映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『死ね!死ね!シネマ』


※以下は、2011年に書いた感想です。


オーディトリウム渋谷にて、監督:篠崎誠、脚本:高橋洋の『死ね!死ね!シネマ』。2011年作品。72分。

www.youtube.com

映画学校で自主映画を撮っていた人格異常の女性監督が暴走していく。一方でネット動画を観た人が自分の眼にカッターナイフを突き刺す事件が相次ぐ。


ネタバレとかないです。


じつはこれは完全な自主映画である。

出演者はおそらくはプロの俳優ではなく、素人。

もともと監督が講師を務める映画学校の学生たちと撮りはじめたということだから、出演者のほとんどはそこの学生さんなんだろう。

僕がいつも感想を書いているのは商業映画についてだけど、これは映画館で上映されて(別の自主映画1本が併映)チケット代1700円払って観ているので、ほかの商業映画と同等に扱わせていただきます。

観てからもう何ヵ月も経っているのでこまかいストーリーは忘れてしまったけど、とにかく「とても困った」ことはよくおぼえている。

篠崎監督は最近は『東京島』を撮ってるけど、僕は未見。かつて寺島進主演の『おかえり』という作品を劇場で観ました。

じょじょに壊れていく妻に戸惑いながら、それでもなんとかともに生きていこうとする誠実な夫を寺島さんが淡々と演じていた。

この作品ではじめて寺島進という俳優さんを知ったので、僕にはこの映画の印象が強くて、彼が有名になった北野武の映画や「踊る大捜査線」シリーズでの強面の兄貴キャラというのはむしろ違和感があった。

で、篠崎誠という映画監督はこういう静かな作品を撮る人なんだと思っていたら、その後「ぴあ」だったかのイヴェントで彼の『留守番ビデオ』という短篇自主映画を観て、ほんとはホラーを撮りたい、といったご本人の舞台挨拶も聴いて、あぁそうなんだ、と思ったのだった。

『留守番ビデオ』は、家の玄関にあるヴィデオカメラに映っていた見知らぬ男がやがて…というなかなか背筋がゾッとする実録風の「怖い話」で、そう考えると『おかえり』の妻の描写がじつはそういう「怖い話」の応用だったことがわかった。

もともと映画ライターをしていた人だし、ホラーにはかなりこだわりがあるらしいので、この『死ね!死ね!シネマ』にもちょっと期待していたのです。

Twitterでもやたら褒めてる人たちがいて。

それで観てみたところ…。

わけがわかりませんでした。


『留守番ビデオ』のような、ゾ〜ッとする話ではなくて、もろ血のりブシャ〜ァァッなスプラッタ映画だった。

映画の冒頭で、『東京島』をもじったタイトルの自分の映画(『糖尿島』)をケナされた映画監督が観客たちを惨殺する。

やがて、これまた頭がおかしいとしか思えない別の若い女性監督がドSぶりを発揮してスタッフや出演者に乱暴狼藉を働いたあげく、(もはや記憶があいまいだが)YouTubeにあがったある映像を観た者たちがなぜか自分の眼をナイフで突く事件が頻発して、気づいたら人類滅亡の予兆が…みたいなエンディングをむかえるというもの。


…と、あらすじを書くとなんとなくまともなホラー映画に思えるけど、作品は僕には理解できない論理で作られていて、ちょうど佐々木浩久監督の『発狂する唇』や『血を吸う宇宙』のような狂った感じ。

ただ、『発狂〜』や『血を吸う〜』は笑えたし、そのふざけぶりがなかなか愉快犯的で僕は楽しめたんだけど、この『死ね!死ね!』はもうとにかく観てるあいだ中、心のなかを後悔の嵐が吹き荒れていた。

この作品が今後ソフト化される予定があるのかどうかは知らないけど、ついこの前まで日本各地で上映されていたようだ。

んで、Twitterで「素晴らしい」みたいなこと書いてる人たちがいるわけ。

映画を褒めるのは人の自由だけど、でもそういう絶賛の感想を読んでもこの映画の面白さが僕にはまったくわからない。

まぁグロ描写が好きな人は楽しいのかもしれないけど。

ゴダールの名前を出して褒めてたりするんだけど、どういうこと?

「この映画がつまらないのなら、面白い映画とはなんだ」とかいってる人に対しては、「いや、この映画以外の作品のほとんどがこれよりは面白い」といってやりたい。

…身内や関係者の人たちなのかな?

なかでも非常に腹が立ったのは、この映画の主人公らしき発狂女監督が劇中でスペインの映画監督ルイス・ブニュエルのことを「ブニュエル↑」とギャル語みたいな尻上がりの発音で連呼してたこと。これがすげぇ耳障りで。


この女性キャラはとにかく不快きわまりなかった。

この映画とブニュエルになんの関係があるのかもさっぱりわかんないし(『アンダルシアの犬』の目ん玉ナイフで切り裂きつながり、とかですか?)。

元映画ライターでシネフィル(映画狂)でもある篠崎監督が、なにかといえばやれゴダールブニュエルだと口にする鼻持ちならない輩を自虐的、他虐的(?)にパロってみせたんだろうことはなんとなくうかがえるんだけど、だからって別に面白くはない

監督と出演者の人たちが「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のときに急遽雪原で追加撮影したという場面は、自主映画経験者としては微笑ましくもあるんだけど、それで撮られた延々雪景色がつづく映像は退屈以外の何物でもなかった。

主人公が赤ちゃん(の人形)のへその緒をもって『牛頭』の哀川翔の「ヤクザ犬」の場面みたいにブンブンぶん回すとこと、おなじく赤ちゃん人形をボクシングのパンチングボールみたいにポコポコ殴るとこは笑ったけど。

この映画に「新しい」とか「面白い」と高い評価をあたえている人たちを、いったいどこが!?と小一時間問い詰めたい

俺が理解できる言葉でちゃんと説明してくれ、お願いだから。

僕には『リング』の真似事でしかない、いかにも中学生あたりが撮りそうな自主映画にしか思えなかった。

『発狂する唇』や『リング』の脚本家の高橋洋がこの映画にも出てるし、「パロディですから」といわれるかもしれないけど、だからって別に面白くはない

いってみればこの作品は「ホラー映画についてのホラー映画」であって、ならば最近僕が念仏みたいに唱えている「メタ映画」でもあるわけだから面白く感じてもおかしくないはずなんだけど、まったく、ビタ一文映画的な面白さも知的興奮も感じることはなかった。

とても苦痛で、上映時間72分が倍ぐらいに感じられた。

作り手がこの作品を「観客を不愉快にする」ことを目的として撮ったのなら、その目論見は成功したといえるだろう。

しかし、僕は不愉快になるためにわざわざ金と時間割いて映画を観る気はないんで。

1700円ったら、いつも観てるシネコンの前売り料金よりも高いんだから。

これまで映画を観てどんなに腹が立ってもいわなかった一言が出てきそうになった。

「俺の貴重な時間と金を返してくれ」

いや、実際にははじめて行く映画館で映画を観るのは新鮮だし、監督さんや客として来ていたプロの俳優さんを間近で見られたりして貴重な体験だったから本気で「金かえせ」と思ってるわけじゃないんだけど(近くの店で食ったラーメンも旨かったし)、作品についていえば、やはり映画館で金とって上映できるレヴェルではないと思いました。

自主映画を槍玉にあげてやいのやいのコキおろすなんて大人げないし、気に入らなかったのなら観たことは忘れてしまえばいいんじゃないか、といわれるかもしれないけど、忌まわしい記憶をここに封印しておこうと思って。

今後とも「ワースト映画」といってまず僕の脳裏に浮かぶのはこの作品になりそうな予感がしています。


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