映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『アニー』(1982年版)


ジョン・ヒューストン監督、アイリーン・クインアルバート・フィニーキャロル・バーネットアン・ラインキングティム・カリージェフリー・ホールダーバーナデット・ピーターズ出演の『アニー』。1982年作品。

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1930年代のニューヨーク。親がいない少女たちの養護施設に住む10歳のアニー(アイリーン・クイン)は、院長のミス・ハンニガン(キャロル・バーネット)にこき使われながらもいつか両親と再会できる日を待ちわびている。ある日、大富豪ウォーバックス(アルバート・フィニー)がPRのために1週間ともに過ごす孤児を探しに彼の秘書のグレース(アン・ラインキング)が施設を訪れる。


日本でも日本人キャスト・スタッフによって公演が続けられているブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品。

ほんのちょっと前に最新の映画版『ANNIE/アニー』(感想はこちら)の公開に合わせて深夜にTVの地上波でやってたんだけど、ちゃんと集中して観られなかったのとそちらは日本語吹替版だったので、字幕版であらためて観たくなってDVDを借りてきました。

以下、ストーリーのネタバレがあります。


僕が子どもの時に映画館で観たのは吹替版の方だったようですが、今まで内容ともどもよく覚えていませんでした。

なのでほとんど初めて観るような感覚で鑑賞。

吹替版も観やすくて日本人の声優陣の歌声もステキだったけれど、実写ということもあってやっぱりオリジナル言語版で観ると感動は倍増でした。

僕は今回この映画を久しぶりに観る前は、80年代に観た他の何本かの映画、たとえば『スーパーガール』や『サンタクロース』(感想はこちら)のような今観ると懐かしいんだけど作品の出来としてはかなり怪しい「愛すべきポンコツ映画」の1本、という先入観を持っていたのです。

だけど実際に観てみたらとてもまっとうなミュージカル映画で、すっごく好きになってしまった。

1930年代という、ちょうどMGMのミュージカル映画(劇中の台詞の中にフレッド・アステアの名前も出てくる)などが盛んに作られていた時代が舞台で、この作品自体がそういう往年のミュージカル映画のようなゴージャスで懐かしい作り。

そして何よりも、この子はアニーを演じるために生まれてきたんじゃないか、と思えるほど役柄にハマってる主演の子役アイリーン・クインの魅力。

彼女の顔は覚えていたけど、この映画を再見してあまりの愛くるしさにキュンキュンしてしまった。

ラストにはアルバート・フィニーと一緒に見事なタップも披露してくれる。

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美少女というよりも山田花子系の愛嬌のある顔なんだけど、いつもニコニコしててクルクル変わる表情とか小さな身体で踊るダンスなんかも、僕は舞台版を観たことがないにもかかわらず「そうそう、アニーってこういうイメージ」と思ってしまう。


ちょっと「テンプルちゃん」みたいだな(シャーリー・テンプルの名前もやはり台詞の中に出てくる)。

幼い頃の僕には「子どもがヅラをつける」という発想自体がなかったので、のちにアイリーン・クインのあのクリクリの癖っ毛がヘアウィッグだったと知って意外だった(特に最初のうちの後ろの毛をちょっと結んだ髪型はとてもリアルだったので)。彼女自身の頭髪は色の濃いストレートヘアだったんだそうで。


不思議なことにこの82年版『アニー』は公開当時ラジー賞に何部門かノミネートされて、なんと主演のアイリーンが「ワースト助演女優賞」を獲っている。主演なのになんで「助演女優賞」なのかは不明ですが(ワースト新人賞にもノミネートされている)、それよりも彼女の演技のどこが「ワースト」なのか理解できない。

アイリーン・クインは8歳の頃から舞台でもアニーを演じてたそうだし(映画の撮影時は9~10歳)、オーディションで8000人の中から選ばれたこの子がラジー賞なら誰がアニーを演じたら文句がないんだと思ってしまう。

美声ではないからだろうか。でも子どもらしくて可愛い歌声じゃないですかw

まぁ、ラジー賞自体が半ばシャレだし、そんな真剣に怒るようなものでもないですが。

舞台版やミュージカル映画ファンからすれば大絶賛というわけではないらしく評論家の評価も必ずしも高くはないようですが、僕はこの作品とってもいいと思うんだがなぁ。

舞台版の方を観ていないので比較できないけど、今これが新作映画として公開されたら「よくできたミュージカル映画」として普通に人気が出ると思う。だからけっして僕が想像していたような「ビミョーな作品」なんかではないですよ。

この映画が好きだという人たちも結構いるようだし。

僕はミュージカルを生の舞台で観たことはほとんどなくて、別にミュージカル映画に詳しいわけでもないので知ったようなこと言ってると鼻で笑われそうですが、それでもこれまで僕が観たミュージカル映画ってだいたいどれもお話は単純で登場人物もある程度わかりやすく記号化されていた。

歌やダンスこそがミュージカルの醍醐味であって、複雑すぎる物語や俳優の演技はかえって邪魔だろうし、だからこの82年版『アニー』のシンプルなストーリーや人物造形はあえてそうしてるんで、ミュージカルの映画化作品としても、また“ファミリー映画”としても申し分ないんじゃないかと。

ロケーション撮影やクライマックスの追っかけなど、映画ならではの見せ場も作ってあるし。

好きな人には申し訳ないですが、僕は最新作の『ANNIE/アニー』にはかなり違和感や「やっちゃった感」を抱いてしまって、それだけに今から30年以上前に作られたこのミュージカル映画の「程のよさ」になんともいえない多幸感を味わったのでした。

これは単に昔の映画だから「懐かしかった」というだけではなくて、映画として「ちゃんと」していたから。

最近ではミュージカル経験のない映画俳優が知名度などから起用されていきなり唱ったりしてるけど(『ムーラン・ルージュ』や『レ・ミゼラブル』→感想はこちらのような成功例もあるけれど)、この映画の出演者のほとんどがプロのミュージカル俳優や舞台出身者なので安心して観ていられる。

みなしごの女の子が最後は大金持ちの養女になりました、めでたしめでたし、という結末も含めてこれは“シンデレラ・ストーリー”の一種で、ヒロインを大人にすればジュリア・ロバーツ主演の『プリティ・ウーマン』になるという具合に他愛ないお話ではある。

だけど芸達者な俳優たちが実際に歌と踊りを見せて、その演技にも退屈さや「なんか違う…」という思いを抱くことがない。

理屈ではなくて役者たちの躍動によって、言葉にならない感動に襲われる。

もう、こういう場面↓観てるだけで有無を云わさず「アニー」の世界に入り込んでしまう。

It's A Hard Knock Life
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施設の子どもたちが唄いながらかなりアクロバティックなことやってるんだけど、スゴいよね。

この映画を観て気になったのは、子どもたちが結構ぞんざいに扱われている(ように見える)こと。

ハンニガンさんに胸ぐらつかまれたりケリ入れられたり、ああいう描写って多分今現在のハリウッドのメジャー系の映画ではできないんじゃないだろうか。児童虐待云々言われそうで。

昔の映画って子役でも容赦なく過酷な撮影をこなしていて(現在だって大変でしょうけど)、何かそんな姿にもいじらしさを感じてしまう。

今では彼女たちももう立派な大人ですが。

この映画の20周年記念のDVDの映像特典でアイリーン・クインが撮影当時を振り返っていて、監督のジョン・ヒューストンや共演のアルバート・フィニーのこと、撮影現場でのエピソードなどを語っている。


ちなみに“Tomorrow”は素晴らしい歌、とフォローしながらも、彼女自身が一番好きなのは“Maybe”なんだそうな。施設で窓の外の町の夜景を眺めながら唄う歌ですね。

Maybe
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ミス・ハンニガン役のキャロル・バーネットは、ご本人は普通の顔立ちの女優さんなのに、映画の中ではどぎついメイクに鶏ガラみたいな風貌で郵便配達員だろうが誰だろうがかまわず食っちゃおうとする色情狂の妖怪じみたBBAを怪演している。


ミス・ハンニガンはアル中で、少女たちにほとんど虐待まがいの労働をさせている。

彼女がこのような自堕落な生き方に陥ることになった顛末は語られないが、酒のボトルを手にしてほとんど下着が丸見えの無様な格好でバスルームにベタ座りしているその姿からは、人生の負け組の哀しみを大いに感じさせる。


ウォーバックスがアニーの本当の両親に5万ドルを支払うことを知ったハンニガンは、出所したばかりの弟ルースターとその愛人リリーをニセの親に仕立て上げてまんまと大金をせしめようとする。

けれども、クライマックスでアニーにその5万ドルの小切手を破られて逆上したルースターが「殺してやる!」と彼女を追いかけだすと、ハンニガンは我に返ったように弟を止めようとする。

彼女は悪党だが、腹立ちまぎれに子どもを殺すほど心が荒んではいない。

そういう部分が描かれているから、彼女を本気で憎む気にはなれないのだ。

こういう憎まれ役がドハマリしてる女優さんって最近あまり見かけないのでインパクトがあって、キャロル・バーネットの顔面の凶暴さと哀愁漂うあの演技があったからこそ82年版『アニー』は名作足りえたのだと実感。御年81で現在もご健在だそうで。


ハンニガンの弟ルースターを演じるのは、今でもカルト的な人気を誇る『ロッキー・ホラー・ショー』で主演を務めたティム・カリー

キャロル・バーネットティム・カリーはまるでほんとの姉弟みたいに似ているw

ルースターの愛人リリー役のバーナデット・ピーターズは、その後クリント・イーストウッド監督・主演の『ピンク・キャデラック』にヒロイン役で出ていた。

彼女もミュージカルの世界の人のようで、『アニー』でも足をガンガン開いて踊りながら手癖の悪い女を好演している。


ウォーバックスの美人秘書グレースを演じるアン・ラインキングもまたボブ・フォッシーの『オール・ザット・ジャズ』にも出演しているブロードウェイのスターで、『アニー』では真面目で清楚な役柄ながらダンスシーンになるとバーナデット・ピーターズ以上に下着をバンバン見せながらキレッキレに踊ってみせる。そのギャップも面白い。


僕はこの映画を観るたびにウォーバックスの用心棒プンジャブの顔がモノマネ芸人のコロッケにクリソツなので笑ってしまう。

この人、魔法を使って物を中に浮かせるんだけど、種明かしも何もないのでほんとの魔法使いという設定なのかしら。頭にターバンを巻いてインド出身っぽい風貌をしてるけど演じているのはアフリカ系のジェフリー・ホールダーだし、なぜか仏教について語ったりする。

すげぇインチキっぽいキャラなのに、爆弾男からご主人を守ったりクライマックスではヘリからターバンでぶら下がってアニーを助けたりと大活躍。

また、ロジャー・ミナミが演じる東洋系の運転手はアニーにカラテを教えたりしているけど、これは「グリーン・ホーネット」でブルース・リーが演じていたケイトーがモデルだろうか。

それとも原作にもこういうキャラがいるのかな?


こういった登場人物たちが繰り広げる“みなしごアニー”を巡る物語なんだけど、そこに実在の人物であり1933年から45年の死去まで大統領を務めたフランクリン・ルーズベルトが出てきて、アニーとからむ。

それどころか一緒に“Tomorrow”も唄っちゃう。

共和党支持者のウォーバックスは彼の「ニューディール政策」を「愚かな行為」と言って批判するが、アニーのとりなしで大統領に協力することになる。

1929年の世界大恐慌からアメリカが立ち直る転換期が舞台なわけで、「明日」のために笑顔でいようとするアニーの姿勢とアメリカが重なる。

くどくてすみませんが、残念ながら僕には現代を舞台にした2014年版の『ANNIE/アニー』には今の時代性というものがまったく感じられなかったんだけど(やたらとスマホが出てきたりしているが)、1933年を舞台にした82年版の『アニー』の方こそよっぽど「今」が重なる。

アニーという少女は、打ちひしがれそうになる気持ちを前向きに変えてくれる、そんな力を持った存在なのだ。

アニーの両親は生まれたばかりの彼女をミス・ハンニガンの養護施設に置き去りにしたまま姿を消して、数年前に火事で亡くなっていたことがわかる。

ハンニガンはそれを知っていながらアニーには秘密にしていた。

この両親は日本の舞台版では病死に変えられている場合もあるそうだけど、そこからもわかるようにハッキリいって実は彼らの死因などなんでも構わないのだ。

アニーは親のない孤児で、家族を持たない彼女がそれでも元気に唄い、夜に寂しがって泣くモリーを慰め、その明るさや健気さで大富豪や大統領をも魅了していく。


後半はアニーの争奪戦になるんだけど、つまりアニーという少女そのものが人々が求める「希望」だということ。

アニーは映画の前半で、男の子たちに追いかけられていた野良犬を助ける。

自分よりも大きな男の子数人を相手に怖れることもなく、弱い者イジメする者に鉄拳を見舞って追い払うアニーの姿は、正直現実的ではない。それは優しさと強さに満ちた「こうあってほしい」という女の子たちの願いなのだ。

そしてそこで助けられた犬はサンディと名づけられて彼女に飼われることになる。

やがてサンディは映画の終盤に女の子たちとともにアニーの危機をウォーバックスに知らせにいく。

みんながアニーを愛している。なぜなら彼女こそが「希望」だから。

シンプルな物語の中に、とても深い寓意が込められている。

アニーの唄い踊る姿に、彼女の笑顔に、現実の世界への失望や怒りから笑顔を取り戻す秘訣を教えてもらったような気がする。

明日にはきっと希望がある。だからあごを上げて笑顔でいよう、と。

日本中の多くの少女たちがアニーに憧れ、ステージの上で彼女を演じるために今日も歌やダンスに取り組んでいる。

そんな彼女たちの姿はまさしくアニーそのもので、「明日」に希望を見出そうとしている多くの人々にとってかけがえのない存在なのだ。


アルバート・フィニーさんのご冥福をお祈りいたします。19.2.7


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