ジョージ・ミラー監督、メル・ギブソン、ブルース・スペンス、エミル・ミンティ、マイケル・プレストン、ヴァージニア・ヘイ、ヴァーノン・ウェルズ、ケル・ニルソン出演の『マッドマックス2』。
1981年作品。R15+。
文明が崩壊し荒廃した近未来。一匹狼の男マックス(メル・ギブソン)は愛犬とともにガソリンを求めて旅をしていたが、ホッケーマスクをした大男ヒューマンガス(ケル・ニルソン)率いる無法者集団に狙われている石油精製所をみつける。そこでは指導者パッパガーロ(マイケル・プレストン)と仲間たちが新天地を目指して旅をする計画を立てていた。ヒューマンガスの手下ウェズ(ヴァーノン・ウェルズ)たちに襲われた男性を救ったマックスは、彼を仲間たちの許へ連れて行く。
キャストを一新した30年ぶりのシリーズ最新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(感想はこちら)を観て、やはり原点であるこの映画を観たくなって借りてきました。
先日借りにいったら全部レンタル中だった。みんな考えることは同じなんだなw
僕はメル・ギブソン主演の「マッドマックス」三部作はリアルタイムでは観ていなくて、この『マッドマックス2』も観慣れていたのはTV放映の吹替版(テレ朝版)だけど、レンタルされてるのは字幕版だけなのでもしかしたら今回初めてオリジナル言語で観るのかもしれない。
またあとで言及しますが、非常に70年代後期~80年代的なカーアクション映画で、懐かしさもあってまた楽しんでしまった。
ネタバレが嫌なかたはご注意ください。『怒りのデス・ロード』との比較もちょっとします。
最新作公開に伴ってこの映画を初めて観た、という人も結構いらっしゃるようで、あるかたの感想に「みんながスゴいスゴいと褒めるのでかなり期待して観たが、どうしてそこまで騒がれるのかわからなかった」というようなことが書かれていて、あぁ、なるほどなぁ、と。
うん、確かにCGがバリバリ使われた最近の派手なVFXアクションを観慣れていると、この『マッドマックス2』はさほど凄く感じられないのかもしれない。
合成とか、いわゆる特撮はほぼ使われてませんしね。
前作の約10倍の予算をかけられた、ということだけど、そもそも1作目自体がかなりの低予算だったわけだし、舞台になるのは荒野でセットもほとんどない。
せいぜい石油精製所ぐらい。あとは延々とトレーラーやバイクのチェイスが続くだけで。
だから「何がそんなにスゴいのかわからない」という人がいても不思議ではないとは思うんだけど、ただ、やっぱりその後のSFやアクション物に与えた影響、その斬新な世紀末的未来像の発明、というのはバカにできないんじゃないだろうか。
さっき紹介したブログ主さんの感想って、たとえばブルース・リーのクンフー映画を観て「何がスゴいのかよくわからなかった」と言っているようなものでしょう。
パイオニアなんだよ。それ以前になかったヴィジョンを生み出したの。新たなジャンルすらも。だから偉大なんです。これ大事。
あと、今回改めて観返して思ったのは、特に僕ら日本人にとっては「北斗の拳」のイメージがかなり影響しているのではないかということ。
ご存知の通り「北斗の拳」(1983年連載開始)はこの『マッドマックス2』からその世界観をほぼ丸パクリ、いや継承しているんだけど、あの作品のモヒカン軍団の凶悪なイメージが逆に『マッドマックス2』の記憶をさらに強化しているのではないかと思う。
というのも、僕は『マッドマックス2』に登場する悪役ヒューマンガスやウェズたち、ならず者軍団はすこぶる極悪非道な印象があったんだけど、実際に観てみたら思ったほど直接的な残酷描写はないんだよね。
冒頭でのトレーラーにあった膨張した死体、女性が裸にひん剥かれてレイプされる場面、ヒューマンガスの部下がガキんちょが放ったブーメランを頭に食らって絶命したり、指が飛んだりする描写などはあるけど、人々がモヒカンたちに残虐に殺される場面はほとんどない。
むしろパッパガーロたちの方が悪党たちを火炎放射器で火だるまにしたりクロスボウで攻撃したりと、結構アグレッシヴだったりする。
僕なんかがなんとなくイメージしていた悲惨な未来像よりも、もうちょっと明るいんだよね。
それに、この映画の舞台は戦争で荒廃した近未来という設定だけど実際に映っているのはオーストラリアの荒野で、僕たちが近未来モノなどで見慣れている破壊されたビル群などは一切出てこない。
そういうイメージは、他の作品たち(『ニューヨーク1997』とか『ターミネーター』など)からのものが、いつのまにか脳内で融合したんだな(永井豪の「バイオレンスジャック」などの影響もあるんでしょう)。
だから、あの世界観から「北斗の拳」を生み出した武論尊と原哲夫は確かに偉大だと思います。
DVDのメイキング観てたら、スタントマンたちが1人、また1人とケガで退場していく様子が映っていて、悪いんだけどちょっと笑ってしまった。
一見簡単なようなスタントが実は結構危険だったりするのがわかる。
車が衝突する前に飛び出さないと衝撃をもろに食らってしまうことや、飛ばされる時に身体が回転してしまうと制御できなくなって危険だということなど。
現在ではワイヤーなどを使ってあとで映像を修正することも可能だし、あれから安全を確保する方法がいろいろと工夫されてきたけど、技術的な限界もあった80年代当時は今以上に命がけでスタントをしていたんですね。
さすが、1作目で死人が出たという都市伝説まで生まれただけのことはある。
この映画の劇伴は意外と饒舌で、そのメロディがなんともあの時代を偲ばせる。
アクション場面での、あの“ズチャ!ズチャ!ズチャ!ズチャ…♪”というリズム(若干「ドリフ大爆笑」っぽくもあるし)。
高鳴るオーケストラの演奏はやはり80年代的(うまく説明できないけど、このテーマ曲を聴くたびに80年代を感じる)で、当時のこのジャンルの映画の曲としてはかなり重厚。
名曲だと思います。
映像では劇中の随所に“コマ落とし”が使われていて、それはカーアクションの迫力を増すためもあるけど、映画のテンポアップに貢献もしている。まるで初期のサイレント映画みたいでちょっとコミカルでもある。
このコマ落としは最新作『怒りのデス・ロード』でも踏襲されていて、ところどころで早廻しになったトム・ハーディ演じるマックスたちがちょこまかと動いていた。
メル・ギブソンが演じるマックスは前作で妻子を殺されたために心を閉ざしていて、ほとんど喋らないし笑わない。
だからこそ、彼がたまに口を開くとその言葉には思わず耳を傾けてしまうし、ふと見せる笑顔が印象に残る。
マックスは正義のヒーローというよりも孤独なアンチヒーローで、旅先で知り合ったジャイロ・キャプテン*1への仕打ちや仲間に迎えようとするパッパガーロたちから離れて単独で行動するところなどからも、基本的にはガソリンが欲しいだけの自分勝手な“ならず者”根性の男である。
石油精製所に侵入したウェズを撃退するのに協力してパッパガーロたちの信用を得るが、その途端に一人で出ていくと言い張って、出会った時には見下していたジャイロ・キャプテンからも「バカだ」と言われ、案の定ウェズたちに襲われて瀕死のところを助けられる。けっしてカッコイイ男じゃない。
その陰があって愚かでもあるキャラクター設定が魅力的だったんだよね。
『怒りのデス・ロード』ではトム・ハーディ演じるマックスはもうちょっと優しいし、男気もある。
『マッドマックス2』にはほとんどなかった女性たちとの共闘と、互いに敬意を持つようになる過程が描かれている。
『マッドマックス2』では“女戦士”(ヴァージニア・ヘイ)には名前も付けられていなかったけど、『怒りのデス・ロード』の女性キャラたちには一人ひとりちゃんと名前が付けられ、彼女たちは自分たちを「子を産む道具」にしている悪役に「私たちは“物”ではない」と自己主張する。
このあたりにも時代の変化を感じます。
仲間たちの死に様も『マッドマックス2』は実にドライだ。
女戦士は身体に引火した仲間を助けようとしてクロスボウの矢の餌食になり、トレーラーの上にしがみつくが、無残に道路に落とされる。
他の仲間たちも同様にその死の描写はあっけない。
“ロックンローラーのアヤトラ”ヒューマンガスはマイクでパッパガーロたちに呼びかけて「話し合い」をしようとしたり、暴れるウェズを抑えたり、見かけによらず理性的なキャラかと思わせておいて実は一番マッドなのはこいつだったという、なかなかステキな悪役である。
クライマックスで、ガソリンを入れた(と思われた)トレーラーを運転するマックスにウェズが手下たちとともに襲いかかり、弾みでショットガンの弾がボンネットの上に転がってしまう。
マックスはそれをブーメラン小僧に取らせようとするが、死んでいなかったウェズが小僧の腕を掴んで絶体絶命の危機。
通常ならここで、果たして弾を装てんしてウェズを倒せるかどうか、というところが見せ場になるはずなんだけど、なんと加速したマシンで猛スピードで突っ込んできたヒューマンガスがUターンしたトレーラーと正面衝突、悪党のボスもナンバー2も一気に昇天してしまうんである。
うまくいけばそのままトレーラーを奪取できたかもしれないのに、何を考えているのかまったくわからないアホ過ぎる結末。
この悪のボスのあっけない最期もまた、最新作で踏襲されている。
これを物足りないと感じるか、ぶっ飛んでて最高にカッコイイと感じるかでこの映画の評価も変わってくるだろう。
今ならヒューマンガスもウェズももうちょっと粘るだろうなぁ。
でも、このあっけないほどの終わり方こそがクールで、80年代っぽい(いや、70年代っぽいか?)。僕は好きだ。
ちなみに、おそらく『13日の金曜日』の殺人鬼ジェイソンがモデルであろう、あのホッケーマスクを被り筋骨隆々の一度見たら忘れられない姿をしたヒューマンガスを演じているケル・ニルソンは元重量挙げ選手で、実はあのわずかに髪の毛が残ったハゲ頭は作り物のヅラで、ご本人は笑顔がステキなイケメンだったことが判明。
「史上最高の悪の手下」ウェズ役のヴァーノン・ウェルズは『マッドマックス2』の出演後にはシュワちゃんの『コマンドー』に出演して、「来いよ、ベネット」と玄田哲章の声で言われて、石田太郎の声で「お前なんか怖かねぇ!野郎、ぶっ殺してやる!」と叫んで闘い、最後にスティール製のパイプが身体を貫通して絶命していた。
『怒りのデス・ロード』では79年の1作目で悪役トーカッターを演じたヒュー・キース=バーンが36年ぶりに悪役を演じていたけど、次回作ではぜひヴァーノン・ウェルズに悪役を演じてもらいたい。
マックスとともに戦うブーメラン小僧(フェラル・キッド)役のエミル・ミンティは凄くイイ顔した少年なので、僕はもしかしたらこの人、実は大人(白木みのる的な)なんじゃないかと思ってたんだけど、どうやらほんとの子役だったようで。最近はこんな顔の普通のおっさんになってるみたい(すでに俳優は引退している模様)。
月日が流れて、かつては名作、傑作といわれた作品が今では「これのどこがそんなに優れているのかわからない。最近の作品の方がよくできてる」とか言われちゃったりしてますが(昔のスターウォーズとかも)、それでもイイものはイイんですよ。
温故知新。故(ふる)きを温(たず)ね、新しきを知る、っていうでしょ?
男たちが「ヒャッハー!」と叫んでバトり合う、懐かしくて野蛮な世界。
『マッドマックス2』にはオイルと血と汗の匂いがする。
それは人間の体温を感じる映画ということだ。
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*1:ジャイロ・キャプテン役のブルース・スペンスは、のちに『マトリックス レボリューションズ』→感想はこちら で“トレイン・マン”を演じていた。