン』の時代か、と。

バーのママを「マダム」と言ったり、妻のことを「ワイフ」と呼ぶような昭和テイストな表現w

確かに通常会話の中で「モダン」という単語はあまり聞かない。「ポストモダン」とか「モダン・ダンス」とか、なんかそういう専門的な言葉の中で耳にするぐらいだ。でもかつては「モダン」という表現が流行の最先端だった時代があるのだ。

そういえば、かつて90年代に字幕翻訳家の戸田奈津子はしばしば洋画の翻訳で「イカす」という言葉を使っていた。

イカす」という言葉が流行ったのは1960年代頃だが(ってリアルタイムで知りませんが)、90年代に「いかすバンド天国」などで一瞬だけ復活したことがあった。

さすがに今現在、敢えて狙ってでもない限り「イカす」を使うことはないと思うが、「モダン」同様にレトロ感覚溢れる言葉でもあるから、わざわざ文句をつける人もいないだろう。

それらに比べると「ナウい」ははるかにダサく聞こえる。「ナウ」がすでにもうダサい。全然「NOW」くない。

ひと頃、大勢の人々がTwitterで文末に「〜なう。」と付けたりしていたが、それも今では廃れてしまった。やはり敢えて「ダサさを演出」する目的でもなければやらない。

ナウい」がもうずいぶん昔から死語になっている(90年代にはすでに恥ずかしい言葉になっていた)のに対して、同じぐらいの時代に生まれた「ダサい」という言葉は今も生き残っていて、こうやって普通に使われている。

語源は「だから埼玉」である、とか諸説あるようですが、ネガティヴな言葉の方が長持ちしたりするんだろうか。

80〜90年代頃から使われだした「うざったい」という謎の言葉(漫画『湘南爆走族』やT・レックスとそのヴォーカル、マーク・ボランの名前を合体させた安易にもほどがある芸名の日本人ミュージシャンが唄う歌の歌詞の中にあった)がやがて短縮されて「ウザい」になり、普及して今も使われているように。

80年代の音楽がリヴァイヴァルしたりしてもあの当時のファッションが再び「かっこいい」と言われることも復活することもないように(せいぜい女性お笑い芸人がギャグでバブルネタをやるぐらい)、「ナウい」がひと回りふた回りして再評価されることもないように思われる。

ナウいはダサい。そして恥ずかしい。

80年代当時を知らない人たちにさえバカにされる始末だ。

その言葉を聞くと、何か心の中でいろいろと恥ずかしいものが甦ってきて身悶えしそうになる。だからこそ、今ではそれを素で使おうものなら鼻で笑われてしまうのだ。

ナウい」は使わない方がいい、と息子から言われて困惑していた母には申し訳ないが、今後彼女がそれを口にしたために赤の他人から笑われたりしたらいたたまれないので、やはり我慢していただきたい。

確実にあの時代を生きてきたにもかかわらず、まったく愛着を持てない言葉「ナウい」。どうかやすらかに眠ってくれ。


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*1:お笑いコンビの「トレンディエンジェル」は“お笑い”だからこそ成り立ってるんだろうし。