職場に、挨拶する時にいつも「フフッ」と鼻にかかったような笑い声を上げる女性がいて、若くて綺麗な人なのだけれど、最初にその笑い声に接したのはただ互いに「こんにちは」と挨拶を交わしただけの時だったのでなんで笑われたのかわからず、「何が可笑しいんだ」とイラッときた。
しかし、その後、いつもその日に最初に会う時には彼女は同じ笑い声を上げることを知って、ようやくそれが彼女の「癖」なのだということを理解した。
要するに、彼女としては愛想よく挨拶しているつもりなのだろう。おそらくその笑い声に意味はないのだ。
笑顔だけならわかるが、声を立てて笑うのでこちらは戸惑う。
そんな僕も、以前勤めていたところでは誰にでも笑顔でふるまうように努めていた。
仏頂面よりも笑顔の方が印象はいいだろうし、自分も笑顔でいることでしんどい時にも気持ちを前向きにできるんじゃないかと思っていたから。
先輩や上司からも「いつも笑顔が爽やかだね」と言われて、それは褒め言葉だと素直に解釈していた。
ところが、徐々に仕事に行き詰ってきて職場の他の人たちについていけなくなり、叱責や不愉快そうな態度をぶつけられることも多くなって、ある日、先輩から「笑顔はいいけど、笑顔だけではダメだから」と言われた。
その時、もちろん僕が「使えない奴」だったのが一番の原因ではあるけれど、あの僕の笑顔についての評価は褒め言葉ではなかったことに気づいたのだった。
しつこいくらいに「笑顔が爽やかだね」とみんなから言われたのは、あれは嫌味だったのだ。
「笑顔がわざとらしい」「笑顔でいればなんとかなると思ってんのか」
そう言われていたのではないのか。
それ以降、僕は無理して笑顔を作るのをやめた。
以来、別に面白くもない時にはできるだけ愛想笑いはしないようにしている(でも時々まわりに合わせてしてしまう自分の弱さが嫌になる)。
同じ職場に、いつも僕の話を聞く時に同じ表情の女の子がいた。
仕事の話にしろどうでもいい無駄話にしろ、僕が彼女に話しかけている時には彼女はいつも同じ、ちょっと眉尻が下がった、困ったような、でも口元は笑ってる「泣き笑い」みたいな表情をする。
別に叱っているのでもないのになんでそんな困ったような顔をするんだろう、と不思議に思っていたのだが、これも徐々に彼女のその表情は「どーでもいい奴の相手をしている時の顔」だということに気づいたのだった。
別に気にかけることもない、真剣に聴く必要もない時に彼女はそういう表情でいることに決めたのだろう。楽だから。
そうやって顔に張り付いたような笑顔をテンプレで作っておけば、とりあえずその場をやり過ごせる、と。
その職場には何を言ってもサバンナ高橋みたいに「まじっスか」としか言わない男もいたけど、彼らはそうやって適当にあしらっているつもりなのだろう。こっちが気づいてないとでも思ってるんだろうか。
それは相手を見くびってることでもある。
僕は本当にいろんな人間からナメられていたんだな。
女性ばかりでもなんなので、男性についても話すと、今の職場にいつも甲高い笑い声を上げる人がいる。
ちょうどタレント(モデル?)のりゅうちぇるにそっくりな、ちょっとオネェ入ってる人だけど本人は同性愛者ではないようだ。
それはどうでもいいんだけど、彼がひっきりなしに上げる「キャ〜!ヤダ〜!!」的な笑い声が耳障りでならない。
地声は普通なのに、やたらと声が裏返る。しかもデカい。
僕は彼のその「ケケケケッ!!」という金切り声のような下品な笑い声が苦痛でしかたなくてストレスが溜まってしまうんだけれど、この人もおそらく自分を守るためにこういう異様な笑い声を上げるのだと思う。
笑ってれば悪い印象は与えないだろうと思っているんだろう。
効果はまったく逆なのだが。
あるいは単に他人に配慮ができない人間なのか(その可能性もある)。
かつての僕は笑顔なだけで笑い声は立てなかったけど、もしかしたらあの職場の人々は僕の笑顔に不快感をもよおしていたのかもしれない。
何が可笑しいんだ、と。
笑顔だから、笑い声を上げてるから相手が好印象を持ってくれるとは限らない。
別に面白くも可笑しくもない時に意味もなく笑顔だったら気持ち悪いし、やたらと甲高い笑い声を上げれば耳障りだ。
難しいもんですね。
だから、めんどくさがっていつも同じパターンでいちゃダメなんだよね。
以前、職場でやたらと舌打ちする男が不快、という文章を書いたけど(「舌打ち対処法」)、同様に自分の癖ってなかなか気づかなくて、無意識に人の気分を害してることってある。
俺は人からどんな部分を「不快」だと思われてるんだろうなぁ。
あまり気にしすぎてもしかたないんだけど、人のことをとやかく言えばそれはブーメランになって自分にも返ってくる。
それはそうなんだが、黙って堪えていても打たれるだけならせめてブログで毒を吐いてやろう。それが僕のできるせめてもの憂さ晴らしだ。