※以下は、2010年の劇場公開時に書いた感想に一部加筆したものです。
ティム・バートン監督、ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム・カーター、アン・ハサウェイ出演の『アリス・イン・ワンダーランド』。
IMAX3D字幕版で鑑賞。
かつて「不思議の国」をおとずれたアリス(ミア・ワシコウスカ)はあれから成長して19歳になっていたが、パーティで気が進まない相手から求婚されて逃げ出す。ふたたびやってきたワンダーランドで白ウサギやマッドハッター(ジョニー・デップ)、チェシャ猫らと再会するが、国は赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター)に支配されていた。白の女王(アン・ハサウェイ)の助けを借りて、アリスは赤の女王に戦いを挑む。
観ようかどうしようか迷ってるうちに公開開始からひと月経ってしまった。
で、慌てて観てきたんですが。
その前につい先日、初めてTV放映で『チャーリーとチョコレート工場』を観て「…ん~、なんだかなぁ」と。
でもあの映画、大人気なんでしょ?『シザーハンズ』みたいに。
『チャーリーとチョコレート工場』(2005) 出演:ジョニー・デップ フレディ・ハイモア
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『シザーハンズ』(1990) 出演:ジョニー・デップ ウィノナ・ライダー
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『シザーハンズ』はティム・バートンが快作を撮り続けてた頃のジョニー・デップとの初コラボにしてこのコンビの人気を決定づけた作品だけど、世間の評判ほどには好きではないんですよね。
なんでかというと、ウィノナ・ライダー演じるヒロインの彼氏が絵に描いたようなDV野郎だから。
サム・ライミの『スパイダーマン』でも思ったけど(そしてどちらも音楽をダニー・エルフマンが担当)、なんで主人公が憧れるヒロインはいつも男の趣味が最悪なんだろう。
その時点で興味なくなるんですけど。
…まぁそれはいいとして、『シザーハンズ』は最後に主人公がその暴力男をブッ殺しておしまい、っていう映画だったわけで、そのいかにも「いじめられっ子の復讐」って結末が実に後味悪くて、なんでこんなに人気があるのかわからない。
恋敵はいつも最低な男、ってんでは最初から主人公に都合良すぎではないか。
あそこはむしろ主人公がどうやっても太刀打ちできないぐらいよく出来た彼氏だった方が効果的なんじゃないですか?
自分の想いがけっして相手に受け入れてもらえないとわかった主人公がついにブチギレて暴走、みんなに追われて退治される、というふうになんなきゃ怪物の「悲恋」に説得力がないでしょ。
ティム・バートンは子どもの頃、街中を破壊して最後に退治される怪獣に自分を重ねていたそうで、だから「バットマン」シリーズでも悪役に肩入れしてきたんだろうけど、『シザーハンズ』ではそれが主人公への自己投影を通り越して自己憐憫になってしまっているようでなんとも気持ちが悪かった。
…と、『シザーハンズ』の悪口はこれぐらいにしといて(ファンのかた、ゴメンナサイ)、では『チャーリー〜』の方は何が不満だったかというと、これはまた全然別の理由。
「家族は大切」。
結局これが言いたかったの?って。知ってますよ~そんなこと。
なんだろう、このとってつけたよーな薄いメッセージは。
そういう正論をひっくり返すのが「バートン流」だったんじゃないかと。
観る前はもっとサイケデリックでアシッドな狂った話を想像してたんだけど、評判のウンパルンパのダンスも期待してたほどブッ飛んでるわけでもなく。
なんとなく一見“ティム・バートンっぽい”ファンタスティックで“ティム・バートン風”のカラフルな映像は満載なんだけど、その表面を剥がすと中には何もない空虚な感じ。
しかもムリヤリ「いい話」にもっていこうとしてるよーな。
で、今回の『アリス~』にも同じようなニオイがしたので迷ってたというわけです。
中身がカラッポならカラッポでそれに居直って『マーズ・アタック!』みたいに無茶苦茶やってヨーデル歌っててくれたらいいのに、そこまで破壊的ではなくてあくまでもディズニーなんだからお行儀良く、と。
『マーズ・アタック!』(1996) 出演:ルーカス・ハース ナタリー・ポートマン
でも僕はちゃんと観たことないけど、51年制作のディズニーのアニメ版『ふしぎの国のアリス』はもっとドラッギーだったっていうじゃないですか。
前作『スウィーニー・トッド』は画面の色を落として喉笛カッ斬りまくりで脳天カチ割りまくりの「やりすぎ」ぶりが愉快だったんだけど(だから地上波で放映できない)、なんかみなさん観なかったことにしてるよーな気配が。
だから『チャーリー~』路線に戻そうとしたのかな。
3D効果については、今回はもともと2Dで撮られたせいもあってか、始まってしばらくすると3Dだったことも忘れるぐらいの微妙さ加減。
T・バートンやJ・デップのファンのかたには大変申し訳ありませんが、あまり愉しくない感想になるかもしれませんのであらかじめご了承のほどを。
なお、ネタバレありですのでご注意下さい。
今回けっこう批判的な感想も出てるというヘレナ・ボナム・カーターの「赤の女王」の扱いについては、たしかにかつて怪獣に感情移入してたバートンらしく多少不憫なキャラクターとして描かれ“かけて”はいるものの、どうも中途半端で心がこもっていない。
監督の思い入れがあまり感じられないんだよなぁ。連れ合い*1が演じてるのに。
ルイス・キャロルことチャールズ・ドジソン原作の「不思議の国のアリス」は昔トライしてみたけれど、そのナンセンスな文章についていけずに挫折。なのでいまだに最初にウサギを追いかけてくとこと、最後にアリスが眠りから醒める場面しか知らない。
ジョン・テニエルが描いた挿絵は好きでよく眺めてたけど。
なんかアリスの顔が国生さゆりみたいですが。
だから原作のストーリーやキャラクターに対する愛着やこだわりはないので映画でどのようにその世界観が改変されていようが文句を言うつもりはないんですが、甲冑を着て剣を振りかざす「勇者アリス」の姿は、アリスというよりジャンヌ・ダルクのようでした。
ジャバウォッキー(ただの弱っちいドラゴン)との戦いも、「…えっ、これで終わり?」みたいな呆気なさ。
カ、カタルシス皆無…。
あそこはもっとワクワクさせて欲しかったなぁ。
ところで、白の女王が薬を調合するシーンで、アリス役のミア・ワシコウスカの腕の産毛が妙に気になったんですが。金髪だから目立たないけど…あー、スミマセンね、エロオヤジ目線で。でもずいぶん長いこと映ってたので。それも3Dで。
彼女はこの作品で初めて見たけど、なんとなくグウィネス・パルトロウに似てるなぁ、と。
幼い頃のアリスを演じてる子役(マイリー・エラ・チャレン)はいかにも「ロリータ」な感じで原作のイメージどおりだと思うんだけど、ミア・ワシコウスカは正反対の雰囲気の女優さん。
ティム・バートンがなぜこういう人をアリス役にあえて抜擢したのかちょっと不思議。
ただ、過去の実写化作品をいくつか観てみたところ、意外と原作のアリスに忠実(何をもって忠実とするかは意見が分かれるところでしょうが)なのってそんなに多くなくて、設定の7歳よりも年上の子役や、どう見てもティーンエイジャーの女優が演じてることもけっこうあるので、今回のキャスティングが特別ヘンというわけではないのかもしれないけど。
似てるといえば、白の女王役のアン・ハサウェイの顔立ちには、どうしてもティム・バートンの元カノ、リサ・マリーが重なってしまう。
別れなかったらあの役には彼女を使ってたんだろうか。
若い頃は「オタク監督」なんて呼ばれてたティム・バートンも今じゃ大ヒットメーカーで巨匠扱い。出演した女優と次々お付き合いしたりして、人間変われば変わるもんだね(やっかみ)。
でもそれって「映画作家」としてはけっこう重大なことだと思う。
だってかつて「孤独なはぐれ者たち」を愛情こめて描いたティム・バートン自身はもう「孤独」ぢゃないんだもの。
それはわかり易すぎるほどここ最近の作品のテイストに表われている。
だから赤の女王の孤独や狂気にも、もうあまり関心がなかったのかな、なんて。
喋るイモ虫の特徴がある声には聞き覚えがあるなぁと思ってたら、やっぱりアラン・リックマンでしたか。
ジョニー・デップは…みなさん仰ってるように、別に彼でなくてもよかったかな、と。主役じゃねーし(しかし目が…デカ過ぎ)。
クリスピン・グローヴァー(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のお父さんや『チャーリーズ・エンジェル』の痩せ男)が演じたイロソヴィッチ=ハートのジャックももっと活躍させられたんじゃないかと思うし実にもったいない。
冒頭とラストの現実世界の描写はよかっただけに、肝心の「ワンダーランド=不思議の国」に魅力を感じられなかったのは致命的。
だからその夢の世界やキチガイ帽子屋ジョニー・デップとの別れにも寂しさを感じることができませんでした。
あそこはもっとギュ〜ッと切ない気持ちにさせてくれなきゃ。
現実の世界に戻ったアリスは、亡き父譲りの商才があることがわかって、中国との貿易に乗り出していく。
大英帝国のその後のさらなるアジアへの進出(侵略)を思うと複雑な気持ちになるけど、実はそちらのドラマの方を観たいと思ったのは僕だけだろうか。
この映画の翌年に『ドリームチャイルド』(感想はこちら)という別の映画を観たんだけど、そこでは「不思議の国のアリス」のアリスのモデルとなった少女、アリス・リデルにまつわる物語が描かれていました。といっても、彼女がもうおばあちゃんになってからの話だけど。
でもどちらかといえば僕はCG製のクリーチャーがわんさか出てきてドタバタするような作品よりも、そういう実話ベースの話の方が今は観たいなぁ。
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*1:2014年12月にティム・バートンとヘレナ・ボナム・カーターの破局が報じられた。