※以下は、2011年に書いた感想です。
アントン・コービン監督、ジョージ・クルーニー主演の『ラスト・ターゲット』。2010年作品。日本公開2011年。PG12。
殺し屋のジャックは、スウェーデンで休暇中に何者かに命をねらわれイタリアの山岳地帯の町に身を隠す。そこで組織から依頼された狙撃ライフルのカスタマイズを黙々と続けるジャックに、またしても暗殺者の手が伸びるのだった。
以下、ネタバレあり。
って、読んでないけど。
主人公が凄腕の殺し屋、というとなんとなくマット・デイモン主演の「ジェイソン・ボーン」シリーズみたいなのを想像するけど、ああいったアクション物ではなくて、この映画はほんとに地味。
派手な格闘シーンも大爆発もない。
車とスクーターのチェイスはちょっとあるけど、すぐ決着がつく。
ジョージ・クルーニーが演じるジャックは“スーパーヒーロー”ではなく、たまたま殺し屋を生業としている男にすぎない。
舞台は石畳と古い建物が美しいイタリアの田舎町。
そこでジャックは追っ手の気配を感じながらもひとり仕事をつづけ、彼が狙撃銃を制作する過程が丹念に描かれる。
多分、銃器マニアの人が観たらワクワクするんだろうなぁ。
知り合った神父がジャックにいうように、まさに職人の仕事。
とにかく、けっこう長いことこれといったことも起こらずに、ジャックは銃を作ったり娼婦と夜をともにしたり神父さんとしゃべったりしてるだけなので、「こ、これはいつになったら話が転がりはじめるんだ?」と思っていると、ときどき殺し屋にねらわれたりする。
いつもはどこかユーモアを漂わせていたり、あからさまに変態だったりと濃いキャラクターを演じることが多いクルーニー兄貴だけど、今回はストイックに徹している。
美しいがまるで普通の仕事をしてるような感じで巧みにライフルを操る女性スナイパーの名前が“マチルダ”というのが、偶然にしろかつて『レオン』(感想はこちら)でナタリー・ポートマンが演じた小さなヒロインのその後に思えてしまって、ちょっと心が躍った(もちろん、見た目もキャラもまったく違います)。
異郷でたったひとりのアメリカ人、という意味であろう映画の原題“The American”のとおり、コービン監督とマチルダ役のテクラ・ルーテンはオランダ出身、ジャックが知り合う娼婦のクララ役のヴィオランテ・プラシドはイタリア、組織の連絡係パヴェル役のヨハン・レイゼンはベルギーと、ジョージ・クルーニー以外はすべてヨーロッパ勢。
強面のヨハン・レイゼンには見覚えがあると思ったら、『シスタースマイル』(感想はこちら)で主人公にアドヴァイスする神父を演じていた。
背中に蝶のタトゥーがあるジャックを、クララは「ミスター・バタフライ」と呼ぶ。
またそのニックネームは絶滅種の蝶になぞらえて商売相手でスナイパーのマチルダからも呼ばれる。
ただ、僕が消えていく“絶滅種の蝶”であるジャックの最後にもうひとつ酔うことができなかったのは、彼ら殺し屋たちが無関係な人間までも情け容赦なく殺すから。
任務遂行のためなら現地の一般人女性をもためらわずに殺すマチルダだけでなく、ジャックもまた人の道を外れている。
映画の冒頭で、ジャックは秘密を守るためにつきあっていた女性を撃ち殺す。
それを見ているから、もしかしたら今度のクララも…というサスペンスが生まれるわけだが、それにしても、そもそもなぜ彼は殺し屋などやっているのか。
映画の登場人物に日常の倫理観を求めてもしかたがないが、それでも自分の命を守るためなら女性だろうがかまわず殺す者に感情移入するのは難しい。
もしも極力一般人を巻き込まない犯罪者とかスナイパーたちだけの殺し合いだったら、プロたちの命を懸けたゲームにもっと熱くなれたと思うんだけど。
見知らぬ地で美しい娼婦と出逢い、彼女に愛されて「永遠にいっしょに」と想いを告げられる。
演じてるのがジョージ・クルーニーだから、まぁそーゆー展開もあるかも、などと思ってしまうが、考えてみりゃずいぶんと都合のいい話だ。
ジャックの命をねらう者と依頼主の正体は途中で観客にわかるので、どんでん返しの面白さもない。
というか、ちょっとよくわからなかったんだけど、冒頭でジャックを襲ったスウェーデン人たちの黒幕は、連絡係のパヴェルだったのだろうか?
でも、あの時点ではジャックを殺す意味がないような気がするんだが。
彼が「引退」を考えるのはイタリアに行ってクララに出逢ってからなわけだから。
殺そうと思えばライフルの試し撃ちのときにだってできたはずだし。
とすれば、ジャックが「これが最後」とパヴェルに告げてから彼はジャックを殺すのを決めたことになる。
それでは、なぜスウェーデン人たちはイタリアのジャックの潜伏先がわかったのだろうか。
パヴェルが密告したのか?
けっきょく、冒頭でジャックが襲われた理由も、イタリアでジャックを襲うスウェーデン人たちに指令を出していた人物が誰なのかも不明なままだ。
また、凄腕の殺し屋ならば裏稼業からの引退を宣言すれば組織に消される可能性があることぐらい予測できるだろうから、そんな彼を彼自身がカスタマイズしたライフルで殺そうとするなど、ずいぶんと迂闊な行為である。
そんなの、銃に細工されるに決まってるだろう。
どうして人けのない食堂で確実に仕留めなかったのか理解に苦しむ。
「アメリカ人は歴史に興味を示さない」「そうつとめている」という会話や「神」をめぐる問答など、神父とジャックのやりとりはなかなか興味深かっただけに、それがその後の彼の行動にもっとうまくつながっていけば、物語により深みが増したんではないかと思う。
映画自体がちょっとストイック過ぎた気はした。
そんなわけで、正直「う〜む」というところもあるんだが、ともかくジョージ・クルーニーの渋さは堪能できる。
マチルダ役のテクラ・ルーテンの『ニキータ』ばりのクールさもいい。
そして舞台となる町、カステル・デル・モンテの素朴だが歴史を感じさせる景観。
観光映画として『アマルフィ 女神の報酬』と観比べてみるのも一興かと。
最初に書いたように地味だし大作ではないけれど、夏休みのお子さま向け映画にちょっと飽きた人は観てみるといいかも。
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